お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第1話 転生とは何ですか?

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最初にお断りして置きたい。

確かに俺は某なろう系が好きで、荒ぶる暇を持て余しては読み漁っていた。
しかし電子も製本媒体も買わない派だった。

金が勿体ないからな。

現世での出来事を自己紹介を兼ねて紹介する。

現世では、高校2年までの短い人生だった。

名前はそう。燻木智哉(イブルギ トモヤ)
誕生日は9月9日。俺はその誕生日当日に死亡した。

何が在ったか?

良く在る話だ。
高校1年の3学期2月頃から、何の前触れも無く始まったイジメ(孤立化)が元々の原因。

友達も去り、担任からも阻害され、進級した。

イジメの対象に成った理由は解らない。
ジメジメ天然の雲脂頭。ニキビ顔の黒縁と来れば、オタク趣味も無いのにキモオタ扱い。
見た目だけで迫害された。

しかしどうして3学期だったのだろう。
そこまではクラスメイトも何とか頑張ってくれたのか。
良い意味で捉えるなら。

他人に対して鈍感な俺は、周囲の変化を何も感じ取れずにイジメられたと思い込み、2年の1学期終盤から大変立派な引き籠もりに成った。

シングルマザーの一人息子。
高校を中退してアルバイトをするからと説得を試みるも失敗に終わる。

その後、強引に部屋に立て籠もった。

が半日も持たずにギブアップ。
トイレも風呂も部屋には無かったので、部屋を出るしかなかった。何気に綺麗好きなんだ。
親以外は誰も信じちゃくれないが。

泣いてたなぁ、母ちゃん。

前以て言って置きたい言葉が在る。
「母ちゃん、ごめんな」


プチ引き籠もっている間、宿題も放置して母ちゃんがスーパーのパートで貰って来てくれる、賞味期限切れ直後の惣菜を食い散らかす生活だった。

今思えばそれがいけなかったんだと思う。

好きな物だけしか食わない偏食に加え、塩分と油塗れの惣菜が祟った。

惣菜が悪いとは言っていない。
食い方と食い合わせが只管悪かった。
良く野菜も食えって言うじゃないか。それだよそれ。

体重は激増。顔のニキビは益々酷くなった。

通風気味に肥満。最終的に甲殻類アレルギーを発症していたのも気付かず、俺は食った。

誕生日だからと母ちゃんも奮発してくれて、エビと蟹足のむき身を腹一杯になるまで。
乳製品アレルギーも発症していた様にも思う。
ショートケーキ食っただけで喉がイガイガしてた。

