【完結】この運命を受け入れましょうか

なか

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2話

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「ふぅ……」

 荘厳な会場にて開かれた社交界。
 その場にいるほとんどが、自らを追い詰めるために集まっていた。
 だからその鬱陶しい視線を抜けて会場を抜け出して、ヴィオラは息を吐く。

「ひとまずは、一歩目ね」

 今しがた廃妃の宣告を受けたと思えぬ、凛とした振る舞い。
 動揺も悲観も一切ないのは、ヴィオラの特殊な事情ゆえだ。

「時間は戻っているにしても……ここまで、長かったわね」
 
 暗い廊下をヒールの音を響かせて歩きながら、ヴィオラは今までの事を思い出す。
 一度目の悲惨な運命、その後のことを……


   ◇◇◇


 前世の記憶を思い出しながら亡くなったヴィオラは、なぜか時間が戻って二度目の人生を歩んだ。
 リアが王宮に迎えられた日、廃妃の三年前からの再始動であった。

 前世の記憶をたどれば、この世界は読んでいた小説とまるで同じ物。
 それは悲哀の物語、悲劇を描いたものだ。
 簡単に言えば無実の罪で断罪された王妃の真実を国王が知り、悲泣と共に後悔していく悲哀物語。

『ふざけんじゃないわよ……』

 思い出しながら呟いたのは、怨嗟のこもる言葉。
 ヴィオラは悲劇を起こすためのただの犠牲者。
 お涙頂戴のため謀略に嵌められて成すすべなく死ぬなんて、当事者にとって理不尽でしかない。
 
『思い出した今。もうここに居る必要もないわ』

 一度目の悲惨な運命と、前世の記憶も混ざった今。
 ヴィオラにとってもはや未練などなく、最悪な運命から逃れるために王妃という地位も捨てて逃げ出した。
 まさに脱兎の如き速さで……

 それが、二度目の人生。
 しかし……

『なんで……』

 逃げた先にて見つからぬよう、ひっそりと暮らしていた矢先。
 一度目に廃妃を受けた日が訪れて、悲劇を逃れたと確信した途端に再びヴィオラの時は戻った。

 幾度か別のやり方にて断罪回避をしても同じく、全て廃妃を宣告された日になれば振り出しに戻される。
 嫌でも理不尽な事に気付く。
 どうやらこの人生は、【物語通りの悲運を歩まねば時間が戻ってしまう】のだ。

『最悪』
 
 気付いた途端に吐いた言葉。
 悲劇を宿命付けられた最悪の運命を……普通であれば呪うだろう。
 だが、ヴィオラは違った。
 
『だったらこの状況を利用しない手はない。私は絶対に幸せになってみせる』

 言葉通り、ヴィオラは断罪を回避して幾度もやり直して経験を重ねた。
 悲惨な運命を受け入れても、幸せになれる道を模索したのだ。

 断罪を回避してループしながら、経験を積み上げていく。
 時には逃げ、時には王家をのっとり、時には戦まで起こす運命を繰り返し–– 

  
   ◇◇◇



「流石に数が千回も超えれば、不安もないわね」

 ヴィオラは回想を終えて、躍るような足取りで妃室へと歩く。
 千回以上もの経験により、悲運の運命を受け入れても打開する方法は確立済みだ。

「次は……この後のを済まさないとね」
 
 彼女が呟いたと同時に、ドスドスと荒い足音が聞こえだす。
 先程まで沈黙であった廊下に、怒気のこもった叫びが響いた。

「ヴィオラ妃、ここに居たのですか。なんという事をしてくれたのですか、貴方は!」

 やってきて早々、息まいているのはこの国の大臣であった。
 彼はヴィオラの返答もなく、まくしたてる。

「リア様は聖女として未来を期待されるお方です。子も孕まず妃としての役目も果たせておらぬ貴方が害そうなどと、国賊に等しい行為ですよ」

 どの口がいうのだろうか。
 王妃をリアに変えるため、貴族達と結託していたのは他でもない大臣だ。
 調査書を改ざんし、偽の証言をした張本人の言い分にヴィオラは眉をひそめる。

