【完結】この運命を受け入れましょうか

なか

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4話

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 順調に廃妃までこぎつけたヴィオラは陽気に鼻歌を交えて、荷物をまとめていく。
 元から準備もしていたので早いものだ。
 部屋の外からはルークの謝罪を求める声が聞こえるが、保護魔法で扉は開かない。

「よし、出ていきますか」

 一刻の時間が過ぎ、荷物をまとめたトランクを持つ。
 部屋の外からのルークの怒声は今や聞こえなくなっている、諦めてくれて僥倖だ。
 そう思い、扉を開いた時……

「……呆れた、よほど暇なんですか」

「なんだと?」

 驚いたことに、ルークは外で待っていたのだ。
 リアも共に残っており、謝罪を求める執念にヴィオラは呆れる。

「もっと時間を有意義に使ってはいかがですか。これから貴方は自ら政務を行っていかねばならぬのですから」

「お前には、言わねばならない事がある。その態度を改めろ」

 ルークは、苛立ち交じりに言葉を続けた。

「ヴィオラ、お前は、まるで事の重大さを分かっていなくて呆れたよ」

「なんのことですか」

「婚約時の契約を忘れたか? お前の失態による廃妃なら、その責として賠償金を支払う必要がある。お前の人生が終わるには十分な額なのだぞ」

 どうやら、大臣はいまだに報告していないのだとヴィオラは悟る。
 ルークは哀れにも、まだそれが残っていると思っているようだ。
 教えておいてあげようと、彼女は微笑んだ。

「その契約書の現物、見せて」

「当然だ。大臣に持って来させよう。その余裕な態度はここで終わりだ。正式な裁きを受けるんだな」

「そうなればいいけど」

 ルークはヴィオラの反応を訝しみながらも、近くの使用人に大臣へと言伝を頼む。
 彼にとって、廃妃されたヴィオラが飄々としていては王家の醜聞にもなる。
 だからこそ躍起になっていたが……呼ばれた大臣の表情は暗い。

「大臣、契約書を見せてやれ」

「ル……ルーク陛下。そのことでお話があり……」

「なにをしている。さっさと出せ」

「大臣、正直に言えばよいではありませんか。昨夜にその契約書は、貴方が焼失させたと」

 その言葉に、ルークは目を見開く。
 信を置く臣下に限ってそんなはずがないと思ったが……大臣は膝を落として頭を下げる。

「申し訳ございません! 契約書は私の不手際で焼失いたしました……」

「っ……なっ!」

 信じられなくて、言葉を失う。
 ルークにとって、その契約書は廃妃の重みをもたせる切り札。
 ヴィオラへと反省を促す、制裁となるはずが……

「大臣……それが事実ならば、貴方の責任だけは済まない! どうする気で……」

「も、申し訳ありません!」

 ヴィオラへと裁きを下すための切り札を失ったルークは、激情を大臣へと灯す。
 それを冷めた目でヴィオラが見つめているのに気付き、胸がざわつく。

「話しが終わったなら、もう出ていきますね」

「まて! お前の責がこれで終わっていいはずない!」

「では、私にどのような責を問うと?」

 問いかけに、ルークは必死に思考を巡らせる。
 廃妃したヴィオラが喜んで去ったなどという醜聞が知られれば、まさに王家の沽券に関わる。
 だから必死に言い分を絞り出す。

「お前の務めていた政務に穴が空く。これにより生じた不利益はお前の責だ」

「そもそも貴方がすべき政務です」

「っ、な、なら俺が培ってきた王家の信頼の失墜、これはどうしてくれる」

「え……ろくに政務も収めず、そこのリアと茶会だけしていた事で培える信頼ってなに?」

 ヴィオラは呆れながら答える。
 彼女と結婚したばかりのルークは、国王として聡明であった。
 しかしリアと出会ってからの彼は人が変わったように、堕落して愚かな思考を重ねている。

 こんな体たらくだからこそ、ルークは貴族に転がされた。
 虚偽の罪を、あっさり信じてしまうのだ。

「くっ……」

 そんなルークが必死に絞り出した言葉は、ヴィオラにより即座に反論された。
 もう彼には反する論がない。
 嫌でも認めさせられて、気が狂いそうに悔しくて拳を握る。

 その時……

「いい加減にしてください! ヴィオラさん!」

 状況を一転させ、リアが叫んだ。
 彼女は、ルークに抱き着きながら反を述べる。

「貴方が王妃にあるまじき行為をしたから、ルークは民からの信を失ったのです。それを認めて!」

「認められませんよ……私の罪は真実ではないのだから」

「っ……! な……」

「私はしかるべき時に事実を訴えます。覚悟してなさい。この運命さえなければ、今すぐにでもを晒してあげるから」

 ヴィオラの意味深ながらも、全てを見透かすような視線と言葉。
 それを受け、リアは気まずそうに目線を逸らし、息を呑んだ。
 唯一、ルークだけは道化のまま声を荒げる。

「ヴィオラ、お前はこの期に及んで自らの非がないとでもいうのか? 嫉妬に狂い、愚行を犯しておきながら……」

「私が嫉妬? 誰に?」

「リアにだ! お前は僕からの寵愛を失い悔しかったのだろう? そう訴えていたではないか!」

 ルークの叫びに、ヴィオラは失笑してしまう。

「まず一つ、もう貴方の愛は欠片もない。すでにだいぶ前から見限っているの」

「っ!」

 ヴィオラは嫉妬心どころか、まず彼の愛など欲してすらいない。
 むしろ、千回も見てきて見飽きている。

「それと……リア。貴方はもう少し聖女として修練を積むべきね。サボりすぎよ」

「え?」

 そして、千回という経験は……
 リアの聖女という素養すら、ヴィオラにとって些事なものにしていた。

「その程度の魔力では、貴方にできることは知れているわ」

「見苦しいぞ! リアの魔力は植物を成長させ、傷を癒して悪しき魔物を遠ざける。多くの国が求める至宝に等しい素質だ。政務しか取り柄もないお前には––––」

「だから、嫉妬する必要ないの。私も五百回ほど繰り返して身に付けたから」

「は? なにを言って……?」

 瞬間。
 ヴィオラは指を鳴らす。
 すると廊下にて生けられていた薔薇が大きく成長し、ルーク達とヴィオラを茨の壁となって隔てた。

「え? ……は? な……え!?」

「廃妃が終わって、用もないのに相手してられないわ。これ以上は時間の無駄」

「な……待て。これの……説明を……」

「それでは、さようなら」

 ルーク達は言葉を失い、呆然とする。
 まるで夢のように、ヴィオラはリアを凌ぐ力を見せつけて、颯爽と去っていく。
 問いただそうにも、目の前に現れた茨の壁に為す術なく。
 これが現実なのかと、疑わずにはいられない。

 今になって彼女を廃妃した事に……ルークは不安を宿らせた……
 
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