将軍の宝玉

なか

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26.自覚

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   長くなった日も暮れ切った頃、執務室にてレイノルドと2人きりで、揃えられたいくつもの資料に目を通す。そこには王印が押してある1枚の書状も混ざっている。

「ようやくか。全部片を付ける」

「いいね、その凶悪顔。らしくってさ。証拠は揃えたし、人質も今夜には保護できる予定だ」

「頼んだぞ。俺はこんなくだらないことに関わってる暇はないんだよ」

「そーだよねぇ、とっとと仲良くならないと、あのきれいな奥方に逃げられちゃうもんね~。
   ま、俺も心置きなく家族といちゃいちゃしたいのよ」

   こいつはなんだか妙に勘が鋭いことがある。ニヤニヤしながら、しれっと嫌なことを言う。
   今回のことでレイノルドも忙しく働き、家でゆっくりできてないからな。とりあえず、この発言は流しておく。

   少しずつ回復してきているシェリルノーラとは、なかなか2人でしっかり話ができないでいる。時々調子が悪そうだが、信頼できる老医師と飼い猫に囲まれて、穏やかな日々を過ごしており、そこには入る隙がない。
   この件を片付けて、とにかく安心してもらいたい。それに、俺も少しは一緒にゆっくりしたい。
   先の戦が始まってからこの10年、休みらしい休みは取らずに戦い、働いてきた。ここらで私生活を優先させ、休暇のひとつとってもバチは当たらないのではないか。

   このまま、今夜はここで人質救出の報を待つ。腕を組んで目を閉じた。今夜は帰れないことは伝えてある。


   目を閉じると浮かぶ姿がある。

   いつからだろうか。
   あの人のことを好ましく思い始めたのは。それだけでなく、自分の側にいてほしい気持ちが、気付くと自然に胸にあった。

   いつからか、いつの間にか、大切な存在になっていた。

   あの時、自分の胸で血を吐いた時。
   失うかもしれないと思った時、胸に去来したのは紛れもない恐怖だった。まだ何も始められていない。そう気付けば、色々なことが腑に落ちた。

   確かに褒美として下賜され、俺たちは顔も見ずに結婚した。自由が尊ばれるこの国でも、ある程度の身分のある者にはよくあることだ。そのまま、他人同士のように生きる夫婦もある。そして、自分もそれでいいと思っていた。
   しかし、今は違う。

   
   あなたのことを、まだ何も知らない。

   ベッドサイドでその細い手を握り、初めて神に祈った。戦場でも祈ったことのない神に、どうかこの人を奪わないでくださいと。

   そして、こんな状況をつくった要因は俺自身でもある。だからこそ、二度と失敗はしない。決着をつける


   時間が刻々と過ぎる中、人払いした部屋での陛下との会話を思い起こす。

「まぁ、外が落ちつくと、家のネズミがうるさくなるよね。せっかく平和になって、これからって時に」

「……ネズミですか」

「そう。餌は巻いといたから、後は将軍、頼んだよ」

   陛下はニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
   若い頃から目をかけてもらっているが、あの方は昔から底が見えない。今回の件も、子飼いの者たちに探らせて、摘発し断罪することも可能なはずだ。

   ここに俺をあえて絡ませることに、意味があるのだろうが、食えない人だ。まあ、国と国民を大事にしているのは分かるし、バカではない国王だ。仕えていて、そこは文句はない。

   しかし、ネズミにしてはタチが悪すぎだな。ミーにでも喰われてしまえ。



   夜も更けた頃、馬車が到着する音が聞こえた。閉じていた目を開けた。



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