短い人生の最後はアナフィラキシーショック。
好きな物を鱈腹食って死ねたんだ。ある意味幸せな最期だったよな。

諄い様だが言わせて欲しい。
「母ちゃん。ゴメン」もう伝えられないのが残念だ。

これからは自分の人生を生きて欲しいと願う。
何なら翌日に独身店長と再婚してくれても構わない。


無駄で無益な人生の幕は下りた。
前置きが長かった。ここからが本題だ。



目覚めるとそこは大草原のど真ん中。
スリムな体型と冒険者風の装い。身長は現世と然程変わらず170前後。顔は贅沢は言わない。

重たい長剣と、長錫の杖。ジョブで言えば魔法剣士。

初期は弱小スライムから始まり、近くの町を拠点に繰り広げられる異世界ファンタジー。

異能や特殊スキルを発動出来る。
ハーレムルート。
美女だけを取り揃えた最強パーティー。

世界を闇に陥れる魔王を討伐。
ハーレムの女の子たちとのあれこれ。

…そんな美味い話は全然無かった。



目覚めるとそこは、真っ黒な暗闇だった。

蝋燭の火の様な淡い光が視界前方に見えた。
その光を辿りながら前進した。

裸足なのか、足裏に小石が刺さって痛かったのを覚えている。それでも歩いた。

一つの光以外は何も無い空虚な世界だったから。

美人で悩殺ボディーの女神様も居ない。
定番の案内をしてくれる爺さんも居ない。

熱い茶も出て来ない。

在るのは只の暗闇だけだった。


光の袂に辿り着いた。
光の火にそっと触れてみた。
消してしまわない様に、そっと両手で包んだ。
少しだけ温かい、そんな気がした。


次に目覚めると、そこは長い長い回廊。
壁も天井も床も全部。今度は青白く輝いていた。

久々に目にした強い光に軽い目眩を覚えた。

気が付くと俺は行列の最後尾に立っていた。

それが行列であると認識したのは並んだ後。
長蛇の列だ。この先は名店が開いているに違いない。

腹は減ってないが、食べられるなら食べたい。

行列を作る人々は一切喋らなかった。

老若男女。覗ける範囲で確認しても。
誰も彼も顔にはモザイクが掛かって見えない。
顔だけが認識出来ない。

認識出来るのは体型のみ。

俺の前に立っていたのは男性。自分よりも高身長。
腹回りは其れなりに太っていた。

俺もそうだが、生前に着ていた衣服を着用してた。
全裸であったら目の保養に成りそうな女性体型も何人か前方に見えた。

顔は脳内補正で切り抜ける。

しかし俺は一切足が動かせなくて、可動範囲は腰から上と非常に狭い。後は腕と首だけ。

ここは死後の世界だと悟った。
きっとこの先には、強烈な面をした閻魔風の受付が居るに違いない。

行列は中々進まず、ぶっちゃけるまでも無く暇。
試しにズボンのチャックを下ろして中身を触診した。

凄いな。
死んだら生殖機能と排泄機能を削除されるのか。
手に残ったのは、贅肉のプニプニした感触だけだった。

目の前の男の尻を撫でても何も面白くないので、行列が進むのを待った。待つ以外する事が無いからな。

前の人が前進するまで体感で5分程。
前にスペースが空くと足が勝手に動いた。
自動化の波は死後の世界にも来ているに違いない。

進む時間には多少のバラツキが在る様だ。
自分の進路に悩んだ奴が居たんだろうな。
イメージ的に何れを選んでも大差無いんじゃないかと。

自分の番が回って来るまで暇だったので、ズボンとパンツを膝上まで下ろして目視で確認。

おぉ、ノーマイサム。女体化でもない。

自分の進行速度を遅らせてみた。
次に上着とTシャツを脱ぎ、前のおっさんに掛けてみた。

拒絶反応無し。この人は来世でリアクション芸人に目覚めたら、きっと大成はしないだろう。

自己触診を繰り返した。

髪の毛は在る様だ。量産型ハゲではなくて安堵した。
耳が無い。耳の穴も無い。通りで静かな訳だ。
口が無い。歯が在る感覚も無い。喋りは不要。
鼻が無い。呼吸機能すら不要。多分肺や臓器も無い。

静かでいいなぁ。
俺が求めていた静寂がここには在った。

下半身の可動域を狭めたので、前進する時は小走りに成った。面白い。

面白さを全身で体現したいが、口が無いので察してくれ。


顔の無いマネキンコンベアーと化した行列。
それもそろそろ終わる。やっと自分の順番が回って来た。

ご案内受け付けと思われるマネキン女性。

彼女には口だけが在った。軽いホラーだわ。

その口が喋る。不思議と声が脳内に響いた。
「貴方は目に執着がお有りの様ですので、向かって左手にお進み下さい」

無機質な声。ここにもAIロイドの影響が?

目に執着と言われても実感は沸かない。
生前あのまま大人に成ったら、覗き魔にでも成ったのだろうか。死んで正解だな、そんな変質者。

意識せずとも足は動き、一つのドアの前で立ち止まった。

半身を捻り、後ろを振り返って見ると。
後続は誰も居なかった。

尚も足が前進するので、仕方無くドアを開いた。

強引に滑り込む身体。気持ちが付いて行かない。


次は真っ白な空間。全面360度。
今度は全身、自分の意志で動かせる。

自由度が増しても、誰も居ないんじゃ遊べないじゃん。

「弄る気満々ではないですか」
戸惑いの感情が籠った声。人間らしい声で安心した。

「見て触る以外する事が無いので」

「どうして全裸なのですか?」女性?
中性的なハスキー声だった。

「暑くて脱いで前の人に預けたら、何処かへ行ってしまってさぁ大変」

「その様な事をされる方ですので、貴方の前には出ないと決めました」間違い無い。女の人だ。良かった。

智哉ズ、アイ。
好きなアイドルをベースに構築。前方の空間にセクシーフィギュアをトレース。

折角なのでマネキンでは詰まらない。

「や、止めなさい!」怒らせてしまった。

容姿と身長確定。体重と体型を構想。本人の意志を無視した投影を開始。

「止めて下さい!責めて、責めて服だけは」

断固拒否。全裸一択だ!※自主規制入ります。


擦った揉んだの末。行き着いた姿はパンツスーツのOL風の黒髪ショートお姉さんに纏まった。

造形を進める内に、形状は鮮明に。生身の人間に近付けられた。

何処かマネキンチックが抜け切らない。
そこが妄想の限界点。その姿で確定とした。

人間の完コピって案外難しいんだね。
彼女居ない歴=年齢の俺には無理だよ。

「貴方の経験不足に救われましたね」

ロイドちゃんはスーツの襟を正して、その場に正座した。

彼女の前に胡座で座る。床が在ったみたいだ。

「この空虚な空間では、人がそれぞれ持っている形をある程度までは具現化出来ます。しかし驚きました。善くぞあの少ないヒントだけで私を構築してしまうとは」
急に褒められた。

