【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔

文字の大きさ
119 / 297
人界編

御伴の交代②

しおりを挟む
 とりあえず、亘と柾をその場で正座させ、村田に詫びさせる。

「どうすんだよ、こんなにしちゃって。今回は庇えないからな。ちゃんと怒られろよ」
「私は巻き込まれただけなんですが……」

 亘は不満げにそう零す。

「仕掛けられてそれを受けた時点で同罪だよ。しかも、これから綻びを閉じに行くんだぞ。何考えてんだよ、ホント」

 喧嘩両成敗。止めるわけでもなく挑まれて戦ったのなら、悪いのは二人共、だ。
 そもそも何でこんな事態になるのか、本当に理解できない。

「ひとまず俺達は結界の綻びを閉じてくるから、亘は片付けな」
「一人で、ですか?」
「亘以外に誰が居るんだよ。帰ってきたら柾にも手伝わせるけど、伯父さんと柊ちゃんが帰ってくる前に少しでも片付けておいたほうがいいだろ。村田さんに迷惑かけるなよ」

 亘は未だに納得いかなそうにこちらを見ている。でも、自業自得だ。もの言いたげなのを無視して、俺は柾に目を向ける。

「今回の護衛役は柾だろ。とにかく綻びへ向かおう。事情は行きながら聞く。戻ったらお前も片付けだからな」

 そう言うと、柾は悪びれた様子もなく、

「ええ、承知しました。亘よりも綺麗に復旧してみせましょう」

と爽やかな笑顔をこちらに向けた。

 ……そういう問題じゃない。
 亘に戦いを仕掛けた事にせよ、本家の壁に大穴を開けたことにせよ、反省しなければならないのは柾も同じだ。それなのに反省の欠片もみられない。むしろ悪いと思っていなさそうな分、亘よりもたちが悪い。

 ……なる程、問題児か……

 これが今日から護衛役かと思わず俺は頭を抱えた。


 亘と柾の戦いを一人で止めようとしていた女性が、今回動向する武官の最後の一人だった。椿という名の白鷺《しらさぎ》で、俺と柾を運んでくれるらしい。
 とはいえ、二人がそのまま彼女に乗るのは難しかったので、柾には黒い犬の姿に変わってもらった。小さな晦と朔に比べて随分と大きい。
 聞けば、もっと大きな姿に変わることもできるのだそうだ。

 巽は柾の上に、トンボの姿でピタリととまる。

 ブワっと空に舞い上がると、すごく優雅に夜空を進み始めた。如何に亘が普段荒っぽく飛んでいるかがよくわかる、丁寧な飛び方だ。
 それに、なんだかいつもより周囲が明るく見える。

「……っていうか、なんかちょっと光ってない?」

 よくよく見下ろすと、椿の体が青白く発光しているように見える。

「ええ、真っ暗な闇の中を進むより、その方が宜しいかと」

 ふふっと笑いながら言う椿に、俺は目を見開く。

「や、やめてよ! 夜空に飛行機以外で光る何かが飛んでたら、騒ぎになるから!!」

 慌てて半分叫びながら言うと、椿はビクッと体を震わせ、

「も、申し訳ありません!」

と言いながら、ふっと体の光をかき消した。

 体が光るというのは驚きだし、場合によっては凄く役立つ能力だろう。それに、良かれと思ってやってくれたのもわかる。でも傍から見たら完全にUFOだ。
 不思議な現象を撮影してやろうというやつは何処にでもいる。小鬼から隠れていた子どもも、悪鬼の封印を解いた男女も、遥斗だって。

 俺は、ハアと息を吐き出した。

「気持ちは嬉しいけど、できるだけ他の人間に気づかれないようにしたいんだ。頼むよ……」
「……はい。申し訳ございません……」

 いつも通りに綻びを閉じに行きたいだけなのに、着く前から前途多難だ。本題の前にこれ程疲れるのはいつ振りだろうか……

 そもそも今思えば、亘と汐は結の時から役目をこなしてきている分、だいぶ守り手に同行することに慣れていた。
 小さく気遣うように呼びに来るし、役目の前に妙な騒動は起こさないし、他の人間に気付かれる事には十分注意を払っている。

 自分で思っていた以上に、亘と汐と共に結界を閉じに行くことが当たり前になっていたのだと、別の者と行動することで実感する。
 まさか、あの二人が恋しくなるなんて。

 それもこれも、里の状況が安定していないのが原因だ。早く二人に戻ってきて欲しい。

「三人は、里の状況がどうなってるか聞いてる? 主に拓眞周辺」
「いえ、我ら下っ端には情報はあまり……今回の御役目を頂いたときに気をつけるようにと言われたくらいで、他には何も」

 巽は困った様な声音で言う。

「鬼を操っているかもしれぬなど、里の者に広まれば混乱しますからね。恐らく情報統制されているのだと思います。我らも口外しないように言われましたし」

 椿も殆ど何も知らないようだ。
 確かに、里の上位に位置する者が鬼を使って守り手や護衛役を襲ったとなれば大問題だし、いつ来るともわからない鬼への恐怖に里は混乱するだろう。

「柾は? 何か聞いてる?」

 俺は、眼の前の黒い犬に声をかける。

「詳しく調べるよう柊士様に言われましたが、私が次の護衛役になったのもあるのでしょうが、どうにも近づくのが難しいですね」
「そもそも、何で亘をあんなに執拗に殺そうとしたんだろう。護衛役を狙ってるってレベルじゃないだろ。それに、御役目の妨害に樹と碓氷が関与して拓眞が疑われる結果になるなんて、どう考えても悪手だ」
「まあ、小難しいことは私には良くわかりませんが、拓眞様御自身が直接亘に勝負を挑めばこんな面倒なことにはならなかったのにとは思いますね」

 ……まあ、それはそうなんだろうけど、さっきのように場所も考えず戦いを仕掛けるようなやつばかりになったら、それはそれで、別の混乱が起こりそうだ。
 むしろ、柾にはできたら考え方を改めてもらいたい。

 すると、巽は悪意なく面白がるようにクスクス笑う。

「柾さん、それじゃあ、拓眞様が瞬殺されちゃいますよ」
「そんなに力量差があるの?」
「拓眞様も力が無いわけではありませんが……淕さん、亘さん、柾さんと比較するとどうしても……」

 椿はそう言葉を濁すが、巽の方は拓眞を侮る様な言い方を止めようとしない。

「拓眞様との手合わせは、皆、何かと気を使いますから、御本人にはあまり自覚はないでしょうね。その点、亘さんも柾さんも、手心を加えることは一切ありませんし、淕さんも、守り手様の護衛役である以上負けるわけにはいきません。柊士様の護衛役はなんとしても守り抜きたいでしょうから」

 淕の場合、守り手の護衛役というより柊士の護衛役の座を譲りたくないって感じなんだろうな。

 そして、拓眞については忖度で勝たせてもらって、思い上がっていると理解した。亘があいつに手加減なんてするわけないし、瞬殺は言い過ぎだろうが、結果的にはそういう事になるのだろう。

「亘さんも、奏太様の護衛役を譲るつもりは無かったようですが、今回の件は相当悔しかったのでしょうね。里での稽古はまるで鬼気迫るように厳しかったですから」

 不意に、椿が思い出すようにポツリとそう零す。

「へぇ。いいこと聞いた」

 からかうネタを手に入れたという意味でも、少し安心したという意味でも。

 役目を一時的にでも離れる事になったことを、汐と亘自身はどう捉えているのだろうと今まで気になっていたのだ。本人達はあんな感じだし、亘に至ってはどうせ聞いたところで話をはぐらかすか、からかわれて終わりだ。
 だから、他の者から見たそういう話が聞けるのは素直に嬉しい。

「稽古で手合わせしても誰も相手にならず、溜まった鬱憤を晴らそうとした結果がさっきの惨事だったんでしょうけどね」

 付け加えられた巽の一言は、ひとまず聞かなかった事にしておくことにした。
 帰ってからの伯父さんと柊士の反応なんて想像したくない。

 ていうか、何が巻き込まれただけ、だよ。

 俺の護衛役であるはずの二人が引き起こした事態に、無関係を貫き通せる訳がない。
 一瞬よぎった二人の顔を、俺はすぐに頭の隅から追い出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

処理中です...