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八章 エステラの真珠
155. ハイエルフの権能
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「ン? どうした?」
珍しくエステラの方から寄って来るので、エデンは上機嫌で微笑みながら続きを待った。
「お師匠からエデンに伝言があったの。次生まれ変わる時は男になるって。『それじゃあ私がおばあちゃんのお嫁さんになるわっ』て私の母さんも一緒に転生計画立ててるんだって」
エデンの表情があからさまに絶望に染まった――――
そして無心に桃を食べていたルシンも、動きを止めてエステラを見た。
それをみたマグダリーナは、ルシンはエステラのお母さん、スーリヤが転生してくるのを狙ってたのだと、直感した。
「それから」
エステラはじっとエデンの目を見つめた。
「いま女神の庭に『いない』のは一、二、三、十一、二十一だって」
エステラの言葉にエデンは長い息を吐いた。
「待ってくれ、傷心の俺には処理仕切れない情報だ。他のやつらは居るのか? 女神の庭に? 精霊化してこの世界に溶けた者も?」
エステラは頷いた。
「精霊化して世界の一部になっても、大体千年も経てば魂は女神の庭にたどり着くって」
「そうか……」
エデンは眉間に皺を寄せた。そしてまた繰り返す。
「そうか……十一だな。あいつは昔っからディオンヌが苦手なくせに、エルフェーラに付き纏ってた」
レベッカはノートを取り出して、真剣にエデンの言葉をまとめている。将来、いやもう現時点でダーモットより詳しいハイエルフの研究者だろう。
その隣でアンソニーもレベッカのノートを覗き込みながら、一緒に色々と話し合っていた。
そのアンソニーが手を挙げる。
「なあに? トニー」
エステラが気づいて、聞いた。
「ハイエルフの……ううん、始まりのハイエルフの皆さんには、マゴーみたいに番号が付いてるんですか?」
エステラが造ったマンドラゴラ型魔導人形、通称マゴーの後頭部らしき所には、それぞれ製造番号が記されている。
エステラは頷いた。
「マゴーみたいに身体に印があるわけじゃないけど、創世の女神から特別な権能をいただいている始まりのハイエルフは、その権能に敬意を込めて、生まれた順に何番目って名乗ったり、呼び合ったりする時もあるわ。始まりのハイエルフは全部で二十一人よ。以前にエデンが創生時にハイエルフの入ったボウルが、エデンの他に八つ、ハイエルフは三人兄弟姉妹で生まれてくるって云ってたけど数が合わないよね。なーんでだ?」
突然エステラから数の問題を出されて、未成年組は慌てたが、アンソニーは冷静だった。
「……八つのボウルの内、二つのボウルの中身がエデンさんのように、一人分の材料しか入ってなかったのですか?」
「正解だ」
エステラの代わりに、エデンが答えた。
「十一番目と二十一番目がそうだ。ウシュ帝国滅亡時、俺と四番目のディオンヌ、二十一番目のエヴァだけが、精霊化せずに生き残った。俺はディオンヌのおかげだが、ディオンヌとエヴァだけが、二番目のハイエルフ……エルフェーラの権能に影響されない心の強さを持っていたからだ」
「エルフェーラ様の権能って何ですの?」
エルフェーラと創世の女神推しのレベッカは、真剣に聞いた。
エデンは瞳を伏せた。
「二番目のハイエルフ、エルフェーラの権能は、星を動かす王の力だ。有事の際に仲間や人々を導くための力だが、エルフェーラ自身はあまり好いていなかった。もし生まれ変わることがあるなら、次は何も持たない小さな存在になりたいと云っていたっけ……権能は魂に繋いであるから、無理な話だが」
星を動かすと聞いて、マグダリーナはどきりとした。ルシンがよくマグダリーナに「星を動かした」と言うせいだ……
もしかすると、前世で姉であったエルフェーラの権能の印象のせいで、マグダリーナにもそんな言い方をするのだろうか。
「エルフェーラが滅びを迎える世界を守るため精霊化したのは、守りたいものの為、ただそうせずにはいられなかったからだ。だが、残りの始まりのハイエルフや、その後に生まれたハイエルフ達の殆どがそれに続いた。エルフェーラ一人の存在では世界は賄えなかったし、彼女がそうすることで世界存続の可能性を示したからだ」
エルフェーラの意に反して、多くの同族が肉体を還し精霊化した。彼女が持つ、星を動かす王の権能故。
だがそれだけで終わらなかった。その後生き残った人々の、エルフェーラへの信仰だ。
エステラは素朴な疑問を、向かいに座っているルシンにぶつけた。
「ルシンお兄ちゃんも、前世ではエルフェーラ様の権能の影響で精霊化したの?」
「そうとも云えるし、そうでもない。エルフェーラの権能は無理矢理他人の心や行動を制限するようなものじゃない。気づきを与え、実際に行動にうつさせる権能だ。俺は、確かに自分の意思で、泣いて止めるディオンヌを振り切って精霊化したんだ」
エデンが紅茶で唇を湿らせ、ルシンの言葉を継ぐ。
「あの時は守りたいものの為に世界の礎になるものと、守りたいものの為に生き抜くと決めたものがハッキリ分かれた。ディオンヌとエヴァは後者だ。俺は一番目のハイエルフ、その権能は……不滅、だ。自ら精霊化を行わない限り、そしてこの世界が滅びぬ限り、この肉体は心臓が潰れても再生される。ディオンヌは真っ先に、俺が精霊化する前に心臓を潰しに来た。そして女神の名を奪っていった」
以前みた動画『女神教 ウシュ帝国滅亡篇』ではディオンヌはエデンを蹴り倒していたが、あの表現には配慮が施されていたのだ。
「再生して目覚めた後、俺はハイエルフの生き残りを探したさ。一応長老だしな。ディオンヌとも再会し、新たに誕生したハイエルフ達も見送った。だが数千年かかっても、二十一番目のハイエルフ、エヴァは見つからなかった。エヴァの血筋は見つかってもだ。だがルシンが現れた時、その母親はエヴァだと確信した。他種族と子を成せるのは人族だけ……父親がエルフ族なのにハイエルフの子を産めるのは、繁栄の母の権能を持つエヴァたった一人だ。彼女の権能は、どの種族と番ってもハイエルフの子を産む事ができること。ただし番う相手は、エヴァが最初に愛した男……その魂を持つ転生者だけだ。エヴァの番いは大抵人族に転生して、その短い寿命を迎える。エヴァは子育てが終わると、番いを探して大陸中を彷徨っていた。ルシンの話だと死んだと云うから、葬送の為に密かにエルロンドで遺体を探してたんだが……女神の庭に居ないなら、まだ生きてる可能性があるのか……」
ハイエルフの遺骸は、ハイエルフの葬送を行わないと、決して朽ちることなく、残り続けるという。
大きな魔力が留まるそれは、穢れの元にもなる。
アンソニーは指折り数えた。
「えっと、一番目のエデンさんがここに居て、二番目のエルフェーラ様は神殿に、三番目はルシン兄さまで転生してここに居て、二十一番目のエヴァさんは生きてるけど行方不明。残った十一番目の方は精霊化して……でも女神の庭に居ないなら、ルシン兄さまみたいにどこかで転生してるという事でしょうか」
「かもナ。俺がエルロンドでエヴァを探しながら、エヴァの番いについて調査してたときに、わざわざあんな熊毒騒ぎを起こしてくるんだ、エルフにでも転生したか……」
珍しくエステラの方から寄って来るので、エデンは上機嫌で微笑みながら続きを待った。
「お師匠からエデンに伝言があったの。次生まれ変わる時は男になるって。『それじゃあ私がおばあちゃんのお嫁さんになるわっ』て私の母さんも一緒に転生計画立ててるんだって」
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そして無心に桃を食べていたルシンも、動きを止めてエステラを見た。
それをみたマグダリーナは、ルシンはエステラのお母さん、スーリヤが転生してくるのを狙ってたのだと、直感した。
「それから」
エステラはじっとエデンの目を見つめた。
「いま女神の庭に『いない』のは一、二、三、十一、二十一だって」
エステラの言葉にエデンは長い息を吐いた。
「待ってくれ、傷心の俺には処理仕切れない情報だ。他のやつらは居るのか? 女神の庭に? 精霊化してこの世界に溶けた者も?」
エステラは頷いた。
「精霊化して世界の一部になっても、大体千年も経てば魂は女神の庭にたどり着くって」
「そうか……」
エデンは眉間に皺を寄せた。そしてまた繰り返す。
「そうか……十一だな。あいつは昔っからディオンヌが苦手なくせに、エルフェーラに付き纏ってた」
レベッカはノートを取り出して、真剣にエデンの言葉をまとめている。将来、いやもう現時点でダーモットより詳しいハイエルフの研究者だろう。
その隣でアンソニーもレベッカのノートを覗き込みながら、一緒に色々と話し合っていた。
そのアンソニーが手を挙げる。
「なあに? トニー」
エステラが気づいて、聞いた。
「ハイエルフの……ううん、始まりのハイエルフの皆さんには、マゴーみたいに番号が付いてるんですか?」
エステラが造ったマンドラゴラ型魔導人形、通称マゴーの後頭部らしき所には、それぞれ製造番号が記されている。
エステラは頷いた。
「マゴーみたいに身体に印があるわけじゃないけど、創世の女神から特別な権能をいただいている始まりのハイエルフは、その権能に敬意を込めて、生まれた順に何番目って名乗ったり、呼び合ったりする時もあるわ。始まりのハイエルフは全部で二十一人よ。以前にエデンが創生時にハイエルフの入ったボウルが、エデンの他に八つ、ハイエルフは三人兄弟姉妹で生まれてくるって云ってたけど数が合わないよね。なーんでだ?」
突然エステラから数の問題を出されて、未成年組は慌てたが、アンソニーは冷静だった。
「……八つのボウルの内、二つのボウルの中身がエデンさんのように、一人分の材料しか入ってなかったのですか?」
「正解だ」
エステラの代わりに、エデンが答えた。
「十一番目と二十一番目がそうだ。ウシュ帝国滅亡時、俺と四番目のディオンヌ、二十一番目のエヴァだけが、精霊化せずに生き残った。俺はディオンヌのおかげだが、ディオンヌとエヴァだけが、二番目のハイエルフ……エルフェーラの権能に影響されない心の強さを持っていたからだ」
「エルフェーラ様の権能って何ですの?」
エルフェーラと創世の女神推しのレベッカは、真剣に聞いた。
エデンは瞳を伏せた。
「二番目のハイエルフ、エルフェーラの権能は、星を動かす王の力だ。有事の際に仲間や人々を導くための力だが、エルフェーラ自身はあまり好いていなかった。もし生まれ変わることがあるなら、次は何も持たない小さな存在になりたいと云っていたっけ……権能は魂に繋いであるから、無理な話だが」
星を動かすと聞いて、マグダリーナはどきりとした。ルシンがよくマグダリーナに「星を動かした」と言うせいだ……
もしかすると、前世で姉であったエルフェーラの権能の印象のせいで、マグダリーナにもそんな言い方をするのだろうか。
「エルフェーラが滅びを迎える世界を守るため精霊化したのは、守りたいものの為、ただそうせずにはいられなかったからだ。だが、残りの始まりのハイエルフや、その後に生まれたハイエルフ達の殆どがそれに続いた。エルフェーラ一人の存在では世界は賄えなかったし、彼女がそうすることで世界存続の可能性を示したからだ」
エルフェーラの意に反して、多くの同族が肉体を還し精霊化した。彼女が持つ、星を動かす王の権能故。
だがそれだけで終わらなかった。その後生き残った人々の、エルフェーラへの信仰だ。
エステラは素朴な疑問を、向かいに座っているルシンにぶつけた。
「ルシンお兄ちゃんも、前世ではエルフェーラ様の権能の影響で精霊化したの?」
「そうとも云えるし、そうでもない。エルフェーラの権能は無理矢理他人の心や行動を制限するようなものじゃない。気づきを与え、実際に行動にうつさせる権能だ。俺は、確かに自分の意思で、泣いて止めるディオンヌを振り切って精霊化したんだ」
エデンが紅茶で唇を湿らせ、ルシンの言葉を継ぐ。
「あの時は守りたいものの為に世界の礎になるものと、守りたいものの為に生き抜くと決めたものがハッキリ分かれた。ディオンヌとエヴァは後者だ。俺は一番目のハイエルフ、その権能は……不滅、だ。自ら精霊化を行わない限り、そしてこの世界が滅びぬ限り、この肉体は心臓が潰れても再生される。ディオンヌは真っ先に、俺が精霊化する前に心臓を潰しに来た。そして女神の名を奪っていった」
以前みた動画『女神教 ウシュ帝国滅亡篇』ではディオンヌはエデンを蹴り倒していたが、あの表現には配慮が施されていたのだ。
「再生して目覚めた後、俺はハイエルフの生き残りを探したさ。一応長老だしな。ディオンヌとも再会し、新たに誕生したハイエルフ達も見送った。だが数千年かかっても、二十一番目のハイエルフ、エヴァは見つからなかった。エヴァの血筋は見つかってもだ。だがルシンが現れた時、その母親はエヴァだと確信した。他種族と子を成せるのは人族だけ……父親がエルフ族なのにハイエルフの子を産めるのは、繁栄の母の権能を持つエヴァたった一人だ。彼女の権能は、どの種族と番ってもハイエルフの子を産む事ができること。ただし番う相手は、エヴァが最初に愛した男……その魂を持つ転生者だけだ。エヴァの番いは大抵人族に転生して、その短い寿命を迎える。エヴァは子育てが終わると、番いを探して大陸中を彷徨っていた。ルシンの話だと死んだと云うから、葬送の為に密かにエルロンドで遺体を探してたんだが……女神の庭に居ないなら、まだ生きてる可能性があるのか……」
ハイエルフの遺骸は、ハイエルフの葬送を行わないと、決して朽ちることなく、残り続けるという。
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