嫌いなあいつの婚約者

みー

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5話

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「んっ…………あれ?」

 朝目が覚めると、数週間前までの懐かしい光景が見えてきた。

「戻ってきた……?」

 ふかふかのベッドではなくて、少し硬めの庶民的なベッドにどこか安心感を覚える。

 だけど、戻ってきたことは嬉しいはずなのに、心からそれを喜ぶことができていない自分がいる。

 この世界には奏多さんもいないし、それに、涼もいない。

 ううん、いるのだけれど、涼自体はいるのだけれど……。

「今って……夏休みだ」

 棚にある大量の夏休みの宿題に目がいく。

 向こうの世界では夏休みは2週間の短いものでこれからだったけれど、こっちの世界ではすでに突入している。

「はあ、朝ごはん食べよ……」

 部屋から出ようとした時、お母さんがやって来た。

「桜、涼くんが来てるんだけど」

「え? 今?」

 時計を見てみると7時半をさしており、そういえば目覚ましが鳴らなかったなあと思いつつ、リビングに直行した。

「あ、桜……」

 この雰囲気、話し方、この涼はあの涼じゃない。すぐに分かる。

「ちょ、ちょっといいかな。私の部屋来て」

「あ、うん」

「桜、朝ごはんは?」

「あとでっ」

 涼の腕を掴んで、再び部屋に戻る。
 






「もしかして、来ちゃったの?」

 きっと涼は今混乱しているはず。だって、いきなりこんな近未来のような世界に来たんだもの。

「よく分からないんだ。朝起きたら知らない部屋にいて。とりあえず桜の家の場所を聞いて来た。母も顔は同じだけどなんだか雰囲気が違うし、だいたいこの世界自体見たことない。見たことのないものもたくさんある」

「涼。とりあえずね、本当は私はこの世界の人間なの。何故かある日涼のいる世界に行ってしまったんだけれど。で、こっちの世界に涼がいて、多分その涼は向こうの世界に今いるんじゃないかな。とりあえず……なるべく私と一緒にいるのがいいわ。あなたのこっちの家族には当たり障りなく接して」

「なるほど…………。だから桜、人が変わったように感じたんだね」

 やっぱり、言葉にはしなくても感じていたのね。

「ええ、まあ」

「ねえ桜。せっかくだしこっちの世界の案内、してもらえるかな?」

「ま、まあ、いいけど」

 始めは不安そうな表情を浮かべていた涼だけど、今は好奇心の溢れる子どものような顔をしていた。

 あの世界には電車もなければ飛行機もない、スマホだって。きっと見たら驚くんだろうな。

「涼は朝ごはん食べたの?」

「いや、まだだよ」

「そう。とりあえず家に帰ってご飯食べたらまた来て。そうしたらお出かけしよう」

「うん、使用人もいないし大変だけど、とりあえず頑張るよ」

 確かに、幼いころからあんなに不自由ない生活をしていたら、庶民的な暮らしは慣れないことだらけだと思う。

 とりあえず、帰ることができるその日まではなんとかしたいけれど……。

「じゃあ、またね」

「じゃあ、また」

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