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鬼界編
鬼の都の災禍②
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濃い陰の気が立ち込める場所に突入する。そこにあるのは高い城壁。その下に、真っ黒に塗りつぶされた様なひときわ濃い陰の気の靄があり、中に何かが積まれた小山があった。
その前で一人の男が膝をつき、呆然とそれを眺めている。男には見覚えがあった。つい数時間前に解放されたはずの赤い目の鬼。
「椿、あそこに降りて」
俺が指差すと、椿はスゥッと下降していく。鬼の直ぐ側まで行くと、黒い小山が何なのかがようやく分かった。
あの村と同じ。鬼の死体を積んだ小山。吐き気のするような光景に、妖達が息を呑み顔を顰めた。
「……いったい、何があったんだ?」
濃い陰の気に近づけないように巽に亘を預け、口元を腕で押さえながら赤眼の鬼に声をかければ、鬼は歯を食いしばり、ギュッと拳を握った。
「…………生贄に、されたのだ……」
「は? 生贄?」
思いも寄らない言葉に眉根を寄せる。
「……あの後、主に暴動の鎮圧を奏上しようと城に戻った。しかし、城に入ることを許されず、日の力を使う者を得ようとしたなどと、ありもしない嫌疑をかけられたのだ。俺がお前らと共に消えたこと、この鬼の世に戻ったあともしばらく姿を見せなかったことを理由に、反逆の言いがかりをつけられて……」
この鬼は当初、鬼界のために俺やハクをこの城に連れ帰ろうとしていた。そして鬼界に戻って来たあとは、俺達のことは諦めたものの、深淵の広がりを抑えようとしていた。
いずれにせよ、一貫して鬼の世の為に動いていた印象の方が強い。
俺たちがこの鬼を囚えて留めておいただけで、鬼界の者達に反逆の誹りを受ける様なことはしていなかったハズだ。
「なんで、そんな事に?」
「……たとえ無実であっても、日の力を持つ者を奪ったと吊し上げれば、民の不満や怒りの矛先は俺へ向く。俺たちを反逆者として処分したあとで日の力を生むお前らを手に入れれば、王は民の賞賛を得られる。俺たちは、民衆や各領地の不満を逸らし、王が再び威光を集めるための体の良い生贄とされたのだ」
そこまで言うと、赤眼の鬼は、地面をダンと殴りつけた。
「こいつらを処分し俺を捕らえて即日、民衆の前で公開処刑にしようとしたところで闇がやってきた。王の手先は、ほとんどが虚鬼に変わった。きっと、都や王城で暴れ回ってるはずだ。もう、この世は終わりだ……!」
赤眼の鬼がそう叫ぶと、背から、黒い靄のようなものがユラユラと上がり始める。それに引き寄せられるように、小山から真っ黒の闇が手を伸ばした。まるで大きな水滴が小さな水滴を取り込み大きくなるように、その二つがつながり始める。
俺は、慌ててパンと手を叩いた。
目の前の鬼が闇に飲み込まれるのを黙って見ていられない。濃い黒が広がって、良いことなんて起こるはずがない。
頭に流れる祝詞に合わせて言葉を紡いでいけば、眩い光が手のひらから放出される。あの濃い陰の気を祓うのだ。できるだけ強い力を込めたほうがいい。俺は赤眼の鬼に伸びる闇を断ち切るように、光を黒い小山に向けた。
ちょっと強めだったとはいえ、いつも通りに発したはずだった。でも、その光は、今までに無いくらい膨大な量の奔流となって闇の中を照らす。一瞬、目の前が昼かと思うような白い明るさに包まれ、濃い闇が一瞬のうちに霧散する。
まさか、これ程の光が出ると思わず、俺はハッと陽の気を止めて、慌てて自分の背後を振り返った。
「みんな、大丈夫か!? 陽の気が……!」
あの明るさだ。拓眞の時のように、もしや、また味方に被害が出たのではと背筋が寒くなる。
しかし、妖達はポカンとした顔で俺を見ているだけで、大火傷をしたような様子は無さそうだった。ほっと息を吐くと、今度は汐達がハッとしたように俺を見て、慌てて駆け寄ってくる。
「奏太様、御身体に異常はありませんか?」
