【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔

文字の大きさ
74 / 297
妖界編

御礼の贈り物②

しおりを挟む
「白月様、思いつきでそのような事をお決めになられては困ります。」

 璃耀が厳しい顔でハクを見る。

「でも、人界の三人にここへの立ち入り許可を出したら、そうしておかないと来ようがないでしょ。」
「陽の山の泉を通って来れば良いでしょう。」
「陽の山からここまで、徒歩でどれだけかかると思ってるの?辿り着く前に陰の気に蝕まれちゃうよ。亘や淕と一緒に来る前提じゃないと。」

 そう言うハクに、凪は眉尻を下げる。

「しかし、人界の者が自由に行き来できる状況は、危険では……今回のような事があっては……」
「今回みたいなこと、早々起こらないよ。それに、向こうもこっちも、入口をきちんと管理しておけば良いでしょ。何も知らない人が迷い込んできたら可哀想だから、できたら、本家と直接繋ぐのがいいとは思うけど。」
「その場合、こちら側でもきちんと見張りを立てねばなりませんね。検非違使か軍団か……」

 翠雨も顎に手を当てて考え込む。

「でも、そうしたらカミちゃんも一緒に人界に行けるよ?」

 ハクが小首を傾げて翠雨の顔を覗き込むようにそう言うと、翠雨はハッと顔を上げて目を輝かせる。

「私も連れて行ってくださるのですか!?」

 ……あ、御しやすいところから誘惑し始めた。

「お待ち下さい!白月様が行き来なさるおつもりですか!?」
「うるさいぞ、璃耀。白月様がそうなさりたいと仰ってるのだ。それを整えるのが其方の仕事だろう。」

 声を上げた璃耀に、翠雨は顔を顰める。もう完全にハクの味方に回っている。ちょろいというか何というか。
 最上位の二人がこの調子だと、下は苦労するんだろうな……

「自由が過ぎる主を諫めるのも私の仕事です。」
「ほう、其方には荷が重いと。主上の望みも叶えて差し上げられないなど、雉里の名が泣くな。」

 挑発するような翠雨の言葉に、璃耀は顔を引き攣らせる。

「白月様の掌の上で転がされている翠雨様こそ、柴川の名が泣いていますよ。そのような方が政を動かしていくなど、京の立て直しが思いやられますね。」
「京の民が大変な思いをしている間にいなかった其方が言って良い言葉ではないと思わぬか?」
「おや。翠雨様の手には余りましたか。私の手が必要だったと?」
「そうだな。物も掴めねば大して飛べもせぬ雉の翼でも無いよりあったほうがマシだったかも知れぬな。」

 二人の様子に、周囲を囲んでいた近衛が顔を引き攣らせ始める。何だか既視感のある光景だ。

 ハクは白熱し始めた二人を交互に見上げると、こっそりその間を抜け出し、少しフラつきながらこちらにやってこようとする。

 慌てて手を貸して隣に座らせると、ハクは

「ありがとう」

とニコリと笑った。

「良いのか、あの二人は。」

 璃耀と翠雨を顎で指す柊士に、ハクはコクリと頷く。

「いつもの事だから、放っておけばいいよ。
 それより、私も一回本家に行こうと思うの。どこかに結界の穴を開けたいし、一応伯父さん達にも今回の御礼と挨拶はしておかなきゃ。」
「要らねーよ、そんなの。」

 柊士は吐き捨てるように言うが、ハクは首を横に振る。

「一応、けりは付けておきたいんだよね。自分の気持ち的にも。今度は、きちんと白月として行くよ。あの人の姪としてじゃなく。」

 ハクの決意は固そうだ。

「少し先にはなると思うから、書状だけ持って帰ってくれる? 行く日が決まったら、使いを出すよ。」

 柊士はじっとハクの目を見たあと、小さく息を吐いて頷いた。

「わかった。親父には伝えておく。」

 ハクはそれに笑みで応じる。

「ねえ、ハク。俺も一つお願いがあるんだけど……」
「何?」

 話が一段落したところで俺が声をかけると、ハクは小さく首を傾げた。

 俺は柊士と淕にチラッっと目を向ける。訝しげな表情をする従兄弟にはあんまり聞かれたくない。

「ちょっと耳かして。」

 俺はハクに近づくと、柊士に見られないように手で隠しながら、ハクの耳元に口元を近づけてそっと囁やく。

「俺と亘、反対を押し切ってこっちに来たんだ。書状に、きちんと活躍したって書いておいてくれないかな? 父さんが怖いんだよね。亘も変に処分されかねないし。」

 人界に戻ったら、勝手に出ていったこと、その上怪我をして帰ったことを永遠と説教される未来しか見えない。柊士が助けてくれるわけないし、ハクに口添えしてもらって、少しでも父の怒りを抑えたい。
 亘だって、俺をここに連れてきた咎めを受けるはずだ。重たいものを科せられでもしたらたまったものではない。

