159 / 297
人界編
閑話 ―side.湊:唯一の居場所①―
しおりを挟む
母が後妻で、自分は兄達と腹違いであると聞いたのはいつだったか。
前妻は都築兄上と拓眞兄上を産んで死に、その後、父は私の母を迎えた。
亀島家の当主が見初め、里の外から新たに迎えられた幸運な妻。その美貌を外に出さぬよう、当主は大層妻を大事にし、屋敷を与えて何不自由なく過ごせるよう惜しみない愛情を与えていた。
しかしいつからか、体の弱い後妻は病に伏せるようになり、一層外に出ることはかなわなくなった。
表向きの話ではあったが、私自身もそう聞かされて育った。
伝染る病だからと母に会うことは許されず、母の住む離れではなく母屋に住まわされた。
いつか母の姿が見えぬかと、何度遠くから離れを眺めたかしれない。
私が物心ついた頃には、既に都築兄上は西の里に行っていて、母屋で過ごす兄弟は拓眞兄上だけだった。
都築兄上にはどうだったか知らないが、父は拓眞兄上にも私にも大して興味を示さなかった。雀野への劣等感と嫉妬、敵愾心だけで前に進むような人だった。
たまに子どもに興味を向けたかと思えば私と拓眞兄上とでは、扱いが異なっていた。
会えずとも母のいる私を羨んでか、後妻の子、病気が伝染ると虐げる拓眞兄上を、父は止めるでもなく黙認していた。
それどころか、面倒な事柄や裏方雑用ばかりを私に任せ、表にでる役目は拓眞兄上に任せていく。兄はそれに増長し、父のいない間の私への扱いは、まるで奴隷のようだった。使用人も父と兄の言いなりで、私に手を貸すような者はいなかった。
それでも、私の居場所はそこしか無かった。誰も手を貸してくれなくても、父に居ないように振る舞われても、腹違いの兄に奴隷のように働かされて暴力を振るわれても、私にはそこにしかいられる場所が無かった。
御番所に出るようになっても変わらない。力のない私は文官仕事をするようになったが、父の力が深く及ぶ御番所の中で、父の機嫌を損ねぬように、ただ黙々と働いた。
いつだっただろうか。父も兄も不在の日があった。使用人から無視をされても、横暴に振る舞う者が居ないだけで心が落ち着いた。疲れ果ててぼんやり縁側に座って離れを見る。
いつものように、扉も雨戸も固く閉じられ、まるで空き家のようにすら見えた。
でも、中には母がいるのか……そう思うと、自分の母という人がどんな人なのかを見たくなった。
父も兄も居ないのだ。今のうちならば会えるかもしれない、そう思った。
周囲を見回し、誰もいないことを確認して、離れの中に入った。暗い廊下を抜けて、母を探していくつも戸を開けていく。でも、離れには、母どころか誰もいない。シンと不自然な程に静まり返っていた。
どこかへ出かけているのだろうか、それとも、母などそもそもいなかったのだろうか。
そう思いつつ、一番奥の部屋の戸に手をかけた。
そこに現れたのは、部屋ではなく、地下へと続く階段。倉か何かだろうか、そう思い下っていくと、一体どこに続いているのか、鬼火のランプに点々と照らされた長い通路に出た。
通路と言っても、土穴を掘り固めたような粗末な作り。私は興味本位でその通路を辿っていった。
一体どこまで続くのか、歩いても 歩いても倉のようなものに着かない。
里の結界すら越えたのではないだろうか。父は里の者に知らせず良からぬものを隠しているのではないか。見てはいけないものでもあるのではないか。
何もない通路をひたすら歩いていると、そんな不安感が湧いてくる。
一方で、もしかしたら、なにかの理由で里に住めない母の住まいに続いているのかもしれない、そんな期待感もあった。
どれほど歩いたか、目の前に重く頑丈そうな扉が現れた。母の家と言うにはあまりに無骨で、父が里から隠したい何かなのだろう、そう落胆しながら、私は扉に手をかけた。
鍵はなく、重い扉がギギっと軋みながら開く。
中は土の壁がむき出しになった空間。その奥に、見たこともないほど美しい女が一人、ぽつんと座っていた。ただし、その手は縛られ、足は鎖で土壁に繋がれ、頭には白い角を二本生やしている。妖艶にニコリと笑いかけた女が鬼だとわかり、私は目を見開いて土の壁にトンと背を預けた。
父が隠したかったものはこれか、そう思った。
父が見初めるほどの美貌、病で外には出せぬ母、その母が居るはずの離れから長く続く通路の先にあった、土で出来た穴蔵。でも、そこにいたのは、手足を繋がれた鬼だった。
「……まさか、そんなはずは……」
思わず、そう言葉が漏れた。
そんなはずはない。きっと、父が何かに利用するために捕えただけの鬼だろう。鬼であれば、里から隠そうとするのもわかる。私とは無関係だ。
そう思いつつも、否定する頭とは裏腹に、真実を確かめんとする心と口が、勝手に動いていた。
「……お、お前の名は?」
恐る恐る尋ねる私に、鬼は少しだけ目を丸くした後、ニコリと笑む。
“たまぐも”
そう、鬼の口が動く。
声はない。ただ、口が動いただけ。
それでも、私には、脳裏に焼き付いて離れない程の衝撃だった。
“玉雲”
それは、会うことすら叶わなかった、自分の母の名だったから。
私は呆然とそこにへたりこんだ。
どれほどそうしていたかはわからない。
不意に、ガチャガチャと音が響き、ギイと扉が軋む。私が入ってきた扉ではない。もう一つ、別の扉があることに、その時初めて気づいた。
入ってきたのは、父の護衛役の一人。そしてその手に、意識を失った見知らぬ若い男を抱えていた。
護衛役は俺に気づくと驚いたように目を見開き、それから、まるで何かを企む父のような柔和な笑みをこちらに向けた。
「これはこれは、湊様。人目を盗み、御母上に会いにいらっしゃったのですか? 御父上にしっかり叱って頂かなくてはなりませんね」
言葉が出なかった。他者の口から、目の前の鬼が母だと明確に言われたことへの衝撃と、父に言いつけられることへの恐怖。逃げ出すこともできたかもしれないが、体がどうしても動かなかった。
護衛役は母の前に無造作にゴロッと若い男を転がす。何とも美しく満足げな顔を浮かべたあと、母は白く大きな牙を覗かせて、ガブリと男の首筋にかじりついた。
「貴方の御母上は大変に美食家でいらっしゃる。見目の良い男にしか食が進まぬようです。御気に召す者を見つけるにはなかなか苦労するのですよ」
どこか遠くに聞こえる護衛役の声をよそに、まるで飢えた獣のように口を血に染める姿に息を呑む。ただ、醜悪なはずのその行為に目を離せなくなったのは、私にも鬼の血が流れていたからかもしれない。
父の護衛役は母に食事を与えると、両側に鍵をかけられるようになっているのか、入ってきた扉に内側から鍵をかけ、私の腕を掴んで後ろ手に捻り上げて土の穴蔵から離れへ続く方の扉へ連れ出した。
母屋に入りに父の部屋に連れて行かれる。使用人はいつもの通りに見て見ぬふり。兄が居なかったことだけが唯一の救いだろうか。見られていれば、どの様にバカにされ外で言い触らされたかわからない。
護衛役が父の部屋の前で呼びかけると、いつ帰ってきたのか、父の声が中からくぐもって聞こえた。
父は驚いた様子もなく護衛役の報告を静かに冷めた表情で聞き、跪かされた私を見下ろしていた。
隠していたものを見られた後ろめたさも、子が言いつけを守らなかった憤りもない。
ただ、その辺の塵《ゴミ》でも見るような目だった。
「……私は、何者なのですか……」
興味の無さそうな父の様子にポロリと疑問がこぼれ落ちる。
父の口から聞きたくない。そうは思っても、どうしても黙っていられなかった。
「鬼の血を引く女と私の子だ。残念ながらな」
父は、説明するのも面倒だとばかりに、短く、そうとだけ告げた。それから、チラと私を捕えた護衛役を見る。
「ちょうど良い。あれの世話は子であるお前に任せる。燈《とう》、いろいろ教えてやれ」
そう言うと、父はしっしっと手を振り、私達を部屋から追い出した。