「あれほどの陽の気を発するなど、御負担がかかりすぎます!」
「どうか、加減をしてください!」
御役目で俺が陽の気を発する様子を見てきた三人が、口々に言いながら俺の体を見回す。
「いや、俺は全然大丈夫なんだけど……そっちは怪我は? 火傷とか……」
「我らは奏太様の背後にいたので、問題ありません。しかし、あそこまで強い陽の気を一気に放出するなど、なんという無茶を……」
汐はそう言うけど、俺は無理をした覚えは一切ない。
むしろ、自分の中の陽の気の消費割合は、いつもと大して変わらない。普通に陽の気を発しただけであんな風に強い光になって、俺自身が驚いているくらいだ。
「みんなが無事なら良かった。気の力が強くなってるって人界でも聞いたし、その影響が出たんだと思う。ちょっと強すぎるけど」
主様や御先祖様には言われてたけど、まさかこれ程とは思わなかった。触れて直接陽の気を注ぐより、離れて注ぐ方が放出する力の量を調整しにくい。この体に変わった状態から慣れていないせいで、出力量を間違えたようだ。
「この周辺にあった濃い陰の気を、まとめて祓ってしまわれましたね……」
浅沙の言葉に周囲を見回すと、確かに黒く濃い陰の気どころか、深淵に似た陰の気すら消えてしまっている。
「しかし、安堵するには早いようです」
「ええ。先ほどよりも、闇の範囲が広がっています」
紺は都の方に、哉芽は城の方に、それぞれ目を向けて険しい表情をしていた。
二人の視線の先を見れば、ここにある濃い黒の闇を祓ってなお、城と都を侵食する闇は残ったまま、更にその範囲を広げていた。
「……ここ以外にも、発生源があるのかも。祓いに行かないと」
気の力は十分に残っている。複数個所回ったところで、今の俺なら大丈夫だろう。
そう思ったところへ、不意に、高く不快な声が周囲に響いた。
「まあ、また、貴方なの? 嫌だわ。陽の子は本当に邪魔ばかりするのだから」
見上げれば、そこには、長い黒髪に黒の瞳、艷やかな真紅の唇を持つ女が、翼もなしに空から俺たちを見下ろしていた。
「……闇の……女神……」
「ようやく中央が闇に染まりそうなのに、端から消していかないでちょうだい」
俺を守るように、ざっと護衛役や空木達人界の妖が武器を構え闇の女神に向き合う。
それを、当の闇の女神は心底鬱陶しそうに見やった。それから、ふっと、その視線を巽と亘の方に向ける。
瞬間、闇の女神が、周囲の暗がりに溶けるようにその姿を消した。いったい何処に、そう思っている間に、すぐ近くから高い声が聞こえてきて、背筋に氷が滑り落ちた様な感覚がした。
「せっかく手に入れた駒だったのに、役に立たないわね。戻ってきなさい」
バッと振り向けば、巽の頭上に闇の女神がいて、二人をじっと見下ろしている。
「巽、亘っ!!」
そう、声を張り上げる。
巽が咄嗟に刀を抜こうとしたけど、何故かそこでピタリと動きを止める。まるで体が突然硬直してしまったように。
俺は咄嗟に二人の方へ足を踏み出す。
せっかく亘が戻ってきたのだ。体の中はボロボロになってしまったけど、陰陽のバランスも整った。あとは目覚めを待つだけなのだ。もう、連れて行かせるわけにはいかない。仲間を、再び闇になんて染められてたまるか。
しかし、すぐにガシッと腕を掴まれ引き止められた。
「なりません、奏太様!」
「放せ、椿!」
闇の女神は、すうっと二人の前に降り、亘の翼に触れようと手を伸ばす。
「触れさせるな、巽!!」
そう叫んだ瞬間だった。
「キャアッ!」
という悲鳴と共に、バチッと大きな音が聞こえた。
それに合わせ、輝く陽の気を纏う幕が巽と亘の周囲に大きく広がる。光の大元を探せば、亘の胸でわずかに浮き上がる、フエルト製の古い手作り御守りが見えた。
「陽の力に神力まで! 何なの、それは!?」
闇の女神が忌々しそうに自分の手を押さえ、結の御守りを睨んだ。手作りの御守りがこんな効果をもたらすとは思わず、目を見開く。
「闇の女神を取り押さえろ!」
同時に、空木の声が周囲に響いた。
