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プロローグ
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ヴィオラ・カトレア。
王妃として生活を送っていた彼女の転落は、玉座の間にてもたらされた一言が始まりだった。
「彼女はリアだ。僕にとって大切な人なんだ。だから……傍にいてもらう」
夫であり、この国の国王である……ルークの言葉に、ヴィオラは耳を疑った。
顔を上げるが、今も眼前に控える女性は彼の傍に立って離れない。
「ヴィオラ。君は王妃として、リアを受け入れてあげてほしい」
見ず知らずのリアという女性が、突然……自らの夫に迎えられている。
この非常識に、頭が追いつかない。
「事情の説明を願います。見ず知らずの女性を王宮に迎えるなど……」
「リア、彼女は素養ある聖女だ。まだ力は弱いが、万物の病を癒し傷をも塞ぐ。僕も……先日、馬車の横転事故で命を助けられた」
ルークが服の裾を上げると、腹部には痛々しい傷痕がある。
これを癒したとなれば、確かに異様な力だ。
平民出身のリアは、生まれながらに聖女の素質を持ち、癒しの魔法を会得しているという。
「しかし彼女は身体が弱く、病弱でもある。だから自らの身体を癒せるまで王家にて保護する」
素養ある聖女は国にとっても逸材。
王家として保護すべきと判断するのも納得がいく、誰の反対もないだろう。
だが、ヴィオラの見立ては甘く、リアが王宮入りしてからの生活は激変した。
「ルーク、先の政務について問い合わせが……」
「すまないが、ヴィオラ。リアの体調が悪いんだ、政務は任せる」
国王であるルークは徐々に政務をヴィオラへと任せ。
彼の生活の比重が、リアへと傾いていった。
いつしか、二人は平然とヴィオラの前で手を繋ぐ仲に発展していく。
「外交の件に対して、私とルークで協議したいことが……」
「君一人で外交の席についてくれ。僕はリアと過ごすよ」
「ごめんね。ルーク、私のために付き添ってくれて」
病弱なリアを支えるためにと、ルークが自ら介抱する。
距離や、身体的な接触も目に見えて増えていく。
抱き合うように寄り添う二人に、愛し合っていた仲であるヴィオラが傷付かぬはずなかった。
「ルーク……リアとの距離を見直してください」
だからこそ嘆願した言葉に、ルークはため息を吐いて答えた。
「君は薄情だな。ヴィオラ」
「薄情……? 私は貴方の代わりに政務を引き受け––––」
「リアは身体が弱く、君と違って悲運な女性だ。それを嫉妬で否定するなんて可哀想とは思わないか?」
「嫉妬ではありません。せめて貴方に王として責務を果たしてほしいのです」
ヴィオラの言葉は、虚しくも届かない。
ルークの代わりに政務、外交などが任され負担も大きい。
それゆえ、かつては煌めいていた彼女の銀糸の髪は、手入れもできぬため艶も失っている。
それを……あろうことかルークは罵倒する。
「僕には分かるよ。君は自らの美貌が衰えて不安なのだろう? 醜いやつれ方に手入れもされていない髪。みっともないよ……」
「ちが……私は」
「王妃であるからと慢心しているからそうなる。自己管理もできていない証拠だ。そんな体たらくで僕に苦言を呈さないでくれ、まずは身の回りの管理から始めるんだ」
ルークには一切、ヴィオラの言葉は届かない。
その日から彼はさらに、当てつけのようにリアとの距離を縮める。
心が傷付き、悔しくて仕方なかった。
悲しくて、苦しくて、吐き気がしそうな日々。
不運にも、そんなヴィオラには王宮にも貴族にも……肉親でさえも味方はいなかった。
皆、聖女の素質を持つリアに期待を抱いていたからだ。
我が国から聖女が生まれれば、莫大な益が生まれると。
「我が国の転換となる聖女の生誕の支えとなれば……喜ばしいことだ。だから耐えろ、ヴィオラ」
肉親であり、公爵である父への嘆願も……そんな一言で一蹴される。
ヴィオラは奴隷のように、ただ王妃という肩書きだけの責任を負う。
日々、何か月も、何年も……王を支えるだけの人生。
その果てに彼女は報われず……最悪の運命が訪れる。
ある社交界で、ルークが宣言したのだ。
「リアを王妃とする。ヴィオラ、君は……リアを嗜虐していた罪で、廃妃とする」
謂われのない罪に、ヴィオラは理解できなかった。
当然だった……彼女はただの犠牲者なのだから。
これは全て、貴族が望んだゆえの政略。
王の傍には莫大な利益を生む聖女こそ相応しいと皆が思った。
都合よく、二人は仲睦まじい。
では、必要ないのは今や愛されてもいない、荒れ果てた王妃のみ。
ならば罪を仕立てて追い出そう……王国の未来のため、繁栄ある未来のため。
たった一人の女性の犠牲など、仕方ない事。
「君は最低だよ。ヴィオラ」
そんな者達の意向にて仕組まれたあるはずもない罪。
あろうことかルークは鵜吞みにして、ヴィオラを断罪して廃妃とした。
今まで支えてくれていた彼女を……ゴミ箱に捨てるが如く扱う。
「見損なったよ、最悪の妃だ。君は……僕の前から消えてくれ」
当然、廃妃されたヴィオラは転がり落ちるように不幸を重ねる。
公爵家からは勘当され……責任を負って多額の借金を仕組まれる。
リアを王妃に望んだ貴族達が彼女の無実を訴える声を塞ぐために……徹底的に転落させていった。
「私は……ただ、幸せになりたくて……」
果ての果てまで追い込まれたヴィオラは、もう生きていられず……短剣を手に持つ。
そして首元へと当てて、躊躇いもなく裂いた。
「っ!」
途端、思考を巡るのは……あふれんばかりの記憶。
前世と呼ぶべき、自らの以前の人生。
そして知るのは……この悲惨な運命は物語通りのものであったということ。
「おそ……すぎるよ」
前世の記憶を手に入れても、もはやヴィオラは死の間際。
運命を変える事ができなかったと悔いる間もなく、血だまりの中で瞳を閉じる。
が、決して遅くは無かった。
これが……ヴィオラの一度目であり、最後の悲惨な記憶となるから––––
王妃として生活を送っていた彼女の転落は、玉座の間にてもたらされた一言が始まりだった。
「彼女はリアだ。僕にとって大切な人なんだ。だから……傍にいてもらう」
夫であり、この国の国王である……ルークの言葉に、ヴィオラは耳を疑った。
顔を上げるが、今も眼前に控える女性は彼の傍に立って離れない。
「ヴィオラ。君は王妃として、リアを受け入れてあげてほしい」
見ず知らずのリアという女性が、突然……自らの夫に迎えられている。
この非常識に、頭が追いつかない。
「事情の説明を願います。見ず知らずの女性を王宮に迎えるなど……」
「リア、彼女は素養ある聖女だ。まだ力は弱いが、万物の病を癒し傷をも塞ぐ。僕も……先日、馬車の横転事故で命を助けられた」
ルークが服の裾を上げると、腹部には痛々しい傷痕がある。
これを癒したとなれば、確かに異様な力だ。
平民出身のリアは、生まれながらに聖女の素質を持ち、癒しの魔法を会得しているという。
「しかし彼女は身体が弱く、病弱でもある。だから自らの身体を癒せるまで王家にて保護する」
素養ある聖女は国にとっても逸材。
王家として保護すべきと判断するのも納得がいく、誰の反対もないだろう。
だが、ヴィオラの見立ては甘く、リアが王宮入りしてからの生活は激変した。
「ルーク、先の政務について問い合わせが……」
「すまないが、ヴィオラ。リアの体調が悪いんだ、政務は任せる」
国王であるルークは徐々に政務をヴィオラへと任せ。
彼の生活の比重が、リアへと傾いていった。
いつしか、二人は平然とヴィオラの前で手を繋ぐ仲に発展していく。
「外交の件に対して、私とルークで協議したいことが……」
「君一人で外交の席についてくれ。僕はリアと過ごすよ」
「ごめんね。ルーク、私のために付き添ってくれて」
病弱なリアを支えるためにと、ルークが自ら介抱する。
距離や、身体的な接触も目に見えて増えていく。
