【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか

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15話

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 私に忠義を誓ってくれた従軍経験者を居住地へと招く。
 すると彼らは一様に、仮設住居を見て感嘆の声を漏らした。

「住居が建ってる……住む場所が用意されているとは」

「私が私財を出して建てました。仮設ではありますが、国を護った皆様に風もしのげぬ家を提供するのは憚られますから」

「なんと……我らのために……」

 強制移住を余儀なくされた人々には、幼子を連れた家族もいる。
 厳しい環境に放置など、到底できない。

 皆が一様に驚いている中、文官達が住居のリストを配ってくれる。
 迅速な対応に感謝していると、小さな影が飛び出した。

「はい、どうぞ」

「っと……君のような子供まで働いているのか?」

「ううん、ディアはね。おねさまのためにがんばるの」

「おねさま?」

「うん。ラテシアおねさまのため」

 貴族らしからぬ屈託のない笑顔のディアが、私の手伝いのためにと文官と同じくリストを配ってくれる。
 貴族令息とは偉ぶっていると言われるが。
 父や母の教育のたまものか、純粋無垢なディアの笑みが緊張していた皆を微笑ませた。

「一か月後には別の地区から残りの従軍者が移住してきます。我ら以上の数ですが、どうする気でしょうか」

 尋ねてきたのは、さきほどは私を睨みつけていたダウィドだ。
 先程の問答もあって気まずいのか、ずっと私の傍らに跪いている。

「その間に、再び仮設住居を建てます。今度は皆様のお手をお借りするので、対応は間に合うはずです」

 今回、強制移住でやって来た皆もすでに圧巻の人数だが、この倍以上が一か月後には来訪する。
 なので彼らを人員として雇い、新たな仮設住居を早急に建てていこう。

「費用はどうする気でしょうか。流石に大金、全てを公爵家がまかなうのは……」

「それも大丈夫です。人員の確保と同時に、財源の確保も済んでいます」

 ダウィドの問いかけに、私の代わりにリガル様が答えた。
 戸惑うタウィドだが、やがて答え合わせするように馬の蹄の音が近づいてくる。
 視線を向ければ、幾つもの豪奢な馬車が向かって来ていた。

 馬車が停まり、中に居た者達が出てくる。

「リガル様、此度は我らをラテシア様の元へ招致してくださり感謝いたします」

 やって来た者達は、歳は様々。
 だが皆、身なりは一級貴族にも劣らぬ整えられた衣服。
 その正体は……

「各商家の皆様、ご足労を感謝します」

 リガル様の言葉通り、彼らはルマニア王国でも名を連ねる商家の方々。
 皆が財を成し、商いに関しての知識が最上位の方々の来訪だ。
 
 これも全ては、大臣である賢人––リガル様の手腕。
 彼はやはり引き抜いて大正解だった、なにせ今回はこの商家の方々に先行投資をしてもらうのだから。

「ラテシア様からの書状通り。我が商家から援助金を出させて頂こう」
「我が商家からも、是非とも援助させてくだされ」

 そう、私は公爵領を他国との貿易街にする事を彼らに伝えている。
 遠くない未来にこの地で商いをする際、支度金などの支払い免除の代わりとして、今回の援助という資金提供を受けるのだ。

「無理のあるお願いかと思っておりましたが、各商家の皆様が受け入れてくださり嬉しいです」

「何を言っておられますか。このような勝ち馬に乗らぬ商家がどこにおります」

「勝ち馬……ですか?」 
 
「ええ、ラテシア様。この公爵領が各国との貿易街となれば、土地代や市場価値は飛躍的に高まります。そうなれば多額の支度金が必要となりましょう」

 そう言って商家の方が提示した支度金の額。
 予想ではあるが、とんでもない金額であった。

「それをこの資金援助で免除されると思えば安上がり。先行投資ですな」

「ふふ、流石ですね。皆様」

「資産は勝ち取る物です。先んじて行動できたものが、多くを得られるのは必然。我らは常に商機を見計らっておりますから」

 この公爵領を、彼らにとっても益のある場所と見定めてもらえて良かった。
 だからこそ、必ず成し遂げねばと改めて責任を感じる。
 そんな折、私の袖がくいっと引っ張られた。

「おねさま、ディア。おしごとてつだってきたよ」

「ふふ、ありがとう……ディア」

「えらい?」

「ええ、すごく偉いわ」

「なら、だっこしてほしいの」

 褒めてほしいのだろう。
 まだ六歳にも満たぬ子、頑張った証が欲しいのは当たり前だ。
 抱っこして頭を撫でてあげると、ディアは「えへへ」と嬉しそうに笑う。

「さて、ディア。お姉様はお仕事があるから。抱っこのままジッとしていられる?」

「うん」

「えらいね。それじゃあ行きましょうか」

 ディアを抱っこしながら、改めて皆の様子を見つめる。
 会った際は悲観していた多くの人々も、希望を見出して笑みを浮かべ始める。

 彼らに帯同していた家族、奥様や子供達も同様だ。
 国を護ってくれた皆に、セリムが言っていたような危険な思想などあるはずもない。
 必ず、私が彼らを導いてみせる。

「ラテシア様」

 ふと、私の傍へとダウィド跪く。
 そして、碧の瞳で私を見つめた。

「まずは先程の無礼をお許しください。ここまでの厚遇……皆が感謝しております」

「いえ、皆様にはこれが当然の権利ですよ。ダウィド」

「そして頼みがあるのです。俺の命。どうか貴方の御身を護るために捧げさせてください……ラテシア様」

「っ、かつての戦争の英傑に守ってもらえるならば、心強いです」

「この身。今ここで貴方の配下として忠義を誓います」

 ダウィドの誓いに感謝しながら、私はディアを抱いて高台に上がる。
 従軍経験者とその家族、多くの人々を見つめた。

「ディア。これから私達が……彼らを導くのです」

「ディア達が?」

「ええ、フロレイス公爵家の誇りのため。そして皆のためにも……」

 抱き上げる弟のディアに、私は公爵家としてあるべき姿を見せる。
 フロレイス自治領にて、セリムが無駄だと切り捨てた皆を希望に導く、私の責務を教えた。

 そんな折、リガル様が私の元へと駆け寄る。

「ラテシア様……来月にはセリム陛下の即位式が始まります。その後は、王家も我らへと相応の対応を見せるはずです。いかがなさいますか?」

 セリムにとって、即位式は今最も最重要な式典。
 そこで即位して晴れて国王となるのだ……その後に持つ権力は大きく。
 我が公爵領とて、彼の采配一つで振り回される。
 
 しかし……その即位式こそが、セリムと私の政争での決め手の一つとなる。

「リガル様……即位式の日、我らも向かいます。それが始まりの狼煙となりましょう」

「え?」

「即位式の場で、我が公爵家の独立を宣言します! セリムの晴れ舞台にて……現王政の不信を大々的に表明するのです!」


 式典の場にて、我が公爵家が独立する事実を知らしめよう。

 その日、私は完全に王家から離脱する事となる。
 正妃からも、側妃からも降りて。
 王家に背反し、独立した当主となる。

 もうセリムを愛する事の無い私が、この政争の火蓋を切り。
 そして、セリム王政の始まりを挫いてみせよう。
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