嫌いなあいつの婚約者

みー

文字の大きさ
20 / 69
4話

3

しおりを挟む
 杏里宅の庭には、花の他に木もたくさん植えられていて、まるでどこかの自然公園のよう。

 花弁の上で休んでいる蝶々もまたこの風景を輝かせてくれる存在で、日常を忘れさせてくれる空間。

「桜、いいの? 涼さんずっと彼女といるけど」

「いいの。別に、涼が誰といようと関係ないわ」

「そう……」

 2人の姿を見ると、話に花を咲かせているようで、まるで私の入る隙なんて無い。

 だいたい、あなたの好きな杏里だってここにいるのにそんなんでいいのかしら?
 
 空には雲一つないのに、私の心の中には時間が経てば経つほど白い靄が増えていく。

「もう、なんなのよ」

 心の中で消化しきれない言葉が、声となって出てしまう。

「どうしたの? 桜さん」

「あっ、なんでもないです。それにしても、どの料理も美味しいですね。特にこのバゲットのサンドウィッチがパンの香ばしさとトマトが絶妙で」

「うん、僕もこれ好きだな」

「ねえ、桜」

 奏多さんと話していると、先程まで向こうにいた涼が目の前に来た。

 彼女の姿はなく、見ると杏里と話していた。

「どうしたの?」

「いや……特に用事があるわけじゃないんだけど、楽しんでるかなって」

 さんざん私のことを放っておいたくせに、今更そんなことを聞くために私と奏多さんの2人きりの貴重な時間を割くなんて、失礼にもほどがある。

「ええ、楽しんでるわ」

 あなたがいなくても、と直接声にはしない。

「涼くんは楽しんでいるかい?」

「はい、もちろんです」

「涼くん、1ついいかな」

「はい」

「僕、桜さんが好きなんだ」

「え?」

 つい、声が出た。

 だって、それは思いもしなかった展開でもし奏多さんが私のことを少しでも好きでいてくれるとしてもそれを言葉にすることは絶対にしないと思っていたから。

 涼の顔を見ると、表情を変えずに奏多さんを見つめている。

 そうよね、涼にとって私は形だけの婚約者で好きな相手ではないもの。傷付いたり、嫉妬したりなんてしない。

「それは困ります」

「婚約者だから?」

「いえ、僕が桜のことを好きだからです」

「え?」

 二度目の「え?」が出てしまった。

 聞き間違い、ううん、耳に残っている涼の言葉。

「桜は何か勘違いをしているようだけど、僕は昔から桜が好きだよ。だから、好きな人と婚約出来てすごく嬉しかったんだ。まあ、最近の桜は僕のこと好きじゃないようだけど……」

「それは……」

「桜。1つだけ伝えておくよ。実は父から言われているんだ。婚約がどうしても嫌なら桜と話し合って白紙にしてもいいって。今まで黙っててごめん」

 そんなことを言われても、困る。

 傘がないのに大量の雨が空から降ってきたくらい、ううん、そんなのとは比較にならないくらい。

「桜、僕はちゃんとした気持ちを桜に知ってほしかったんだ」

「涼……」

 奏多さんと涼に挟まれているこの状況で、気まずさで押しつぶされそうだった。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「幼馴染は、安心できる人で――独占する人でした」

だって、これも愛なの。
恋愛
幼い頃の無邪気な一言。 「お兄様みたいな人が好き」――その言葉を信じ続け、彼はずっと優しく隣にいてくれた。 エリナにとってレオンは、安心できる幼馴染。 いつも柔らかく笑い、困ったときには「無理しなくていい」と支えてくれる存在だった。 けれど、他の誰かの影が差し込んだ瞬間、彼の奥に潜む本音が溢れ出す。 「俺は譲らないよ。誰にも渡さない」 優しいだけじゃない。 安心と独占欲――その落差に揺さぶられて、エリナの胸は恋に気づいていく。 安心できる人が、唯一の人になるまで。 甘く切ない幼馴染ラブストーリー。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く

魚谷
恋愛
「好きだ、愛している」 帝国の英雄である将軍ジュリアは、幼馴染で、眉目秀麗な冷血魔導ギルフォードに抱きしめられ、愛を囁かれる。 混乱しながらも、ジュリアは長らく疎遠だった美形魔導師に胸をときめかせてしまう。 ギルフォードにもジュリアと長らく疎遠だったのには理由があって……。 これは不器用な魔導師と、そんな彼との関係を修復したいと願う主人公が、お互いに失ったものを取り戻し、恋する物語

人質王女の恋

小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。 数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。 それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。 両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。 聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。 傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

セイレーンの家

まへばらよし
恋愛
 病気のせいで結婚を諦めていた桐島柊子は、叔母の紹介で建築士の松井卓朗とお見合いをすることになった。卓朗は柊子の憧れの人物であり、柊子は彼に会えると喜ぶも、緊張でお見合いは微妙な雰囲気で終えてしまう。一方で卓朗もまた柊子に惹かれていく。ぎこちなくも順調に交際を重ね、二人は見合いから半年後に結婚をする。しかし、お互いに抱えていた傷と葛藤のせいで、結婚生活は微妙にすれ違っていく。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

処理中です...