抱き合うように寄り添う二人に、愛し合っていた仲であるヴィオラが傷付かぬはずなかった。
「ルーク……リアとの距離を見直してください」
だからこそ嘆願した言葉に、ルークはため息を吐いて答えた。
「君は薄情だな。ヴィオラ」
「薄情……? 私は貴方の代わりに政務を引き受け––––」
「リアは身体が弱く、君と違って悲運な女性だ。それを嫉妬で否定するなんて可哀想とは思わないか?」
「嫉妬ではありません。せめて貴方に王として責務を果たしてほしいのです」
ヴィオラの言葉は、虚しくも届かない。
ルークの代わりに政務、外交などが任され負担も大きい。
それゆえ、かつては煌めいていた彼女の銀糸の髪は、手入れもできぬため艶も失っている。
それを……あろうことかルークは罵倒する。
「僕には分かるよ。君は自らの美貌が衰えて不安なのだろう? 醜いやつれ方に手入れもされていない髪。みっともないよ……」
「ちが……私は」
「王妃であるからと慢心しているからそうなる。自己管理もできていない証拠だ。そんな体たらくで僕に苦言を呈さないでくれ、まずは身の回りの管理から始めるんだ」
ルークには一切、ヴィオラの言葉は届かない。
その日から彼はさらに、当てつけのようにリアとの距離を縮める。
心が傷付き、悔しくて仕方なかった。
悲しくて、苦しくて、吐き気がしそうな日々。
不運にも、そんなヴィオラには王宮にも貴族にも……肉親でさえも味方はいなかった。
皆、聖女の素質を持つリアに期待を抱いていたからだ。
我が国から聖女が生まれれば、莫大な益が生まれると。
「我が国の転換となる聖女の生誕の支えとなれば……喜ばしいことだ。だから耐えろ、ヴィオラ」
肉親であり、公爵である父への嘆願も……そんな一言で一蹴される。
ヴィオラは奴隷のように、ただ王妃という肩書きだけの責任を負う。
日々、何か月も、何年も……王を支えるだけの人生。
その果てに彼女は報われず……最悪の運命が訪れる。
ある社交界で、ルークが宣言したのだ。
「リアを王妃とする。ヴィオラ、君は……リアを嗜虐していた罪で、廃妃とする」
謂われのない罪に、ヴィオラは理解できなかった。
当然だった……彼女はただの犠牲者なのだから。
これは全て、貴族が望んだゆえの政略。
王の傍には莫大な利益を生む聖女こそ相応しいと皆が思った。
都合よく、二人は仲睦まじい。
では、必要ないのは今や愛されてもいない、荒れ果てた王妃のみ。
ならば罪を仕立てて追い出そう……王国の未来のため、繁栄ある未来のため。
たった一人の女性の犠牲など、仕方ない事。
「君は最低だよ。ヴィオラ」
そんな者達の意向にて仕組まれたあるはずもない罪。
あろうことかルークは鵜吞みにして、ヴィオラを断罪して廃妃とした。
今まで支えてくれていた彼女を……ゴミ箱に捨てるが如く扱う。
「見損なったよ、最悪の妃だ。君は……僕の前から消えてくれ」
当然、廃妃されたヴィオラは転がり落ちるように不幸を重ねる。
公爵家からは勘当され……責任を負って多額の借金を仕組まれる。
リアを王妃に望んだ貴族達が彼女の無実を訴える声を塞ぐために……徹底的に転落させていった。
「私は……ただ、幸せになりたくて……」
果ての果てまで追い込まれたヴィオラは、もう生きていられず……短剣を手に持つ。
そして首元へと当てて、躊躇いもなく裂いた。
「っ!」
途端、思考を巡るのは……あふれんばかりの記憶。
前世と呼ぶべき、自らの以前の人生。
そして知るのは……この悲惨な運命は物語通りのものであったということ。
「おそ……すぎるよ」
前世の記憶を手に入れても、もはやヴィオラは死の間際。
運命を変える事ができなかったと悔いる間もなく、血だまりの中で瞳を閉じる。
が、決して遅くは無かった。
これが……ヴィオラの一度目であり、最後の悲惨な記憶となるから––––
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