55 / 69
9話
4
しおりを挟む
週末の今日、空にはほどよく雲が浮いていて涼しい風が吹いている。
過ごしやすい日に、奏多さんの提案で海に来た。
「夏の終わりの海も、意外といいね。人も少なくて過ごしやすい」
「そうですね」
奏多さんの言う通り、海辺にはぽつぽつと人が居て、夏の賑やかな海ではなく夏と秋の狭間の穏やかな海。
波も激しくなく、ゆっくりと押したり引いたりを繰り返している。
空気を吸うと潮の匂いで満たされた。
もう夏も終わるんだなと思うと、次に来る秋という季節に胸が躍って、あれこれと脳内で秋の味覚を巡らせる。
秋って、本当に美味しいものが多くて、流石味覚の秋と言われるだけあるわ。
「砂の上、歩きにくくない?」
「大丈夫ですよ」
歩くと自分の重さで砂が沈んで少しだけ歩きづらさを感じるけど、すごく気になるっていうわけでもなく、それよりもこの夏の終わりの匂いのする空気の匂いの方が心を満たしてくれる。
これに夕日でオレンジ色に空が染まったら、もうここは天国みたいになるんじゃないかしら。
今は水色の空が続いていて、これはこれでいいけれど。
「そこの岩場の奥にすごく景色のいいところがあるんだ」
「そうなんですね。ぜひ行ってみましょう」
「うん」
きっと穴場のようなところなんだと思う。
海の穴場と言ったら、例えば洞窟の奥にある砂浜だったり、洞窟そのものだったりロマンがある。
自然って、どうしてこうも心を落ち着かせてくれるのかしら。ただそこにあるだけなのに。
岩場をどんどんと進んでいくと人の姿はもう自分と奏多さん以外は見えなくなって、完全に2人だけの空間になる。
って言っても、遠くには奏多さんの執事がいるのだけど。
「足元、少し濡れてるから気を付けてね」
「はいっ」
たしかにぬるぬるとしていて気を抜くと滑ってしまいそう。ゆっくりゆっくり、転ばないように一歩一歩を確実に進んでいく。
あともう少しで、岩場を抜けようとしたその時だった。
「わっ」
「桜さんっ」
視界がぐるんと変わって頭に衝撃が走った。
「んっ」
「桜さん、ごめんあんなところ歩かせたから」
「あんなところ……」
顔の奇麗な人が私の顔を見て安心した表情を見せる。この人は誰だろう。あんなところって、私は一体どこを歩いていたのだろう。
あ、そうだ。
海に行って岩場を歩いてどこかへ行こうとしていたんだ。そしたら足元が滑って……。
「桜、大丈夫?」
「杏里……」
杏里がいるっていうことは、この人は杏里の知り合いか何かかしら?
「ごめん、杏里。こちらの方は?」
「え……。桜、分からないの?」
「うん」
「桜っ」
と、もう1人血相を変えた同い年くらいの男子が走ってきた。この人はこの人で、整った顔をしていて王子さま、みたいな雰囲気を醸し出している。
でも、この人も誰なのかが分からない。私の名前を呼んでいるし、呼び捨てだし、親しい人?
「杏里。ごめん、2人のことが分からないの」
「そう、なの?」
「ひとまず、確認しますので皆さま部屋を一旦出て行ってもらえますか?」
ここの世界に来て3度目に会う医者は、こちらの顔をじっと見つめている。私、どうかしちゃったのかしら……?
過ごしやすい日に、奏多さんの提案で海に来た。
「夏の終わりの海も、意外といいね。人も少なくて過ごしやすい」
「そうですね」
奏多さんの言う通り、海辺にはぽつぽつと人が居て、夏の賑やかな海ではなく夏と秋の狭間の穏やかな海。
波も激しくなく、ゆっくりと押したり引いたりを繰り返している。
空気を吸うと潮の匂いで満たされた。
もう夏も終わるんだなと思うと、次に来る秋という季節に胸が躍って、あれこれと脳内で秋の味覚を巡らせる。
秋って、本当に美味しいものが多くて、流石味覚の秋と言われるだけあるわ。
「砂の上、歩きにくくない?」
「大丈夫ですよ」
歩くと自分の重さで砂が沈んで少しだけ歩きづらさを感じるけど、すごく気になるっていうわけでもなく、それよりもこの夏の終わりの匂いのする空気の匂いの方が心を満たしてくれる。
これに夕日でオレンジ色に空が染まったら、もうここは天国みたいになるんじゃないかしら。
今は水色の空が続いていて、これはこれでいいけれど。
「そこの岩場の奥にすごく景色のいいところがあるんだ」
「そうなんですね。ぜひ行ってみましょう」
「うん」
きっと穴場のようなところなんだと思う。
海の穴場と言ったら、例えば洞窟の奥にある砂浜だったり、洞窟そのものだったりロマンがある。
自然って、どうしてこうも心を落ち着かせてくれるのかしら。ただそこにあるだけなのに。
岩場をどんどんと進んでいくと人の姿はもう自分と奏多さん以外は見えなくなって、完全に2人だけの空間になる。
って言っても、遠くには奏多さんの執事がいるのだけど。
「足元、少し濡れてるから気を付けてね」
「はいっ」
たしかにぬるぬるとしていて気を抜くと滑ってしまいそう。ゆっくりゆっくり、転ばないように一歩一歩を確実に進んでいく。
あともう少しで、岩場を抜けようとしたその時だった。
「わっ」
「桜さんっ」
視界がぐるんと変わって頭に衝撃が走った。
「んっ」
「桜さん、ごめんあんなところ歩かせたから」
「あんなところ……」
顔の奇麗な人が私の顔を見て安心した表情を見せる。この人は誰だろう。あんなところって、私は一体どこを歩いていたのだろう。
あ、そうだ。
海に行って岩場を歩いてどこかへ行こうとしていたんだ。そしたら足元が滑って……。
「桜、大丈夫?」
「杏里……」
杏里がいるっていうことは、この人は杏里の知り合いか何かかしら?
