ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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十三章 女神の塔

261. 不平等?

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 「ところでショウネシー伯爵の生配信だが……」

 マグダリーナが一旦落ち着きを取り戻したところで、エリック王太子から、これまた困った話題が出た。

 「えーと……タマちゃん、久しぶりのエリック様に何か言いたいことある?」
 「エリックー、タマ、レベル3しかなかったのー」
 「……スライムだからだろう」

 エリックは一言だけ返すと、優雅に紅茶を口に運ぶ。
 タマはぷんすとお口を尖らせた。

 「エリック冷たいー。タマはエリックに、実家のような親しみを持ってるのにー」

 エリック王太子は、高貴なお口からお紅茶を吹き出した。当然、マゴーがなかったことにしていく。優秀である。

 「そのように思われるのは、心外だ。私達はもう別れたんだよ。はやくショウネシー家に馴染みなさい」
 「タマ馴染んでるよー」

 エリック王太子はロイヤルな仮面が剥がれ、マグダリーナを睨め付けた。

 「そんな睨みつけないで下さいね。タマちゃんは純真に、一緒に育ったエリック様を慕ってるんですから。可愛くて、健気じゃないですか?」

 話題を変えるため、タマをけしかけてしまったが、ここまで臍を曲げるとはマグダリーナは思わなかった。

 「君といると、まるで私は冷たくて最低の男だと言われているようだ。何故そのスライムを生かしてしまったんだ?」
 「手の届く範囲の命だったからですよ……私達の」

 エリック王太子は少し目を瞑って黙った。やがて。
 「そうか」
 とだけ、呟いた。

 「それでショウネシー伯爵の生配信だが」
 くっそ、忘れてなかった、この王太子。

 マグダリーナは顔に笑みを張り付かせて、淑女の仮面を分厚くした。

 王様が投げレピしたのだ。お咎めはないだろうが、何かしら難題を言ってくるに違いない。経験上間違いないと、マグダリーナの心の警報器が作動している。

 「国内外での反響が大きい。王宮にも配信が始まってからのこ短時間に、冒険者ギルドを通じて国外からの問い合わせが殺到している。『本当に女神教信者にしか恩恵がないのか検証させろ、もしそうなら、世界を創世したという女神が、なぜ不平等を行うのか説明しろ』要約すると、こういう内容だ」

 「はあ……」
 マグダリーナはため息を吐いた。いや、深呼吸だ。

 「別に前半は構いませんよ。ちゃんと入場料を支払って、町や領で騒ぎを起こさないのでしたら。後半については、私は女神様ではないのでわかりかねます。ですが、私なりに想像した範囲の……あくまで仮説なら、お話しできます」
 人対人の政治上なら、仮説の方がむしろ、いいかも知れない。

 「聞かせてくれるかな?」

 マグダリーナは頷いた。
 「ハイエルフには、生まれつき女神様の神力を受け止めて、奇跡に変換する器官が体に備わっているそうです。私が失った、魔力を魔法に変える器官の上位版なのかなと思っています。そんなハイエルフでも、女神様に特別な奇跡をお願いするには、秘伝の作法が必要です。これは今では失われて、エステラのお師匠とニレルだけが知り、エステラが引き継いでいました。ハイエルフの長たるエデンも知りません」

 「そうなのか?」
 エリック王太子の視線に、エデンは頷いた。

 「エステラによるとその作法は、女神様に直接『こういう奇跡をお願いします』って伝えるようなものだとのこと。その作法も、女神の神力……恩恵を受け止められる準備があって、はじめて意味が成す……そうよね、エデン」

 マグダリーナは一応ここまでを、エデンに事実確認しておく。
 「その通りだ、マグダリーナ」

 「以上の事実を踏まえて、女神様の恩恵には、受け取る側の意思と準備が必要なのはご理解いただけますか?」

 「理解した」
 エリック王太子だけでなく、アルバート殿下とドロシー王女も頷いた。

 「創世の女神様は人だけでなく、世界を創世した存在です。人だけに寄り添う御方ではないでしょうし、女神様は地上のことは地上にいる私達の意思と行動を尊重して下さるので、普段は広く平等に薄ーくその御心を与えてくださっているのだと思います。与えられているのに、気づかないほど」

 マグダリーナはどういう言葉を選べば理解し易いか、頭の中で整理する。

 「今回、女神様の神力を奇跡に変えるほどのものを持たない私達の為に、エステラとニレルを介在に、女神様が御自ら与えて下さったのが《女神の塔》です」

 ここからが私の仮説ですが……とマグダリーナは付け加える。

 「特別な作法も器官も持たない私達の為に、女神の塔……ダンジョンを通して、こういうものが喜んでもらえるかなと、特別に用意して下さった贈り物が、ダンジョンの《女神の恩恵》なのでしょう。女神様は存在が大きすぎるので、創世の女神様を認識して心を寄せている女神教信者だけが、女神様からの特別な贈り物を必要とし、受け取る準備が出来ているものだと認識されていないのではないでしょうか」

 「……なるほど。正直信じてもいない神からの恩恵を強請ろうとは、ずうずうしいものだと思っていたが……エデン殿は、今のマグダリーナ嬢の仮説はどう思う?」
 「ンハハハ! ルシンにマグダリーナ程、言葉を尽くす能力があればなと思うくらいだ。俺の理解も同じだな。この場合、女神教に入信していることが恩恵を受け取る意思と準備だ。ダンジョン自体は入場料を払えば、誰でも入れる。ナニも不平等な事はない」
 「ではそのように、返答しよう。だが、ショウネシー伯爵は、女神から特別な宝物をいただいていたようだが、これは?」

 なんだっけ? とマグダリーナが思っていると、エデンが爆笑した。

 「浮気しなかったご褒美か!!」
 「あー……」

 (あれかぁ)

 「それは我が家が、ご覧の通り、エステラやハイエルフ達と近しいので、女神様がよくお見守り下さっているのでしょう」

 「そうだな。俺たちは女神に世界の様子を伝える通信魔導具みたいなもんだからな。それにヒラはダーモットと仲良しだしな」
 「ヒラは《神獣》なので。多分リィンの町のマンドラゴン達も同じかも知れない……だって女神様の御意志が伝わってるっぽいし……」
 (《神兵獣》って言ってたし……)

 エリック王太子は慌てた。
 「ちょっと待ってくれ、神獣とはなんだ? 初めて聞くんだが」
 「え? そうでしたっけ?」

 マグダリーナはドロシー王女を見た。
 「特にエリックには、話してなかったわね」
 「でしたら、普通に生活するには影響ないことなので、お気になさらなくてもよろしいかと」

 エリック王太子はため息を吐いた。
 「君はそういうところだぞ、マグダリーナ嬢」
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