【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか

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16話

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「おねさま、おきてる?」

「ん……」

「ディア。さきにおきたよ、えらいでしょ~」

 瞳を開けば、陽が上っている。
 一緒に寝ていたディアは、先に起きた事が誇らしいのか、ふふんと胸を張っていた。

「ふふ、おはよう。ディア」

「おねさま、おはよう。ディアえらいでしょ、いいこして」

「もちろんよ」

 頭をわしわしと撫でてあげれば、ディアは嬉しそうだ。
「きゃ~」とはしゃぐディアを抱きかかえる。

「さ、朝食をたべにいこうか」

「うん!」

 部屋を出るために扉を開いた途端。
 そこにはダウィドが跪いていた……兵服に着替えており、身なりが整っている。

「おはようございます。ラテシア様、ディア様」

「おはよう! ダヴィさん!」
「ダウィド……朝はゆっくりしていいわよ」

「いえ、我が主の起床に間に合わぬ訳にはいきません」

「そこまでしなくとも……まぁいいわ。ひとまずディアと食事をとりますね」

「護衛いたします」

 食卓へ向かえば、ダウィドの部下を含めて厳重な警護がしかれていた。
 やり過ぎにも思えるが、リガル様はこれでも足りぬと言っていたので我慢だ。
 今や独立した公爵当主、王家派閥から狙われる対象であるのだから、この護衛が当然らしい。

「ディア、朝食を頂きましょうか」

「うん!」

 作ってもらった食事をしながら、少しはしたないが昨夜の報告書を見つめる。
 
 セリムの即位式で独立を宣言してから、が経った。
 
 従軍経験者を迎えた今、領内の人手は多い。
 なので農地を増やしつつ、多くの人員は他国との街道整備のために割いた。
 従軍経験者は皆、やる気も高く貴重な人員だ。人一倍働いてくれており、工期は順調。
 彼らも給金の高い此度の仕事に、喜んでくれた。

「ラテシア様。お食事を終えて早速で申し訳ありませんが、ご報告が」

「っ……リガル様。どうなさいましたか」

 食事を終えれば、待っていたかのようにリガル様が訪れる。
 私に自由な時間がないのはご愛嬌だ。

「セリム王家の即位式にて独立を宣言した後。王家とフロレイス公爵家の支持派閥の変化を確認してまいりました」

「もう? 流石リガル様ですね」

「有難きお言葉です」

 独立を宣言してから、セリムと私。
 互いの支持派閥の変化を、リガル様が報告してくれた。

 結果でいうとあの宣言のおかげか、フロレイス公爵家は王家に並ぶ勢力図を得た。
 
 セリム王家の支持派閥は貴族の四割、しかし民の支持は低い。
 フロレイス公爵家の支持派閥は貴族の三割だが、民の支持は高いといえる。

 貴族の残りは、中立派。
 どちらにも付かぬ派閥で、見定めている状況といえよう。
 他国からの信頼も、私の方が高い状況だ。

「と、いった所です。ひとまずは王家と拮抗状態……それ以上といえます」

「民からの支持が高いのは、私達に追い風が吹いておりますね」

「ええ、セリム陛下が下した法案にて、民からの支持は低くなっており。ミラ王妃の血筋など霞んでいるのは、彼らにも誤算でしょう」

 加えてフロレイス公爵家の独立を、即位式同日に公表したのも大きいだろう。
 王家の出鼻は挫かれ、民は未来の王政に不安を抱いたのだから。

「ところでリガル様。貿易路の工期はいかがですか?」

「順調に始められそうです。元より他国との交渉は終えていた案件。街道さえできれば直ぐに商いの道ができあがります」

「分かりました。では、私達はこの貿易路をさらに発展させる道を選びましょう」

「発展?」

「ええ……王家の派閥を弱めながら。間髪入れずに二の矢を放つのですよ」

 首を傾げるリガル様へと、私は微笑みつつ計画を告げる。
 それは彼を驚愕させつつも、納得させるには充分なものであった。
 

   ◇◇◇

 
 リガル様へと計画を告げた十日後には、早速効果が出始めた。
 フロレイス公爵領の領境には、多くの人々が訪れていたのだ。

「おねーさま。いっぱい人が来てる」

「ディア。彼らはルマニア王国の技術者達です」

 街道を通って訪れる人々を、馬車の車窓からディアと共に見つめる。
 同乗する護衛のダウィドは、驚いたように言葉を吐いた。

「しかし……ラテシア様は思い切った方法を取られますね。まさか王国の技術者達の引き抜きを行うとは……」

「ええ。街道の整備や、建物の建築、その他多くの事には知恵ある技術者が必要ですから。民の支持が高い今こそが、好機だったの」

 私の行った計画は一つだけだ。
 王家に仕えていた技術者、文官などに移住の招待をした。
 もちろん、王家の手の者が紛れぬようにリガル様の調査済だ。

 給金は増額で提案し、移住にかかる費用を立て替え、税金も技術提供により無償とした。
 技術者も一般市民、セリムが民より貴族を優遇する政策に不安を抱いているのは手に取って分かった。
 ゆえにそこを狙って王家の技術者を取り込めた。

「まだまだ、攻め手を緩めずにいきますよ。ダウィド」

「ええ、俺達もラテシア様に言われた通りに、動き始めた結果を出しております」

 ダウィド達、従軍経験者に頼んだのは王国軍の敵対化を防ぐ事。
 セリムは現在も軍に属している従軍経験者達は領地返還対象から外していた。
 だが、かつての仲間が虐げられて怒りを抱く者は多い。

 そして私の元にいる者の中には引退した騎士団の副団長や、各防衛地点の軍長を務めた者達もいたのだ。
 かつての上長から、嘆願書として書状を王国軍に送っている。

『フロレイス公爵家の独立に協力、又は無血での政争を見届けてほしい』と。

「ラテシア様の読み通り、効果は大きいです。各王国軍がゼブル公爵の指示でこの領地を制圧せよと命じられたようですが、上手く阻めております」

「有り難い事ですね……」

「それだけ、民の怒りが大きく。ラテシア様の反旗に同調する想いが民にはあるのでしょう」

「まだ。まだ……王家を責めますよ。此度の非道、その間違いを認めさせるため」

「はっ!」

 多数の技術者の来訪。
 そして、もはや軍にて我が領を制圧など難しくなった状況。
 全ては自国の基盤たる民を、犠牲にした法案の代償だ。

「これが貴族優遇の弱点よ、セリム……」

 セリムにとっての痛恨の痛手。
 民や技術者という、体にとっての筋肉や血液がなければ弱っていくのみ。

 この状況に王家が焦るのが手に取るように分かったのは、三日後に王家より届いた書状の中身で如実に表れた。

 
「セリム陛下の名で、技術者の返還を求むと共に。公爵家の独立宣言を取り消せと……」

「破いて捨ててください。リガル様」

「承知いたしました」

「まだまだ、政争は始まったばかり。セリムの対応が追いつかぬ内に……次の矢を放ちます」

「ええ、直ぐに進めましょう!! このリガル、働く気力に溢れておりますよ!」

 意気揚々とやる気に満ちた賢人リガル様がいれば、こちらの手は緩む事は無い。
 残念だがセリム、私は貴方が非を認めるまで。
 まだまだ、この手を緩める気はない。
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