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7.発熱
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シェリルノーラが輿入れして1ヶ月ほどたった。少しずつ温かさが増し、春らしい日々が続いていた。
生活の変化はほとんどなく、朝食を一緒にとって見送られるくらい。夜は遅くなるので先に休んでもらうようにしている。
数少ない顔を合わせる機会である朝の食卓で、シェリルノーラの様子が少し違った。寡黙なのは変わらないが、手元が怪しくぼんやりしている。
「シェリルノーラ様、お加減が悪いのでは?」
「……いえ、大丈夫です」
そうは言うものの、果汁を二口ほど口にしただけで食事が進んでいない。寒気がするのか、無意識だろうふるりと身体を震わせた。
アデラートは席を立ち、そっとシェリルノーラの頬に触れた。やはり、熱を持っているようだ。
触れられても特に反応を示さず、不思議そうに自分を見上げる姿は、いつもより幼く見えた。
「食事はまだ入りそうですか?」
「いえ……」
緩くかぶりを振る。
「失礼します」と声をかけ、アデラートは彼を抱き上げた。軽い。
驚いたのか、何の抵抗もせずにきゅっと胸元に身体を寄せてくる。
アデラートはそばに控えていたダラスに医師をと一言告げ、シェリルノーラの寝室を目指した。
初めて入る寝室はメイドの手ですでに整えられていた。靴を脱がせ、そっとベッドに横たえると、腰帯を解き毛布をかける。シェリルノーラは目を閉じ、されるがままになっている。
そのままでは寝にくいだろうと、一瞬躊躇したが毛布の下でズボンを脱がせる。シェリルノーラは寒いのか、小さく丸まってしまう。急いで控えていたメイドに追加の布団を持ってこさせると、その身体を包む。
熱が上がってきたようで、頬を紅潮させ苦しそうに息をしている。アデラートがまだ医師が到着しないことに、苛立ちを感じて始めていると、ノックの後に執事が初老の医師をつれてきた。
アデラートの険しい顔に卒倒しそうにななりながらも、目の前の患者に気を取り直した医師は診察を始めた。いくつかの質問に、途切れ途切れに小さくシェリルノーラが答えるのをそばで見守る。
「旦那様、お仕事は」
執事から声をかけられて、アデラートは咄嗟に休むと連絡を入れてくれ、と答えていた。執事が退室すると、アデラートは自分の発言に驚いていた。
仕事に行くことを失念していた。確かに今日は必ず行かなければならない予定はない。レイノルドがいれば何とかなる。しかし、……。
考え込みそうになるアデラートに医師がおずおずと声をかけた。
「将軍様、奥方様は熱が少し高いようですが、ゆっくり休養を取っていただければ大丈夫だと思われます。お心もお身体もお疲れが溜まり、それが表に出たのでしょう。
熱冷ましだけお渡ししていきます。水分をしっかりとり、栄養のあるものやお好きなものを食べられる範囲で結構ですので、お召し上がりください。
丸1日経っても熱が下がらないようでしたら、またお呼びください」
そう言うと、頭を下げて医師は退室していった。
輿入れして約1ヶ月、シェリルノーラは静かに暮らしていた。特に贅沢をするでもなく、淡々と過ごしているようだった。
自分とも挨拶程度しか会話をしていない。静かすぎる暮らし、誰1人として知らない屋敷の慣れない日々でこの子と呼んだ方が良さそうな彼を追い詰めてしまっていたのか。
そっとベッドサイドの椅子に腰を下ろし、その顔を見つめる。シェリルノーラは苦しそうな顔で目を閉じていた。
そういえば、好きなものをと言われても、彼の好む食べ物すら知らない。
いくら褒美として賜ったとは言え、彼は犬猫の子でも、ましては物言わぬ宝石でもない。蔑ろにしたつもりはないが、可哀想なことをしてしまった。
後悔というものをほとんどしたことがない自分の胸の痛みを感じる。
いつもはふんわりとした蜂蜜色の髪が、汗でしっとり額に張り付いている。自分などが触ってよいものではない気がしたが、恐る恐るそっと指先で整えてやる。その柔らかな感触に止まらなくなり、横向きに眠る頬にかかる髪も優しく払う。
その時、ふるりとシェリルノーラの長い睫毛が震え、その瞳がぼんやりとこちらを見つめた。
生活の変化はほとんどなく、朝食を一緒にとって見送られるくらい。夜は遅くなるので先に休んでもらうようにしている。
数少ない顔を合わせる機会である朝の食卓で、シェリルノーラの様子が少し違った。寡黙なのは変わらないが、手元が怪しくぼんやりしている。
「シェリルノーラ様、お加減が悪いのでは?」
「……いえ、大丈夫です」
そうは言うものの、果汁を二口ほど口にしただけで食事が進んでいない。寒気がするのか、無意識だろうふるりと身体を震わせた。
アデラートは席を立ち、そっとシェリルノーラの頬に触れた。やはり、熱を持っているようだ。
触れられても特に反応を示さず、不思議そうに自分を見上げる姿は、いつもより幼く見えた。
「食事はまだ入りそうですか?」
「いえ……」
緩くかぶりを振る。
「失礼します」と声をかけ、アデラートは彼を抱き上げた。軽い。
驚いたのか、何の抵抗もせずにきゅっと胸元に身体を寄せてくる。
アデラートはそばに控えていたダラスに医師をと一言告げ、シェリルノーラの寝室を目指した。
初めて入る寝室はメイドの手ですでに整えられていた。靴を脱がせ、そっとベッドに横たえると、腰帯を解き毛布をかける。シェリルノーラは目を閉じ、されるがままになっている。
そのままでは寝にくいだろうと、一瞬躊躇したが毛布の下でズボンを脱がせる。シェリルノーラは寒いのか、小さく丸まってしまう。急いで控えていたメイドに追加の布団を持ってこさせると、その身体を包む。
熱が上がってきたようで、頬を紅潮させ苦しそうに息をしている。アデラートがまだ医師が到着しないことに、苛立ちを感じて始めていると、ノックの後に執事が初老の医師をつれてきた。
アデラートの険しい顔に卒倒しそうにななりながらも、目の前の患者に気を取り直した医師は診察を始めた。いくつかの質問に、途切れ途切れに小さくシェリルノーラが答えるのをそばで見守る。
「旦那様、お仕事は」
執事から声をかけられて、アデラートは咄嗟に休むと連絡を入れてくれ、と答えていた。執事が退室すると、アデラートは自分の発言に驚いていた。
仕事に行くことを失念していた。確かに今日は必ず行かなければならない予定はない。レイノルドがいれば何とかなる。しかし、……。
考え込みそうになるアデラートに医師がおずおずと声をかけた。
「将軍様、奥方様は熱が少し高いようですが、ゆっくり休養を取っていただければ大丈夫だと思われます。お心もお身体もお疲れが溜まり、それが表に出たのでしょう。
熱冷ましだけお渡ししていきます。水分をしっかりとり、栄養のあるものやお好きなものを食べられる範囲で結構ですので、お召し上がりください。
丸1日経っても熱が下がらないようでしたら、またお呼びください」
そう言うと、頭を下げて医師は退室していった。
輿入れして約1ヶ月、シェリルノーラは静かに暮らしていた。特に贅沢をするでもなく、淡々と過ごしているようだった。
自分とも挨拶程度しか会話をしていない。静かすぎる暮らし、誰1人として知らない屋敷の慣れない日々でこの子と呼んだ方が良さそうな彼を追い詰めてしまっていたのか。
そっとベッドサイドの椅子に腰を下ろし、その顔を見つめる。シェリルノーラは苦しそうな顔で目を閉じていた。
そういえば、好きなものをと言われても、彼の好む食べ物すら知らない。
いくら褒美として賜ったとは言え、彼は犬猫の子でも、ましては物言わぬ宝石でもない。蔑ろにしたつもりはないが、可哀想なことをしてしまった。
後悔というものをほとんどしたことがない自分の胸の痛みを感じる。
いつもはふんわりとした蜂蜜色の髪が、汗でしっとり額に張り付いている。自分などが触ってよいものではない気がしたが、恐る恐るそっと指先で整えてやる。その柔らかな感触に止まらなくなり、横向きに眠る頬にかかる髪も優しく払う。
その時、ふるりとシェリルノーラの長い睫毛が震え、その瞳がぼんやりとこちらを見つめた。
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