14 / 54
第十四話
しおりを挟む
貴族とは名ばかりで、暗殺一家として俺は育った。
暗殺は生きていく上で、自分にとっては必要だった物。
だから、その行為自体に好きも嫌いもなく、命令された対象を殺すだけだった。
一定の条件だけつけ、殆どの者の名も知らず、理由も知らず、ただ殺してきた。
だが、今回の場合はそうはいかない。
対象は魔女の娘だった。
おかしいと思ってはいた。
毒を毎日もられているはずなのに死なない。
明らかな殺傷能力を持った弓矢を軽やかに避けて死なない。
毒蛇など、ほぼ避けるだけだ。
あまりに死なない対象だからなのか、本来は身内の暗部で始末する所、自分にお鉢が回ってきた。
いつも通り、情報を最小限にしたのがいけなかった。
対象がまさか魔女の娘だとは思っても見なかった。
殺気も気配も消していたのに、最初の一太刀をかわされたのは初めてであった。
魔女の娘の瞳を思い出して背筋がぞくりとする。只ならない、巨大な何かに心臓を鷲掴みされているような感覚に、心臓が異様に音を立てる。
あの瞬間は、悪夢だった。
屋敷に戻った瞬間に全身から冷や汗が出て、震えが止まらなかった事など初めてであった。
たくさんの視線を自身に感じ、身につけていた気配を消す妖精の魔法石と呼ばれるアイテムが粉々に砕け散っていた。
「っくそ。、、、新しいのを買わなきゃならない。」
そう言ってから、何度もアイテム屋で探すが、何故かどこの店舗も突然壊れてしまったと手に入れる事が出来なかった。
しかもあれからと言うもの、運に見放された。
食事を食べれば毒も入っていないのに嘔吐感に苛まれ、眠ろうとすれば、体が重たくて眠れない。全身は何かが乗っているかの如く目覚めても重たく、常に頭痛に苛まれるようになった。
それもこれも、暗殺者に伝わる暗黙のルールを破ってしまったからなのだろう。
暗黙のルールは一つ。
魔女は標的にしない事。
何故かは語り継がれていないが、呪われるとも運に見放されるとも言われている。
俺はもう、暗殺者としては生きていけないだろう。
初めて、辛いと感じた。
これからどうやって生きていけばいいのかが分からず、苦しくなった。
だが、そんな事は許されないだろう。
自分はたくさんの人を殺めた。そのきっと報いをこれから受けていくのだ。
足を自然と、助けを求めるかのようにまだ少ししか花の植えられていない花壇へと向けた。
その場にしゃがみ込み、土をいじると少しだけ気分が和らいだ。
不意に、自分の肩に温もりのある何かがまふれピクリとしてしまう。
今まで、背後に誰かに立たれたことなどない。
あぁ、他の暗殺者が殺しに来たのか。
諦めが心を占めて、その瞬間を待つ。
だが、何時になってもその瞬間が訪れずに戸惑ってしまう。
殺すのではないのか?
そう思って後ろをゆっくりと振り返ると、太陽に照らされ、眩いばかりに煌めくオーレリアがそこに立っていた。
その顔には柔らかな春の木漏れ日のような笑みを携えており、次の瞬間、全身の体の重みが消え、重く痛んだ頭も軽くなる。
全身がスッキリとし、あまりの軽さに目を見張る。
「ふふ。軽くなったでしょ?大変でしたね。もう、大丈夫ですよ。」
オーレリアのその言葉で、俺は全てを悟った。
『心も体も軽くなったでしょう?』
『これまでの人生大変でしたね。』
『体は癒やすことが出来たのでもう大丈夫ですよ。』
オーレリアは小さく頷く。
「大変だったかもしれませんが、許してあげて下さいね。」
言葉は頭の中で変換されて、頭に響いて聞こえた。
『暗殺という仕事は大変だったかもしれませんが、悔いても変わりません。これから向き合い、償いながら、自分の事を許してあげて下さいね。』
あぁ、分かった。
何故、この皇女を誰も殺せないのか。
聖女、いや、彼女自身が女神様だからだ。
だから誰にも殺せないのだ。
きっと殺そうとした者達は皆、心を見透かされてしまい、女神の元で罪を悔いて償う道を選んだのだ。
涙が、溢れてた。
本当は、暗殺など嫌だったのだ。
誰も殺したくはなかった。
けれど、殺さなくてはならなかったから、一定の条件をつけて、出来るだけ悪人を殺してきた。
だが、今回だけは本当に対象が誰かわからずに、仕方なく受けた。きっと、こうなる運命だったのだ。
自分の心に嘘をついてこれまで自分を正当化して生きてきた。諦めてきた。
あぁ。
これまで自分は辛かったのだ。
「ありがとう。、、、あり、、がとう。」
オーレリアは微笑んだまま頷くと、一輪の花をくれた。
花言葉は、『解放、未来への希望』。
俺はその日、心の中で、オーレリア皇女殿下に忠誠を捧げた。
笑みを浮かべ、晴れやかな顔で歩き去っていった背を見送り、男の人の肩にも頭にも腕にも、全身に重なり合うようにして引っ付いていた妖精達に、オーレリアは言った。
「あの人が何をしたのか知らないけど、もう反省したと思うから許してあげてね?」
『オーレリアがそう言うなら~。』
『分かったぁ。』
『もう、ごはんに変なキノコ入れるのもやめるねぇ。』
オーレリアは頷き、歩き去っていった男性の背をもう一度見た。
「あの人、大変だったわね。」
小さく呟いた声は風にさらわれていった。
暗殺は生きていく上で、自分にとっては必要だった物。
だから、その行為自体に好きも嫌いもなく、命令された対象を殺すだけだった。
一定の条件だけつけ、殆どの者の名も知らず、理由も知らず、ただ殺してきた。
だが、今回の場合はそうはいかない。
対象は魔女の娘だった。
おかしいと思ってはいた。
毒を毎日もられているはずなのに死なない。
明らかな殺傷能力を持った弓矢を軽やかに避けて死なない。
毒蛇など、ほぼ避けるだけだ。
あまりに死なない対象だからなのか、本来は身内の暗部で始末する所、自分にお鉢が回ってきた。
いつも通り、情報を最小限にしたのがいけなかった。
対象がまさか魔女の娘だとは思っても見なかった。
殺気も気配も消していたのに、最初の一太刀をかわされたのは初めてであった。
魔女の娘の瞳を思い出して背筋がぞくりとする。只ならない、巨大な何かに心臓を鷲掴みされているような感覚に、心臓が異様に音を立てる。
あの瞬間は、悪夢だった。
屋敷に戻った瞬間に全身から冷や汗が出て、震えが止まらなかった事など初めてであった。
たくさんの視線を自身に感じ、身につけていた気配を消す妖精の魔法石と呼ばれるアイテムが粉々に砕け散っていた。
「っくそ。、、、新しいのを買わなきゃならない。」
そう言ってから、何度もアイテム屋で探すが、何故かどこの店舗も突然壊れてしまったと手に入れる事が出来なかった。
しかもあれからと言うもの、運に見放された。
食事を食べれば毒も入っていないのに嘔吐感に苛まれ、眠ろうとすれば、体が重たくて眠れない。全身は何かが乗っているかの如く目覚めても重たく、常に頭痛に苛まれるようになった。
それもこれも、暗殺者に伝わる暗黙のルールを破ってしまったからなのだろう。
暗黙のルールは一つ。
魔女は標的にしない事。
何故かは語り継がれていないが、呪われるとも運に見放されるとも言われている。
俺はもう、暗殺者としては生きていけないだろう。
初めて、辛いと感じた。
これからどうやって生きていけばいいのかが分からず、苦しくなった。
だが、そんな事は許されないだろう。
自分はたくさんの人を殺めた。そのきっと報いをこれから受けていくのだ。
足を自然と、助けを求めるかのようにまだ少ししか花の植えられていない花壇へと向けた。
その場にしゃがみ込み、土をいじると少しだけ気分が和らいだ。
不意に、自分の肩に温もりのある何かがまふれピクリとしてしまう。
今まで、背後に誰かに立たれたことなどない。
あぁ、他の暗殺者が殺しに来たのか。
諦めが心を占めて、その瞬間を待つ。
だが、何時になってもその瞬間が訪れずに戸惑ってしまう。
殺すのではないのか?
