【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔

文字の大きさ
52 / 297
妖界編

リビングの話し合い②

しおりを挟む
 部屋を出ると、潤也と聡に風呂場に追いやられ、しぶしぶ熱いシャワーを浴びる。

 こんな風にしていると、ついさっきまでの出来事が嘘みたいに思えてくる。
 でも、全部が現実に起こったことで、自分の中に渦巻く様々なことへの憤りは流れていってはくれない。

 風呂場の前で座り込んで待ち構えていた二人に連れられて自分の部屋に戻ると、潤也と聡はほっとしたように揃って息を吐き出した。

「もう、頼むから無茶なことすんなよ……」
「別に、俺が無茶をしたわけじゃない。」
「自分から戦争に飛び込んで行こうとしただろ。」

 潤也の言葉にむっとして言い返したら、直ぐに、聡に睨まれた。

「お前は納得いってないかも知れないけど、俺は、おじさんや柊士って人がお前の事を止めてくれて良かったと思ってるよ。」

 潤也はドサっとベッドに腰を下ろしながら言う。

「ニュースを見てあの家に行って、お前が連れて行かれたって聞いた時、マジで殺されてるんじゃないかって思った。もしかしたら、もう会えないんじゃないかって……」
「三日だぞ。何度訪ねてきても帰ってきてない、手掛かりもないって。来るたび憔悴していくおじさんに、そう言われるこっち気にもなれよ。」

 聡も、俺の勉強机の椅子に座りながら疲れたようにそう言った。

 俺も、ベッドにより掛かり、床にそのまま座る。風呂に入ってさっぱりしたせいか、何だか、どっと疲れが押し寄せてくる。もう、立ちあがる気力もない。

「……心配かけたのはわかってるし、悪かったと思ってる。でも、目の前でいろんな者が傷つけられた。本家が燃やされて、皆捕まって、亘が刀で刺されて、知り合いが吐き気がするような方法で妖に変わった。京が燃やされて、たくさんの者達が逃げ惑っているのを見てることしかできなかった。ハクが体を張って逃してくれたけど、悲鳴が聞こえてきて、どうなったかわからない。
 受け入れてくれた京の連中は、味方に敵が潜んでるかもしれない不安の中で、地面に穴をほっただけの防空壕みたいなところで今も過ごしてるんだ。」

 思い出すだけで、ジリジリと胸の奥が焦げ付くような不快感に苛まれる。

「……放っておけるわけないだろ。」

 そう呟くように言うと、潤也も聡も何も言わずに、顔を見合わせた。

 俺はそれにハアと息を吐き出す。
 実際に目の当たりにしている訳でもないのに、わかるわけない。

「……ごめん。少し寝る。」

 多分、自分が思っている以上に相当疲れていたんだと思う。
 考えたいことも、言いたいことも、聞きたいこともある。
 でも、その場で、ゴロッと寝転がると、そのまま吸い込まれるように意識が途絶えた。


 目を覚ました時には、既に太陽が高く登っていた。

 ハッと飛び起きると、部屋には誰もいないし、階下から物音もしない。

 まさか置いていかれたかと、慌ててドタドタ音を立てながら階段を降り、荒っぽくリビングの扉を開けると、柊士がダイニングテーブルに一人座っていた。

 心の中でほっと胸をなでおろしたのが顔に出ていたのだろう。

「寝ているうちに置いていかれたと思ったか?」

と柊士が心の内を読んだように言った。
 俺が眉を顰めると、柊士は一つ息を吐き出す。

「一緒に戦うって言っただろ?」
「……連れて行ってくれるの?」
「そうじゃない。でも、人界でも出来ることはある。」

 柊士はそう言うと、分厚い長封筒と紙切れをこちらに差し出した。
 俺はそれを受け取らずに、柊士を睨む。

「これでどうしろって?」
「物資の調達も大事な仕事だ。前線に立つだけが全てじゃない。お前はお前にできることをすればいい。」

 つまり、準備だけ手伝えと。
 俺を置いていくのは、柊士の中では既に決定事項らしい。

「ただの買い出しだろ。ガキはガキらしく使いに行ってこいってこと?」
「そういう意味じゃない。ちょっとは冷静に考えろよ。陽の気を防ぐ方法を手に入れることが、どれだけ重要かくらいわかるだろ。」
「それは分かってる。でも、俺が手を出していいのはあくまで準備まで。あとは黙って家で待ってろって事だろ、結局。だいたい、柊ちゃんは……」

