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皇帝陛下の愛し方
76話
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「レイラ……君との婚約を破棄させてもらう!」
帝国の城内で開かれた、荘厳な社交界。
貴族達が集まるその場に声が響き、周囲の視線が叫んだ人物へと注がれた。
その人物はアイゼン帝国の公爵家令息––ベルモンド。
彼が指をさして婚約破棄をしたのは、伯爵令嬢––レイラだ。
「……何を言っているの。ベルモンド」
「俺は真実の愛を見つけたのだ! 今日から……このリンダと婚約を結ぶ!」
ベルモンドが抱きしめるのは、伯爵令嬢のリンダ。
見せつけるように口付けを交わしながら、彼はレイラを嘲笑った。
「お前のような女よりも、リンダのような女性と一生を添い遂げたいのだ!」
「私は……婚約だけでなく、貴方の事業にも手を貸してきました。全ては我が家へ融資して頂く約束のため……それを反故とするのですか?」
レイラは悲しみを殺して冷静に対応する。それが帝国貴族としての矜持。
対して婚約破棄を宣言したベルモンドは下品な笑い声を上げる。
「我が公家は、お前の伯家など要らぬと判断したのだよ。訳の分からぬ物を作るような伯家はな!」
「あれは……この国を」
「黙れ! 婚約は破棄だ! さっさと消えろ! 見苦しい!」
「支えてきた私に、この扱いですか。もう……いいです」
利用された挙句、皆の前で侮辱された悔しさで涙を流したレイラをベルモンドに寄り添うリンダが笑った。
「あはは! 無様ね! もう社交界の皆が聞いたの、婚約破棄は成立よ!」
「リンダの言う通り、無様な女だな。皆にも宣言しよう! この日を持って俺は婚約破棄を––」
「黙れ」
「え……ぶぇっ!!!?」
突如としてベルモンドの顔が強い衝撃によって横へと傾く、葡萄酒の酒瓶を投げられたのだ。
瓶が当たり、ゴンっと鈍い音がしてベルモンドは痛みに悶えた。
「っ……だ、誰が!?」
「黙れと言っている。どこで騒いでいる。貴様」
「俺が公家だ……と知って! ……ぁぁぁ」
視線を上げたベルモンドは、一瞬にして血の気を失っていく。
「へ……陛下!?」
「誰だ、貴様」
「公家の令息ですな」
ベルモンドの前に現れたのは皇帝シルウィオ、そして公卿ジェラルドだった。
いつもは社交界に現れない顔ぶれに、周囲からもざわめきが広がる。
「ど、どうして……こ、今夜も陛下は社交界に不参加だと」
「黙れ、発言は許可していない」
答えたシルウィオは、ジェラルドと何やら小声で話して会場の扉へと視線を注いでいる。
公家の令息である自分には見向きもしない皇帝に、ベルモンドは思わず口を開いた。
「あ、あの! 今は俺が婚約破棄を皆に宣言しているのです! 邪魔をしないで頂きたい!」
「……」
「公家として、俺が結婚する相手は周知せねばなりません。いつまでも伯家のレイラと婚約をしていると思われる訳にはいきませんからね。だから、この場を借りて宣言しております。ご理解を」
「……それを、俺が許可したか?」
「は? な、なにを……あがっ!?!!」
ベルモンドが言葉を発した瞬間、彼の首をシルウィオが掴み上げる。
強烈な力に足が浮かんで苦しさにもがくベルモンドへ、シルウィオは淡々と呟いた。
「婚約破棄などどうでもいい……だがこの社交界は、貴族同士の交流のために城内を皆に提供している。それを……仲を繋ぐためでなく、断つために利用することを俺が許したか?」
「っが……!!」
「社交界とは、代々続く伝統によって開かれる誇り高き場。貴様がそれを乱したこと、我が帝国への愚弄に等しい」
「ち、ちが……っ!?!?!!」
シルウィオはそのまま、大きく振りかぶってベルモンドを投げた。
投げた先は……先程までベルモンドと笑っていたリンダだった。
「え! ちょ!?!? いや!!」
「おぐっ!?!!」
「ぶぇ!!」
鈍い音が鳴り響き、周囲の机を巻き込みながら壁まで叩きつけられた二人は沈黙する。
鼻血を流し、貴族らしかぬ姿となって気絶したのだ。
投げたシルウィオは、見守っていた帝国騎士へと視線を向けた。
「直にカティ達がくる、綺麗に片付けろ。それと……伝統ある社交界を乱したその二人は、後に処罰を下す」
「「「はっ!!」」」
指示を受けた帝国騎士達は、驚く速さで会場を片付けていく。
周囲の貴族が呆気にとられる中、シルウィオは再び会場の扉へ視線を向けた。
そのシルウィオへ、ジェラルドがとある機械を渡す。
撮影機と呼ばれるそれは、つい最近とある帝国貴族が開発した物だ。
魔力を込める事により、映像を記録して写真にする装置。
それを持ち、二人は小声で話し合う。
「ジェラルド、何処を押せばいい」
「た……確か、ここかと」
「本当か?」
「も、申し訳ありません。なにせこういった複雑の物は苦手で」
「…………おい、そこのお前」
周囲を見渡したシルウィオは、婚約破棄されたレイラへと声を出す。
それもそうだった。なにせこの機械を開発したのは、彼女とその父であったからだ。
役に立たないとベルモンドから馬鹿にされながらも苦労して仕上げた品。
父から開発した装置を帝国へ献上したと聞いていたが、まさか皇帝自らが持っているとは知らず、レイラは驚きを隠せないでいた。
「レイラといったか」
「は! はい!」
「どう使う?」
「え……えっと、ここを押してくだされば……」
「なるほど」
慌てるレイラの説明にジェラルドはメモをとり、シルウィオは真剣に聞いた。
説明が終われば、シルウィオはその撮影機を会場の扉へ向ける。
「感謝する。これでカティ達の記録を残せる」
「い、いえ! し……しかし一機で撮れるのは百枚までです。高価な品ですので、枚数にご注意して使ってください」
「分かっている」
そんな会話を交わしていた時、会場の扉が開かれた。
視線が集まる中、扉を開いたグレインの後に入って来たのは……
着飾ったカーティア皇后、そして彼女の両手を繋いで入ってきたのは。
皇女リルレット、そして初めて社交界へと来て緊張している皇子テアだった。
三人が会場へと入って来た時。
パシャっと。
軽快な音が鳴り、シルウィオが撮影機で撮影する。
レイラもそれを見て、微笑ましいと思った。
瞬間だった。
パシャ
パシャシャシャシャシャシャシャシ「え……?」ャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ「へ、陛下?」シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャャシャシャ「と……撮りすぎ……」シャシャシャシャシャ
「ジェラルド、替えを」
「はっ!!」
「あ……あの」
やり取りを交わしていた時、カーティアがシルウィオへと気付いて子供達へ知らせる。
リルレットが笑顔を浮かべ、テアも喜んだ表情を浮かべた時だった。
パシャ
パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ「陛下?」シャシャシャシャシャ「高価な物で……」シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ「あの……」シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ
「よし、可愛さを逃さず撮れた」
「見事です、陛下」
「あ……あの……」
満足したシルウィオは、撮影機をジェラルドへと渡してレイラへと視線を向けた。
「増産しろ、資金の援助はする。これは……帝国をより豊かにするはずだ」
「え……あ、ありがとうございます!!!!」
今までの苦労が報われたような気持ちと……感謝を伝えるため。
家族の元へと向かう皇帝へ、レイラは頭を下げた。
後にこの撮影機は帝国だけでなく他国にも広がって巨万の富を生む事となる。
その火付け役となった皇帝は、何も知らずに家族の元へと向かった。
「お父様!」
「こい、リル」
駆けてきたリルレットを抱き上げ、遅れてよちよちと歩いてきたテアもシルウィオは抱き上げた。
「おとたーー!」
「頑張ったな、テア」
「うん。おとたがまってたもん」
「いい子だ」
「あー! リルもいい子して!」
「あぁ」
「てあもー!」
二人の子を抱き上げる皇帝の姿に、先程までのような威圧は無い。
そして、笑顔で近づく皇后に彼の頬は自然と柔らかくなっていく。
「ありがとうね、シルウィオ」
「いい。カティのためだ」
皇后の存在は、確かに皇帝を変えた。
見守っていた貴族達は皆がそう考え、微笑ましい気持ちの中で社交界は再び和やかに進んでいった。
◇◇◇
二人の子が寝静まった夜。
寝室のソファーに腰掛けたシルウィオとカティは、身を寄せて写真を見つめる。
「……良く撮れてますね」
「俺の腕がいい」
「ふふ、そうかも」
微笑みつつ、カーティアは甘えるようにシルウィオの膝の上へと座った。
そして見つめ合えば、シルウィオは照れたように視線を逸らす。
「いつも、ありがとう。シルウィオ……お礼しても足りないよ」
「俺は……」
シルウィオは、カーティアの首筋へと手を回し……そっと口付けを交わす。
髪を優しくすきながら、笑みを浮かべて。
「これで、充分だ。カティ」
「……大好き」
「俺もだ。愛してる」
向き合いながら、抱きしめ合う。
また口付けを交わしては、二人で微笑んで話し合う。
子供達が寝静まった夜に訪れた些細な二人の時間。
それを大切にする夫婦は、甘く……想いを伝え合った。
◇◇◇
数日後、執務室。
「……これが報告の全てです」
「分かった、グレイン」
グレインを含む、城内の帝国騎士が活動報告を皇帝へと伝える。
それを受けた皇帝は頷き、静かに呟いた。
「内容は確認しておく、持ち場に戻れ」
「え……良いのですか?」
報告書の途中で切り上げの指示を出した皇帝に、思わず帝国騎士が答えるが……
傍に立つグレインが首を横に振った。
「いい、さっさと出るぞお前達。……陛下、ごゆっくり」
「あぁ」
外へと出て行ったグレイン達を見送ると、シルウィオはコソコソと執務机の引き出しから写真を取り出す。
それを見つめながら、誰にも見せぬ微笑みを浮かべる。
皇帝として忙しいシルウィオの、新たな休息方法。
それを知る者は、側近しかいない。
帝国の城内で開かれた、荘厳な社交界。
貴族達が集まるその場に声が響き、周囲の視線が叫んだ人物へと注がれた。
その人物はアイゼン帝国の公爵家令息––ベルモンド。
彼が指をさして婚約破棄をしたのは、伯爵令嬢––レイラだ。
「……何を言っているの。ベルモンド」
「俺は真実の愛を見つけたのだ! 今日から……このリンダと婚約を結ぶ!」
ベルモンドが抱きしめるのは、伯爵令嬢のリンダ。
見せつけるように口付けを交わしながら、彼はレイラを嘲笑った。
「お前のような女よりも、リンダのような女性と一生を添い遂げたいのだ!」
「私は……婚約だけでなく、貴方の事業にも手を貸してきました。全ては我が家へ融資して頂く約束のため……それを反故とするのですか?」
レイラは悲しみを殺して冷静に対応する。それが帝国貴族としての矜持。
対して婚約破棄を宣言したベルモンドは下品な笑い声を上げる。
「我が公家は、お前の伯家など要らぬと判断したのだよ。訳の分からぬ物を作るような伯家はな!」
「あれは……この国を」
「黙れ! 婚約は破棄だ! さっさと消えろ! 見苦しい!」
「支えてきた私に、この扱いですか。もう……いいです」
利用された挙句、皆の前で侮辱された悔しさで涙を流したレイラをベルモンドに寄り添うリンダが笑った。
「あはは! 無様ね! もう社交界の皆が聞いたの、婚約破棄は成立よ!」
「リンダの言う通り、無様な女だな。皆にも宣言しよう! この日を持って俺は婚約破棄を––」
「黙れ」
「え……ぶぇっ!!!?」
突如としてベルモンドの顔が強い衝撃によって横へと傾く、葡萄酒の酒瓶を投げられたのだ。
瓶が当たり、ゴンっと鈍い音がしてベルモンドは痛みに悶えた。
「っ……だ、誰が!?」
「黙れと言っている。どこで騒いでいる。貴様」
「俺が公家だ……と知って! ……ぁぁぁ」
視線を上げたベルモンドは、一瞬にして血の気を失っていく。
「へ……陛下!?」
「誰だ、貴様」
「公家の令息ですな」
ベルモンドの前に現れたのは皇帝シルウィオ、そして公卿ジェラルドだった。
いつもは社交界に現れない顔ぶれに、周囲からもざわめきが広がる。
「ど、どうして……こ、今夜も陛下は社交界に不参加だと」
「黙れ、発言は許可していない」
答えたシルウィオは、ジェラルドと何やら小声で話して会場の扉へと視線を注いでいる。
公家の令息である自分には見向きもしない皇帝に、ベルモンドは思わず口を開いた。
「あ、あの! 今は俺が婚約破棄を皆に宣言しているのです! 邪魔をしないで頂きたい!」
「……」
「公家として、俺が結婚する相手は周知せねばなりません。いつまでも伯家のレイラと婚約をしていると思われる訳にはいきませんからね。だから、この場を借りて宣言しております。ご理解を」
「……それを、俺が許可したか?」
「は? な、なにを……あがっ!?!!」
ベルモンドが言葉を発した瞬間、彼の首をシルウィオが掴み上げる。
強烈な力に足が浮かんで苦しさにもがくベルモンドへ、シルウィオは淡々と呟いた。
「婚約破棄などどうでもいい……だがこの社交界は、貴族同士の交流のために城内を皆に提供している。それを……仲を繋ぐためでなく、断つために利用することを俺が許したか?」
「っが……!!」
「社交界とは、代々続く伝統によって開かれる誇り高き場。貴様がそれを乱したこと、我が帝国への愚弄に等しい」
「ち、ちが……っ!?!?!!」
シルウィオはそのまま、大きく振りかぶってベルモンドを投げた。
投げた先は……先程までベルモンドと笑っていたリンダだった。
「え! ちょ!?!? いや!!」
「おぐっ!?!!」
「ぶぇ!!」
鈍い音が鳴り響き、周囲の机を巻き込みながら壁まで叩きつけられた二人は沈黙する。
鼻血を流し、貴族らしかぬ姿となって気絶したのだ。
投げたシルウィオは、見守っていた帝国騎士へと視線を向けた。
「直にカティ達がくる、綺麗に片付けろ。それと……伝統ある社交界を乱したその二人は、後に処罰を下す」
「「「はっ!!」」」
指示を受けた帝国騎士達は、驚く速さで会場を片付けていく。
周囲の貴族が呆気にとられる中、シルウィオは再び会場の扉へ視線を向けた。
そのシルウィオへ、ジェラルドがとある機械を渡す。
撮影機と呼ばれるそれは、つい最近とある帝国貴族が開発した物だ。
魔力を込める事により、映像を記録して写真にする装置。
それを持ち、二人は小声で話し合う。
「ジェラルド、何処を押せばいい」
「た……確か、ここかと」
「本当か?」
「も、申し訳ありません。なにせこういった複雑の物は苦手で」
「…………おい、そこのお前」
周囲を見渡したシルウィオは、婚約破棄されたレイラへと声を出す。
それもそうだった。なにせこの機械を開発したのは、彼女とその父であったからだ。
役に立たないとベルモンドから馬鹿にされながらも苦労して仕上げた品。
父から開発した装置を帝国へ献上したと聞いていたが、まさか皇帝自らが持っているとは知らず、レイラは驚きを隠せないでいた。
「レイラといったか」
「は! はい!」
「どう使う?」
「え……えっと、ここを押してくだされば……」
「なるほど」
慌てるレイラの説明にジェラルドはメモをとり、シルウィオは真剣に聞いた。
説明が終われば、シルウィオはその撮影機を会場の扉へ向ける。
「感謝する。これでカティ達の記録を残せる」
「い、いえ! し……しかし一機で撮れるのは百枚までです。高価な品ですので、枚数にご注意して使ってください」
「分かっている」
そんな会話を交わしていた時、会場の扉が開かれた。
視線が集まる中、扉を開いたグレインの後に入って来たのは……
着飾ったカーティア皇后、そして彼女の両手を繋いで入ってきたのは。
皇女リルレット、そして初めて社交界へと来て緊張している皇子テアだった。
三人が会場へと入って来た時。
パシャっと。
軽快な音が鳴り、シルウィオが撮影機で撮影する。
レイラもそれを見て、微笑ましいと思った。
瞬間だった。
パシャ
