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十一章 笛吹き
213. ヴヴ
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因みにライアンのカーバンクルにも女神の精石を与えたが、額の石に吸い込まれただけで、鑑定して見ても、なんの変化もなかった。
「カーバンクルは、気に入った人の側にただ居るだけで、本当に何にも役に立たない稀少で可愛いだけの魔獣なの。従魔としての便利さを求めずに、ただの愛玩動物だと思って」
ライアンが成り行きでカーバンクルを従魔にする時、エステラがそう注意したが、本当にその通りすぎる。
「せっかくだから、この機会に名前でも付けてあげればどう?」
マグダリーナはそう提案した。
「名前……」
ライアンはジッとカーバンクルを見つめた。カーバンクルは、ぶっぶっと鳴きながら、期待に満ちた眼差しでライアンを見た。
「じゃあ、ヴヴ、にする」
ヴヴと名付けられて、カーバンクルは目を細めてぶぶっと鳴いた。そしてライアンの頭の上で、自分の頭を擦りつけている。
「そんなに嬉しいのか……もっと早く名付けてやればよかった……」
ライアンはヴヴを、優しく撫でた。
それからレベッカの頭も撫でて、そっと女神の精石を、レベッカの額に付ける。
女神の精石は、レベッカの額から落ちることなく煌いていた。
「似合ってるよ、レベッカ」
「ライアンお兄様……お兄様も女神様の精石を付けてみましょう?」
ライアンはそっとレベッカから目を逸らした。
「俺は……俺にはそんな資格……」
ライアンの頭の上で、ヴヴが助けを求めるように、マグダリーナを見ていた。
多分、この役目はライアンと同じ立場のレベッカでは駄目なのだろう。
マグダリーナは緊張しながら、ライアンに近づき、赤毛の前髪を掻き上げると、問答無用で女神の精石をライアンの額に押し当てた。
「資格とかそんなこと、判断なさるのは女神様であって、ライアン兄さんじゃないわ。ライアン兄さんとレベッカは、女神様がショウネシーに連れて来てくれたんだもの、もうショウネシーのものなの!」
「リーナ……」
マグダリーナがライアンの額から手を離すと、女神の精石は落ちることなく輝いている。
「ほら、女神様もそうおっしゃってるわ!」
自信満々に宣言したマグダリーナの横を、青い影が通り過ぎた。
ヴェリタスがライアンを抱きしめる。負けじとレベッカもライアンに抱きついた。
「もう! なんでライアン兄さんそんなにモテモテなの?!」
ヴェリタスとレベッカを抱え、ライアンの表情は複雑に揺れた。
「胴に身体強化して下さい。僕も混ざります!」
どすっと音がして、アンソニーがライアンの真正面に飛び込んだ。先程、ニレルにエステラが抱きついていた位置だ。
そうなるともう、ライアンは吹っ切れた顔をして、マグダリーナを見た。チャーミングなタレ目で。
「リーナも来る?」
「無理!!!!」
いくら家族として認めていても、乙女としては遠慮する。それはもう恥ずかし過ぎる。
――モテモテの兄さんに、抱っこしてもらいました――
脳内で文字に起こすと、センスのカケラもなさすぎて、恥ずかしさしかない字面だ。ダメダメすぎる。
でもここで酷く拒否ったら、やっぱり傷つくだろう……乙女の範囲……乙女の範囲なら……
マグダリーナはそっとライアンの背後に回って、その背中に自分の背中をちょこんと預けた。
◇◇◇
その夜、マグダリーナは夢の中で、亡き母と一緒に窓の星を眺めていた。
背中に母の手のぬくもりを感じながら。
この夢は普通の夢じゃない……
何度か経験した、何か大切なことを訴える夢だ。しかし母クレメンティーンは、黙ったままだし、声をかけないと。
「お母さま……」
マグダリーナは恐る恐る声をかけてみた。美しいクレメンティーンの顔が愛おしげにマグダリーナを見つめる。
「アンソニーの寝顔を見て来たわ。大きくなって……リーナ、貴女も素敵な淑女に育ってくれたわ……私は両親の愛情を知らなかった……だからこんな悪い女になったのだと……私は誰の道具にもされない子を産んで、愛情で育つところが見たかった……それが何一つ叶う事ない人生を決められた、私のただ一つの抗い。子供達に充分な愛情をかける寿命も持たずに、家門が衰える事を知った上での、私の無責任で残酷な我儘……やっぱり私は悪女以外の何者にもなれなかった……だから当然、あなた達を産んだ事を後悔してないし、こうやって見守れることが嬉しいの……お父さまの……ダーモット様のおかげね」
そこは素直に頷いて良いものなのだろうか? お父さま何もしてなくない? あ、子種は撒きましたね。
久しぶりにマグダリーナのダーモットに対するダメダメ評価が上がった。
しかし、不思議と嫌いではないのだ……あの暢気な人柄の所為だろう。
「リーナ」
クレメンティーンは真剣な眼差しで、マグダリーナを見た。
「あの子を助けてあげて。彼はもう一人の私……貴女の兄と妹を、教国に取られてはいけない……そしてダーモット様に伝えて。やがて星の雫が、貴方を私の呪いから解き放ち、自由にしてくれると……」
