【完結】王妃はもうここにいられません

なか

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17話

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「そこまで考えているなら。石鹸の流通については承知した、我が国での輸入を認める」

 ひとまず、ジーニアス様との商談は無事に終える事ができた。
 石鹸を隣国に売るのは順調にできそうだ。

「とりあえず……石鹸について、今ある分は全て買い取らせろ」
 
 ジーニアス様、お買い上げありがとうございます。
 そんな心の声と共に、商談を好意的な形で引き受けてもらえた。
 その後、ジーニアス様は国王様と協議するために隣国へ戻られた。

 結局、なぜ私に会いにきたのか。
 その理由は告げぬまま……

 
   ◇◇◇


 ロドニーの一件から、二十日が経った。
 隣国へと石鹸を売るための準備を進む中、私は一つだけ諦めていない事がある。
 私が住むこのリエン地方だけでも、早急に身を洗う事が危険ではないと広めたい。
 
 なにせ今ではこの街は綺麗にはなったが、人は臭いままだ。
 領主代理として様々な人と会うが、挨拶として軽いハグをする際もあるのが辛い……
 こちらを慕ってきてくれる領民には流石に言及はできない。
 だから先ずは、このリエン地方だけでも早急に衛生観念を正したいのだ!
  
「と、言うわけで早速向かうわよ」

「姉さん、本当に湯浴みを勧めにいくの?」

 事情を聞き、私が向かう先に着いてきていた弟のレルクが問いかける。
 
「ええ、一つ当てがあるの。ある人達に身を洗ってもらえば、危険ではないと多くの領民に示すことが出来る人達がね」

「本当か?」

 ふと隣から声が聞こえて、レルクと共に視線を向ける。
 そこに居るのはジーニアス様だ。
 商談を終えた後、隣国に戻ったのだがその十日後には戻ってきたのだ。
 理由を聞けば。

「傍にいたいからだ」

 と、短い返答が返ってくるのみと言う始末。
 断る理由もなく、大切な商談相手なので引き受けたが……

「ジーニアス殿下、失礼ですが姉さんの言う事に間違いはありませんよ」

「なに?」

「それに、姉さんには僕がいるので付き添いは必要ありません。殿下は屋敷で待っていてください」

 なにやらレルクがジーニアス様に、少し突っかかっている。
 どうしたのかと視線を向ければ、なんとジーニアス様が私と肩が触れる距離にくる。

「俺はもう臭くない。だから傍にいたい」

「な……やっぱり、姉さんを」

「当然だ」

 なんの話をしているのだろうか。
 問いかけようとしても、二人は互いに私の傍に陣取り始める。

「どうしたのですか、二人とも」

「失礼ですが、ジーニアス殿下。姉さんには僕がいるから、大丈夫です」

「この位置を、もう誰かに渡す気はない」

 何を言っているのかと、私が困惑してしまう。
 一体、なにを張り合っているのだろうか。
 とはいえ……

「二人とも、目的地に着きましたよ。離れてください」

「姉さん、僕が傍にいるよ。なにかあれば危険だから」
「俺、まだ臭いか?」

「大丈夫ですし、違いますから! ひとまず待っていてくださいね」

 二人にそう告げて、私はある施設の中へと入っていく。
 その施設の名称を見て、私に疑問を問いかけていた二人もどこか納得したように頷いていた。
 施設の扉を開けば、事前に連絡していたおかげか……一人の神父が出迎える。

「領主代理であるラツィア様、この度は孤児院への視察に来ていただき感謝いたします」

「こちらこそ、引き受けてくださり嬉しいです」

 そう、ここは親のいない子供達を預かる孤児院だ。
 我が国では主に、宗教団体などが孤児院を運営しているが、そこには貴族家からの寄付金も含まれている。
 ゆえに歓迎してくれているのだろう、孤児院の子供達も待ってくれていた。

「さぁ、みんな。挨拶なさい」

 神父様の言葉に、子供達が私へと声をだす。

「「「ラツィアさま。きてくれて、ありがと、ございます」」」

 出迎えの声と共に、集めてきてくれたのであろう花々で飾られた部屋。
 寄付金を出している貴族家の視察とあって、念入りな出迎えの準備をしてくれている事に感謝しかない。

「皆さん、出迎えてくれてありがとう」

 子供達に挨拶をしていると、ふと小さな子供が私を見て声をあげる。

「あ、まえのおねいさんだ!」

 小さな三歳児程の子が、私を見て驚いている。
 私もその子を見て思い出した……この街に来た頃、誤ってぶつかってきた子だ。
 お酒をかけてしまって、泣きそうだったあの子を思い出す。
 確か名前は……

「おねさん、まえはあいがと……リオね、おこられなかったよ」

 そう、リオだ。
 可愛らしい子は律儀にも以前のお礼を伝えてくれる。

「こちらこそ、リオ君にまた会えて嬉しいよ」

「えへへ、でもでも。どうしてきたの?」

「神父様に少し相談があって……別室に案内してくれますか」

「承知しました。こちらへ」

 子供達の声を受けながらも、今は大人達で話し合うために別室に向かう。
 レルクは率先して子供達と遊ぶために残ってくれていた。
 あの子は私が思う以上に立派なようだ。

 そしてジーニアス様を隣国の王太子である事も知らぬ子供達が、長身の彼に駆け寄っておんぶをねだる。
 彼の護衛である黒騎士が困惑していたが、ジーニアス様は子供達を無言のまま数人を抱っこ、おんぶをしてあげていた。
 どうやら、子供が好きらしい。

 二人に感謝しつつ、私は神父様と別室へ向かう。

「それでこちらの孤児院に、公爵家令嬢様が視察にこられた理由をお聞きしても?」

 神父様の質問は至極当然だった。
 本来、貴族家が視察に来るなどそうそうないはずなのだから。
 でも私としては、この施設の現状を知っている必要があった。

「神父様、私は孤児院について改善をするために来させていただきました」

「改善……ですか?」

「はい。つかぬ事をお聞きしますが……この孤児院での子供達の病死率を教えていただけませんか」

 私の問いかけに、神父様は幾つかの書類を取り出す。
 そして迷いなく答えてくれた。

「おおよそ、六割となります。おもに十歳まで生きれる子は、そう多くありません」

「……やはり」

 孤児院での病死での死亡率が約六割。
 恐ろしいことだが、これがこの世界での当たり前であり……当然の結果でもあった。

 衛生観念が未発達なこの世では、子供が真っ先に亡くなっていく。
 さらに医者にもかかれず、貧しい環境で生きる孤児院ではより残酷な結果となるのは当然だ。

 そして私は……それを変えにきた。
 身を洗う事により健康を得る……それがもっとも分かりやすく皆に示せるのが、誰よりも悲惨な孤児達の状況を改善する事のはずだから。
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