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八章 エステラの真珠
153. ドミニクの厚い面の皮
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また弟が死んだ。
もう産みたくない、自分も子と共に死なせてくれと泣いていた母が、ある日突然、人形のように大人しくなった。
「あの」薬を使ったのだ。
矍鑠として格好の良かったじいちゃんを、生きているだけの肉にしてしまった薬。
挙句にとうとう、死んでしまったじいちゃん。
皆、父に震えて生きていた。
兄も、自分も。
強い……強い魔力と魔法を持った祖父だけが唯一の盾だった。それがとうとう砕けた。
「ごめんな」
震える声で、ドミニクは告げた。
彼の周りで小精霊達が幾つも瞬く。そっと寄り添って、いつでも優しさを与えてくれた。
「もう一緒に遊べない」
父が、この家が、そして自分がおかしいと気づいたのは幾つの時だったか。
歪な家で孤独に育った少年の、唯一の友達が言葉も喋らぬ小精霊達だった。
――精霊を見る事が出来るもの、その友こそ、本物のオーブリーの魔法使いである――
祖父が生前、ドミニクに言った言葉だ。だが精霊の友であることを、お前の父に知られてはならないとも。
父ベンソンは精霊がわからなかった。それゆえに本物のオーブリーの魔法を継ぐことが叶わなかった。
誰をも下に見ている父が、唯一仰ぎ見ねばならぬのが祖父だった。それゆえに、祖父は殺された。
ドミニクがこっそり祖父からオーブリーの魔法を習っていた事が知られれば、確実に殺される。だから、
「ごめんな。私はこれからお前達を殺す。自分が生き残る為に、きっとたくさん殺すだろう……」
涙を流すドミニクに、それでもそっと小精霊達は寄り添っていた。
◇◇◇
あんな事があった翌日だが、習慣とは恐ろしいもので、皆んな早朝の朝練に集まっていた。イレギュラーメンバーもいたが。
ケントとドミニクだ。
ケントはまあいい。いずれエルロンドに帰るお客様だ。アーベルと意気投合して人材育成について話しながら手合わせをしている。育成される人達はエルロンドの領民だと願いたい。いや本当、願いたい。カエンアシュラベアとか聞き慣れない単語も聞こえたが、多分熊だろう。マグダリーナは切に願った。新たな師匠が誕生しない事を。
そしてドミニクだ。
彼は昨夜ショウネシーに着いて、いの一番にシャロンに「まあ、私を殺そうとなさった方の片棒担いでおいて、どんな顔で私の息子にまとわりついて、私の前にいらっしゃったのかしら」と睨みつけられたにも関わらず「こんな顔です、義姉上!!」と元気に言ってのけたのだ。
昨夜はシャロンの心労を慮って、ダーモットが彼をショウネシー邸に招いたが、マゴーに警戒されるような事をしたりアッシを分解しようとして、アッシにゴミ認定されて分解されそうになって全裸で部屋から出たり(服は分解された)するので、何事かとうっかり廊下に出て、マグダリーナとレベッカは目撃してしまったのだ。
アッシに全身脱毛された、ドミニク(28)の隠し所のない、ツルッツルな全裸を。
慌ててライアンが回し蹴りをかまして部屋へと回収してくれたが、前世のメディアや家族の記憶で、男性の裸に多少の免疫はあるマグダリーナと違って、小さな頃に父親がお風呂に入れてくれる……なんて事がありえない育ちのレベッカには刺激が強すぎたことだろう……
レベッカは真っ赤になって「あの人が血を分けた本当の兄、ですの……?」とわなわな震えていた。
更に彼はニレルの事を「我が君」と呼び、ニレルが何度もそう呼ばれる筋合いはないよと拒絶しても「我が君」と呼び続けている。
はやく役所で適当な家割り当てて、独り立ちしてくれないかなと、正直マグダリーナは思った。
そして早速朝食後に集まったサロンで、エステラがびしりと言った。
「ドミニクさん、気になるのは分かるけど、他所の家の備品を勝手に弄ったり迷惑かけるのは、良くないことよ。あと公共施設や公共物に何かしたら、ショウネシー領から出て行ってもらうから。二度とこの地を踏めると思わないで」
「それは……嫌だ!!」
ドミニクの肩の上で、二匹のカーバンクルがぶっぶっと鳴いている。何故かこの愛らしい魔獣は、ドミニクになついていた。
ドミニクはエステラの前に行くと跪き、許しを乞うた。
「名高きショウネシーの魔法使いよ。どうか私に御慈悲をお与え下さい」
彼はエステラの足を取ると、その甲に口づけた。
「ひゃっ」
驚いて悲鳴を上げたエステラの横で、ニレルが珍しく不機嫌を露わにした。
「ドミニク」
「はい! 我が君」
「エステラに軽々しく触れようとするな」
「かしこまりました」
ドミニクは大人しく席に戻る。
マグダリーナは思い切って聞いてみた。
「ねえ、どうしてニレルを我が君なんて言うの?」
ドミニクはキヒヒと笑う。
「そりゃあ私をベンソン・オーブリーという地獄から抜け出させてくれたからさ」
マグダリーナはベンソンを思い出して身震いした。よくぞシャロン伯母様はあの家で耐えたものである。
「好きで協力してたわけじゃ無かったのか……」
ヴェリタスが意外そうに呟いた。
ニレルは冷たい声で言う。
「それだったら、エデンの方だろう。君を見つけたのも、セドリック王の御前に引っ張り出したのも、彼だ」
ドミニクは首を振った。
「私は貴方がいい。貴方の輝きはまるで精霊の王か、新たな神かのようだ」
びくりとニレルは肩を振るわせた。
ドミニクを観察していたエデンが、くっはと笑い声を上げる。