そう思って後ろをゆっくりと振り返ると、太陽に照らされ、眩いばかりに煌めくオーレリアがそこに立っていた。
その顔には柔らかな春の木漏れ日のような笑みを携えており、次の瞬間、全身の体の重みが消え、重く痛んだ頭も軽くなる。
全身がスッキリとし、あまりの軽さに目を見張る。
「ふふ。軽くなったでしょ?大変でしたね。もう、大丈夫ですよ。」
オーレリアのその言葉で、俺は全てを悟った。
『心も体も軽くなったでしょう?』
『これまでの人生大変でしたね。』
『体は癒やすことが出来たのでもう大丈夫ですよ。』
オーレリアは小さく頷く。
「大変だったかもしれませんが、許してあげて下さいね。」
言葉は頭の中で変換されて、頭に響いて聞こえた。
『暗殺という仕事は大変だったかもしれませんが、悔いても変わりません。これから向き合い、償いながら、自分の事を許してあげて下さいね。』
あぁ、分かった。
何故、この皇女を誰も殺せないのか。
聖女、いや、彼女自身が女神様だからだ。
だから誰にも殺せないのだ。
きっと殺そうとした者達は皆、心を見透かされてしまい、女神の元で罪を悔いて償う道を選んだのだ。
涙が、溢れてた。
本当は、暗殺など嫌だったのだ。
誰も殺したくはなかった。
けれど、殺さなくてはならなかったから、一定の条件をつけて、出来るだけ悪人を殺してきた。
だが、今回だけは本当に対象が誰かわからずに、仕方なく受けた。きっと、こうなる運命だったのだ。
自分の心に嘘をついてこれまで自分を正当化して生きてきた。諦めてきた。
あぁ。
これまで自分は辛かったのだ。
「ありがとう。、、、あり、、がとう。」
オーレリアは微笑んだまま頷くと、一輪の花をくれた。
花言葉は、『解放、未来への希望』。
俺はその日、心の中で、オーレリア皇女殿下に忠誠を捧げた。
笑みを浮かべ、晴れやかな顔で歩き去っていった背を見送り、男の人の肩にも頭にも腕にも、全身に重なり合うようにして引っ付いていた妖精達に、オーレリアは言った。
「あの人が何をしたのか知らないけど、もう反省したと思うから許してあげてね?」
『オーレリアがそう言うなら~。』
『分かったぁ。』
『もう、ごはんに変なキノコ入れるのもやめるねぇ。』
オーレリアは頷き、歩き去っていった男性の背をもう一度見た。
「あの人、大変だったわね。」
小さく呟いた声は風にさらわれていった。
23
あなたにおすすめの小説
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始
【完結】侯爵令嬢は破滅を前に笑う
黒塔真実
恋愛
【番外編更新に向けて再編集中~内容は変わっておりません】禁断の恋に身を焦がし、来世で結ばれようと固く誓い合って二人で身投げした。そうして今生でもめぐり会い、せっかく婚約者同士になれたのに、国の内乱で英雄となった彼は、彼女を捨てて王女と王位を選んだ。
最愛の婚約者である公爵デリアンに婚約破棄を言い渡された侯爵令嬢アレイシアは、裏切られた前世からの恋の復讐のために剣を取る――今一人の女の壮大な復讐劇が始まる!!
※なろうと重複投稿です。★番外編「東へと続く道」「横取りされた花嫁」の二本を追加予定★
遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした
おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。
真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。
ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。
「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」
「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」
「…今度は、ちゃんと言葉にするから」
【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
【完結】ありのままのわたしを愛して
彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。
そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。
私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?
自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる