死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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三章

思惑3・エリーside

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 グレインを貶めるための会。
 そこにアイゼン帝国の皇帝陛下が現れた事で、レイル王国との国交の断然が宣言された。

 その責任を全て擦り付けられて、私と夫はレイル王国の国王陛下に呼ばれた。
 玉座の間で跪き、冷や汗を流す。
 陛下の睨む視線には、明らかな怒りが含まれていた。

「ローレン伯爵、そしてその夫人よ。貴殿らはあのアイゼン帝国の皇帝陛下や皇后様、さらにはそのご子息を招待した会にて、我が国を貶める行為を働いたらしいな」

「っ!!」

 あの時、皇帝陛下の前で晒してしまったレイル王国貴族の醜態。
 それらの責任を貴族達は……主催だった私達ローレン夫妻へと丸投げしたのだ。

 そのせいで、私達は……アイゼン帝国との交流を絶やした重罪人となった。

「貴殿らの責任は重い。我が国の文官が必死に帝国と交流を結ぼうとした労力……その全てを無に帰したのだから」

「も、申し訳ありません陛下。ですが……私はなにも関係がありません。全てはエリーの行為です」

「っ!?」

 夫であるローレンは、あっさりと私を見放す。
 全ての責任が私にあると、その口で告げるのだ。

「エリーが皇后様達に気付かずに招待をして、あのような醜態を晒したのです!」

「なっ!? 違うわ、公爵様を招待したのは……ローレンで!」

「黙らんか!」

 空気を震わせるような叫びと共に、陛下が座っていた椅子を叩く。

「すでにあの会場にいた全ての貴族に、相応の処罰を下す予定だ。爵位のはく奪や、階級の降下。全責任を負わせる予定は変わらん!」

「そんな……陛下……私はなにも……」

「黙れと言っている。その中で、お前達の責任は特段重いからこそ、謁見を開いたのだ」

 陛下は立ち上がり、私達に指を刺して叫んだ。

「お前達は、処刑に値するほど……国益を損なったのだぞ」

「そ、そんな!」

「一か月後にはお前達の刑を執行する。それまでは監視を付ける。命を亡くす準備をしておけ……逃げられると思うな」

 身体が震えた。 
 あと一か月という期間。
 死が眼前に迫った恐怖で呼吸が荒くなる。

「出て行け。貴様らの顔も見たくない」

「そんな! 陛下! 私達にお慈悲を!」
「どうか! どうか!」

「連れていけ!」

 陛下に追い出されて、私達は屋敷へと連れ戻される。
 さらに屋敷の外には監視の騎士がおり、逃げることも許されていない。
 あと一か月……死を待つだけだというの?


「お前のせいだぞ! エリーッ!」
 
「っ!!」

 私の髪を掴み、怒声をあげるローレンに対して。
 反抗するように彼の顔に爪を立てた。

「ぐっ!?」

「あ、貴方が公爵様を呼んだせいよ。それに……グレインの身分も、貴方が明かしていたのよね!?」

「そ、それは……」

「そのせいで貴族達はグレインを貶したのよ! 貴方のせいよ!」

「お、お前こそ!」

 醜い言い争いをしても、現状は変わらない。
 それが分かっているのに、私達はなにも出来ずに喚くだけしかできなかった。
 むなしいほどの無力の中で……私達はお互いに罵り合う。

 その時だった。

「なにか……あったのですか?」

 鈴のような声と共に、喚く私達へと声をかけた人物。
 私の妹であり、この屋敷で共に住む……リーシアが来ていた。

「リーシア……」

「いったい……なにが……?」

 私から三つ歳が下のリーシアは、生活費を払って私達と同じ屋敷に暮らしている。
 結婚適齢期を過ぎ、彼女がまだ結婚していないのには、理由がある。

 それは……

「貴方には関係ないわよ。目も見えないのだから……大人しくしていなさい!」

「っ!!」

 リーシアは盲目だ。
 故に、婚約関係などを結べず……私の両親はそんな妹を疎ましく思い、私に世話をしろと投げた。
 このレイル王国では、盲目の者に新たな屋敷など売らず、借りさせない者が多い。

 そのせいで、リーシアはずっと私達の屋敷に住むしかなかった。

「ごめんなさい……部屋に、戻ってます」

 壁に手を触れつつ、リーシアはゆっくりと歩いていく。
 だが、その手を夫のローレンが止めた。

「待て」

「っ!?」

「ずっと役立たずだった妹にも、役割が見つかったな、エリー」

「なにを言って……?」

 ローレンはリーシアの腕を強く引いて、彼女に指をさす。

「リーシアに皇帝陛下へ謝罪に向かわせる」

「なっ!? 当事者でもないのに……そんなことをさせれば、余計に……」

「恐らく俺達がいくら謝罪しても許してなどもらえん。だが盲目のリーシアが謝罪に向かえば……温情を得られるだろう」

「っ!?」

「な、なにを言っているのですか?」

 確かに……それなら万が一にも可能性があるかもしれない。
 皇帝陛下とて、盲目の女性が謝罪をしに行くのだから無下にもできないだろう。

「リーシア、貴方にはやってもらう事があるわ」

「お姉様?」

「ここまで屋敷に置いていてあげたのだから……命を絶つ気で、謝罪してきなさい」

 私達は早速、盲目のリーシアを馬車に乗せてアイゼン帝国へと向かわせる。
 事情の説明は従者にさせておくから問題ないだろう。


 彼女には……自害してでも許しを乞えと言っておく。
 もしも許してもらなければ、帰ってきても追い出すと伝えておいた。


 やっと、ずっと役立たずだった妹の使い道ができた。
 あとは待つだけだ。

「とりあえず、今はあの妹の帰りを待つだけね」

 全てを妹に任せて、後は皇帝の許しをもらうだけ。
 それを待つ間、私はふと妹が普段引きこもっている部屋を覗いてみた……

 そして……その光景に驚いてしまった。


「なに……これ?」


 今まで見てこなかった妹の部屋には、驚くほどに大量の紙が散らばっていた。
 盲目のリーシアが、一体この部屋でなにをしていたというの……?
 
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