確かに、これ以上何も出来ないように、捕らえてしまえるのが一番いい。けど、朱達がずっとそう出来ずにいた存在だ。一筋縄でいくはずがない。
「待て! 危険かもしれない!」
そう声をあげる。けど、俺の制止も聞かず、大きな黒犬が尻尾を振りながら、真っ先に闇の女神の前に躍り出た。
「柾っ!!」
怒声をあげたところで、柾が聞くわけがない。俺は苦い思いで柾を見た。柾まで闇の女神に囚われでもしたら、そう思うとゾッとする。
「戻れ、柾!」
もう一度、俺は声を張り上げる。でも、柾はやっぱり動かない。
「空木、あいつを連れ戻……」
そう言いかけた時だった。柾をじっと見据えていた闇の女神は嫌そうに顔を顰めてから、ふわりと再び空へ浮き上がった。
「嫌だわ。希望に満ちた目だなんて。支配する隙もないじゃない」
「……え?」
思わず、間抜けな声が漏れた。
「闇の女神は、死や憎悪のような、負の感情を集めるのでしょう? 柾さんにはそんなもの、ほとんど存在しません。もしかしたら、天敵になり得るのかもしれません」
椿の言葉に、ポカンと開いた口がふさがらない。
……いや、前向きな奴だなとは思ってたけど、まさかそれが、闇の女神を退ける程なんて……
柾は、空に逃げた闇の女神をピョンピョンと尻尾を振りながら追っている。場所とサイズが違っていれば、戯れ喜ぶ普通の大型犬だ。
……飛び跳ねる度に、ドシン、ドシンと地を揺らさなければ、だけど。
結構なピンチのはずなのに、呆れ顔で柾を眺めてしまう。
と、柾が不意に、飛び跳ねるのをやめた。キョロキョロと周囲を見回し警戒するように唸り声をあげる。
柾の動きは止まったのに、先ほどから周囲の揺れは続いたままだ。しかも、その揺れは、次第に大きくなっていく。ガタガタと揺れる地面に、ふらりとよろめく。
「奏太様!」
「大丈夫。でも、いったい何が……」
そう声に出した途端、ブワッと一気に闇の濃さが増した。重たい陰の気が体全体にまとわりつく。それは、先ほど祓った深淵の闇より、一段濃い陰の気。
「アハハハハハ!」
突然、闇の女神の甲高い笑い声が周囲に響いた。
「嗚呼、都と城を飲み込んで、ようやく、満ちたのね! 愛しい子。あの子の封印が、解けたんだわ!」
その前で一人の男が膝をつき、呆然とそれを眺めている。男には見覚えがあった。つい数時間前に解放されたはずの赤い目の鬼。
「椿、あそこに降りて」
俺が指差すと、椿はスゥッと下降していく。鬼の直ぐ側まで行くと、黒い小山が何なのかがようやく分かった。
あの村と同じ。鬼の死体を積んだ小山。吐き気のするような光景に、妖達が息を呑み顔を顰めた。
「……いったい、何があったんだ?」
濃い陰の気に近づけないように巽に亘を預け、口元を腕で押さえながら赤眼の鬼に声をかければ、鬼は歯を食いしばり、ギュッと拳を握った。
「…………生贄に、されたのだ……」
「は? 生贄?」
思いも寄らない言葉に眉根を寄せる。
「……あの後、主に暴動の鎮圧を奏上しようと城に戻った。しかし、城に入ることを許されず、日の力を使う者を得ようとしたなどと、ありもしない嫌疑をかけられたのだ。俺がお前らと共に消えたこと、この鬼の世に戻ったあともしばらく姿を見せなかったことを理由に、反逆の言いがかりをつけられて……」
この鬼は当初、鬼界のために俺やハクをこの城に連れ帰ろうとしていた。そして鬼界に戻って来たあとは、俺達のことは諦めたものの、深淵の広がりを抑えようとしていた。
いずれにせよ、一貫して鬼の世の為に動いていた印象の方が強い。
俺たちがこの鬼を囚えて留めておいただけで、鬼界の者達に反逆の誹りを受ける様なことはしていなかったハズだ。
「なんで、そんな事に?」
「……たとえ無実であっても、日の力を持つ者を奪ったと吊し上げれば、民の不満や怒りの矛先は俺へ向く。俺たちを反逆者として処分したあとで日の力を生むお前らを手に入れれば、王は民の賞賛を得られる。俺たちは、民衆や各領地の不満を逸らし、王が再び威光を集めるための体の良い生贄とされたのだ」
