将軍の宝玉

なか

文字の大きさ
38 / 50

37.御守

しおりを挟む
   季節が秋に移り、旦那様が出立してすでに10日が過ぎた。多忙な旦那様とはいつも一緒にいたわけじゃないけど、長期の不在は初めてで、なんだか落ち着かない。毎晩ついお出迎えの時間になると帰りを待ってしまう。

   先代の王の時代に始まった戦は停戦条約が整い、今は和平へ進んでいる。危険なことはそうないと思いますと言われたけれど、まだ何があるかなんて分からない。毎日とにかく無事に帰ってきてくれるこもを祈るばかりだ。
   帰ってこられた時に万全の体調で迎えられるように、出がけの言いつけもちゃんと守っている。定期の往診より早めに診察に来てくれたタリー先生にも褒められた。あまり心配し過ぎると身体にさわるから、そんなに気にするなと釘は刺されたけれど。


「そんな心配しなくてもー」

   なぜか私の前でラスティンが呑気にお茶を飲んでいる。どうやら今回は留守を任されているらしく、時々こうやって私の様子も見にきている。
   
「そんなに心配はしてないよ」

「じゃあ寂しいだけか」

「……そんなんじゃない」

   にやりと笑ってクッキーをもりもり食べているラスティンをひと睨みする。
   男たちが屋敷へ侵入した件の首謀者は捕まったと聞いた。とは言え、用心のために不在の間は見回りの一環らしいけど、こんなにのんびりしていていいのだろうか。話し相手がいるのは嬉しいけれど。

「そう言えば、金髪って御守りになるって知ってた?ラスティンも要る?」

   話を変えるためにふと髪が目に入り、御守りのことを思い出して尋ねてみる。

「何ですか、それ」

「旦那様が発つ前にほしいって、私の髪を一房持っていかれたから。知らなかったけど、金髪て王族に多いし、何か謂れがあるのかな」

   金髪はこの国の王族の特徴でもある。もちろん数は少ないけど市井にもいるらしい。
   王弟でもある父はくすんだ金髪で、遠縁にあたる母も淡い金の髪だ。私は今は亡き父方の祖母に風貌がよく似ているらしく、髪も祖母と同じ蜂蜜みたいな色をしている。

「それ本気で言ってますよね?シェリル様だもんな、他意はないよな…」

「?」

   もう一枚クッキーを頬張り、またにやりと笑う。これはもう楽しんでる。昔から見てきた面白いものを見つけた時の顔だ。

「まあ、御守りというのはある意味合ってます。将軍には加護という意味では必要ないと思いますけど、そうかー。出立前に欲しがられたのかー。将軍も人の子なんだなぁー。まあ普段の様子見てたらそうかー」

   1人でなんだか納得して、にやにやしながらこちらを見る。意味深な言葉が居心地が悪い。その視線を避けてお茶を一口飲む。内緒にしていた方がいいことだったんだろうか。

「勿体ぶらないで教えてよ」

「ふふふー。あのですね、俺も王都に来て知ったんですけど、戦とか遠くに旅立つ時に愛する人の髪を身につけて行くと、無事にその人の元に戻れるって言い伝えがあるらしいんです。
   まあ迷信かもしれないけどね。愛する人のそばにいられなくても、髪だけでも一緒にいたいって気持ちの表れでなんですねって、シェリル様、真っ赤ですよ」

  そんな楽しそうに指摘されなくても分かってる。頬が熱い。

「もう結婚して半年以上も経つのにその反応……」

   薄ら笑いを浮かべてそんなこと言われても、結婚したとは言え、実際は紙の上だけみたいなものだ。

「あんなに真っ直ぐに愛情を向けられてて、大事にされてれるのに、まだ慣れないんですか?確かに将軍は基本紳士的ですけど、普段無表情だし、黙っててもすごく威圧感あるし、あんなに甘い雰囲気の方ではないですよ?」

「えっ」
   
   もうラスティンが何を言っているのか、さっぱり分からない。私の許容範囲を超えている。

「それにお二人はご夫婦でしょう?今更……て、え?え?もしかして、」

「もう黙って」

   興味津々なラスティンを睨みつけるが、赤い顔では効果がない。誤魔化すようにお茶を一口飲むが、先程と違い味がしなかった。


   愛する人……?

   旦那様は私のことをそう思ってくれていたのだろうか?幼子と同じような保護対象だと勝手に思ってたけど。

   思い返すと仕草のひとつひとつが愛情に溢れてはなかったか。鋭い灰青色の瞳が柔らかく見つめてこなかったか。無骨な手がいつも優しく触れてくれなかったか。
   
   思い返すとあの手の温もりが急に恋しくなった。
   あの手に触れてほしい。大きくて剣だこのあるあの固い手にいつもみたいに触れてほしい。

   この気持ちは憧れ?



   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

契約結婚だけど大好きです!

泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。 そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。 片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。 しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。 イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。 ...... 「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」  彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。 「すみません。僕はこれから用事があるので」  本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。  この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。 ※小説家になろうにも掲載しております ※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...