【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか

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18話

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 こちらが順調に進む中、いよいよ王家は焦りを感じたのだろう。
 対策を講じるため、動き出し始めた人物がいた……

「ゼブル公爵が、我が領地に来訪した!?」

「はい。ラテシア様にお会いしたいと……」

 リガル様からの報告に、私自身も驚いてしまう。
 まさかゼブル公爵自らが、敵地といえる我が領地に訪れるなんて……

「要件は?」

「王家との対立の和解協議と共に、フロレイス公爵家の貿易計画への援助を行いたいと」

 向こうが折れたような交渉議題。
 しかしリガル様からの報告を受けた私は、暫く熟考して油断せぬ事を決めた。
 そして指示を告げる。

「リガル様、ゼブル公爵と……話し合いを行います。交渉の席は避けれません」

「承知いたしました。ラテシア様」

「ただ、リガル様には頼みがあるのです」

「頼み?」

「ええ……セリムの腹心であるゼブル公爵の考えを、ルマニア王国全土に伝えてあげましょうか」

 微笑み、私が告げた計画。
 それを受けて、リガル様は早速準備にとりかかった。


   ◇◇◇


 フロレイス公爵家の応接室へと入る。
 そこには報告通り……ゼブル公爵が待っていた。

「話し合いを受け入れてくださり感謝しよう。ラテシア殿」

「断れば交渉から逃げたと吹聴されても、迷惑ですから」

「やはり聡い。君は選択の先を見据え、冷静に判断している……立派だな」

 椅子に座り、視線を交わう。
 後ろには互いの護衛騎士が数人控えていた。
 皆が臨戦態勢で、鎧や兜を身に付けている。

「物騒な話し合いで申し訳ないな、ラテシア殿。同国の貴族とはいえ今は敵地、ゆえに護衛は必要だろう?」

「ええ。護衛がいて始めて、席について話し合いができると承知の上です」

「話が早くて助かる。しかと条件を受けてくれて良かったよ」

「ええ、貴方の条件通り、ここにはで、人払いも済ませております。ですので本題を……」

「まぁ急かすな。これだから若輩者は焦っていかん。交渉の場が不慣れなのだろうが、それでは失敗を招くぞ」

 ゼブル公爵は椅子の背もたれに体重を預け、ギシリを椅子を軋ませる。
 そして、余裕の笑みを浮かべて二本の指を出した。

「和解案を提示しよう。こちらが二つ……ラテシア殿へと妥協しよう」

「……」

「和解後に求めるのは技術者共の返還。そして王家への敵対行動の取り消しだ」

 ゼブル公爵自らが、交渉の舞台に立つ。 
 その意味は王家の焦りに他ならない。
 ならば、こちらは譲歩は見せぬまま……話し合いを進めよう。


「まずは、そちらが提案する二つの和解案を提示ください」

「分かっている。おい……出せ」

 ゼブル公爵が手を鳴らすと、彼のお付きらしい人物がトランクを開く。
 中には……多くの書類があった。

「私の領地を貿易路に組み込んで良いという許可証だ。これで貿易計画は大きく発展するだろう?」

「……もう一つは?」

「我が家が、フロレイス公爵家との同盟を組もう。そうなれば私が王家との不仲を取り持ってやる」

「却下です。お帰りください」

 当然ながら、彼の和解案だという愚案を受け入れる気は無い。
 なぜなら、私が求めるものは何一つないからだ。

「ラテシア殿、意地を張るな。こちらは充分譲歩している。貴殿の相手は王家……失敗の先にあるのは惨いものだぞ。若き女性が受ける罰ではない」

「ゼブル公爵。こちらは貴方の案を受ける気はありません。お引き取りを」

「王妃を下ろされて怒っておるのだろう? 私が陛下に計らい、相応の地位につけるように提言してやるのだぞ?」

「要らぬと言っています! ゼブル公爵!」

「っ!!」

 ゼブル公爵を睨みつけ、立ち上がる。

「私が求めるのは、従軍経験者の奪われた土地と富の返還。そして王家が間違いを認める事です!」

「出来るはずがない! すでに土地は貴族の領地として分配している。そして王家が非を認めれば、セリム陛下のお立場は消え失せる」

「もう、そうなっているではありませんか。貴方が入れ知恵したせいでね?」

「……」

 ゼブル公爵は苦虫を嚙み潰したように俯く。
 だが、再び背もたれに体重を預けながら頬に笑みを刻んだ。

「交渉決裂というのなら、さらに民が苦しむ結果となるのだぞ。ラテシア殿」

「なにを言っているのですか……」

「お前が独立を宣言したせいで、このフロレイス領とルマニア王国間にて防壁を建設する法案が進んでいる」

「っ……」

「建設費のため民には増税を強いるしかない。ルマニア王国の民は貴殿のせいで苦しむだろうな」

 下劣な策に反吐がでそうだ。
 民をわざと苦しめて、怒りの矛先がこちらに向くように偏向したいのだろう。

「民を苦しめて、貴方に正道はないの?」

「正道だと……?」

「従軍経験者からは土地を奪い、王国民は政略のためなら苦しめる。国の基盤たる皆を苦しめる非道は愚の骨頂です」

「……ふん。若輩者が……小娘はこれだから困る。なにも大局が見えておらん」

 苛立ち交じりの舌打ちをして、ゼブル公爵は私を睨む。
 その瞳は今までの冷静さを一転して、本気の怒りを交えていた。 

「愚民どもに富や、幸福を与えてなんの意味がある!!」

「っ……」

「富むべきは貴族と王家のみ! 選ばれた者だけが国の軸となる事こそが戦争を招かぬ正道だ!」

「なにを言っているの……」

「貴殿は何も分かっていない。民を優遇する社会は危険が潜む。愚民共に富を持てば格差が生まれ、その格差を埋めるため、止まらぬ欲求を肥大化させる。それこそが争いの種だ」

「……」

「争いの種となる欲求を持たせぬため、愚民は等しく平等であればいい。これこそ私が抱く正道! 貴殿が意志を変えぬなら……王国民を更に苦しめる事、なにも心痛まん」

 明かされた彼の思想と共に、脅すような物言い。
 民を犠牲にする事すらいとわず、王国民を人質にするような言葉。

 当然、それが許されるはずもない。
 皆に……知ってもらわないとね。


「だ……そうですよ。皆様」

「は? なにを言って……」

 私が呟いた途端だった。
 応接室に控えていた護衛騎士達が、兜を脱ぐ。
 そこには私の護衛であるダウィドがおり、そして他には……

「王国を代表する商家の皆様へ。今の話を聞いてもらいました、ゼブル公爵」

「なっ……」

 我が領地に資産援助をしてくれた商家の皆が、一連の全てを聞いていた。
 皆、一様に瞳に怒りを交える。

「ゼブル公。我ら商家は一市民から成り上がった者。貴方の言う愚民であり、酷く怒りを覚えますよ」

「な……待て。今のは誤解だ。なにもお前達を含めた訳ではなく」

「関係ありませぬ。貴方のお考えは、しかと王国民に広めます」

 商家では王国で起きた事件などを広めるための情報紙も売っている。
 それを各商家が、ゼブル公爵の今の流れを伝えれば……民はどうなるか。

「では!! 我らはこの大事件を直ぐに広めます……大売れしそうですな。ラテシア殿、誘ってくださり感謝いたします!」

「待て! 誤解だ! 待つんだ! 話は終わっておら––」

 慌ててゼブル公爵が立ち上がるが、時すでに遅く。
 商家の方々と入れ違いに、私の本当の護衛騎士が続々とやって来る。
 逆上して襲うという選択肢も消してあげれば、ゼブル公爵はようやく罠に嵌められたと気付いて顔を青ざめさせた。


「ぐ……こ、小娘が……若輩者ごときが私を……嵌めおったかっ!!」

「さて、交渉の場に不慣れゆえに分からないのですが。この場で失態を犯したのは……いったいどなたでしょうね?」

 微笑みながら問いかけた言葉。
 意趣返しの問いかけに、ゼブル公爵は歯ぎしりして私を睨むだけだった。
 
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