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妖界編
囚われの姫君③
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「ところで、宇柳と奏太は知り合いなの?」
宇柳に手枷を外してもらい、気を取り直したような様子のハクが、並んで立つ宇柳と俺を見比べる。
「友だちが妖に捕まった時に、偶然通りかかった宇柳さんが助けてくれたんだ。」
「……そうなんだ?」
そう言いつつ、ハクは首を傾げる。
しかし、ハクが二の句を告げる前に、宇柳が宙にぽっかり浮かぶ白い小さな渦を指差し、それを遮った。
「そんなことより、白月様、あれは……」
「あ……ああ。忘れてた。ここから逃げようと思ってたんだけど……宇柳達もきたし、ひとまず閉じちゃおうか。奏太も帰るなら、安全なところに移動してからの方がいいだろうし。」
ハクはそう言いながらパチンと手を合わせ、開きかけた結界の穴に、先程の白と黒の光の粒を、白い渦に注いで消滅させていく。
「ハクは、結界の穴を自由に開閉できるの……?」
俺が尋ねると、ハクは何も言わずに、俺にニコリと笑って返した。
見る限りそうなんだろうけど、明言するつもりは無いのだろう。何故かは分からないけど……
「宇柳、ここに来てるのは宇柳と和麻だけ?」
「いえ。捕らえた者共の証言からこの場所を突き止めたので、皆外におります。和麻と私でひとまず偵察と侵入経路の確保に来たのですが、和麻が白月様のお声がしたと言うので……」
「そっか。助けに来てくれてありがとう。」
「いえ。とにかく、白月様がご無事で良かったです。ひとまず、ここから出ましょう。」
宇柳はそう言うと、和麻が通って開けてきたであろう穴を指し示す。
ハクはそれに小さく、うっと息を呑んだ。
大蚯蚓が通った穴に、まだそれなりに抵抗感があるらしい。
しかし、すぐに牢の外に繋がる扉から、騒々しい声が聞こえてきて、そんな事も言っていられなくなった。
荒々しく開け放たれた扉から、蛙の頭に人の体がついた着物姿の妖が複数雪崩込んでくる。
その中に遼の姿もあった。
「結、行くな! お前ら、あいつを連れて行かせるな!」
遼が叫ぶように命じると、すぐに蛙男達が牢の鍵を開けようと、迫ってくる。
「参りましょう! 白月様!」
宇柳が促すと、ハクはぐっと覚悟を決めたように、牢屋に掲げられていた篝火をもち先導する和麻に駆け寄った。
俺がそれに続き、宇柳が殿を守る。
俺達は、飛び込むように、和麻が通ってきた穴に入った。
ただ、穴の中は大蚯蚓が通ってきた道だ。うねるように進んできたのか、急な坂がかなり多い。ハクはその中を、着物姿で駆けていかなければならないのだ。どうしても動きが鈍い。
転びそうになるのを何度か助けながらなんとか走っていたのだが、あっという間に蛙男達に距離を詰められ、追いつかれ始めた。
宇柳は狭い穴の中で長い刀を使えず、短刀で背後から迫る蛙男達の相手をしている。
その間に俺と和麻でハクを助けながら前に進んだ。
しかし、大して進まないうちに、ゼエゼエ息を切らしたハクが、ついにバタっと派手に転んだ。
「白月様!」
「ハク!」
和麻と俺が声を上げる。
このままでは、すぐに追いつかれて終わりだ。
俺は覚悟を決めて振り返り、蛙男達を見据える。
「宇柳さん、下がって!」
そう言いながらハクの前に一歩出ると、パチンと手を打ち鳴らした。
宇柳はそれにぎょっと目を見開き、すぐに梟の姿に変わって俺の背後にまわる。
以前、蝦蟇に絢香が捕まった時に、宇柳の前で陽の気を使っていたのだ。すぐに察したのだろう。
俺は目の前から宇柳が居なくなったことを確認すると、こちらへ迫って来る敵に、思いっきり力を込めて陽の気を放った。
白の粒が掌から発せられ、蛙男たちが、一気に陽の気に晒されて、ギャア! と声を上げながら、赤い光に身を包み倒れていく。