「本件は王家に不利益をもたらした上での廃妃という決定です。ゆえに貴方には相応の処遇があることはお分かりですね。ヴィオラ妃」

 そう言って、大臣は手に持つ書類を見せつける。
 それは、ヴィオラが王妃となった際に結ばれたある契約書であった。

「公爵家と王家で結んだ婚姻契約通り、王家に不利益を被らせた場合の責任として、貴方には賠償義務が生じます」

 一方的で身勝手な言い分だ。
 不利益どころか、ヴィオラは王に代わって政務を執り行い国益を上げた。
 それを知りながら、聖女という金のなる木を目当てに大臣は彼女を嵌めて、責め立てている。

「王家の面汚しともいえる愚行の責任は、しかと請け負ってもらいますぞ! ひとまず貴方の個人資産は全て差し押さえます」

「大臣、一つお聞きます。その契約書は確かに原本なのですね? 文章が改ざんされてはおりませんか」

「当たり前です。というから持ってきたのです。現にしかと王印が押されている」

 確かに本物である。
 それを確認した瞬間、ヴィオラは微笑んだ。 

「分かりました。ここに私の持っている控えの契約書もあります。それも大臣が預かってください」

「聞き分けが良くて助かりますよ。なに……報いを受けた後。貴方が泣いて謝罪を乞えば、私の屋敷で働く伝手を紹介してあげても……」

「ふふ、報いとは誰が受けるの?」

「は?」

 意味深な言葉に疑問を漏らした大臣へと、ヴィオラは別の書類を見せた。
 それを見て、大臣の瞳が大きく見開いた。

「そ……それは」

「貴方が王家の予算を着服し、自らの地位を誇示するために貴族へ横領していた事を示す帳簿です」

「ど、どこでそれを……」

「隠している場所は丸わかりでしたよ。なにせ何十回も捜しましたから」

 ヴィオラの「何十回」という言葉に疑問は溢れつつも、大臣はひとまず目の前の問題に集中する。
 この事実が漏れてしまえば、彼の人生は終わるも同然だからだ。

「そ、それを……どうなさるおつもりですか」

「一つ、私の条件を呑んでもらえればこれは返してあげます」

「どのような……」

「今、貴方が持ってきていた。公爵家と王家の婚姻契約書を、衆目の前で焼きなさい」
 
 大臣は鼓動が激しく鼓動し、今……自分が人生の岐路に立っていると気付く。
 ヴィオラの要求は、彼女の責任追及を消す行為なのだから。

「そ、そんなことすれば……私は大臣でいられません」

「時間がないからさっさと選びなさい。どちらの結果で大臣を辞するにしても、この着服金が公になれば多額の借金を背負う。どっちが得なのかしらね」

「し、しか……」

「はーい。じゃあこれはすぐにばらまきまーす!」

「あ……ま……くっ、あぁぁぁぁ!!!!!」

 断末魔のような叫びと共に、大臣は走り出す。
 そして、使用人達が集まる前で自ら……燭台の火で契約書を燃やした。
 もう、燃えカスとなった契約書は意味を成さない。
 冷や汗、動悸、震え……大臣は先程までの余裕が消え、燃えカスを手にして怯える。

 王家の重要書類を燃やした責任は非常に重いと、彼は知っていた。

「あらあら、決断してくれたのですね。なら約束通りこの帳簿は返します。まぁ……もう写し済みですが」

「え? あ……あぁ……あぁ」

「これで私の支払い義務は消えましたね?」

 全てを知りつくし、繰り返してきたヴィオラ。
 本来であればこの断罪で彼女を絶望の淵に落としていた大臣の策略は……崩された。

「残ったのは、貴方の責任のみね……大臣?」

 今や大臣の表情は自らの審判に怯え、この焼けカスの言い訳を考えるのみ。
 彼の進退は絶望で、今の栄華を失うに等しかった。


「ごくろうさま」


 震えて頭を抱える大臣に向け、ヴィオラは頬笑みと共に踵を返す。
 これはまだ、始まりに過ぎない。
 

 彼女が受けるはずだった、悲劇ともいうべき断罪の運命。
 それらを全て……全て跳ね返す。
 彼らに反旗するただの一歩目だ。
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