クレメンティーンの姿が薄らいでゆく。
「待ってお母さま! ライアンとレベッカに何か起きるの?! お父さまの呪いって……」
当然、返事を得られないまま、マグダリーナは朝を迎えた。
「カーバンクルは、気に入った人の側にただ居るだけで、本当に何にも役に立たない稀少で可愛いだけの魔獣なの。従魔としての便利さを求めずに、ただの愛玩動物だと思って」
ライアンが成り行きでカーバンクルを従魔にする時、エステラがそう注意したが、本当にその通りすぎる。
「せっかくだから、この機会に名前でも付けてあげればどう?」
マグダリーナはそう提案した。
「名前……」
ライアンはジッとカーバンクルを見つめた。カーバンクルは、ぶっぶっと鳴きながら、期待に満ちた眼差しでライアンを見た。
「じゃあ、ヴヴ、にする」
ヴヴと名付けられて、カーバンクルは目を細めてぶぶっと鳴いた。そしてライアンの頭の上で、自分の頭を擦りつけている。
「そんなに嬉しいのか……もっと早く名付けてやればよかった……」
ライアンはヴヴを、優しく撫でた。
それからレベッカの頭も撫でて、そっと女神の精石を、レベッカの額に付ける。
女神の精石は、レベッカの額から落ちることなく煌いていた。
「似合ってるよ、レベッカ」
「ライアンお兄様……お兄様も女神様の精石を付けてみましょう?」
ライアンはそっとレベッカから目を逸らした。
「俺は……俺にはそんな資格……」
ライアンの頭の上で、ヴヴが助けを求めるように、マグダリーナを見ていた。
多分、この役目はライアンと同じ立場のレベッカでは駄目なのだろう。
マグダリーナは緊張しながら、ライアンに近づき、赤毛の前髪を掻き上げると、問答無用で女神の精石をライアンの額に押し当てた。
「資格とかそんなこと、判断なさるのは女神様であって、ライアン兄さんじゃないわ。ライアン兄さんとレベッカは、女神様がショウネシーに連れて来てくれたんだもの、もうショウネシーのものなの!」
「リーナ……」
マグダリーナがライアンの額から手を離すと、女神の精石は落ちることなく輝いている。
「ほら、女神様もそうおっしゃってるわ!」
自信満々に宣言したマグダリーナの横を、青い影が通り過ぎた。
ヴェリタスがライアンを抱きしめる。負けじとレベッカもライアンに抱きついた。
「もう! なんでライアン兄さんそんなにモテモテなの?!」
ヴェリタスとレベッカを抱え、ライアンの表情は複雑に揺れた。
「胴に身体強化して下さい。僕も混ざります!」
どすっと音がして、アンソニーがライアンの真正面に飛び込んだ。先程、ニレルにエステラが抱きついていた位置だ。
そうなるともう、ライアンは吹っ切れた顔をして、マグダリーナを見た。チャーミングなタレ目で。
「リーナも来る?」
「無理!!!!」
いくら家族として認めていても、乙女としては遠慮する。それはもう恥ずかし過ぎる。
――モテモテの兄さんに、抱っこしてもらいました――
脳内で文字に起こすと、センスのカケラもなさすぎて、恥ずかしさしかない字面だ。ダメダメすぎる。
でもここで酷く拒否ったら、やっぱり傷つくだろう……乙女の範囲……乙女の範囲なら……
マグダリーナはそっとライアンの背後に回って、その背中に自分の背中をちょこんと預けた。
◇◇◇
その夜、マグダリーナは夢の中で、亡き母と一緒に窓の星を眺めていた。
背中に母の手のぬくもりを感じながら。
この夢は普通の夢じゃない……
何度か経験した、何か大切なことを訴える夢だ。しかし母クレメンティーンは、黙ったままだし、声をかけないと。
「お母さま……」
マグダリーナは恐る恐る声をかけてみた。美しいクレメンティーンの顔が愛おしげにマグダリーナを見つめる。
「アンソニーの寝顔を見て来たわ。大きくなって……リーナ、貴女も素敵な淑女に育ってくれたわ……私は両親の愛情を知らなかった……だからこんな悪い女になったのだと……私は誰の道具にもされない子を産んで、愛情で育つところが見たかった……それが何一つ叶う事ない人生を決められた、私のただ一つの抗い。子供達に充分な愛情をかける寿命も持たずに、家門が衰える事を知った上での、私の無責任で残酷な我儘……やっぱり私は悪女以外の何者にもなれなかった……だから当然、あなた達を産んだ事を後悔してないし、こうやって見守れることが嬉しいの……お父さまの……ダーモット様のおかげね」
そこは素直に頷いて良いものなのだろうか? お父さま何もしてなくない? あ、子種は撒きましたね。
久しぶりにマグダリーナのダーモットに対するダメダメ評価が上がった。
しかし、不思議と嫌いではないのだ……あの暢気な人柄の所為だろう。
「リーナ」
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当然、返事を得られないまま、マグダリーナは朝を迎えた。
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