後ろから来る蛙男達は、前方の仲間の有様に悲鳴を上げて踵を返し逃げ出し始めた。
ただ一人、遼だけを除いて。
「人に陽の気が効くわけないだろ!」
遼はそう怒声を上げる。そして、こちらに迫る勢いのまま、ズボンのポケットからナイフを取り出してケースを投げ捨てた。
「奏太!」
ハクの悲鳴のような声が背後で響く。それと同時に、俺はグイっと思いきり後ろに腕を引かれ、俺の前にハクが飛び出したのがわかった。
口から紡いでいた祝詞も同時に止まる。
「ハク!」
守ろうとしたのに、逆に俺を守ろうと飛び出して来るなんて無茶苦茶だ。
遼はそれにニヤリと笑い、ハクを捕らえようと手を伸ばす。
しかし、すぐに宇柳が人の姿に変わり、短刀を構えた状態で二人の間に割って入った。
更に、ハクを隠すように、自分の背後にハクを押し込む。
遼は足を止め、苦々しい表情を浮かべて宇柳を睨みつけた。
「……そいつを返せよ。」
「断る。」
宇柳のすげのない返事に、遼は奥歯をギリッと鳴らす。
その間にも、和麻がハクに駆け寄り、肩を抱えて支えるようにして立たせて、対峙する二人から引き離そうとし始めた。
俺もそれを手伝おうとした、その時だった。
遼は不意に刀を捨て、パンと一度手を打ち合わせたのだ。
見覚えのある動作にゾッとする。何で遼がそれを使えるのかなんて後回しだ。
「宇柳さん!」
俺は咄嗟に声を上げ、遼を止めようと地面を蹴る。
ハクもすぐに気づいたのか、顔色を変えて和麻を遼から離すように壁際に突き飛ばし、宇柳の腕を自分の体重をかけるようにして下へ思い切り引く。そしてそのまま守るように覆いかぶさった。
遼の口から低い声で祝詞が唱えられ始め、白い光の粒が僅かに漏れ出る。
まずい!
そう思った瞬間、遼の背後、俺達の前方から全く別の声が響いた。
「遼殿!」
見ると、大きな狼が物凄い勢いでこちらへ駆けてくる。
狼の呼びかけに、遼はピタリと祝詞を止め、怪訝な表情を狼に向けた。
「遼殿、旗色が悪い。朝廷の軍団と烏天狗が包囲している! 今は逃げた方が良い!」
狼は焦ったような声を出す。遼は狼とハクに目を向け、ハクに向けて手を差し出す。
「結、こっちへ来い!」
「行くわけない!」
ハクは宇柳を守ったまま首を横に振る。
遼は差し出した手をぐっと握り、忌々しげに、ハクと宇柳、それから和麻と俺を見やる。
「遼殿!」
もう一度狼に呼ばれると、踵を返して狼に飛び乗った。
「結、絶対に連れ戻すからな。それから、奏太、俺はお前らを絶対に許さない。柊士にも伝えておけ。」
遼はハクと俺を見てそう言うと、狼と共に大蚯蚓の穴を引き返していった。
……絶対に許さない?
そんなことを遼に言われるような覚えがない。
柊士……それに、お前ら、と遼は言った。
結に関わることだとすれば、指しているのは本家の者達のことだろうか。
「白月様、もう大丈夫ですから……」
覆いかぶさったままのハクの下から、戸惑うような宇柳の声が聞こえる。
「ごめん。宇柳。大丈夫?」
「ええ。まさか白月様に守っていただくとは思いませんでした。ありがとうございます。」
ハクは体を起こすと、遼が去っていった方をじっと見つめる。
俺も同じように暗い穴の向こうを見た。
「でも、何で遼ちゃんが陽の気を……」
そうこぼすと、ハクはそれに答えるでもなく、自分の手を見下ろして、
「……私が教えた……?」
と小さく呟いた。
戻る方が近いが、元いた場所がどのような状況かわからないからと、結局、和麻の通ってきた穴を辿って外に向かう事になった。
その間、ハクは何かを考えるように言葉少なにトボトボと歩いていた。
宇柳も和麻も、心配そうに時折ハクの様子を伺う。
頑なに人界にいた頃のことを思い出したくないと言っていたハクが、最後に呟いた言葉が気になる。
多分、何かを思い出したのだろう。
「……奏太は、さっきの人の事を知ってるの?」
不意に、ハクがぼそっと呟くように問いかけてきた。
「……うん……」
「……結のことも?」
「……うん。知ってる。」
それ以上、何て答えたらいいかがわからない。
でも、ハク自身も、それ以上は何も言わなかった。
宇柳に手枷を外してもらい、気を取り直したような様子のハクが、並んで立つ宇柳と俺を見比べる。
「友だちが妖に捕まった時に、偶然通りかかった宇柳さんが助けてくれたんだ。」
「……そうなんだ?」
そう言いつつ、ハクは首を傾げる。
しかし、ハクが二の句を告げる前に、宇柳が宙にぽっかり浮かぶ白い小さな渦を指差し、それを遮った。
「そんなことより、白月様、あれは……」
「あ……ああ。忘れてた。ここから逃げようと思ってたんだけど……宇柳達もきたし、ひとまず閉じちゃおうか。奏太も帰るなら、安全なところに移動してからの方がいいだろうし。」
ハクはそう言いながらパチンと手を合わせ、開きかけた結界の穴に、先程の白と黒の光の粒を、白い渦に注いで消滅させていく。
「ハクは、結界の穴を自由に開閉できるの……?」
俺が尋ねると、ハクは何も言わずに、俺にニコリと笑って返した。
見る限りそうなんだろうけど、明言するつもりは無いのだろう。何故かは分からないけど……
「宇柳、ここに来てるのは宇柳と和麻だけ?」
「いえ。捕らえた者共の証言からこの場所を突き止めたので、皆外におります。和麻と私でひとまず偵察と侵入経路の確保に来たのですが、和麻が白月様のお声がしたと言うので……」
「そっか。助けに来てくれてありがとう。」
「いえ。とにかく、白月様がご無事で良かったです。ひとまず、ここから出ましょう。」
宇柳はそう言うと、和麻が通って開けてきたであろう穴を指し示す。
ハクはそれに小さく、うっと息を呑んだ。
大蚯蚓が通った穴に、まだそれなりに抵抗感があるらしい。
しかし、すぐに牢の外に繋がる扉から、騒々しい声が聞こえてきて、そんな事も言っていられなくなった。
荒々しく開け放たれた扉から、蛙の頭に人の体がついた着物姿の妖が複数雪崩込んでくる。
その中に遼の姿もあった。
「結、行くな! お前ら、あいつを連れて行かせるな!」
遼が叫ぶように命じると、すぐに蛙男達が牢の鍵を開けようと、迫ってくる。
「参りましょう! 白月様!」
宇柳が促すと、ハクはぐっと覚悟を決めたように、牢屋に掲げられていた篝火をもち先導する和麻に駆け寄った。
俺がそれに続き、宇柳が殿を守る。
俺達は、飛び込むように、和麻が通ってきた穴に入った。
ただ、穴の中は大蚯蚓が通ってきた道だ。うねるように進んできたのか、急な坂がかなり多い。ハクはその中を、着物姿で駆けていかなければならないのだ。どうしても動きが鈍い。
転びそうになるのを何度か助けながらなんとか走っていたのだが、あっという間に蛙男達に距離を詰められ、追いつかれ始めた。
宇柳は狭い穴の中で長い刀を使えず、短刀で背後から迫る蛙男達の相手をしている。
その間に俺と和麻でハクを助けながら前に進んだ。
しかし、大して進まないうちに、ゼエゼエ息を切らしたハクが、ついにバタっと派手に転んだ。
「白月様!」
「ハク!」
和麻と俺が声を上げる。
このままでは、すぐに追いつかれて終わりだ。
俺は覚悟を決めて振り返り、蛙男達を見据える。
「宇柳さん、下がって!」
そう言いながらハクの前に一歩出ると、パチンと手を打ち鳴らした。
宇柳はそれにぎょっと目を見開き、すぐに梟の姿に変わって俺の背後にまわる。
以前、蝦蟇に絢香が捕まった時に、宇柳の前で陽の気を使っていたのだ。すぐに察したのだろう。
俺は目の前から宇柳が居なくなったことを確認すると、こちらへ迫って来る敵に、思いっきり力を込めて陽の気を放った。
白の粒が掌から発せられ、蛙男たちが、一気に陽の気に晒されて、ギャア! と声を上げながら、赤い光に身を包み倒れていく。
後ろから来る蛙男達は、前方の仲間の有様に悲鳴を上げて踵を返し逃げ出し始めた。
ただ一人、遼だけを除いて。
「人に陽の気が効くわけないだろ!」
