将軍の宝玉

なか

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21.肺病

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   翌日の早朝、仮眠だけとり地下の部屋に降りた。ここは一部の者しか出入りが出来ない地下牢に近い存在だ。
   レイノルドの仕業だろう、自害防止に猿轡を咬まされ、後ろ手に腕を縛られた部下のザイルがいた。
   勤勉な部下の憔悴した姿に、静かに声をかけた。


   朝食の時間になっても、シェリルノーラは食堂に現れなかった。疲れてまだ眠っているのかと思ったが、侍女によると起きてはいると言う。嫌な予感がして、部屋を訪ねた。

   控えている侍女に一言声をかけ、寝室のドアを開ける。
   カーテンが引かれ、薄暗い室内でベッドに横たわるシェリルノーラの背中が見えた。足元に彼がミーと名付けた猫が、心なしか心配そうに横たわっていた。
   微かに荒い息遣いが聞こえる。

   そっと近寄ると、シェリルノーラは瞑っていた目を開いた。

「具合が悪そうだ。熱が出たでのではないですか」

「違います。……ただ寝不足で怠いだけです」

   明らかに体調が悪そうだが、硬い表情で起き上がろうとする。

「寝ていれば大丈夫です。どうぞお気になさらず、お仕事に行ってください」

「シェリルノーラ様……」

「このような格好のままで申し訳ありません。どうぞお気をつけて」

   頑なな態度を訝しく思いながらも、これ以上話をして長引かせるのも気が引けた。
   こんな様子のシェリルノーラは初めてだ。何か昨日のことと関係があるのだろうか。

「……分かりました。ゆっくり休んでください」
  
   俺は執事のダラスに医師を呼ぶよう言いつけて、久しぶりの青空の下、出かけるしかなかった。


   大雨の被害の対応や昨夜の件について本日やれるだけの処理を終え、帰宅したのは夕飯に間に合う時間だった。
   予想はしていたが、シェリルノーラの出迎えはない。ダラスによるとやはり熱が出て、医師の診察を受けた後、解熱剤を飲んで休んでいるとのことだった。

  ドアをそっと開けて寝室に入ると、足元にミーがすり寄ってくる。頭を撫でると、ドアの隙間からするりと部屋を出て行った。

「起きていますか?」

   ベッドの側まで行くと、ほんのりとした灯でもその苦しそうな表情が見えた。小さな声で尋ねると、目を開けこちらを見た。
   起き上がろうとするのを制して、ベッドサイドの椅子に座る。

「具合はどうですか?」

  緩くなった額のタオルをタライで縛り直し、元に戻す。まだ額はかなり熱かった。
   シェリルノーラは何かに耐えるような、苦しいような目をして、眉間に皺を寄せた。いつも穏やかな彼が、そのような表情を見せたのは初めてのことだ。
   
「昨日雨に打たれたのが、やはり良くなかったのでしょう。申し訳ありません」
   
「私が自分の力を省みず、無理をしたせいなのです。旦那様が謝られることではありません。申し訳ありません」

   険しい顔のままの身体を起こし、固い声で答える彼に違和感しか感じない。ふらつく身体を支え、顔を覗き込む。

「シェリルノーラ様?」

「……どんなに努力しても、成長しても、この身体は弱いまま。……私は、いつも役には立たない!周りに迷惑ばかりかける、出来損ないなのです!」

   話すうちに興奮してきたのか、声は大きくなくとも、彼の心の叫びのように聞こえた。

「……旦那様の役にも立たない。情けないのです!悔しいのです!」

   激情にかられるシェリルノーラは、いつもの一歩引いた姿とは異なり、血の通った1人の人間にみえた。
   不謹慎かもしれないが、それを美しいと思った。胸に迫り来る名前のつけられない感情に任せて、その細い身体を抱きしめたのは無意識だった。

   腕の中で愚図るように熱い身体を動かすシェリルノーラを、さらにきつく抱きしめる。

「うっ…」

   胸のあたりから、くぐもった泣き声が聞こえ、上着の裾を掴んだ気配がした。その背中をさすってやる。しはらくすると、力を抜いて身体を凭れさせてきたのを感じた。
   

「けほっ…げほっげほ、げほっっ……うっ…」

   小さな咳の後、急に咳き込んだ直後、戦場で嗅ぎ慣れた匂いと胸元に濡れた感触。
   同時にシェリルノーラの身体から力が抜けた。

「シェリルノーラ様っ」

   身体を離すと喀血し、グッタリとしたシェリルノーラの姿があった。

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