「褒めてはいませんよ。これから貴方には選択をして貰います。ここは貴方の想像する通りの分岐点」

「消滅。一択で」

「昆虫、動物、人間…。今、何て?」

「消滅で」

「過去に戻る事は出来ません。選べるのは未来。え?」

「消してよ。消せるんでしょ?」

ロイドちゃんは重たい溜息を吐き出した。

「私の名前は別に在るのですが、ロイドでいいです。それはいいのですが、今の貴方の様な望みは聞いた事が未だ嘗て在りません。初めてのケースです」

ロイドちゃんの初めてを頂いた。

「変な言い回しはお止めなさい。私を挑発しても何も変わりませんよ」

やっぱ言葉をイメージしなくても会話成立するんだね。
神様なのに、消すのは無理なの?

「私は神では在りません。只の案内役です。神とは万物に宿る意志そのもの。数千数万の意志に基づき初めて神格化される物です」

俺だけの意志では足りないんだ。

「そうです。数千数万の人間がほぼ同じ造形をイメージし、願い続け、意志と念を積み上げる事で成立します。人であれ物であれ。人々が願う形が神の如き力を宿します」

この場所はどうして出来たの?

「ここも同じです。数多の人間が死後の世界を想像し、途方も無く永い年月で折り重ねられて出来た場所。それがこの分岐点」

何か曖昧だなぁ。俺のイメージとは違う。

「曖昧。それはある意味正解です。消滅、では在りませんが。取り敢えず人間以外を選択すれば、人間としての過去の記憶は魂から抹消されます。
貴方寄りの言い方ですと、リセットとなります」

リセットは魅力的だね。虫とか微生物とかだったら、消えるのを待つだけだし。

「どうして貴方は消えたいのですか?」

どうして生きなきゃいけないの?

「…」戸惑ってる。一本取れた気がする。
「取られていませんよ」

何かさ。宗教臭い会話だよね。

「だとして、どうされますか?」

「人間以外を選べばいいなら」

選べるなら。何れに生まれ変わるかだな。
動物でも家畜とか、弱いカテゴリーを選ぶと最後は食われてお終いだ。

即効で成長する虫。
何れも寿命が短そうな生き物で考案。

「蠅で」

「…理由をお聞きしても?」

あっと言う間に成体。熱に弱く、人から嫌われ、叩かれて潰れて死ぬから。

「確定で宜しいですか?二度と戻れませんよ」

否定しないんだ。面倒になった?

「案内候補者は貴方一人ではありませんからね。ここには時間は存在しませんが、長居されても困ります」

次の客が待ってるんだ。

俺は無意識でロイドの両肩を掴み引き寄せた。
「な、何を」

ロイドの唇に、自分の口の場所を押し付けた。

どうせ消えるなら、人として最後の記念に。
俺のファーストキスは、とても無機質な物だった。

ロイドが肩を奮わせ俯いていた。

「早くお行きなさい」当然怒ってる。
ロイドの後方に扉が現われた。その方向を指差して。

「怒ってはいません。失望しているのです」

まぁまぁ、減るもんでもないでしょ。
俺、口が無いから実質ノーカウント。

「もう行って下さい!」

ロイドちゃん。色々有り難う。ほんの短い時間だったけど楽しかった。
そして、さようなら。

人間の俺さようなら。
ごめんな、母ちゃん。こんな選択しか出来なくて。

俺は勢い良く新たな扉を開いた。
身体が白い光と同化する。真白の空間に飲まれる様に。



気が付くとそこは荒野。
分厚い暗雲が空に立ち籠め、鳴り止まぬ豪雷。
雨は無し。風も微風。遠くの高い山々が印象的。
薄暗く時間帯は不明。

周囲の視界は良好。
真後ろの一部が見えないだけで、体感330度位の視認性が在る。

美味しそうな腐敗臭。好物なので仕方が無い。

赤黒い大地に転がる紫色の遺骸。
グチャグチャで最早原型が判別不能。

点々とする塊の数々。数え切れません。

乗っては前足をスリスリ。俺は結構綺麗好きなんだ。
蠅になっても根本は変わらない。

臭いに誘われ、大きな塊へと飛び移って行った。

手足の指先みたいに動く背の羽根。
強い風でも吹かなければ大丈夫。

お誘い有り難う。またスリスリ。合掌。
試しに少し囓ってみた。

蠅の仕事としては、微細な欠片を関節に集めて別の場所に運ぶのがメイン。捕食は必要な行為ではないけど、前世の名残かなぁ。

お腹空いてるもんなぁ…。

名残…って…何だ?