遼はそう怒声を上げる。そして、こちらに迫る勢いのまま、ズボンのポケットからナイフを取り出してケースを投げ捨てた。
「奏太!」
ハクの悲鳴のような声が背後で響く。それと同時に、俺はグイっと思いきり後ろに腕を引かれ、俺の前にハクが飛び出したのがわかった。
口から紡いでいた祝詞も同時に止まる。
「ハク!」
守ろうとしたのに、逆に俺を守ろうと飛び出して来るなんて無茶苦茶だ。
遼はそれにニヤリと笑い、ハクを捕らえようと手を伸ばす。
しかし、すぐに宇柳が人の姿に変わり、短刀を構えた状態で二人の間に割って入った。
更に、ハクを隠すように、自分の背後にハクを押し込む。
遼は足を止め、苦々しい表情を浮かべて宇柳を睨みつけた。
「……そいつを返せよ。」
「断る。」
宇柳のすげのない返事に、遼は奥歯をギリッと鳴らす。
その間にも、和麻がハクに駆け寄り、肩を抱えて支えるようにして立たせて、対峙する二人から引き離そうとし始めた。
俺もそれを手伝おうとした、その時だった。
遼は不意に刀を捨て、パンと一度手を打ち合わせたのだ。
見覚えのある動作にゾッとする。何で遼がそれを使えるのかなんて後回しだ。
「宇柳さん!」
俺は咄嗟に声を上げ、遼を止めようと地面を蹴る。
ハクもすぐに気づいたのか、顔色を変えて和麻を遼から離すように壁際に突き飛ばし、宇柳の腕を自分の体重をかけるようにして下へ思い切り引く。そしてそのまま守るように覆いかぶさった。
遼の口から低い声で祝詞が唱えられ始め、白い光の粒が僅かに漏れ出る。
まずい!
そう思った瞬間、遼の背後、俺達の前方から全く別の声が響いた。
「遼殿!」
見ると、大きな狼が物凄い勢いでこちらへ駆けてくる。
狼の呼びかけに、遼はピタリと祝詞を止め、怪訝な表情を狼に向けた。
「遼殿、旗色が悪い。朝廷の軍団と烏天狗が包囲している! 今は逃げた方が良い!」
狼は焦ったような声を出す。遼は狼とハクに目を向け、ハクに向けて手を差し出す。
「結、こっちへ来い!」
「行くわけない!」
ハクは宇柳を守ったまま首を横に振る。
遼は差し出した手をぐっと握り、忌々しげに、ハクと宇柳、それから和麻と俺を見やる。
「遼殿!」
もう一度狼に呼ばれると、踵を返して狼に飛び乗った。
「結、絶対に連れ戻すからな。それから、奏太、俺はお前らを絶対に許さない。柊士にも伝えておけ。」
遼はハクと俺を見てそう言うと、狼と共に大蚯蚓の穴を引き返していった。
……絶対に許さない?
そんなことを遼に言われるような覚えがない。
柊士……それに、お前ら、と遼は言った。
結に関わることだとすれば、指しているのは本家の者達のことだろうか。
「白月様、もう大丈夫ですから……」
覆いかぶさったままのハクの下から、戸惑うような宇柳の声が聞こえる。
「ごめん。宇柳。大丈夫?」
「ええ。まさか白月様に守っていただくとは思いませんでした。ありがとうございます。」
ハクは体を起こすと、遼が去っていった方をじっと見つめる。
俺も同じように暗い穴の向こうを見た。
「でも、何で遼ちゃんが陽の気を……」
そうこぼすと、ハクはそれに答えるでもなく、自分の手を見下ろして、
「……私が教えた……?」
と小さく呟いた。
戻る方が近いが、元いた場所がどのような状況かわからないからと、結局、和麻の通ってきた穴を辿って外に向かう事になった。
その間、ハクは何かを考えるように言葉少なにトボトボと歩いていた。
宇柳も和麻も、心配そうに時折ハクの様子を伺う。
頑なに人界にいた頃のことを思い出したくないと言っていたハクが、最後に呟いた言葉が気になる。
多分、何かを思い出したのだろう。
「……奏太は、さっきの人の事を知ってるの?」
不意に、ハクがぼそっと呟くように問いかけてきた。
「……うん……」
「……結のことも?」
「……うん。知ってる。」
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