パシャシャシャシャシャシャシャシ「え……?」ャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ「へ、陛下?」シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャャシャシャ「と……撮りすぎ……」シャシャシャシャシャ
「ジェラルド、替えを」
「はっ!!」
「あ……あの」
やり取りを交わしていた時、カーティアがシルウィオへと気付いて子供達へ知らせる。
リルレットが笑顔を浮かべ、テアも喜んだ表情を浮かべた時だった。
パシャ
パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ「陛下?」シャシャシャシャシャ「高価な物で……」シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ「あの……」シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ
「よし、可愛さを逃さず撮れた」
「見事です、陛下」
「あ……あの……」
満足したシルウィオは、撮影機をジェラルドへと渡してレイラへと視線を向けた。
「増産しろ、資金の援助はする。これは……帝国をより豊かにするはずだ」
「え……あ、ありがとうございます!!!!」
今までの苦労が報われたような気持ちと……感謝を伝えるため。
家族の元へと向かう皇帝へ、レイラは頭を下げた。
後にこの撮影機は帝国だけでなく他国にも広がって巨万の富を生む事となる。
その火付け役となった皇帝は、何も知らずに家族の元へと向かった。
「お父様!」
「こい、リル」
駆けてきたリルレットを抱き上げ、遅れてよちよちと歩いてきたテアもシルウィオは抱き上げた。
「おとたーー!」
「頑張ったな、テア」
「うん。おとたがまってたもん」
「いい子だ」
「あー! リルもいい子して!」
「あぁ」
「てあもー!」
二人の子を抱き上げる皇帝の姿に、先程までのような威圧は無い。
そして、笑顔で近づく皇后に彼の頬は自然と柔らかくなっていく。
「ありがとうね、シルウィオ」
「いい。カティのためだ」
皇后の存在は、確かに皇帝を変えた。
見守っていた貴族達は皆がそう考え、微笑ましい気持ちの中で社交界は再び和やかに進んでいった。
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二人の子が寝静まった夜。
寝室のソファーに腰掛けたシルウィオとカティは、身を寄せて写真を見つめる。
「……良く撮れてますね」
「俺の腕がいい」
「ふふ、そうかも」
微笑みつつ、カーティアは甘えるようにシルウィオの膝の上へと座った。
そして見つめ合えば、シルウィオは照れたように視線を逸らす。
「いつも、ありがとう。シルウィオ……お礼しても足りないよ」
「俺は……」
シルウィオは、カーティアの首筋へと手を回し……そっと口付けを交わす。
髪を優しくすきながら、笑みを浮かべて。
「これで、充分だ。カティ」
「……大好き」
「俺もだ。愛してる」
向き合いながら、抱きしめ合う。
また口付けを交わしては、二人で微笑んで話し合う。
子供達が寝静まった夜に訪れた些細な二人の時間。
それを大切にする夫婦は、甘く……想いを伝え合った。
◇◇◇
数日後、執務室。
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グレインを含む、城内の帝国騎士が活動報告を皇帝へと伝える。
それを受けた皇帝は頷き、静かに呟いた。
「内容は確認しておく、持ち場に戻れ」
「え……良いのですか?」
報告書の途中で切り上げの指示を出した皇帝に、思わず帝国騎士が答えるが……
傍に立つグレインが首を横に振った。
「いい、さっさと出るぞお前達。……陛下、ごゆっくり」
「あぁ」
外へと出て行ったグレイン達を見送ると、シルウィオはコソコソと執務机の引き出しから写真を取り出す。
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