おい!ロイドちゃん!リセットどうした!!!

全然、全く、微塵も消えてない。
うっそん。冗談止めてよ。これ何の罰ゲー?

キスしたから?あんなんキスでもないし!


一匹の大型の蠅は、とある死骸の上をバタバタと旋回を繰り返して数日を過ごした。

声に成らない叫び声を張り上げて。




----------------

蠅の王。名をアザゼル。

勇者に倒された魔王の死骸から生まれ出た魔物。
特殊個体であり、人知を超えた大きさへと進化可能。

後の人類はこう記す。
後始末は確実に。塵に成るまで燃やしましょう。

アザゼルは、魔王と散らばった側近たちの死骸のエキスを吸収し続けた。結果。

特技:飛翔・光学迷彩・高耐久・高寿命
特徴:爆速・被毒無効・強冷気耐性・弱高熱耐性
知能:人間種と同等


笑っちゃうよね。笑えないけど。

周囲を巡っている内に、大破した歪なお城を発見。

中に入ると兵士風の人間と、ファンタジー要素を集めた魔物と思われるご遺体が無数に散らばっていた。

激戦の跡。

別室に姿見が在ったので、自分の姿を映し込む。

デカい!!!自分が!
オーマイガ!居ないんだっけ…。

成人男性と思われる遺体を運び入れ、自分の身体と対比測量。

成人男性と同じ位?蠅なのに!?


本能には抗えない。ふと気が付くと。
魔物と人間のご遺体の上を飛び回っていた。

食べてもいないのに、身体は更に大きく育った。
成長期か。

弱高熱耐性 ⇒ 強高熱耐性

己で弱点潰してどうするよ。


前世と同じく瓦礫地下に在った牢獄に引き籠もり、考え続けた。

未だ計れる特徴は耐性だ。無効じゃない。
熱冷耐性が無効に成る前に手を打たねば。

急遽練り上げたプランはこうだ。
1.弱い内に魔王を倒した勇者に滅ぼして貰う。
2.一心不乱に飛び、大気圏で消滅。
3.活火山を見付け、溶岩へダイブ。

1は勇者の生存が必須。相打ちだったらアウト。
3はアイルビーバックしそうな感じがするので格下げ。

今直ぐ選べるのは2!

見るのも嫌だがステータスを確認しよう。

種族:蠅の魔物
レベル:3
体力:9999
全脚力:9999
防御力:9999
魔力:9999
対魔力:9999
知能:120(人間種指数)IQかよ!低くね?

特技、特徴に変更は在りません。

レベルと中身が合ってない。勇者倒せんのかよ、これ。
レベル上昇でステは上がらないと思う。
上限っぽいし。

スキル方面が進化するのは危険だ。


空が、俺を呼んでるぜ。

牢獄から這い出て、入って来た所から退城。

真っ直ぐ上空へ。景色は満天の星空に変わっていた。

綺麗だなぁ…。故郷の空とは大違い。


飛ぶ、飛び上がる。真っ直ぐに上へと。
何も考えず。不思議と死への恐怖を感じなかった。

元々蠅に感情は無いからな。
そこだけは救われた。

空は涼しく心地良い。風の抵抗が増して行った。
星々は俺を迎える様に輝き続け、両手を一杯に拡げたロイドちゃんの胸に飛び込む気分だ。

安心感と期待感。死に捕われるよりも、消滅への期待が遙かに優った。

「行かせません!」

来ると思ったよ。絶対に。
さっき思い浮かべちゃったから。

見逃して欲しいなぁ。
俺一人の魂ならどうでもいいでしょ?

「どうでも良くありません」

止めても無駄無駄。
スピードに乗った俺は止められないぜ。

ロイドは神様でもないんだし。


空気抵抗と共に、摩擦熱が発生。
外殻が燻り始めた。大気圏が近い。

「確かに私には力は在りません。ですが、こちらの世界で神格化された方の力をお借りすれば!」

羽根の動きが止められた。
違う。全部だ。感じていた熱も、星空の流れも全部。

時間停止?

「概ね正解です。今の貴方を止める術は他にも在ります。どうか、落着いて下さい」

そうだね。他にも在るよね。沢山。


イメージしてた転生とは丸で違う。
転生って何だろね。
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