ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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九章 噂と理不尽

179. ファンサして⭐︎

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 ヴェリタスとレベッカの長い髪は綺麗に編んでまとめ、フルフェイスのヘルメットの中に収まっている。
 年齢的要因と大き目のチュニックのおかげで、性別が判別しにくくなっていた。しかも女子用の靴底は厚めになっているので、身長差もぱっと見わかりづらく、一番背の高いライアンだけが、並んでいるとはっきりと個人特定しやすい。

 ヴェリタスだけ気をつけろと言われても、どれが彼だか、鑑定魔法を持つものしか判別できそうになかった。

 ドロシー王女は手紙鳥の魔法を使って、所属団である黄鷲の団長宛に「ショウネシーの三人はDランク冒険者だから油断されませんように」と警告文を送る。

「これで団員としての責任は果たしましたわ」

 安心して頷くと、ドロシー王女は持参した鞄から、目立つ装飾のされた、ナニカをいくつも取り出した。

「うちの団に来るのは、ランくんね。彼の柔軟性と身体能力の高さ、私推して参りますわよ」
「え? ドロシーお姉様? え? ……あの、それは……?」

 ドロシー王女は両手に「ライアン」「ファンサして⭐︎」と大きく書いてある団扇を持った。


「ショウネシーの魔法使いちゃんからいただきましたの。応援団扇というのですって。窓辺でこれを振って応援するのですわ。このファンサという文字の物も一緒に振ると、あの兜を外して手を振ってくれたりしていただけるそうよ」

 ドロシー王女の側にいた、家政科の女生徒達の視線が、一気に集まる。

「んっ……んんっ、お姉様、ヴェ…ヴェリタスの分も……?」
「はい」

 ドロシー王女はアグネス王女に、ヴェリタスの名の団扇と、ファンサ団扇を渡す。

「アギーは遠くにお嫁に行くのが決まってますもの……後悔しないように、いっぱい良い思い出を作って。ルタくんは緑よ。結構遠いから、急いで緑翼の陣地が見える場所まで移動するのよ。さあ!」
「え、え、お姉様もしかして、これから桃スラがどこに移動するかわかっていらっしゃるの?」

 ドロシー王女はあくまで優雅に、且つ力強く妹の肩と腰に手をかけ、アグネスの身体の向きを変えて背を押した。

「そんなこと気にしてる時間はなくってよ。こんなことは絶対見逃してはいけないわ! だって私がエリックでしたら、来年から桃スラの参加を禁止にしますもの」

 その言葉にハッとして、アグネス王女の他に数人の女子生徒達が、慌てて移動する。

「あの、ドロシー王女、失礼ながら……」

 幾人かの女子生徒が、意を決してドロシーに声をかける。その一団の中には、ミネットもいた。

 ドロシー王女は心得た顔をして、レベッカの団扇とファンサ団扇を彼女らの代表に渡す。

「青よ」

 その言葉に乙女達は息を呑む。青は毎年上位に食いこむ強豪団なのだ。

 乙女達はドロシー王女に感謝を述べると「私達の妹を精一杯応援しましょう!」と青狼の陣地がよく見える場所を求めて移動していった。



◇◇◇



「では領地戦二日目、陣取り戦を開始する。各団用意……始め!」

 エリック王子の号令の元、陣取り戦の火蓋が切って落とされた。

 殆どの団が、罰則のせいで動けない赤熊の陣地に向かう。


 桃スラのウイングボードの三人は、まず垂直に飛行した。ボード本体が縦になっているのに、三人が落下もせずに高く上がって行く姿に、観戦者達は息を呑んだ。

 十分な高さを確保すると、三人はボードの先端を各々が担当する陣地の方角に向けて下向きにすると、そのまま滑空した。

「まさか単騎で向かってくるのか!?」
「舐めやがって! 弓兵構え!! 射程距離に入ったら、一気に迎え撃て!!」


「コマンド/神獣の威光」

 マグダリーナはヘッドセットをつけ、モモ・シャリオ号の運転席で、必殺技の発動を命じた。

『みんなぁ、動いちゃだめだよぉ』

 競技場にモモ・シャリオ号から流れる、間延びした可愛らしい声が響くと、全ての魔獣の動きが止まり、そのまま伏せて頭を垂れ動かなくなった。

 全ての魔獣の頂点にして唯一の神獣となったエステラのスライム、ヒラの声は効果抜群だ。マグダリーナは、モモ・シャリオ号を発進させた。


 まず一番近距離の金鷲の陣地に、ライアンが飛び込む。

 鳥のように空から滑って来て、団旗のある砦の上部を旋回すると、素早く脇のホルスターから短剣を取り出して団旗を繋いである縄を切る。流れるような動作で団旗はなすすべもなく奪い取られた。

 観戦席から、歓声が上がる。

 ライアンは団扇を振るドロシー王女に気づくと、奪った団旗を華麗に回しながら上空へ上がる。
 ウイングボードの舳先に足先と上体を向け、黄色の団旗を真横に構えた。そのままするりと後ろ宙返りをする。

 団旗の位置がブレることなく、ウイングボードが美しい真円の軌跡を描いた。

 観戦者も敵も、皆その美しさに目が釘付けになる。

「なんて美しい動きなのかしら!! 素晴らしいわ」

 ダンスが大好きで、密かに筋肉鑑賞の趣味を持つドロシー王女は、感動と感謝の気持ちを込めてライアンの団扇を振る。

 ライアンはヘルメットを外すと、大感激で団扇を振っているドロシー王女に、笑って手を振った。

 どこからともなく、溜め息と歓声が上がる。

 ライアンは再びヘルメットを被ると、モモ・シャリオ号に通信を発信する。ヘルメットは通信機能も付いていた。

「通信。2号機から本機へ」
「本機応答可能」

 すぐにマグダリーナの声が帰って来た。
 上空のライアンが競技場を眺めると、モモ・シャリオ号は動かなくなった魔獣に手こずっている集団の隙間を縫うように、ジグザグに走りながら、赤の陣地へ向かっている。

「黄色の団旗の奪取、ファンサ完了。これから戦闘開始します」
「了解。気をつけて」
「わかった。リーナも頑張れ」

 通信を終了して、ライアンは黄旗を軽く回転させりと、それを構えて黄鷲の砦へ再度向かった。
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