【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔

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妖界編

学校の怪談①

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 それは、文化祭が近づき、準備に追われて帰りが遅くなったある日のことだった。

「なあ、潤也知らない? 荷物はあるのに、姿を見ないんだけど。」

 資材の片付けをしながら聡が周囲を見渡す。
 同じ班で作業しているので、勝手に帰ることは無いはずだし、買い出しに行っているということでも無さそうだ。

「飲み物でも買いに行ったんじゃないか?」
「いや、それにしては長いんだよな……」

というと、聡は首を捻る。

「じゃあ、探しに行ってこようか? こっちはもう片付いたし。」
「あ、待った。俺も行くよ。」

 聡はそう言うと、そそくさと手に持っていた資材をロッカーの上に置く。

 窓の外はもう暗い。帰宅部の自分がこんな時間まで学校に残っていることは珍しい。

「居るとしたら、自販機のあたりか、職員室周りか……」

 そう言いながら階段を下っていく。

「なあ、そういえば、この学校にも七不思議があるの知ってる?」

 不意に聡が口を開く。

「七不思議?」
「そうそう。そのうちの一つが、夜に学校に入り込んだ生徒が神隠しに会うってやつなんだ。」

 ……神隠し……

 今では、妖界絡みなんだろうなと思うようになったものの一つだ。きっと、綻びから妖界に入り込みでもしたのだろう。
 汐も、妖界に連れて行かれた絢香に対して、神隠しなど良くあることだと言い放っていた。
 あちらに入り込んで、結界の綻びを見失ったら戻っては来られないだろう。

「でも、夜に学校にいるなんて珍しくないだろ。部活も委員会もあるし、今日みたいに文化祭の準備もこの時期普通にあるし。」
「まあ、そうなんだけどさ。」

 聡の返事は軽い。
 本気でそんな事が起こると思ってはいないのだろう。

 実際、汐の言う通りに妖界側から結界が閉じられたとすれば、過去この学校に綻びがあったとしても今は存在しないはずだ。
 ……鬼界でなければ。

 若干嫌な予感が過ぎったが、そんなわけ無いと頭の片隅に追いやり、七不思議の話や文化祭の話など、他愛のない話をしながら潤也を探していく。

 自販機のある場所、職員室、昇降口、他クラス……

 しかし居そうな場所を一通り周ってみたが見つからない。
 一度自分達のクラスに戻ってみたものの、やはり誰に聞いても戻ってきていないと言う。

「何処に行っちゃったんだろう、アイツ。」

 次々に帰っていくクラスメイトたちを眺めつつ、本人不在の席で潤也の帰りを待つ。
 ただ、待てども待てども帰ってくる様子はない。

「あのさ、ちなみにさっきの神隠しの話、学校のどの辺りっていうのはあるの?」

 もう殆ど人気のなくなった教室で、まさかとは思いながら聡に問う。

「……水晶庵ってあるだろ?ほら、あれ。茶道部が使ってるやつ。あの辺りって聞いたことはある。」

 聡はそう言いながら、窓から見える、校舎裏の小さな池と日本風家屋を指差す。
 ただ、校舎裏なだけあって、教室の窓からぼんやり眺めることはあっても、よっぽどの理由が無ければいかない場所だ。

「さすがにあんなところには行かないよな。」
「……いや、うちの担任、茶道部の顧問だろ。何か用があって探しに行ったってことは……」

 聡がぼそっとこぼす。

 ……いやいや、まさか。

 まさか、とは思いつつも、悲しい哉、自分の中では既に嫌な予感がし始めている。

「……俺、一応、見に行ってくる……」

 凄く行きたくないが、万が一妖界絡みで潤也が厄介事に巻き込まれているなら、自分が行かないわけにはいかない。
 重たい腰持ち上げると、聡もバッと立ち上がった。

「俺も行く。キャンプのときみたいに、何が起こってるかわからないままじっと待ってるなんてゴメンだ。」
「でも、何もない可能性のほうが高いと思うけど。」
「それでも行く。」

 聡の意思は固そうだ。
 別に断る理由もあまりない。

「わかった。じゃあ行ってみよう。」

と頷いてみせた。

 学校内は電気が着いていて明るいし、まだ先生達も残っている。部活をしている生徒もいる。
 でも、古い校舎なだけあって、夜は何だか不気味だ。妖界絡みかもと思うから、余計にそう思うのかもしれない。

 普段は歩かない校舎裏への出入り口を進む。校舎を一歩出ると、周囲は一気に薄暗くなる。
 そんな中で、煌々と光る職員室の明かりがぼんやりと水晶庵と側にある小さな池を照らし出していた。