そこまで言うと、赤眼の鬼は、地面をダンと殴りつけた。
「こいつらを処分し俺を捕らえて即日、民衆の前で公開処刑にしようとしたところで闇がやってきた。王の手先は、ほとんどが虚鬼に変わった。きっと、都や王城で暴れ回ってるはずだ。もう、この世は終わりだ……!」
赤眼の鬼がそう叫ぶと、背から、黒い靄のようなものがユラユラと上がり始める。それに引き寄せられるように、小山から真っ黒の闇が手を伸ばした。まるで大きな水滴が小さな水滴を取り込み大きくなるように、その二つがつながり始める。
俺は、慌ててパンと手を叩いた。
目の前の鬼が闇に飲み込まれるのを黙って見ていられない。濃い黒が広がって、良いことなんて起こるはずがない。
頭に流れる祝詞に合わせて言葉を紡いでいけば、眩い光が手のひらから放出される。あの濃い陰の気を祓うのだ。できるだけ強い力を込めたほうがいい。俺は赤眼の鬼に伸びる闇を断ち切るように、光を黒い小山に向けた。
ちょっと強めだったとはいえ、いつも通りに発したはずだった。でも、その光は、今までに無いくらい膨大な量の奔流となって闇の中を照らす。一瞬、目の前が昼かと思うような白い明るさに包まれ、濃い闇が一瞬のうちに霧散する。
まさか、これ程の光が出ると思わず、俺はハッと陽の気を止めて、慌てて自分の背後を振り返った。
「みんな、大丈夫か!? 陽の気が……!」
あの明るさだ。拓眞の時のように、もしや、また味方に被害が出たのではと背筋が寒くなる。
しかし、妖達はポカンとした顔で俺を見ているだけで、大火傷をしたような様子は無さそうだった。ほっと息を吐くと、今度は汐達がハッとしたように俺を見て、慌てて駆け寄ってくる。
「奏太様、御身体に異常はありませんか?」
「あれほどの陽の気を発するなど、御負担がかかりすぎます!」
「どうか、加減をしてください!」
御役目で俺が陽の気を発する様子を見てきた三人が、口々に言いながら俺の体を見回す。
「いや、俺は全然大丈夫なんだけど……そっちは怪我は? 火傷とか……」
「我らは奏太様の背後にいたので、問題ありません。しかし、あそこまで強い陽の気を一気に放出するなど、なんという無茶を……」
汐はそう言うけど、俺は無理をした覚えは一切ない。
むしろ、自分の中の陽の気の消費割合は、いつもと大して変わらない。普通に陽の気を発しただけであんな風に強い光になって、俺自身が驚いているくらいだ。
「みんなが無事なら良かった。気の力が強くなってるって人界でも聞いたし、その影響が出たんだと思う。ちょっと強すぎるけど」
主様や御先祖様には言われてたけど、まさかこれ程とは思わなかった。触れて直接陽の気を注ぐより、離れて注ぐ方が放出する力の量を調整しにくい。この体に変わった状態から慣れていないせいで、出力量を間違えたようだ。
「この周辺にあった濃い陰の気を、まとめて祓ってしまわれましたね……」
浅沙の言葉に周囲を見回すと、確かに黒く濃い陰の気どころか、深淵に似た陰の気すら消えてしまっている。
「しかし、安堵するには早いようです」
「ええ。先ほどよりも、闇の範囲が広がっています」
紺は都の方に、哉芽は城の方に、それぞれ目を向けて険しい表情をしていた。
二人の視線の先を見れば、ここにある濃い黒の闇を祓ってなお、城と都を侵食する闇は残ったまま、更にその範囲を広げていた。
「……ここ以外にも、発生源があるのかも。祓いに行かないと」
気の力は十分に残っている。複数個所回ったところで、今の俺なら大丈夫だろう。
そう思ったところへ、不意に、高く不快な声が周囲に響いた。
「まあ、また、貴方なの? 嫌だわ。陽の子は本当に邪魔ばかりするのだから」
見上げれば、そこには、長い黒髪に黒の瞳、艷やかな真紅の唇を持つ女が、翼もなしに空から俺たちを見下ろしていた。
「……闇の……女神……」
「ようやく中央が闇に染まりそうなのに、端から消していかないでちょうだい」
俺を守るように、ざっと護衛役や空木達人界の妖が武器を構え闇の女神に向き合う。