「なぁるほど、なるほど、オーブリーね、思い出した。んははは」
「エデン?」
エステラはエデンを見た。不審者を見る目で。
もう産みたくない、自分も子と共に死なせてくれと泣いていた母が、ある日突然、人形のように大人しくなった。
「あの」薬を使ったのだ。
矍鑠として格好の良かったじいちゃんを、生きているだけの肉にしてしまった薬。
挙句にとうとう、死んでしまったじいちゃん。
皆、父に震えて生きていた。
兄も、自分も。
強い……強い魔力と魔法を持った祖父だけが唯一の盾だった。それがとうとう砕けた。
「ごめんな」
震える声で、ドミニクは告げた。
彼の周りで小精霊達が幾つも瞬く。そっと寄り添って、いつでも優しさを与えてくれた。
「もう一緒に遊べない」
父が、この家が、そして自分がおかしいと気づいたのは幾つの時だったか。
歪な家で孤独に育った少年の、唯一の友達が言葉も喋らぬ小精霊達だった。
――精霊を見る事が出来るもの、その友こそ、本物のオーブリーの魔法使いである――
祖父が生前、ドミニクに言った言葉だ。だが精霊の友であることを、お前の父に知られてはならないとも。
父ベンソンは精霊がわからなかった。それゆえに本物のオーブリーの魔法を継ぐことが叶わなかった。
誰をも下に見ている父が、唯一仰ぎ見ねばならぬのが祖父だった。それゆえに、祖父は殺された。
ドミニクがこっそり祖父からオーブリーの魔法を習っていた事が知られれば、確実に殺される。だから、
「ごめんな。私はこれからお前達を殺す。自分が生き残る為に、きっとたくさん殺すだろう……」
涙を流すドミニクに、それでもそっと小精霊達は寄り添っていた。
◇◇◇
あんな事があった翌日だが、習慣とは恐ろしいもので、皆んな早朝の朝練に集まっていた。イレギュラーメンバーもいたが。
ケントとドミニクだ。
ケントはまあいい。いずれエルロンドに帰るお客様だ。アーベルと意気投合して人材育成について話しながら手合わせをしている。育成される人達はエルロンドの領民だと願いたい。いや本当、願いたい。カエンアシュラベアとか聞き慣れない単語も聞こえたが、多分熊だろう。マグダリーナは切に願った。新たな師匠が誕生しない事を。
そしてドミニクだ。
彼は昨夜ショウネシーに着いて、いの一番にシャロンに「まあ、私を殺そうとなさった方の片棒担いでおいて、どんな顔で私の息子にまとわりついて、私の前にいらっしゃったのかしら」と睨みつけられたにも関わらず「こんな顔です、義姉上!!」と元気に言ってのけたのだ。
昨夜はシャロンの心労を慮って、ダーモットが彼をショウネシー邸に招いたが、マゴーに警戒されるような事をしたりアッシを分解しようとして、アッシにゴミ認定されて分解されそうになって全裸で部屋から出たり(服は分解された)するので、何事かとうっかり廊下に出て、マグダリーナとレベッカは目撃してしまったのだ。
アッシに全身脱毛された、ドミニク(28)の隠し所のない、ツルッツルな全裸を。
慌ててライアンが回し蹴りをかまして部屋へと回収してくれたが、前世のメディアや家族の記憶で、男性の裸に多少の免疫はあるマグダリーナと違って、小さな頃に父親がお風呂に入れてくれる……なんて事がありえない育ちのレベッカには刺激が強すぎたことだろう……
レベッカは真っ赤になって「あの人が血を分けた本当の兄、ですの……?」とわなわな震えていた。
更に彼はニレルの事を「我が君」と呼び、ニレルが何度もそう呼ばれる筋合いはないよと拒絶しても「我が君」と呼び続けている。
はやく役所で適当な家割り当てて、独り立ちしてくれないかなと、正直マグダリーナは思った。
そして早速朝食後に集まったサロンで、エステラがびしりと言った。
「ドミニクさん、気になるのは分かるけど、他所の家の備品を勝手に弄ったり迷惑かけるのは、良くないことよ。あと公共施設や公共物に何かしたら、ショウネシー領から出て行ってもらうから。二度とこの地を踏めると思わないで」
「それは……嫌だ!!」
ドミニクの肩の上で、二匹のカーバンクルがぶっぶっと鳴いている。何故かこの愛らしい魔獣は、ドミニクになついていた。
ドミニクはエステラの前に行くと跪き、許しを乞うた。
「名高きショウネシーの魔法使いよ。どうか私に御慈悲をお与え下さい」
彼はエステラの足を取ると、その甲に口づけた。
「ひゃっ」
驚いて悲鳴を上げたエステラの横で、ニレルが珍しく不機嫌を露わにした。
「ドミニク」
「はい! 我が君」
「エステラに軽々しく触れようとするな」
「かしこまりました」
ドミニクは大人しく席に戻る。
マグダリーナは思い切って聞いてみた。
「ねえ、どうしてニレルを我が君なんて言うの?」
ドミニクはキヒヒと笑う。
「そりゃあ私をベンソン・オーブリーという地獄から抜け出させてくれたからさ」
マグダリーナはベンソンを思い出して身震いした。よくぞシャロン伯母様はあの家で耐えたものである。
「好きで協力してたわけじゃ無かったのか……」
ヴェリタスが意外そうに呟いた。
ニレルは冷たい声で言う。
「それだったら、エデンの方だろう。君を見つけたのも、セドリック王の御前に引っ張り出したのも、彼だ」
ドミニクは首を振った。
「私は貴方がいい。貴方の輝きはまるで精霊の王か、新たな神かのようだ」
びくりとニレルは肩を振るわせた。
ドミニクを観察していたエデンが、くっはと笑い声を上げる。
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「エデン?」
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