ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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十三章 女神の塔

262. なんて?

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 「この話はもう良いですわよね? では私の嫁ぎ先について相談に乗ってくださる?」

 ドロシー王女はぱちんと小さく手を叩いて、はにかむようにマグダリーナを見た。

 嫋やかにして優雅。王女として申し分ない淑女であると同時に、その見た目と違い非常にアクティブなこの国の第一王女は、一度エルロンド王国からの縁談の申込みがあってから、エルフに目をつけられた不吉な王女として、他国との縁談は絶望的になった。エルロンド王国がリーン王国のものになってしまったので、尚更だ。
 そうなると、国内の貴族との縁談を探すしかない。

 「縁談のお話しがあったのですか?」
 同年代の令嬢が主催する、婚活場であるお茶会に軒並み招待されなくなったドロシー王女だったが、とうとう王様と王妃様が動きだしたのだろう。なんといっても、次の春を迎えれば、学園を卒業されてしまうのだから。

 「まだでしてよ」
 ドロシー王女は即答した。

 「ですから、私の嫁ぎ先は私が決めようと思っていますの」
 「そ……そうなんですか」

 あれ? なんでそんなこと、うちでお話しを……? シャロン伯母様の所でなくて良いのかしら。

 マグダリーナの瞳に、美しいドロシー王女の悩ましげな表情が映る。

 「はじめはそう……エルロンドをいつまでもジョゼフ・ショウネシー男爵にお任せする訳にはいかないと思っていましたの。エルフは長命ですし、地理的にも離れていますわ。王家の目の届かないことになりましたら、大変ですもの」

 おっしゃる通りだ。とりあえずマグダリーナは神妙に頷いた。

 「ですから私、学園を卒業しましたら、エルロンド領へ行って、ジョゼフ・ショウネシー男爵の元で領主見習いをしてから、領主を交代して、キースに適当な爵位を与えて夫にしようと思ってましたの。エルロンドはアギーの嫁ぎ先に近いですし、何かあったら手も貸せますもの。私が亡くなった後も、キースが領主を務めれば安泰でしょうし……でも」
 「でも……?」

 さらりと扇子を開いて、ドロシー王女はその口元を隠す。一切の邪気邪念のない微笑みが、マグダリーナに向けられた。

 「女神の塔なんてものができたら、王家としてはどうしても、ショウネシー家を押さえておかないといけない……そう、思わなくて?」

 「ええ?! それを私に聞くんですか??」

 ドロシー王女の考えが読めなくて、マグダリーナは背中に嫌な汗をかいた。じっとりと、背筋を流れる痒みのような感覚を振り払うように、マグダリーナは主張した。こわいこわい。脳内にユニコニスの角を切り落としたドロシー王女の姿が甦る。

 「ショウネシー家は王家と対立するつもりは、毛頭ないですよ! そうですよね、お父さま」

 空気になっているダーモットが、空気のまま頷いた。

 「もちろんそうでしょう。ですがそれを周囲にも伝わるよう、敢えて行うのが、政略的結婚というものですわ」
「はあ……」

 え? 結婚? 誰と? ああ、ライアン兄さん……は、ないわ。国家反逆の元オーブリー公爵家の出だし、本当の父親は教国人だった。さすがに王女のお相手は無理。ではアンソニー……!!

 「リーナちゃん、私、あなた達のお義母様になっても、よろしくて?」


 …………

 …………

 …………なんて?


 「マグダリーナ嬢、しっかりしろ」
 エリック王太子に囁かれて、マグダリーナは正気を取り戻した。

 「正気ですか? ドロシー王女?! 父は王様と変わらないような年齢ですよ?! しかも後妻です! 王女には相応しく有りません!! それにエルロンドはどうするんですか?!」
 「エルロンドにはそもそもハラちゃんに隷属契約してる、あの椎茸筋肉エルフが居るじゃない? 何かあれば、当分彼に対応させれば良いのよね。だったらより優先すべきは、こちらですわ」

 一瞬「椎茸筋肉エルフ」というパワーワードが嫋やかな王女の鈴のような声音で聞こえてきたことに、意識を全部持って行きかれそうになる。これが戦略なら、ドロシー王女、恐ろしいひと……!!

 「いやいや、もっと御身を大切にして下さい! それにお父さまはなんと」
 「子供達の賛同を得られたなら、構わないですって」

 振り返るとアンソニー、ライアン、レベッカの三人が試合に負けた敗者の顔をしている。マグダリーナは自分が最後の砦なのだと悟った。まじか!!!

 「それに男の子が生まれたら、エルロンドの領主にしてシーラと結婚させれば良いし、女の子だったら、エルロンドの領主にして、あの椎茸筋肉エルフを婿にすれば良いのよ! 良いことづくめだわ」

 椎茸筋肉エルフことケンちゃんさんの整った顔と古めかしい喋り方、そして筋肉を思い出して、マグダリーナは苦い物でも噛んでしまったような顔をした。

 「早まらないで下さいっ。その子は私の弟か妹でしょう? 妹の婿にあの椎茸筋肉エルフはちょっと考えます。私あの人に義姉上とか言われたくないです!」
 「つまり妹を作って良いと?」
 「待ってください待ってください!!」

 (だめだドロシー王女が強すぎる……!!)

 マグダリーナは藁をも掴む気持ちで、スライムを掴んだ。

 「リーナ、タマのこと、揉むの?」
 「揉むわ」

 マグダリーナは、タマを揉んで心を落ち着かせる。その様子を、眉を顰めてエリック王子が見ていることも、気にしない。
 タマは歴とした特殊個体スライムであり、出身地はただの出身地だ。
 マグダリーナは覚悟を決めた。

 「ドロシー王女」
 「何かしら?」
 「こうしましょう。タマちゃんの恋愛神託です。神託で良い結果が出た時は、女神様の祝福ありと、私も喜んで呼びましょう。そう……お義母様、……と」

 ドロシー王女は優雅に微笑んだ。
 「ええ、それでよろしいわ」

 「タマちゃん、お願いできる?」
 「たま~」
 タマと、タマを両手に乗せたマグダリーナの身体が、白く輝く。いざ、尋常に勝負!

 タマの額の精石がキラリと光り、閉じていたタマの目が、カッと開かれた。

 「ダモとドロシーの結婚、だーい吉ぃぃ!! 国も家庭も安泰よー」

 …………

 …………

 …………なんて?

 「やったわ! 卒業したらお嫁入りよ!!」
 ドロシー王女が満面の笑みで立ち上がって、隣にいるアルバート王弟殿下に抱きついた。
 「良く勝利を掴み取ったドロシー! ショウネシー家なら私も安心だ」

 ドロシー王女とアルバート殿下が抱き合って喜んでいる中、マグダリーナはただただ呆然と。

 「旦那様はどうも、虫をも殺さぬ顔をして、内心強かな女性としかご縁がないみたいですね」

 マグダリーナの溢した紅茶とティーカップを片付けながら、ケーレブは呟いた。そして呆然としているマグダリーナの手のひらから溢れたタマを、そっと受け止め、テーブルに綺麗に置いた。ぽよん。
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