それを、当の闇の女神は心底鬱陶しそうに見やった。それから、ふっと、その視線を巽と亘の方に向ける。
瞬間、闇の女神が、周囲の暗がりに溶けるようにその姿を消した。いったい何処に、そう思っている間に、すぐ近くから高い声が聞こえてきて、背筋に氷が滑り落ちた様な感覚がした。
「せっかく手に入れた駒だったのに、役に立たないわね。戻ってきなさい」
バッと振り向けば、巽の頭上に闇の女神がいて、二人をじっと見下ろしている。
「巽、亘っ!!」
そう、声を張り上げる。
巽が咄嗟に刀を抜こうとしたけど、何故かそこでピタリと動きを止める。まるで体が突然硬直してしまったように。
俺は咄嗟に二人の方へ足を踏み出す。
せっかく亘が戻ってきたのだ。体の中はボロボロになってしまったけど、陰陽のバランスも整った。あとは目覚めを待つだけなのだ。もう、連れて行かせるわけにはいかない。仲間を、再び闇になんて染められてたまるか。
しかし、すぐにガシッと腕を掴まれ引き止められた。
「なりません、奏太様!」
「放せ、椿!」
闇の女神は、すうっと二人の前に降り、亘の翼に触れようと手を伸ばす。
「触れさせるな、巽!!」
そう叫んだ瞬間だった。
「キャアッ!」
という悲鳴と共に、バチッと大きな音が聞こえた。
それに合わせ、輝く陽の気を纏う幕が巽と亘の周囲に大きく広がる。光の大元を探せば、亘の胸でわずかに浮き上がる、フエルト製の古い手作り御守りが見えた。
「陽の力に神力まで! 何なの、それは!?」
闇の女神が忌々しそうに自分の手を押さえ、結の御守りを睨んだ。手作りの御守りがこんな効果をもたらすとは思わず、目を見開く。
「闇の女神を取り押さえろ!」
同時に、空木の声が周囲に響いた。
確かに、これ以上何も出来ないように、捕らえてしまえるのが一番いい。けど、朱達がずっとそう出来ずにいた存在だ。一筋縄でいくはずがない。
「待て! 危険かもしれない!」
そう声をあげる。けど、俺の制止も聞かず、大きな黒犬が尻尾を振りながら、真っ先に闇の女神の前に躍り出た。
「柾っ!!」
怒声をあげたところで、柾が聞くわけがない。俺は苦い思いで柾を見た。柾まで闇の女神に囚われでもしたら、そう思うとゾッとする。
「戻れ、柾!」
もう一度、俺は声を張り上げる。でも、柾はやっぱり動かない。
「空木、あいつを連れ戻……」
そう言いかけた時だった。柾をじっと見据えていた闇の女神は嫌そうに顔を顰めてから、ふわりと再び空へ浮き上がった。
「嫌だわ。希望に満ちた目だなんて。支配する隙もないじゃない」
「……え?」
思わず、間抜けな声が漏れた。
「闇の女神は、死や憎悪のような、負の感情を集めるのでしょう? 柾さんにはそんなもの、ほとんど存在しません。もしかしたら、天敵になり得るのかもしれません」
椿の言葉に、ポカンと開いた口がふさがらない。
……いや、前向きな奴だなとは思ってたけど、まさかそれが、闇の女神を退ける程なんて……
柾は、空に逃げた闇の女神をピョンピョンと尻尾を振りながら追っている。場所とサイズが違っていれば、戯れ喜ぶ普通の大型犬だ。
……飛び跳ねる度に、ドシン、ドシンと地を揺らさなければ、だけど。
結構なピンチのはずなのに、呆れ顔で柾を眺めてしまう。
と、柾が不意に、飛び跳ねるのをやめた。キョロキョロと周囲を見回し警戒するように唸り声をあげる。
柾の動きは止まったのに、先ほどから周囲の揺れは続いたままだ。しかも、その揺れは、次第に大きくなっていく。ガタガタと揺れる地面に、ふらりとよろめく。
「奏太様!」
「大丈夫。でも、いったい何が……」
そう声に出した途端、ブワッと一気に闇の濃さが増した。重たい陰の気が体全体にまとわりつく。それは、先ほど祓った深淵の闇より、一段濃い陰の気。
「アハハハハハ!」
突然、闇の女神の甲高い笑い声が周囲に響いた。
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