 うちの父の言葉に乗っかって、妖界にいたときの言葉を翻した事に文句をつけようとした、その時だった。

「昼飯、買ってきましたー!」

 玄関のドアを開ける音とともに響いた潤也の元気な声に、俺の抗議の声は打ち消された。

 リビングの戸も勢いよく開いたのだが、俺と柊士の様子に、潤也はピタリと足を止める。
 更に後ろから、聡が

「何やってんだよ。」

と潤也の背を押したが、同様にリビングの中を覗きこむと、聡もピタリと動きを止めた。

「ああ、ありがとう。助かったよ。」

 柊士は俺を無視して、貼り付けたような笑みを浮かべて二人を見る。

「ついでに、飯を食ったら、こいつの買い物に付き合ってやってくれないか?結構な量になる予定なんだ。」

 そう言うと、柊士は立ち上がって潤也が持っていたビニール袋を受け取り、代わりに俺に手渡そうとしていた封筒とメモを、潤也に差し出した。

「……それは全然良いんですけど……」
「昼飯のお釣りはそのお礼な。」
「あの、でも……」

 潤也は躊躇いがちに俺と柊士を交互に見る。
 しかし、柊士はそれを無視して、ポンポンと潤也の肩を叩き、ビニール袋をテーブルに置くと、そのまま廊下に出た。

「どこ行くの?」
「昼の間動けない妖連中の様子を見に行って来るだけだ。資材調達は任せたからな。」

 柊士はそう言うと、背を向けたままこちらに手を振ってさっさと家を出ていってしまった。


「またあの人に噛み付いてたのか?」

 二人が買ってきたコンビニ弁当を食べながら、聡が眉尻を下げる。

「別にそんなんじゃない。ただ、都合よく使いっぱしりだけさせようとしたからイラッとしただけ。」
「そういえば、何か買ってこいって言われたな。何だったんだ?」

 潤也は脇に置いていたメモをカサリと広げる。
 見ると、そこには書き殴ったような文字が並んでいた。

「ありったけの遮光カーテン、厚手の黒の服、帽子、マスク、靴、サングラス。あと、日焼け止めクリームと、スプレー……?」

 潤也は読み上げながら首を捻る。

「向こうに陽の気の使い手がいる。京を焼いたときみたいに空に結界の穴を開けることもできる。だから、出来るだけ陽の気を防ぐ物が必要なんだ。」

 そう言うと、潤也は目をパチクリと瞬いた。

「え……陽の気に弱いって、つまり紫外線に弱いってことなのか……?」
「いや、そこまではよくわかんないけど、事実、厚手の黒い服で陽の気を抑えられたし、白い服よりも全然効果的だった。ただ日焼け止めクリームに意味があるかは知らない。
 これから試すつもりなのか、俺の寝ている間に試したのか。」

 俺がそう言うと、聡も身を乗り出してメモを覗き込む。

「しかも結構な量だぞ。かなりの金額になるんじゃないか?」
「その封筒の中に、それなりの金額が入ってるんだろ。」
「……確かに、見たことがないくらい入ってる……」

 潤也が恐る恐るといった様子で封筒の中身を覗く。

「本家の役目のための必要経費って事だろ。」

 これだけの金額だ。どうせ、柊士個人の私費ではないのだろう。
 俺達は柊士に指示された通り、メモに沿って買い出しに行ってくればそれでいい、と言うことだ。
 ホントに馬鹿にしてる。

 そこまで子ども子どもだと言うなら、馬鹿のフリしてその通りに振る舞ってやる。
 後で何か言われたら、まるまる柊士のせいにすればいい。

 俺はイライラしながら、そう決意した。


 それから、俺達は服屋やホームセンター、ドラッグストアなどを片っ端から周り、持ちきれなくなれば家に帰って荷物を置き、また買い出しに戻る、ということを繰り返した。
 もちろん、レシートはしっかり確保してある。

 ある程度買い込んで、自分達では考えられないような金額を使うと、モヤモヤ重苦しかった溜飲が徐々に下がっていくのがわかった。
 ショッピングでストレス発散をする人の気持ちが少しだけわかったような気がする。まあ、人の金だからできる事だけど。

 一方で、潤也と聡は、ぐんぐん伸びていくレシートを見て、青い顔をしていた。
 どんどん玄関は荷物で埋まっていくし、全ての支払い額を合計したら、目を剥くような金額になったが、そんな事は知らない。

 ようやくメモにあったものを全て揃えた時には、日はすっかり沈んでいた。
 どこに行っていたのか、帰ってきた父が廊下に山と積まれた買い物袋を見て、

「何だよ、これ!」

と叫んだが、

「柊ちゃんに聞いて。」

と丸投げした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

処理中です...