私の相手を任された燈は、面倒そうにしながらもいろいろ教えてくれた。
鬼と妖の混血で、人に紛れて暮らしていた母は、その美しさから、たまたま里の外に出ていた父に見つかり連れ帰られた。母は鬼の血が濃く、更に奇妙な力を持っていた。その力を封じるために声を奪い、鬼の力を振るわないように拘束し、深い土の穴蔵に閉じ込めたそうだ。父は人目を忍び母の元へ通っては、手足を拘束され動けぬ母を凌辱し、ついには私を孕ませた。
「鬼の血を引く忌み子、それが貴方様です」
燈は愉快そうにそう言った。
その日から、私の仕事に母の世話が加わった。
燈に連れられ、母の食料を探す。母は生粋の鬼ではないせいか食事の回数は然程多くなかった。けれど、数週に一度は必要であるため、人里に降りては見目の良い男を見つけて連れ帰る。
母の食料を捕るのは苦労した。母の気に入る容姿でないと食べようとしないからだ。その為、ちょうど良い年頃の若者であればそのまま攫《さら》い、まだ幼ければ目だけつけておいて育つのを待ち、良い頃合いで捕えるのだと教えられた。
食事すれば排泄も必要だ。離れに繋がるのとは別の扉はそのまま山中に出られるようになっていて、まるで囚人か愛玩動物のように鎖で繋がれた状態で、時折燈が外に連れ出していた。
「さすがに湊様にそのようなことはさせられませんから」
燈はそう言いつつ、私に任された仕事だと言うのに、食事も排泄も、甲斐甲斐しく対応してくれた。
身を清めるときには、燈の妻が駆り出され、こちらも丁寧に対応する。
“母は父に飼われている” そう表現するのが正しいのだと、夫婦を見ていてそう思った。
母のことを教えられたその日から、父の態度は明らかに変わった。兄上と私の差はよりハッキリ明確になり、御番所でも小間使いをさせられ、どんな些細な失敗も許されず詰り貶されるようになった。
“鬼の血を引く忌み子”
今までは、それでもある程度は何も知らぬ息子に対して取り繕おうとしていたのだと、真実を知らされて初めて理解した。
前妻は都築兄上と拓眞兄上を産んで死に、その後、父は私の母を迎えた。
亀島家の当主が見初め、里の外から新たに迎えられた幸運な妻。その美貌を外に出さぬよう、当主は大層妻を大事にし、屋敷を与えて何不自由なく過ごせるよう惜しみない愛情を与えていた。
しかしいつからか、体の弱い後妻は病に伏せるようになり、一層外に出ることはかなわなくなった。
表向きの話ではあったが、私自身もそう聞かされて育った。
伝染る病だからと母に会うことは許されず、母の住む離れではなく母屋に住まわされた。
いつか母の姿が見えぬかと、何度遠くから離れを眺めたかしれない。
私が物心ついた頃には、既に都築兄上は西の里に行っていて、母屋で過ごす兄弟は拓眞兄上だけだった。
都築兄上にはどうだったか知らないが、父は拓眞兄上にも私にも大して興味を示さなかった。雀野への劣等感と嫉妬、敵愾心だけで前に進むような人だった。
たまに子どもに興味を向けたかと思えば私と拓眞兄上とでは、扱いが異なっていた。
会えずとも母のいる私を羨んでか、後妻の子、病気が伝染ると虐げる拓眞兄上を、父は止めるでもなく黙認していた。
それどころか、面倒な事柄や裏方雑用ばかりを私に任せ、表にでる役目は拓眞兄上に任せていく。兄はそれに増長し、父のいない間の私への扱いは、まるで奴隷のようだった。使用人も父と兄の言いなりで、私に手を貸すような者はいなかった。
それでも、私の居場所はそこしか無かった。誰も手を貸してくれなくても、父に居ないように振る舞われても、腹違いの兄に奴隷のように働かされて暴力を振るわれても、私にはそこにしかいられる場所が無かった。
御番所に出るようになっても変わらない。力のない私は文官仕事をするようになったが、父の力が深く及ぶ御番所の中で、父の機嫌を損ねぬように、ただ黙々と働いた。
いつだっただろうか。父も兄も不在の日があった。使用人から無視をされても、横暴に振る舞う者が居ないだけで心が落ち着いた。疲れ果ててぼんやり縁側に座って離れを見る。