 ただ、水晶庵の中を覗いてみても、誰もいないのか、真っ暗だ。

「何だか気味が悪いな。」

 聡が小さくこぼす。

 念の為、中に入れないかと扉に手をかけてみるが、引き戸を引いても鍵がかかっていて開きそうもない。

「さすがにいないとは思うけど、外側から中を確認してみるか。」

というと、聡もコクリと頷く。

「ついでに建物の周りも一周してみよう。たしか向こう側も通れる筈だから。」

と建物の裏側の方を指さした。

 俺達は、ひとまず池と建物の間を抜けて、1番大きな窓のある場所まで行き、硝子窓から中を覗き見る。

 ただ、室内はやっぱり暗くて良くわからない。

「見えないな。何か明かりでもあればいいんだけど……」

と言いながら、目を凝らす。

 しかし突然、同じように隣で窓を覗き込んでいたはずの聡から、

「うわっ!」

という声が聞こえてきて、直ぐにボチャっという水の音が近くで響いた。

「……は? 聡?」

 隣を見ると、そこにあったはずの聡の姿は忽然と消えている。

 水音が聞こえたから、水に落ちたのだろうかと振り返ってみたが、泉の水面は揺れているものの、やっぱり姿はない。

 いったいどこに……

と、聡の姿を探して周囲を見回す。

 その時、不意に自分の体がぐいっと後ろに引っ張られる感覚がした。

 しかも、結構な強さで引っ張られたおかげで、バランスを崩し、そのままグラッと体が背中から倒れる。

 まずい!

と思ったが、そのまま地面に叩きつけられるようなことにはならなかった。
 代わりに、倒れこんだ先で何か柔らかいものに支えられた感覚がしたあと、何事かと状況も把握できないまま、頭から水にボチャンと落ちた。

 そこから先の記憶はない。


「おい、奏太! 奏太、起きろって!」

と呼びかける声に起こされ目を開ける。

 そこは、見たことのない木の小屋の中だった。
 周囲はほのかな灯りに照らされている。

 小屋といっても、キャンプ場のコテージのようなしっかりしたものではなく、そこらの木をいろいろ組み合わせて作ったような歪なものだ。

 声のした方に目を向けると、潤也と聡が木の蔓のようなもので縛り上げられて転がされている。
 かく言う俺も、同様に縛られていて身動きが取れない。

 しかも、体が濡れて、寒いし気持ちが悪い。

「ここは?」
「多分、妖界だと思う……ここに来るときちらっと見えた景色が、前に見た景色に似てたから。」

 潤也は眉根を寄せて答える。

「いったい何がどうなってんだよ……」

 聡は困惑するように息を吐く。それはそうだろう。学校で潤也を探していた筈なのに、気づいたらこの有様だ。

 周囲をもう一度見回すと、天井に、いつか見たような硝子のランプがついていて中で灯りが踊っている。

 ……鬼火だ。

ということは、神隠しの正体はやっぱり妖のせいだったわけだ。

 それにしても、何で妖界への綻びが……

「二人はどうやってここに来たか覚えてるか?」

 俺が聞くと、聡は首を横に振る。

「いや。何かに後ろから引っ張られて泉に落ちたところまでは覚えてるんだけど、気づいたらこの小屋の中だった。」
「潤也は?」
「というか、そもそもお前、一体どこで何してたんだよ。散々二人で探したんだぞ。」

 聡は不満気に潤也を見る。

「いや、今日、俺日直だっただろ。で、日誌を出すの忘れてたから、職員室に持っていったんだよ。でも先生がいなくてさ。遅れた時は手渡ししないとあの人怒るだろ。で、茶道部の顧問だったこと思い出して届けに行ったんだ。
 結局、水晶庵の手前で会えたから手渡したんだけど、その時に、池の方で何かが跳ねた気がしてさ。気になって様子を見に行ったんだ。そこから先は、聡と同じ。」
「でもさっき、来るときにちらっと外が見えたって言わなかったか?」
「この小屋の扉の前で目が覚めたんだ。思い切り地面に落とされて。」

 潤也は思い出すように顔を顰める。

「じゃあ、ここに連れてきた奴を見たのか?」
「見たけど……」

 潤也がそう言いかけた時、不意に、建付けの悪そうな扉がギイと音を立た。

 俺達は揃って口を噤んで扉を見る。

「おや、目覚めましたか。」

 扉を開けて俺達を見ながらそう言いながら入ってきたのは、小さな耳に長い尾を持つ、二足歩行の動物だった。
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