【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔

文字の大きさ
234 / 297
鬼界編

白日の廟①

しおりを挟む
 陽の気を見せてすぐ。鬼たちは『夜が来る前に』と言いながら、忙しなく移動準備をはじめた。

「捕虜はどうなさいますか?」
「時間がない。生死は問わないが、手足は使えないようにしておけ。あとは闇に任せればいい」
 
 そんな会話が近くで交わされる。
 夜になると虚鬼が出る。だから急ぐのだろうか。
 そう思っている間に、再び鎖でぐるぐる巻にされて運ばれた。

 キガク城の後に連れて行かれたのは、小高い山の上の城だった。

 城を飛び立った時に見えたキガク城なんか目じゃないくらいに大きい。遠目で見る限り、幻妖宮にも似ているけど、それよりも中国大陸とかそっちの城のイメージに近い印象だ。城下町は幻妖京のように整った道があるわけではなく、山の斜面にそってうねる道が複雑に交差し、その左右に家々が軒を連ねているようだった。

 特に目を引くのは、キガク城よりもさらに豊富な草木。妖界ほど鬱蒼とはしていないけれど、日本の山里のように木が生え草や花が見られる。キガク城と同じように、城に近づくに連れて緑が少しずつ増えていき、城下町はまるで鬼界とは別世界のようにすら見えた。

 城の周りには高い城壁が巡らされ、更にその周りには深い堀がある。幻妖宮のように上空に結界があるのか、一行は堀の前で地上に降り、橋を渡って大きく立派な門を潜った。
  
 門の内側に入ると、そこもまた街のようになっていた。いくつもの建物が林立している。その間をぐんぐん進んでいくと、もう一つ、高く厚そうな壁と目に見えてわかるほど濃い灰色の結界で上空を覆われた場所に辿り着いた。

 何故こんなところにこんなものが……と思っているうちに、ドンっと背を押され、厚い壁にあいたトンネルに押し込められる。
 
 先程まで一緒にいた者達がついてくる様子はななった。入ってきたのは、俺の鎖を持った鬼と、赤眼の鬼だけだ。
 門番は外と中で三人ずつ。過剰に思えるほど厳重に警備されていた。

 門を抜けたところに建っていたのは、白く輝く六角形の建物。角の反り返った屋根には豪華な彫り込みが施されている。壁も屋根も全てが真っ白。しかし、反り返った屋根の端には黄金に輝く飾りが垂れ下がり、屋根の頂点にも天に向かって伸びる黄金色の飾りが付いていた。

「管理者を呼べ」

 赤眼の鬼が言うと、門番の一人が隅の方にある粗末な石の建物に走っていった。

 この壁の内側にあるのは、豪奢な白の建物と、隅の方にひっそりと建つ白の建物とは天地の差ほどあるボロの石の小屋、そして井戸だけだ。それ以外に目立ったものは見当たらない。高木はないけど、綺麗に手入れされた庭になっている。

 門番が乱暴に石の小屋の戸を叩くと、ボロを着たおじさんが一人出てきた。五十代くらいだろうか。頭に角はない。

 おじさんは、ゆっくりと鬼達の前に跪いた。
 
「新たな管理者だ。1日の日石の上納数は倍程度まで増やされる」

 赤眼の男の言葉と共に、俺はおじさんの方へドンと突き飛ばされた。鎖でぐるぐる巻きのまま、思い切り地面に顔と体を打ち付けられて、ウッと声が漏れる。
  
「……倍、でございますか? しかし……」
「それを上手く使え。出なければ何をしてでも搾り取れ」
「……搾り取る?」

 おじさんは意味がわからないとばかりに俺を見下ろした。

「日の力を出せる。別の沙汰が下ればまた来る。それまで大人しくしておけ」

 それだけ言うと、俺とおじさんを取り残して鬼達は去っていった。


 門が閉じられ、門番がその前に並ぶと、おじさんは門番の様子を気にしながら、俺に巻かれた鎖を取り除いてくれた。

「新たな管理者、ということは、君も人間かい?」
「……『も』ってことは、貴方もですか?」

 俺が尋ねると、おじさんはホッとしたように笑みを見せる。

「ああ。鹿鳴ろくめいだ。鹿鳴じん
「日向奏太です」
「よろしくな、日向君。鎖を解いてやるから、ちょっと待ってろ」

 鹿鳴に鎖を取ってもらうと、体に赤紫色の跡がくっきりと残っていた。どおりで痛いはずだ。
 体のあちこちを見回していると、鹿鳴にグイッと手掴まれた。変色した手のひらの様子に、鹿鳴は顔を顰める。

「……酷いな」
「薬もないし、自然に治るのを待つしかないですから」

 正直、ずっとズキズキ痛んでどうにかしたいし、衛生上ちゃんと手当てしたほうがいいのはわかってる。でも、鬼が捕虜にそんな事するわけがない。放置するしかないのだ。そう思って言ったのに、鹿鳴は不憫そうな表情で俺を見た。 

「怖くないのかい? こんな目に遭わされて」
「俺自身は死にかけたわけでもないですから。そんな事よりも……」

 ……気になるのは、巽はあれからどうなったのか、俺と巽がいなくなった後、残されたあいつらがどうしてるのか、だ。

 落とした結の御守りが守ってくれていたらいい。誰かが見つけてくれて、上手く薬を使えていたらいい。でも、そうじゃなかったら……

 考え始めると、不安に押し潰されそうになる。余計な考えを振り払いたくて、俺はギュッと目を閉じた。

 言葉を切った俺を見て、まるで痛ましいものでも見るように鹿鳴は眉根を寄せた。それから、門番をチラっと見てから俺の腕を掴む。

「立てるかい? ひとまず、家に行こう。ここがどこか、説明が必要だろう?」

 門番の目を気にしながら、鹿鳴は有無を言わさぬ声音で言った。俺を掴む手に力が入る。
 言外に、黙ってついてこいと、そう言われているのがわかった。
 
 鹿鳴に着いて石の家に向かうと、ところどころがかけた石のテーブルと椅子、あとは人が一人寝れそうな石の台が二つあった。テーブルには歪な陶器のコップが二つ伏せておいてあり、テーブルの近くに鉄製のバケツがある。

 鹿鳴はその中から水を汲み、俺に差し出した。

 何となく手を付ける気にならず、コップの中身に視線を落としたまま固まっていると、鹿鳴は困ったように笑った。

「すまんが、慣れてくれ。いちいち井戸に汲みに行くのも面倒でな」
「……鹿鳴さんは、何でここに?」
「働いてるんだ」

 『捕まっている』ではなく、『働いている』という言葉に、俺は眉を顰めた。

「働いてるっていうのは?」
「随分昔、友だちとふざけ半部で肝試しをしていたはずが、この世界に迷い込んでな。あいつらに見つかって連れてこられた。ここの奴らは人間が必要で、俺達は外の世界で生きていけない。ずっと外に出ていれば、病気になるか狂っちまう。だから衣食住の代わりに、ここにこもって仕事をしてる。生きる為にな」

 俺は柊士と璃耀から一つずつ、陰の気を吸い出す呪物を持たされている。だから外にいても問題ないけど、普通の人間は、妖界や鬼界では生きていけない。

「お友達はどうしたんですか?」
「……殺されたよ。さっきの君を見てたら、ここに連れてこられた頃の俺みたいに思えてな」

 状況は、たぶんそんなに違わないのだろう。理不尽に仲間を殺され、連れてこられた。
 言葉が出ずに俯くと、鹿鳴は仕方が無さそうに眉を下げた。
 
「ここで大人しくしていれば、命は助かる。自分の命は大切にしないとな」
「……俺の仲間は、まだ生きてます。たぶん、俺を探してる。ここを出て合流しないと」

 ……生きてる、自分でそう言葉に出して、力なく落ちていった巽の姿が目の前に浮かぶ。俺がギリっと奥歯を噛むと、鹿鳴はゆっくり首を横に振った。

「残念だけど、ここから出るのは諦めるしかない。ここからは出られないんだ。死ぬまで、一生ね」
「そんなこと、試してみないと……!」
「試したよ。でも、ダメだった。ここには、ネズミ一匹、小鳥一羽も、抜け出せるような隙間がない。壁は地中深くまで埋まってて、人の力だけで掘り返してどうにかなるものじゃない。上も半透明の何かで覆われてる。唯一の通路はさっきの門だけど、たとえ交代時間で一人の目が離れたとしても、他の二人が目を光らせている。それが、内にも外にもいるんだ。しかも相手は鬼。それに、そもそも外に出たところで生きていく術がない」

 確かに、聞く限り抜け道などなさそうだ。でも、まだ他に方法があるかもしれない。
 
 黙ったまま、ギュッと両手を握っていると、鹿鳴はそっと俺の手にゴツゴツした手をかぶせた。

「抜け出そうとしたり、不用意な発言さえしなければ、あいつらが手を出してくることはない。最低限の衣食住も用意される。俺達が必要だからだ。逆に楯突いたり不要だと判断されれば問答無用で食い殺される。生きたければ、大人しく奴らに従うしかないんだよ」

 まるで子どもに言い聞かせるように、静かにそう言った。

「大した事は出来ないけど、手当をしよう。君は、自分の命を大事にするんだ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

処理中です...