死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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三章

114話 進む二人④

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「おかさま、こっちきて」

 私––カーティアは、今日もアイゼン帝国の庭園にて子供達と過ごす。
 娘のリルレット、長男のテアはコッコちゃんと走り回っている。
 そして、まだ三歳程の次男のイヴァが私を呼んでいた。

「どうしたの、イヴァ」

「これね、あげゆ」

 イヴァが小さな手をこちらへ伸ばすと、綺麗なタンポポを渡してくれたのだ。
 プレゼントなのだろう、なんて可愛いのだろうか。
 子供達の一挙手一投足全てに愛しさを感じて、イヴァを抱きしめる。

「ありがとう、イヴァ」

「えへへ、おかさまのぎゅう。イヴァ、すき」


 可愛いらしい子供達との日々、いつもの平穏を過ごしていた時。
 ふと、庭園内の草を踏み分ける音が聞こえ出す。

 
「カーティア様、少しよろしいでしょうか」

 かけられた声に視線を上げる。
 そこには、今日は休暇を取っていたはずの護衛騎士のグレインが、リーシアさんを連れて私の元までやって来ていた。
 いったい、どうしたというのだろうか。

「二人とも休暇で出かけると聞いていたけれど、どうして私の所に?」

「じ、実はカーティア様にはご報告を……以前にお聞きしていたケーキ店にふ、二人で向かおうと思っております」

「……」

 そういえば、以前にグレインがリーシアさんと二人で何処に行こうか聞いてきていたな。
 わざわざ向かう事を報告なんて、律儀な二人に少し笑ってしまう。
 とはいえ、二人の雰囲気は私から見てもいい感じだ。

 グレインが手を引いているリーシアさんの手は、指が僅かに絡んでおり……
 リーシアさんも向けられた気持ちに気付いているのか、面映ゆそうに頬を赤らめている。

「羨ましいわね、この初々しさ」

「え、カーティア様……何を言って」

「いえいえ、何でもないわ。報告してくれてありがとう、こちらは気にせずに二人で楽しんでちょうだい」

 もう互いに気持ちに気付いていそうなのに、あと一歩足りないといった様子。
 こんなに見ていていじらしい二人は居ないし、邪魔もする訳にはいかないだろう。
 当たり前だが、デートを止めるなんて野暮はせずに送り出す。

「上手くいくといいわね。二人とも……」

 二人が帰ってきたら、また話を聞かせてくれるだろうか。
 今から、それが楽しみだ。
 そう考えながら、グレイン達が去った後はまた子供達を見ていると……

「あ、あれ…………なに?」

 帝国城内へと視線を向けると、ジェラルド様が急しそうに歩いているのが見えた。
 特に気になったのは、彼の袖に真っ赤な血が付着していた事だ。

「リル、テア……少しイヴァを見ていてくれる?」
 

「わかったよお母様」
「イヴァ、一緒にあそぼ~」

「うん、イヴァあそぶ!」

 リルレットとテアに、イヴァを任せてジェラルド様の後を追う。
 グレイン達の初々しさと、ほんわかした雰囲気に似つかわしくないジェラルド様の様子が気になったからだ。

 彼が手に血を付けながら向かったのは地下室。
 隠れて着いて行った先の光景に、思わず声が出てしまった。

「な、なにをしているのですか……」

「カ、カーティア様!?」

 隠れているのも忘れて声が出てしまったのは無理もない。
 なにせ、そこには数十人もの素行の悪そうな男達がシルウィオの前に居たからだ。
 それも全員がかなりボコボコにやられている!?

「カティ、どうしてここに?」

「シルウィオ、これは一体どういうこと?」

 事情を詳しく聞けば、以前にシルウィオが捕らえた賊達。
 実はあれには裏を引く人物がおり、胴元が手も汚さずに邪な考えを持つ人間を操って犯罪を起こさせていたらしい。

 組織だった犯罪、さらには胴元まで簡単に身元が特定できぬ巧妙さ……
 確かに事情を聞けば早急に対処せねば、アイゼン帝国が裏から蝕まれてしまう組織に思えた。
 とはいえ……

「あの日、賊を捕らえてからまだ二日も経っていないのに、もうこんなに……」

「捕らえていった順にジェラルドが胴元まで繋がる者を聞き出し、俺が捕らえていった。おかげで胴元まであと少しで届く」

 ジェラルド様はそんな荒行をこなしながら、執務を滞りなく行っていたらしい。
 私はその執務から帰ってきた道中を発見したようだ。

「それで、どこまで分かったのですか?」

「今日、––––という場所にて組織の胴元主導で、賊共が商家に強盗を行う事が分かった」

「きょ、今日ですか!?」

 なんて事だ、今聞いた場所はグレインとリーシアさんが向かうケーキ店の近くだ。
 あの二人の行き先でそんな事が起これば、デートなんて台無しになってしまう。

「その強盗には、胴元の現在の居場所を知る者がいる。ここで確実に捕らえる」

「シルウィオ、聞いてください。そこにはグレイン達が向かっています」

「……」

 シルウィオが強盗を止めに行くのは不安は無い、むしろ賊達がご愁傷様というぐらいだ。
 でも、あんなに雰囲気の良かった二人の前に、血まみれのシルウィオなんかが出てきたら……
 駄目だ、絶対にグレインが仕事モードになってしまう!
 デートが台無しだ。

 でもでも、グレイン達に見つからずに強盗を止めてほしい、そんな無茶は絶対に言えない。
 その考えにいきついて焦る私だったが、シルウィオは少し微笑んで私の髪を撫でた。

「大丈夫だ。言いたい事は分かってる。だから今回、俺は強盗を止めに行かない」

「え?」

「俺では、見つからずに賊を処理するのは無理だ」

「なら、誰がやるのですか?」

「適任者がいる」

 シルウィオが視線を向けたのは、ジェラルド様だった。
 そしてその彼は、珍しく細身の剣を腰に差しながらニコリと笑っていた。

「カーティア様。此度はこの老いぼれにお任せください」
 
「ジェラルド様が?」

 彼は確かにとんでもない力を持っているとは知っている……
 それでも、もう齢は五十を超えているし、どうしても心配が勝ってしまう。
 見つからずに何十人という集団組織を相手にできるの?

「不安なら、近くまで行こうか。ちょうどカティや子供達と過ごしたいから」

「そんな、旅行感覚で!?」

 とはいえ、不安のまま庭園に残るのは嫌な気持ちはある。
 だから今はシルウィオの提案を受け入れた。

 本当に、ジェラルド様は大丈夫だろうか。
 そんな不安を抱く私だったが……






 まぁ、もちろん。
 そんなの杞憂だったと直ぐに分かった。





   ◇◇◇


 シルウィオの提案により、子供達と馬車に乗って小高い丘にやってくる。
 いい天気なのでピクニックという名目だが、この場所からは件の強盗が行われる商家が見えるからだ。
 近くではもうグレイン達がケーキ店で、共にケーキを食べている頃だろう。

 私達と共に着いてきていたジェラルド様は、腰が痛いのかトントンと叩いている。
 リルレットに心配されて、少しマッサージしてもらっている程だ。
 本当に大丈夫だろうか、やはりシルウィオが手伝った方が……

「カティ、こい」

「え、あ……」
 
 子供達が遊んでいる中で、私の手をシルウィオが引いて隣に座らせる。
 不安そうな表情がばれたのか、彼は私の背に手を置いて安心させてくれた。

「ジェラルドに任せろ。問題ない」

「でも、相手は何十人もいるのですよね。やはりグレイン達に見つかってもいいから、シルウィオも……」

「忘れるな。グレインに剣を教えたのは、誰なのか」

「っ!」

 そんな話をしていた時。
 小高い丘から見える商家の周りに、幾つかの馬車が近づいているのが見えた。
 遠くから見ても分かるような、ガラの悪い男達が乗っている。

「やってきましたね。このジェラルドも久々に老体を動かしますか」

 その光景を見て、ジェラルド様が朗らかに笑った。

「カーティア様。少しだけお待ちくださいね……大丈夫ですから」

 余裕に満ちた笑みは、いつもの宰相様の表情だ。
 だが、その後に彼が振り返った時に一瞬だけ……鋭い眼差しになっているのが見えた。
 次の瞬間、彼は老体とは思えぬ速度で走り出していく。

 かなりの距離だったのに、もう賊達が乗っている馬車まで直ぐに辿り着いている!?

「後はもう、任せておけば終わる」

「え?」

 私はジェラルド様を丘から見ながら、シルウィオのセリフの意味が良く分かった。
 なにせ老体と思えぬ速度で、道行く人々にも気付かれずにジェラルド様は素早く族達を処理していくのだ。
 人々が行き交う、アイゼン帝国の日常を崩さずに、誰にも見せずに手早く問題を解決していていた。

 目で追っても、追えない速度だ。
 齢五十、普段は腰を痛そうにおおらかに笑って子供達の相手をしている彼を見ていた忘れていた。
 元はアイゼン帝国で最も力を振るっていた騎士であった、ジェラルド様の過去を。

「お待たせしました。やはり歳ですな、こんなに時間がかかってしまった」

 賊達は数十人居たはずなのに、それらを一時間も経たずに処理したジェラルド様。
 その涼しい表情と、返り血ひとつなく、子供達とまた微笑んで相手をする姿を見て……


 アイゼン帝国の本領を改めて知った。









   ◇◇◇◇

 更新が空いてしまっていて申し訳ありません。
 今年は色々と立て込んでおりましたが、来年からは更新を上げていこうと思っております。

 具体的には、月に一度の投稿で複数話を投稿しようかな……という具合です。
 無理はしない程度に更新はしていく予定です!

 またいつでも、お時間のある時にお付き合いくださると嬉しいです。

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