いつものように、扉も雨戸も固く閉じられ、まるで空き家のようにすら見えた。
でも、中には母がいるのか……そう思うと、自分の母という人がどんな人なのかを見たくなった。
父も兄も居ないのだ。今のうちならば会えるかもしれない、そう思った。
周囲を見回し、誰もいないことを確認して、離れの中に入った。暗い廊下を抜けて、母を探していくつも戸を開けていく。でも、離れには、母どころか誰もいない。シンと不自然な程に静まり返っていた。
どこかへ出かけているのだろうか、それとも、母などそもそもいなかったのだろうか。
そう思いつつ、一番奥の部屋の戸に手をかけた。
そこに現れたのは、部屋ではなく、地下へと続く階段。倉か何かだろうか、そう思い下っていくと、一体どこに続いているのか、鬼火のランプに点々と照らされた長い通路に出た。
通路と言っても、土穴を掘り固めたような粗末な作り。私は興味本位でその通路を辿っていった。
一体どこまで続くのか、歩いても 歩いても倉のようなものに着かない。
里の結界すら越えたのではないだろうか。父は里の者に知らせず良からぬものを隠しているのではないか。見てはいけないものでもあるのではないか。
何もない通路をひたすら歩いていると、そんな不安感が湧いてくる。
一方で、もしかしたら、なにかの理由で里に住めない母の住まいに続いているのかもしれない、そんな期待感もあった。
どれほど歩いたか、目の前に重く頑丈そうな扉が現れた。母の家と言うにはあまりに無骨で、父が里から隠したい何かなのだろう、そう落胆しながら、私は扉に手をかけた。
鍵はなく、重い扉がギギっと軋みながら開く。
中は土の壁がむき出しになった空間。その奥に、見たこともないほど美しい女が一人、ぽつんと座っていた。ただし、その手は縛られ、足は鎖で土壁に繋がれ、頭には白い角を二本生やしている。妖艶にニコリと笑いかけた女が鬼だとわかり、私は目を見開いて土の壁にトンと背を預けた。
父が隠したかったものはこれか、そう思った。
父が見初めるほどの美貌、病で外には出せぬ母、その母が居るはずの離れから長く続く通路の先にあった、土で出来た穴蔵。でも、そこにいたのは、手足を繋がれた鬼だった。
「……まさか、そんなはずは……」
思わず、そう言葉が漏れた。
そんなはずはない。きっと、父が何かに利用するために捕えただけの鬼だろう。鬼であれば、里から隠そうとするのもわかる。私とは無関係だ。
そう思いつつも、否定する頭とは裏腹に、真実を確かめんとする心と口が、勝手に動いていた。
「……お、お前の名は?」
恐る恐る尋ねる私に、鬼は少しだけ目を丸くした後、ニコリと笑む。
“たまぐも”
そう、鬼の口が動く。
声はない。ただ、口が動いただけ。
それでも、私には、脳裏に焼き付いて離れない程の衝撃だった。
“玉雲”
それは、会うことすら叶わなかった、自分の母の名だったから。
私は呆然とそこにへたりこんだ。
どれほどそうしていたかはわからない。
不意に、ガチャガチャと音が響き、ギイと扉が軋む。私が入ってきた扉ではない。もう一つ、別の扉があることに、その時初めて気づいた。
入ってきたのは、父の護衛役の一人。そしてその手に、意識を失った見知らぬ若い男を抱えていた。
護衛役は俺に気づくと驚いたように目を見開き、それから、まるで何かを企む父のような柔和な笑みをこちらに向けた。
「これはこれは、湊様。人目を盗み、御母上に会いにいらっしゃったのですか? 御父上にしっかり叱って頂かなくてはなりませんね」
言葉が出なかった。他者の口から、目の前の鬼が母だと明確に言われたことへの衝撃と、父に言いつけられることへの恐怖。逃げ出すこともできたかもしれないが、体がどうしても動かなかった。
護衛役は母の前に無造作にゴロッと若い男を転がす。何とも美しく満足げな顔を浮かべたあと、母は白く大きな牙を覗かせて、ガブリと男の首筋にかじりついた。
