嫌いなあいつの婚約者

みー

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6話

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「お嬢様、目、覚ましましたか?」

 聞き慣れた女の人の声で目が覚める。

「んん」

「いきなり倒れるから何事かと思いましたよ」

 お嬢様、という単語と視界に入る豪華な家具たちから、本当に自分がこちらの世界に戻ってきたんだということが分かった。

 涼は…………今こっちの世界にいる涼はどっちの涼なの?

「何か、すっきりするもの、飲みたいわ」

 気分が優れないため、なにかさっぱりと頭を覚ましてくれるものが欲しい。

「分かりました」






「ミントのハーブティです」

「ありがとう……。ねえ、涼って今どこにいるか分かる?」

「涼さまですか? すみません、分からないです。確認してきましょうか?」

「分からないならいいわ」

 メイドが持ってきてくれたミントを飲むと、すうっと心が鎮まるのが分かった。
 
 さっきのことが本当だとしたら、私は本当にここの世界の住人になってしまったということで、あっちの世界にはもう戻ることは出来ない。

 自分から望んだことなのに、なんだかぽっかりと心に穴が空いたように感じる。

 ううん、でもいいの。自分で選んだことなんだから。

 自分の選択に後悔はしたくない。

 それよりも、奏多さんに会いたい。会って、優しい笑顔を拝みたい。

 桜さんって、あの穏やかな声で呼んで欲しい。そしたら、心に栄養が届くから。

「桜さま。ここ最近なんだか…………人がころころと変わっているような気がするんですが、大丈夫ですか?」

「ええ、もう大丈夫よ」

「そうですか」

「ええ」

 明日、学校にいったら絶対に奏多さんに会いに行く。

 でもその前に涼に会って婚約解消の話を先にした方がいいかしら。どっちの涼かは分からないけれど、どっちであろうが変わらない。

 涼とはすっぱりと関係を断って、何もない真っ白な気持ちで奏多さんに思いを伝える。

 もちろん、明日とか明後日とかの話しではないけれど、いつか、奏多さんが他の人に取られてしまう前に思いを伝えるの。

 そしたら、どんな顔をするのかな。

 驚いた顔? それともとびっきりの笑顔?

「驚いた……顔」

 コンビニに行った時、電車に乗った時、駅から群衆を見た時、その時の涼の顔が思い浮かんでくる。

 思い出したいなんて思っていないのに、自然と頭の中に涼の顔が浮かぶ。

「ねえ、ケーキが食べたいわ。とびっきりに甘いやつ」

「もうすぐディナーですし、その後になさった方がいいのではないでしょうか?」

「……そうね、そうするわ」

 甘いものを食べて気を紛らわそうとしたけれど、メイドの一言でふと我に返った。

 お肌にも悪いし、涼のせいで太るなんてなんだか悔しいし。

 涼のことだって明日になればどっちの涼なのか分かるし、今日はもう何も考えないようにしよう。

 

 

 

 
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