【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔

文字の大きさ
64 / 297
妖界編

廃寺の戦い②

しおりを挟む
 ここの何処かにハクは居るのだろうか。
 無事だろうか。
 記憶を消されたりしていないだろうか。

 早く見つかればいいけど……
 そう思いながら、三階建の建物と、その背後に聳える五重塔を見やる。

 不意に、明るくなった遠くの空に、鳥の一団がこの廃寺を背に飛んでいくのが目に入った。
 チラと見えただけだし結構離れたところにいるので、最初はただの鳥の群れかと思った。

 でもよく見ると、鳥の背に乗るような人影が見える。更に目を凝らすと、チラッと銀色の髪が靡くのが見えた気がした。

 ……見えた “気がした“、だ。

 目はいいほうだけど、確実とはいえない。
 柊士たちと寺の正面にいたら、きっと気付けなかっただろう。

 ただ、この状況下で、皆を混乱させるようなことを言うかは大変迷う。
 でも、もし本当にハクが連れて行かれたんだとしたら、事だ。

 俺は声を潜めて、こっそり亘に声をかけた。

「ねえ、亘、あっちに鳥の群れがいたんだけど、もしかしたら、なんだけど……その中に、ハクがいたかも……」
「は!?」
「あ、いや……見間違いかも知れないけど、ハクの髪が見えた気がしたんだ。」

 亘の声に反応したのか、皆が視線をこちらに向ける。こっそり声をかけた意味が全然ない。
 しかし亘はお構いなしに、眉根を寄せて顎に手を添えた。

「確かに見たわけではないのですよね? 二手に別れますか?」
「いえ、あまり戦力を分散させるのは得策ではありません。奏太殿の護りも必要なのでしょう?ひとまず、誰かを偵察へ向かわせましょう。」

 凪がそう言うと、桔梗が素早く鳥の姿に変わる。

「あちらの空にいた一団でしょう? 私も少しだけ気になったのです。私が後を追いましょう。皆様は、中の捜索を。」

 そう言うと、翼を広げて羽ばたかせ始める。

「無理をせず、何かあれば報告を!」

 凪が声をかけると、桔梗はコクリと頷いて、鳥の群れを追って飛び立っていった。

「あちらは桔梗に任せましょう。引き際はわきまえている筈です。何かあれば呼びに来るでしょう。」

 凪にそう言われて俺は小さく頷いた。


 三階建の建物内に入ると、庭と同じく人気は全く無い。その中を、警戒しながら一部屋一部屋開けて、ハクが居ないかを確認していった。
 時折、何人かの兵士に遭遇したが、亘や凪達が手早く対処していく。
 しかし、一階、二階、三階と各部屋を開けて行っても、何処にもハクの姿はない。
 寺の背後にある五重塔も同様だった。俺達が閉じ込められていた地下牢も含めて見ていったが、敵の姿はあっても、ハクの姿はない。

「やはり、先程の一団が白月様を連れ去ったのかもしれませんね。」

 凪はそう言うと唇を噛む。
 桔梗が戻ってくれば居場所が掴めるはずだが、まだ戻ってきている様子はない。

 まだだろうか。
 そう思い、空を見上げる。

 そこでふと、空から地上へ白いキラキラしたものが降りて行っているのが目に入った。

 ざわっと背筋に寒気が走る。
 空の結界を解いている者がいるのだ。
 そしてそんな事をするのは一人しかあり得ない。

 しかも、太陽は出ていないが、青空が少しだけ寺の上空から覗いている。

「遼ちゃんだ! また空の結界が!」

 周囲は既に明るくなり朝を迎えている。
 あれが広がり太陽の光が届き始めれば、幻妖京の二の舞いだ。
 それに、万が一戦いに気を取られて気づいていないなんてことになれば、正面で戦っている者たちが焼き尽くされてしまう。

 白い光が降りて行っているのは、寺院の正面、つまり、戦いが行われているはずの場所だ。

「行こう! 柊ちゃんが気付いてるかわからないけど、気づいてないなら、あれを塞がないと!」

 俺がそう言うと、亘が目を見開く。

「奏太様! 無茶はしないとあれ程……!」
「あれを塞ぐだけなんだから、無茶じゃないだろ! やらなきゃ、皆、焼かれる!」

 亘や柊士が俺を心配して、ああ言ってくれているのはわかってる。
 でも、自分にしか出来ないことくらい、きちんとやりたい。特に、味方がピンチの時なら尚更だ。

 そう思っていると、思わぬ方向から加勢の声が上がった。

「参りましょう。陽の気の使い手にしか出来ぬことです。放置すれば、我が方にも人界の者にも多大な被害が生まれるでしょう。我らも必ず、奏太殿を守ると誓います。」

 静かにそう言う凪に、亘は考えを決めかねるように一度、目を伏せる。

「万が一あっちが劣勢になったら次期当主である柊ちゃんだって危ないだろ。今、柊ちゃんが動ける状況かもわからないんだ。何のために陽の気の使い手がもう一人いるんだよ!」

 俺がそう言い募ると、亘はフウと息を吐き出した。

「正直、結様と奏太様の身の安全が守られれば、次期御当主のことなど二の次でも良いのですが、仕方がありませんね……」

 ……いや、何てことを……

 少しばかり耳を疑ったし、一緒に来ていた人界の妖達から咎めるような声が聞こえてくる。
 それはそうだろう。
 ただ一方で、亘が本当に俺のことを優先しようとしてくれているのがわかって、少しだけ嬉しい気持ちもわいてくる。何だか複雑だ。

 ひとまず、亘が納得してくれるのなら淕が泣いて怒りそうな発言については一旦保留ということにしておこう。

「空に手を向けていられるということは、戦場の真ん中ではなく、ある程度安全を確保できるところにいるのでしょう。こっそり近づき、捕らえましょう。捕らえる役割は我ら妖にお任せを。」

 亘が言うと、凪や人界の妖達も頷く。

「奏太様は何かあれば陽の気で御自分の身を守ってください。
 結界を閉じるのは、安全の確保が出来てからです。気づかれてはなりませんから、何があってもギリギリまで堪えてください。いいですね。」
「わかった。遼ちゃんのことは、亘たちに任せる。俺は、結界を塞ぐことに集中するよ。」

 俺がそう答えると、亘は真剣な眼差しで頷いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

処理中です...