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7話
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「おはよう、桜」
「……おはよう。って、もう婚約者じゃないんだから、来なくていいのよ」
当たり前のようにコーヒーを飲んでいる涼。
「そうだね、でも、もう習慣になってしまって、どうも朝はここに来ないとダメなんだ」
「そうなの……」
それってどうなの? と思いながら朝食のスープを飲む。
朝にぴったりのあっさりしたコンソメ風味のスープがまだ目覚めていない体に優しく染みていく。
一口飲んで、ふうっと一息つく。
「ねえ、桜」
「ん?」
「桜は本当に、奏多さんの恋人になってしまうの?」
眉毛と目尻を下げて、まるで捨てられた子犬のような表情をしてこちらを見てきた。
そんな表情をされたら、なんて言えばいいのか分からない。
強気に言えなくなっちゃうじゃない。
「それは……涼には関係ないでしょ?」
「まあ、そう言われればそうだけど……。でも、違うと言えば違う。だって僕は君が好きなんだから」
「それじゃあ、なんで昨日彼女といたの?」
言葉にした途端、後悔が襲ってくる。
こんなんじゃ、私が嫉妬してるみたいじゃない。涼が他の女の人と歩くのが嫌で、それで我慢できなくなっているみたいじゃない。
そんなんじゃないのに。
「生徒会の用事だよ」
「生徒会……」
「彼女は、涼が好きなのよ。私なんかより、きっと涼を大切にしてくれる」
「そう、かな……」
私にとっては嫌な奴だけど、きっと涼に対しては誠実で自分の気持ちに正直に生きているだけ。
彼女を見ていると、羨むほどに一途な気持ちを持っている。
それだけは、彼女を尊敬する。
だから、そんなにも彼女はあなたのことが好きなのだから……。
「だから、私のことはもう諦めて」
胸が痛い。
なんで、自分で言ってて自分で傷付いているのよ。別にいいじゃない。これが私の本心なのだから。
「……分かった。桜がそこまで言うってことは、奏多さんにかなり本気なんだね?」
「そうよ」
言い切った。ううん、言い切ることができた。
「分かった。もう、桜に馴れ馴れしくしたりもしない」
涼は飲みかけのコーヒーを残して部屋から出ていく。
コーヒーの匂いが、寂しく香る。
パタンと音を立てながら扉が閉まった。
「これで、いいんだもん……」
涼の行ってしまった方は向かない。もうそこに涼がいないと分かっていても、そっちに目は向けない。
でも、なんだろう。
なんでこんなに胸に穴が開いたような気持ちになるんだろう。
ううん、忘れる。涼のことなんて忘れるの。
「桜さま、焼きたてのパンお持ちしました」
「あ、ありがとう」
大好物のレーズンのパン。一口食べる。いつもなら美味しい美味しいと思いながら食べるのに、今日は味がしない。
違う、するんだけれど前ほど美味しく感じない。
舌がおかしくなってしまったのかと思って「これいつもと違うパンかしら?」と聞くと「いえ、いつもと同じですよ」と答えが返ってきた。
「……おはよう。って、もう婚約者じゃないんだから、来なくていいのよ」
当たり前のようにコーヒーを飲んでいる涼。
「そうだね、でも、もう習慣になってしまって、どうも朝はここに来ないとダメなんだ」
「そうなの……」
それってどうなの? と思いながら朝食のスープを飲む。
朝にぴったりのあっさりしたコンソメ風味のスープがまだ目覚めていない体に優しく染みていく。
一口飲んで、ふうっと一息つく。
「ねえ、桜」
「ん?」
「桜は本当に、奏多さんの恋人になってしまうの?」
眉毛と目尻を下げて、まるで捨てられた子犬のような表情をしてこちらを見てきた。
そんな表情をされたら、なんて言えばいいのか分からない。
強気に言えなくなっちゃうじゃない。
「それは……涼には関係ないでしょ?」
「まあ、そう言われればそうだけど……。でも、違うと言えば違う。だって僕は君が好きなんだから」
「それじゃあ、なんで昨日彼女といたの?」
言葉にした途端、後悔が襲ってくる。
こんなんじゃ、私が嫉妬してるみたいじゃない。涼が他の女の人と歩くのが嫌で、それで我慢できなくなっているみたいじゃない。
そんなんじゃないのに。
「生徒会の用事だよ」
「生徒会……」
「彼女は、涼が好きなのよ。私なんかより、きっと涼を大切にしてくれる」
「そう、かな……」
私にとっては嫌な奴だけど、きっと涼に対しては誠実で自分の気持ちに正直に生きているだけ。
彼女を見ていると、羨むほどに一途な気持ちを持っている。
それだけは、彼女を尊敬する。
だから、そんなにも彼女はあなたのことが好きなのだから……。
「だから、私のことはもう諦めて」
胸が痛い。
なんで、自分で言ってて自分で傷付いているのよ。別にいいじゃない。これが私の本心なのだから。
「……分かった。桜がそこまで言うってことは、奏多さんにかなり本気なんだね?」
「そうよ」
言い切った。ううん、言い切ることができた。
「分かった。もう、桜に馴れ馴れしくしたりもしない」
涼は飲みかけのコーヒーを残して部屋から出ていく。
コーヒーの匂いが、寂しく香る。
パタンと音を立てながら扉が閉まった。
「これで、いいんだもん……」
涼の行ってしまった方は向かない。もうそこに涼がいないと分かっていても、そっちに目は向けない。
でも、なんだろう。
なんでこんなに胸に穴が開いたような気持ちになるんだろう。
ううん、忘れる。涼のことなんて忘れるの。
「桜さま、焼きたてのパンお持ちしました」
「あ、ありがとう」
大好物のレーズンのパン。一口食べる。いつもなら美味しい美味しいと思いながら食べるのに、今日は味がしない。
違う、するんだけれど前ほど美味しく感じない。
舌がおかしくなってしまったのかと思って「これいつもと違うパンかしら?」と聞くと「いえ、いつもと同じですよ」と答えが返ってきた。
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