将軍の宝玉

なか

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10.遠乗

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   シェリルノーラはきれいな姿勢で楽しそうに馬に乗る。乗馬は嗜み程度かと思っていたが、かなり熟練しており、馬ともよく意思を通わせているようだった。

   ガイは早駆けがしたそうだったが、あえてゆっくり進む。シェリルノーラが興味深そうにきょろきょろ景色を楽しみながら着いてくる。その様子が微笑ましく思える。


   街並みは途絶えてから1時間ほどゆっくりめに馬を走らせる。小高い丘を越え、森をしばらく行くと、湧き出ている泉が見えてきた。その近くで馬を降りる。

「……きれい」

   小さく声が聞こえてシェリルノーラを見る。見られていることに気付かないまま、泉に駆けて行き、水面を覗き込んでいる。澄んだ水面に手をつけ、笑顔でパチャパチャと水で遊び出す。
   初めて見るはしゃいだ姿が新鮮だ。近付いていくと、はっとしたように俺を見上げる。

「あ、すみません。子供っぽいことを……」

「いえ、謝ることなどありません」

  恥ずかしそうに立ち上がるのを、手で制する。

「シェリルノーラ様、あなたはそのままのあなたでよいのです」

   まだ彼は若い。そんなことを気にせず、のびのびしほしくてそう伝えると、少し驚いた顔をした後、頬を染めた。俯いてしまったのは子供扱いが恥ずかしかったのだろうか。

「足をつけてみますか?」

   顔を見上げ、戸惑っているようだ。野外だからだろうか、いつもより表情豊かだ。

「気持ち良いですよ」

   逡巡した後、ブーツと靴下を脱いで、ズボンの裾をまくる。恐る恐るといった様子で、その日に焼けていない足を水面につけた。この時期だと少しひんやりして、運動した後には気持ちいいはずだ。

   冷たいと小さな声が聞こえた。
   そっと離れて、鞍と荷物を降ろす。ガイは自由にしてやると、早速泉の周りを駆けていった。
   それを見て、シェリルノーラも近くにいたリラに行く?と聞いている。リラは行かないと言うように首を振る。なんだか会話が成立している。リラが少し離れた場所で水を飲むのを、そのまま笑顔で見守っている。

   俺はそれを横目に見ながら、籠から布を出し、平らな所に敷く。中身を出して準備する。昼食用のサンドイッチとカットされたフルーツ、それに紅茶が入った水筒の簡単なものだ。


「お昼にしましょうか」

   力の抜けた表情のシェリルノーラに近づき、声をかける。やはり屋敷の中では慣れない場所ということもあって、気を張っていたのだろう。
   そばに片膝をつき、そのまま抱き上げる。

「旦那様っ?」

   慌てた様子で服にしがみつく彼は、身長の割には軽い。濡れたままだと足が汚れるし、地面を歩かせて足の裏を傷つけるといけないと思い、抱き上げてみたが軽すぎる。
   敷き布の上にシェリルノーラを座らせると、持ってきた布で足を拭く。

「あの、自分で」

   正気に返ったらしいシェリルノーラが、布を受け取ろうとするが、あらかた拭き終わっていた。
   その言葉は取り合わず、最後まで拭くと小さな声でお礼を言われた。ブーツと靴下を取りに戻り、一緒に腰を下ろす。

「食べましょうか」

   濡れた手拭きを渡すと、こくんと頷かれる。また固くなっているようだが、座る位置が近すぎたか。敷き布があまり大きくないため、いつも食事をするよりかなり近い距離だ。まあ、俺は地面でもよいのだが、きっと彼は自分だけ敷布の上にいることに遠慮してしまうだろう。

   紅茶を渡すと、シェリルノーラはお礼を言って受け取る。ひとつひとつのことにお礼を言うの謙虚さは彼の美点かもしれない。
   
「美味しいです」

   少しぎこちない笑顔でサンドイッチを食べ始めている。

「たくさん食べてください。少し軽すぎます」

  彼の方にサンドイッチを押す。

「ありがとうございます。ただ、私は子供の頃、大病をしたせいか、食べてもあまり肉がつきにくいようです。もう少し旦那様みたいに筋肉もほしいのですが」

   寂しそうな微笑みに一言多かったと思ったが、口から出た言葉は取り返しがつかない。
   しかし、自分みたいな身体にはならないでほしい気がする。自分のでかい身体にあの顔がついていたらと想像しかて、やめた。考えないほうが自分のためだ。

「そうでしたか。今のままのシェリルノーラ様も、すらりとしていて、お美しいと思います。もちろん無理する必要はありませんが、たくさん食べると屋敷のみなも喜びますので」

   自分の想像を打ち消すように、慌てて返答する。言ってることはなんだかおかしい気もしたが、一瞬固まった後、シェリルノーラはきれいに笑って、またお礼を言った。

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