【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか

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E1-気持ちの正体-

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「なにを言ってる、ルーカス…貴様…からかっているのか?」

騎士団の訓練場で言われた一言に
私は指導者として答えた、だがルーカスはそれでも食い下がる

「僕は本気です!!本当で好きなんです!」

「………走り込みだ、50周してこい」

「へ?」

「速く!!」

「は、はい!」

ルーカスは訓練場を走りだした

「………………」

私は走るルーカスに背を向けて顔を抑えた
なぜ、こんなに顔が熱いんだ…胸の鼓動も速い…

なんだ、この気持ちは


「またルーカスからのアプローチですか?マリアンヌさん」

訓練場で同じく走り込みしていた騎士の1人が息を吐きながら言った

「あいつ、マリアンヌさんに憧れて、結婚したくて騎士団に入ったみたいですよ…体力もないのに…その前は…何だったかな、せい?せいなんとかって職業だったらしいですけど」

「おい貴様、私はそんなこと聞いていないぞ…サボっていないで走り込みを続けろ」

「は、はい!」

まったく、聞いてもいないのにベラベラと
ルーカスは騎士団に入団した時から私に対して婚約を願ってきた

正直、騎士として奴の剣の腕や体力は中の下がいいところだ

だが、時折…本当に時々だが、鳥や自然を見つめる優しい瞳がルナ様に似ていて
その姿が何故か気になってしまうのだ



「マ、マリアンヌさん!!話を!」

「……」

話しかけるルーカスを無視しつつ、私は日課であるルナ様の護衛へと向かった
それに奴と話すと胸が苦しくなる…熱くなってしまう







ルナ様と会う場所に向かう道中で私は最も会いたくない人物と出会ってしまった

(めんどくさい…)

心の中の声が出ないように冷静に挨拶する

「こんにちは、モハマド様」

「これは、マリアンヌ殿…今日も大変美しいですな」

ニヤリと笑う、脂汗が浮かぶ小太りの貴族
モハマド・サミュエル公爵だ、彼にはいい思い出はない


「それでは失礼しますね」

「おっと、それより私との婚約の件…速く返事をもらわないとな」

モハマド公爵は道を塞ぐように立ちはだかり、ニヤニヤと笑いながら私の髪を触ってくる
正直、背筋が凍ってしまいそうで…拳が出てしまいそうな所を耐える

こんな方だが民衆からの支持は高い、彼は私兵を治安維持のために動かす事をためらわない
盗賊、野盗が現れれば彼は騎士団よりも速く私兵を投入して鎮圧する
その功績によって公爵の爵位に上り詰めたのだ





「ですから、お断りしたはずです…私はそういった事は今は考えておりません」

「ほぉ…君は忘れたのかな?断れば、あの施設を…なくすことも可能なのだがな…」

「………………っ!…」

「まぁ、よく考えたまえよ…あの時のように…一人で盗賊団の相手をしたくなければな、今度は助からんかもな」


モハマド公爵はいやらしく私の首をなでると笑いながら去っていく

私は急いで水場に行き、首筋を洗った…嫌な物を落とすように
彼は私が王宮直属近衛騎士だった時も婚姻を申し込んできた、口調の荒い私は罵るように断った

「豚と結婚なんて死んでもごめんだ」と

その腹いせに、彼は私が抵抗できないように孤児院を開いた
表向きは孤児の救援、慈善活動…けど実際はその施設を使い私の行動を制限するためだ

私が何かを断れば孤児院を潰し、孤児たちは再び路頭に迷ってしまう
私も孤児だった、希望が絶望に変わるなど味わって欲しくはない


あの時もこの手段で死地に送られた、私が独断で動いたと言いながら…


「クズが………………」




水面を見ながら思わず吐き捨てるように呟く

「どうしたの?マリアンヌ…」

振り向くと、心配そうに見つめるルナ様がいた

「!?……ルナ様…少しめまいがして顔を洗っていただけです」

「うそ、何かあったでしょうマリアンヌ、凄く怖い顔してたもん…何があったの?言ってみて」

「いえ…本当に大丈夫、ですから」


上手く、上手く笑えているだろうか…
きっとぎこちないだろう、けど私はルナ様に迷惑をかけたくない
この問題は…私が解決する

「ルナ様、オスカー様は今日はおられないのですか?」

無理やり話をそらした、ルナ様は少し不満そうに答える

「オスカー様は最近調べ物があるみたいで国中を調べて回っているみたい…なんでもこの国の重大事項らしいわ」

「そうですか、では今日の護衛は夜まで付きますのでご安心ください」

「ありがとう、マリアンヌ…でも私の事はいいのよ?あなたも自由にしていいの」

「いえ、私が好きでやっていることですので」

「もう、マリアンヌ、好きな人とかはいないの?」

「す…好き………いませんよ、私には」


頭の中に一瞬ルーカスが浮かぶ
いやいや、なにを考えているんだ私は……私にはそんなもの必要ない

ルナ様の護衛のために一日付きっきりで過ごし、ルナ様とウィリアム様がオスカー様と寝床につき
安全を確認した後にようやく自身の部屋へと戻る


いつも城内の中庭を通って帰っており、暗い夜に人なんていない
だが、今日は一人だけ明かりをもってそこに人がいた

「……ルーカス、ここでなにをしている…」

「あ、マリアンヌさん!夜道は危ないのでせめて付き添いだけでもと」

なぜ、こいつに会うと鼓動が早くなるんだ
気持ちを抑えつつ、私は平然とした態度で答える

「いらん、それに女性の帰り道に待ち伏せなど…」

「す、すいません!夜中だと心配で」

「心配?貴様が数十人で襲い掛かっても私は負ける気はしないぞ」

「そ、そうですけど!!心配なんです、これは僕の好きでやっていることですから!」

「………………分かった、好きにしろ」

「はい!帰り道はお任せください!」

明かりを持つルーカスと共に歩を進める
夜道に恐怖や不安など、抱いた事はない…だが二人で歩く道は何故か安心できた



マリアンヌの自室の前まで来るとルーカスはもじもじと何か言いたげにしている

「……おい、流石に部屋には入れんぞ」

「!?わ、分かってます!勘違いです、僕はこれを渡したくて!」

ルーカスは小さな宝石に紐を付けたネックレスを手渡す


「なんだ、これは」

「これは、その…とにかく!それをつけていてくれませんか!?きっとマリアンヌさんの役に立つので」

「これが一体なんの役に…」

言いかけた所で、ルーカスの真っ直ぐな瞳に気付く
優しい、何かを心配している瞳


「わかった…付けてくれるか?」

「え…は、はい!!」

私は彼に背を向けてネックレスを付けてもらう
手が髪にふれ、優しく、怪我をさせないように慎重に首筋に紐を通していく
昼の嫌な記憶を消してくれるように


「で、できました!!その、何か困ったことがあれば僕を呼んでください!」

「ありがとう、ないと思うがな……じゃあ…」

彼に顔を向けずに背を向けたまま部屋へと入り、扉を閉める
バタリと扉が閉まったのを確認してうずくまる

顔が熱い…胸が熱く鼓動が早い
この気持ちは…この想いは


私は鏡を見る
ほほが赤く染まり、息も荒い

知っている、この顔は…オスカー様を見つめるルナ様と同じ

あぁ…分かった
気づいた

きっと私は…初めて




恋をしているのかもしれないな




ネックレスに付いている宝石を見ながら、少しだけ私は微笑んだ













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…………………こうなったら無理やりにでも……」

ルーカスがマリアンヌの部屋の前から立ち去るのを茂みから見つめるモハマド公爵は
小さくそう呟いた




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