「ごめん、杏里。こちらの方は?」
「え……。桜、分からないの?」
「うん」
「桜っ」
と、もう1人血相を変えた同い年くらいの男子が走ってきた。この人はこの人で、整った顔をしていて王子さま、みたいな雰囲気を醸し出している。
でも、この人も誰なのかが分からない。私の名前を呼んでいるし、呼び捨てだし、親しい人?
「杏里。ごめん、2人のことが分からないの」
「そう、なの?」
「ひとまず、確認しますので皆さま部屋を一旦出て行ってもらえますか?」
ここの世界に来て3度目に会う医者は、こちらの顔をじっと見つめている。私、どうかしちゃったのかしら……?
0
あなたにおすすめの小説
「幼馴染は、安心できる人で――独占する人でした」
だって、これも愛なの。
恋愛
幼い頃の無邪気な一言。
「お兄様みたいな人が好き」――その言葉を信じ続け、彼はずっと優しく隣にいてくれた。
エリナにとってレオンは、安心できる幼馴染。
いつも柔らかく笑い、困ったときには「無理しなくていい」と支えてくれる存在だった。
けれど、他の誰かの影が差し込んだ瞬間、彼の奥に潜む本音が溢れ出す。
「俺は譲らないよ。誰にも渡さない」
優しいだけじゃない。
安心と独占欲――その落差に揺さぶられて、エリナの胸は恋に気づいていく。
安心できる人が、唯一の人になるまで。
甘く切ない幼馴染ラブストーリー。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
※後日談を更新中です。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
セイレーンの家
まへばらよし
恋愛
病気のせいで結婚を諦めていた桐島柊子は、叔母の紹介で建築士の松井卓朗とお見合いをすることになった。卓朗は柊子の憧れの人物であり、柊子は彼に会えると喜ぶも、緊張でお見合いは微妙な雰囲気で終えてしまう。一方で卓朗もまた柊子に惹かれていく。ぎこちなくも順調に交際を重ね、二人は見合いから半年後に結婚をする。しかし、お互いに抱えていた傷と葛藤のせいで、結婚生活は微妙にすれ違っていく。
隠された第四皇女
山田ランチ
恋愛
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
同居人の一輝くんは、ちょっぴり不器用でちょっぴり危険⁉
朝陽七彩
恋愛
突然。
同居することになった。
幼なじみの一輝くんと。
一輝くんは大人しくて子羊みたいな子。
……だったはず。
なのに。
「結菜ちゃん、一緒に寝よ」
えっ⁉
「結菜ちゃん、こっちにおいで」
そんなの恥ずかしいよっ。
「結菜ちゃんのこと、どうしようもなく、
ほしくてほしくてたまらない」
そんなにドキドキさせないでっ‼
今までの子羊のような一輝くん。
そうではなく。
オオカミになってしまっているっ⁉
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
如月結菜(きさらぎ ゆな)
高校三年生
恋愛に鈍感
椎名一輝(しいな いつき)
高校一年生
本当は恋愛に慣れていない
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
オオカミになっている。
そのときの一輝くんは。
「一緒にお風呂に入ったら教えてあげる」
一緒にっ⁉
そんなの恥ずかしいよっ。
恥ずかしくなる。
そんな言葉をサラッと言ったり。
それに。
少しイジワル。
だけど。
一輝くんは。
不器用なところもある。
そして一生懸命。
優しいところもたくさんある。
そんな一輝くんが。
「僕は結菜ちゃんのこと誰にも渡したくない」
「そんなに可愛いと理性が破壊寸前になる」
なんて言うから。
余計に恥ずかしくなるし緊張してしまう。
子羊の部分とオオカミの部分。
それらにはギャップがある。
だから戸惑ってしまう。
それだけではない。
そのギャップが。
ドキドキさせる。
虜にさせる。
それは一輝くんの魅力。
そんな一輝くんの魅力。
それに溺れてしまう。
もう一輝くんの魅力から……?
♡何が起こるかわからない⁉♡
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる