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6.初夜
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夕食前にはアデラートは帰ってきた。正しくは、呆れ果てたレイノルドに追い返され、帰宅せざるを得なかったのだ。
慣例的に認められている結婚休暇すら取らないこともくどくど言われたが、戦の事後処理が落ち着いたら休みを取るということで、なんとか決着を得た。
どちらが上司か分からないが、自分の事を心配してくれているのは分かるため、しぶしぶ了承してきたのだ。
玄関ホールまで自分を出迎えたシェリルノーラはシンプルな白いシャツにパンツ、左腰にリボンを結んだ腰帯といったラフな格好だった。王族とは思えない質素な出で立ちではあるが、正装とはまた違い、よりその清廉な姿を際立たせていた。
ぎこちない表情で「お帰りなさい」と出迎えてくれたシェリルノーラに、アデラートは何とも言えない気持ちになる。
ちゃんと、笑顔で、優しく、言葉を惜しまず、話をしろと何度も何度も、しつこくレイノルドから言いくるめられて帰って来たが、自分にとってはかなりの難問だ。
まず笑顔で優しくとはどうしたものか。
「一緒に夕食を」
それだけ無表情のまま告げると、微かだがはにかんだ笑顔が返ってきた。どうやら嫌悪や恐怖はないようで、胸を撫で下ろした。
夕食を共にしても、気の利いた話などできず、いつものように無言で食事を進める。その向かいの席で、シェリルノーラはゆっくりとメインを口にしていた。
「お口に合いますでしょうか?」
見かねたのか、執事のダラスがそっとシェリルノーラに声をかけた。
「はい。とても美味しいです」
「苦手な物や、食べられない物がございましたら、どうぞおっしゃってください」
ダラスに少し微笑んで、食べられない物はないと答えている。いつの間にかこちらは少し距離が縮まったようだ。その様子を微笑ましく感じ、見ているとシェリルノーラと視線があった。
さっと視線を晒されてしまう。
「申し訳ありません」
なぜか小さく謝罪された。
「旦那様はあれが普通の顔なのでございます。決してお喋りをしたことを咎めたのではありませんし、不機嫌でも、お怒りでもございませんので、お気になさらないで下さい」
小さな声でダラスがシェリルノーラになんだか失礼なことを耳打ちしている。全部聞こえているが。
俺の顔が怖くて、不機嫌だと思われたのか。周囲の反応には慣れていたが、なんとなくこの方にそう思われたとは地味に傷つく。
「申し訳ありません」
もう一度が謝られたが、これ以上怖がらせてはと、次は顔を見ることはしなかった。
「いえ」
手元の皿を見ながら短く返答し、食事を再開する。
アデラートは視線を外していたため、一瞬だけ表れたシェリルノーラの泣きそうな表情は視界に入らなかった。
それから、会話のないまま夕食を終え、シェリルノーラを部屋まで送って、ドアの前で立ち止まる。彼は食事の時より少し固い顔をし、緊張しているように見えた。
その時、アデラートの脳裏に昼間のレイノルドの「初夜」という言葉が浮かんだ。
夫婦となったこの日、もしや、そのことを憂い、緊張しているのではないだろうか。
そんな悲壮な覚悟をしなくても、彼を抱こうなどとは思ってない。女性とも男性ともそれなりに若い頃は経験があるが、たとえ立場上は妻でも、自分がシェリルノーラに手を出すなどありえない。
そんな無体なことをしたいと思えないし、彼も耐えられないだろう。
「シェリルノーラ様、私はあなたに妻の役割は望んではおりません。これも何かの縁です。どうぞ、私のことは気にせず、この屋敷でお好きにお過ごしください」
安心させるための言葉に、シェリルノーラの雰囲気が一瞬強張ったように思えた。
「承知しました。おやすみなさい」
小さな声でそう言い、シェリルノーラはするりと扉の向こうへと消えた。
慣例的に認められている結婚休暇すら取らないこともくどくど言われたが、戦の事後処理が落ち着いたら休みを取るということで、なんとか決着を得た。
どちらが上司か分からないが、自分の事を心配してくれているのは分かるため、しぶしぶ了承してきたのだ。
玄関ホールまで自分を出迎えたシェリルノーラはシンプルな白いシャツにパンツ、左腰にリボンを結んだ腰帯といったラフな格好だった。王族とは思えない質素な出で立ちではあるが、正装とはまた違い、よりその清廉な姿を際立たせていた。
ぎこちない表情で「お帰りなさい」と出迎えてくれたシェリルノーラに、アデラートは何とも言えない気持ちになる。
ちゃんと、笑顔で、優しく、言葉を惜しまず、話をしろと何度も何度も、しつこくレイノルドから言いくるめられて帰って来たが、自分にとってはかなりの難問だ。
まず笑顔で優しくとはどうしたものか。
「一緒に夕食を」
それだけ無表情のまま告げると、微かだがはにかんだ笑顔が返ってきた。どうやら嫌悪や恐怖はないようで、胸を撫で下ろした。
夕食を共にしても、気の利いた話などできず、いつものように無言で食事を進める。その向かいの席で、シェリルノーラはゆっくりとメインを口にしていた。
「お口に合いますでしょうか?」
見かねたのか、執事のダラスがそっとシェリルノーラに声をかけた。
「はい。とても美味しいです」
「苦手な物や、食べられない物がございましたら、どうぞおっしゃってください」
ダラスに少し微笑んで、食べられない物はないと答えている。いつの間にかこちらは少し距離が縮まったようだ。その様子を微笑ましく感じ、見ているとシェリルノーラと視線があった。
さっと視線を晒されてしまう。
「申し訳ありません」
なぜか小さく謝罪された。
「旦那様はあれが普通の顔なのでございます。決してお喋りをしたことを咎めたのではありませんし、不機嫌でも、お怒りでもございませんので、お気になさらないで下さい」
小さな声でダラスがシェリルノーラになんだか失礼なことを耳打ちしている。全部聞こえているが。
俺の顔が怖くて、不機嫌だと思われたのか。周囲の反応には慣れていたが、なんとなくこの方にそう思われたとは地味に傷つく。
「申し訳ありません」
もう一度が謝られたが、これ以上怖がらせてはと、次は顔を見ることはしなかった。
「いえ」
手元の皿を見ながら短く返答し、食事を再開する。
アデラートは視線を外していたため、一瞬だけ表れたシェリルノーラの泣きそうな表情は視界に入らなかった。
それから、会話のないまま夕食を終え、シェリルノーラを部屋まで送って、ドアの前で立ち止まる。彼は食事の時より少し固い顔をし、緊張しているように見えた。
その時、アデラートの脳裏に昼間のレイノルドの「初夜」という言葉が浮かんだ。
夫婦となったこの日、もしや、そのことを憂い、緊張しているのではないだろうか。
そんな悲壮な覚悟をしなくても、彼を抱こうなどとは思ってない。女性とも男性ともそれなりに若い頃は経験があるが、たとえ立場上は妻でも、自分がシェリルノーラに手を出すなどありえない。
そんな無体なことをしたいと思えないし、彼も耐えられないだろう。
「シェリルノーラ様、私はあなたに妻の役割は望んではおりません。これも何かの縁です。どうぞ、私のことは気にせず、この屋敷でお好きにお過ごしください」
安心させるための言葉に、シェリルノーラの雰囲気が一瞬強張ったように思えた。
「承知しました。おやすみなさい」
小さな声でそう言い、シェリルノーラはするりと扉の向こうへと消えた。
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