 すると、ハクがクスッと苦笑を漏らす。

「わかった。じゃあ、それもきちんと手紙に書くよ。叔父さん宛にも。」

 ハクもまた、俺の耳元に手を当てて、そう囁き返した。

 チラッっと柊士を見ると、先程よりも更に険しい顔で探るようにこちらを見ている。
 表情を見るに、たぶん聞こえてはいなかったのだろうが、見定めるような視線がとても痛い。

 ただ、それよりも……

 気づけば周囲がシンと静まり返っていて、翠雨や近衛が唖然としたようにこちらを見ていた。

 更に、凪は何故か顔を少し赤くしていて、

「……あの、白月様……? 奏太殿と、どういったご関係で……」

と恐る恐る尋ねてくる。

「え、従姉弟だけど……」

 ハクは俺と同じ様に、わけが解らないと言うように凪や周囲の反応を見ている。

「いえ……その……そのように御顔を近づけ合うなど、普通は恋仲……」
「それ以上言うな、凪!」

 翠雨が顔を青くして凪の言葉を遮る。
 俺とハクの戸惑いを他所に、周囲の近衛達もざわっと波立つ。

 ……は? ……恋仲? 誰と誰が? ……俺とハクが?

「え、ちょっと待ってよ。何、どういうこと? 従姉弟だって言ってるじゃん!」

 ハクが驚いたように目を見開き、慌てて否定する。

「そうです。そんなのあり得ないです!」

 俺も同じ様に声を上げると、璃耀が呆れ顔でスッとこちらへ進み出てきた。

「白月様、人の姿で男女があの様に顔を近づけあうなど、そのように誤解されても仕方がありません。
 それに、従姉弟同士の婚姻など、然程珍しくもありません。
 更に言えば、先程貴方は人界と妖界を繋ぐ結界の穴を開けると仰ったばかりです。逢瀬の為かとも受け取れます。」

 起こった事象を冷静に並べ立てる璃耀に、翠雨はますます顔を青褪めさせる。

「……白月様……まさか、本当に……」
「だから違うってば、カミちゃん!」

 ハクが叫ぶように言うと、突然ぐいっと俺とハクの間を離すように翠雨が割り入ってくる。
 ついでに俺は亘に、怪我をしていない方の肩をトントンと叩かれた。

「人界と妖界の文化の違いでしょう。先程から凄い剣幕で見られていますよ、奏太様。」

 亘に言われて周囲に視線を巡らせると、以前烏天狗の山でハクに手を握られた時の比じゃないくらいに、鋭い視線が近衛達から向けられていた。

「まあ、この様に可憐な年頃の女性に臆面もなく顔を寄せていくのも如何なものかとは思いますが。」
「だって従姉弟だろ!」

 ジトッとした目線で見てくる亘に言うと、

「……一族の血を守っていくには従姉弟同士の方が婚姻相手としては良い、という考え方もありますけどね。」

とボソっと発せられた淕の言葉が聞こえてきた。
 それが周囲にも聞こえたのか、向けられていた視線が一層厳しくなる。

「淕まで余計な事を言わないでよ!」
「奏太様、もう黙った方が宜しいかと。嫉妬を買って、味方であるはずの朝廷の兵から狙われるのだけは勘弁してください。」

 亘が言うと、柊士はハァーと深いため息をついた。
 ハクはハクで、璃耀のお説教タイムが始まっている。

「白月様。日頃から申し上げていますが、貴方は常に周囲の視線に晒されて居るのです。もう少し自覚を持って、迂闊に行動されないようお気をつけください。」
「……はい……でも、本当にそんなんじゃなくて……」

 ハクはゴニョゴニョともう一度否定をしている。

 一応その後、ハクと二人で誤解を解こうと人界の普通を説明していったのだが、厳しい表情を浮かべる翠雨や、未だ俺を睨んでくる近衛たちの表情を見るに、納得してもらえたかどうかは、とても怪しい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

処理中です...