「貴方の御母上は大変に美食家でいらっしゃる。見目の良い男にしか食が進まぬようです。御気に召す者を見つけるにはなかなか苦労するのですよ」
どこか遠くに聞こえる護衛役の声をよそに、まるで飢えた獣のように口を血に染める姿に息を呑む。ただ、醜悪なはずのその行為に目を離せなくなったのは、私にも鬼の血が流れていたからかもしれない。
父の護衛役は母に食事を与えると、両側に鍵をかけられるようになっているのか、入ってきた扉に内側から鍵をかけ、私の腕を掴んで後ろ手に捻り上げて土の穴蔵から離れへ続く方の扉へ連れ出した。
母屋に入りに父の部屋に連れて行かれる。使用人はいつもの通りに見て見ぬふり。兄が居なかったことだけが唯一の救いだろうか。見られていれば、どの様にバカにされ外で言い触らされたかわからない。
護衛役が父の部屋の前で呼びかけると、いつ帰ってきたのか、父の声が中からくぐもって聞こえた。
父は驚いた様子もなく護衛役の報告を静かに冷めた表情で聞き、跪かされた私を見下ろしていた。
隠していたものを見られた後ろめたさも、子が言いつけを守らなかった憤りもない。
ただ、その辺の塵《ゴミ》でも見るような目だった。
「……私は、何者なのですか……」
興味の無さそうな父の様子にポロリと疑問がこぼれ落ちる。
父の口から聞きたくない。そうは思っても、どうしても黙っていられなかった。
「鬼の血を引く女と私の子だ。残念ながらな」
父は、説明するのも面倒だとばかりに、短く、そうとだけ告げた。それから、チラと私を捕えた護衛役を見る。
「ちょうど良い。あれの世話は子であるお前に任せる。燈《とう》、いろいろ教えてやれ」
そう言うと、父はしっしっと手を振り、私達を部屋から追い出した。
私の相手を任された燈は、面倒そうにしながらもいろいろ教えてくれた。
鬼と妖の混血で、人に紛れて暮らしていた母は、その美しさから、たまたま里の外に出ていた父に見つかり連れ帰られた。母は鬼の血が濃く、更に奇妙な力を持っていた。その力を封じるために声を奪い、鬼の力を振るわないように拘束し、深い土の穴蔵に閉じ込めたそうだ。父は人目を忍び母の元へ通っては、手足を拘束され動けぬ母を凌辱し、ついには私を孕ませた。
「鬼の血を引く忌み子、それが貴方様です」
燈は愉快そうにそう言った。
その日から、私の仕事に母の世話が加わった。
燈に連れられ、母の食料を探す。母は生粋の鬼ではないせいか食事の回数は然程多くなかった。けれど、数週に一度は必要であるため、人里に降りては見目の良い男を見つけて連れ帰る。
母の食料を捕るのは苦労した。母の気に入る容姿でないと食べようとしないからだ。その為、ちょうど良い年頃の若者であればそのまま攫《さら》い、まだ幼ければ目だけつけておいて育つのを待ち、良い頃合いで捕えるのだと教えられた。
食事すれば排泄も必要だ。離れに繋がるのとは別の扉はそのまま山中に出られるようになっていて、まるで囚人か愛玩動物のように鎖で繋がれた状態で、時折燈が外に連れ出していた。
「さすがに湊様にそのようなことはさせられませんから」
燈はそう言いつつ、私に任された仕事だと言うのに、食事も排泄も、甲斐甲斐しく対応してくれた。
身を清めるときには、燈の妻が駆り出され、こちらも丁寧に対応する。
“母は父に飼われている” そう表現するのが正しいのだと、夫婦を見ていてそう思った。
母のことを教えられたその日から、父の態度は明らかに変わった。兄上と私の差はよりハッキリ明確になり、御番所でも小間使いをさせられ、どんな些細な失敗も許されず詰り貶されるようになった。
“鬼の血を引く忌み子”
今までは、それでもある程度は何も知らぬ息子に対して取り繕おうとしていたのだと、真実を知らされて初めて理解した。
0
あなたにおすすめの小説
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる