ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
161 / 285
八章 エステラの真珠

161. 新しい制服

しおりを挟む
 ショウネシーにはまだまだ農地に出来る土地があり、果樹の栽培もはじまったばかり。

 ドミニクとセレンの仕事は、農業特化の魔法の研究と実践、そしてそれを他の農夫に教えることが主で、実質農夫である。
 それならばディオンヌ商会関係なくてもいいのではと、ここぞとばかりに普通の農夫にされた。

 もちろんドミニクは、我が君の側がいいとごねたが、そこはベテランの商人であるドーラに「ディオンヌ商会の品物の安さは、魔導人形を使って人件費がかかってないから……で、ディオンヌ商会がわざわざお給料を払ってまで貴方を雇うメリットは? 無いわよね。元宮廷魔法師団長といっても、貴方が商会でマゴーより役に立てて?」と、ド正論で詰められ、ドミニクは迫力負けした。

 家ははじめに言った通り、ニレルが買った。そしてルシンの家として役所に届け出た。

 そうしておけば、ルシンも家を破壊なんてことはしないだろうと思われたし、実際そうだった。

 水色の家の周囲には、セレンがエステラから分けてもらった、中心に向かって白から黄色になる大きな花を咲かす、つる薔薇が植えられた。

 薔薇はこの世界には無く、エステラがディオンヌに教わって、初めての奇跡の魔法の練習で造った精霊花だった。

 勝手に引越しされて不機嫌だったルシンも、セレンが魔法を使ってつる薔薇を家の外壁に巡らせ、満開の花を咲かせると、その香りで落ち着いてきたようだった。


 そんな夏休みも終わりにさしかかったころ、王宮へ帰ったドロシー王女の代わりに、エリック王子の名でショウネシー邸に大量の高級布地が届けられた。熊毒事件の御礼だった。

 あの腹黒妖精熊事件に関しては王宮から既に褒美をいただいている。

 殆どの素材を掻き集めたリオローラ商団は、王宮御用達商団としてお墨付きをいただけたし、大量の妖精キノコを提出したエルロンド領は、領主のジョゼフの要望で、再来年度から領内の見込みある若者が王立学園の入学制度を受けられるように。

 そしてショウネシーには、腹黒妖精熊以外に釣れた大量の妖精熊を。

 大量の妖精熊は、当然収納を改めて、そのかっぱらい品はショウネシー家、アスティン家、ショウネシー領、ディオンヌ商会で分けた。
 そして熊本体の一部は更生させて、今いる群れに。

 残りは素材になった。魔導人形の。

 つまりクマゴーが誕生した。

 極上の妖精熊毛皮の中は、再生スライム素材を使用していて、マゴーの中身も同じ。魔導人形造りを側で見ていたドミニクが、興奮しながらそう説明してくれた。

 クマゴーの背中には、製造番号を記した薄い妖精の羽が付けられた。
 魔獣との見分けがつくようにだが、クマゴー達はこの羽で飛行することも出来た。

 妖精熊にはない戦闘機能も追加されて、果樹園の番人にもなっている。

 飛ぶ熊、という新しいショウネシーの風景が生まれた瞬間だった。

 そんな空飛ぶ熊を窓から眺めながら、マグダリーナとレベッカ、ライアンは王子からもらった布地でドレスや制服を作るべく、ヴァイオレット服飾店へ出向き、採寸してもらっていた。

 普通貴族はお邸に職人を呼ぶものだが、マグダリーナ達はヴァイオレット服飾店やディオンヌ商会の各店舗の並ぶ、このアーケード街にはなんだかんだと足を運ぶので、ついででお願いする。

 三人とも身長が伸びたので、制服を仕立て直す必要があった。特にライアンは、明らかに今までの制服では袖も裾も短かった。
 そのライアンの頭の上で、カーバンクルが寛いでいる。桃を食べさせたら、そのまま懐かれたのでテイムしたのだ。

「皆さん、今まで通り制服に装飾は無しでよろしいのでしょうか?」

 採寸が終わったあと、ヴァイオレット氏が少し残念そうに聞く。
 マグダリーナは頷いた。

「私は今までの装飾がないものの方が、動きやすくて好きだわ。それに元が簡素だと、髪飾りも合わせやすいし、なるべく目立ちたくないもの」

 王立学園の制服は濃紺色で、女子はジャンパースカート、男子は襟無しのジャケットとズボンと、基本の形が決まっているだけで、あとは自由に装飾して良いことになっている。

 貴族令嬢や令息達が、こぞって飾りたてる中、簡素すぎるマグダリーナの佇まいは逆に人目をひいているのだが、本人は夢にも思っていなかった。

「私もリーナお姉様とお揃いでお願いしますわ。その方が、気分によってリボンやブローチでおしゃれしやすいのですもの」

 オーブリー家にいた時は、制服の下に着るブラウスも、制服も、贅沢に布地や糸を使ってフリルや刺繍で飾り立てていたレベッカだったが、今では機能性重視の快適さに慣れ、エステラやマグダリーナの中に根付くシンプルな美を愛する心にも触れ、自分なりのおしゃれを楽しみはじめていた。

「俺も簡素なもので。どうせまだ身長伸びるだろうし、中に着るシャツもエステラに貰ったディオンヌシルクのニット地ので良いし」

 ライアンもそう言うので、ヴァイオレット氏は少し考えて、ではシルエットが綺麗に見える簡素さにこだわりましょうと頷いた。

「ですが、秋の舞踏会の正装はまた別です! 私も服飾の腕を振るわさせていただきますよ」

 秋の舞踏会と聞いて、マグダリーナはため息をついた。社交の練習として、中等部からは王立学園でも学生会主催の舞踏会が開かれる。
 マナーも正式なもので行われるので、光もの……つまり宝飾品を身につけないといけない。

 女性の宝飾品で最低限無くてはいけないのが、耳飾りだった。

 耳飾り……この世界の耳飾り、ピアスタイプなのよね……

 耳に穴を開けるところを想像して、マグダリーナは身震いした。

 ピアッサーなんて便利なものはないし、シャロン伯母様も針で穴を開けたと言っていた……いっそ事前に聞かなきゃ良かったと、マグダリーナは後悔していた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...