39 / 50
38.早打ち
しおりを挟む
早馬が5日後の帰国予定を知らせたことをまだ内密ですけどと、見回りの途中で立ち寄ったラスティンが教えてくれた。
機密事項じゃないの?と尋ねるものの、シェリル様には教えていいと事前に許可をもらってますと、笑顔で言い切られれば返す言葉がなかった。
今日は時間がないらしく、いつもみたいにお茶も飲まずに、それだけ告げてすぐに去っていってしまった。
ラスティンが帰った後、落ち着かなくて運動がてら庭に出た。しばらく疲れるまで小走りで駆ける。
休憩に立つ前に最後一緒に過ごした東屋で腰掛けてひとりぼんやり過ごした。あの時より木々の葉が色づいて、散り始めている。そろそろ風も冷たくなり季節が変わろうとしていた。
さっきまで一緒にいてくれたミーは寒くなったのか、どこかに行ってしまった。体調は悪くないがなんとなく動悸もする。自分の薄い胸を押さえてみた。
ここの所、早く会いたいような、どんな顔をしてあったらいいのかわからないような、複雑な気持ちを持て余している。
遠くからみる強い旦那様にずっと憧れていた。自分の気持ちなのに、よく分からなくなってしまった。ただ今は、とにかく無事なお顔を見せてほしい。
昨日来てもらったタリー先生にも動悸がすることを相談してみたが、診察の結果全く問題ないと言われた。
しばらくお話をして、帰り際に早く将軍が帰ってくるといいですなと言われ、優しく微笑まれただけだった。
静かな昼下がり、慌ただしい馬の蹄の音が屋敷に響いた。部屋で休んでいた私の耳にも聞こえてくる。
嫌な感じがして玄関ホールに急いで降りると、そこには軍服姿のレイノルドが立っていた。彼は旦那様と一緒に隣国へ赴いていたはずだ。執事のダリルが対応している。
その表情を見て、身体が強張った。ただの帰国の知らせではない。
「何が、あったのですか」
「シェリルノーラ様……」
国境付近で襲撃にあったと。その際にひどい怪我を負い、一度軍の駐屯地に運ばれ、先程、王都の軍の医務院に運ばれたとのことだった。宰相殿は無事だと。
レイノルドに簡潔に告げられた内容を一瞬理解できなかった。指先から冷えていくのが分かる。
「それで、怪我人はどれ程なのですか?旦那様は?」
「怪我人は数名いますが重症ではありません。しかし、将軍は陛下の名代として赴いていた宰相を護る際に、馬が暴れ……」
「…そんな……」
「殺しても死なないような男ですから、……」
言い淀むレイノルドが視線を逸らす。無事に帰ってくると約束したのに。
「私を医務院に連れてってください」
言葉が口から独りでに出ていた。しかし、厳しい顔で首を横に振られる。
「シェリルノーラ様はここで待ってあげてください」
「お願いします。無茶をお願いしているのは分かっています。でも!でも……。お願いです。旦那様に会わせて下さい!」
軍の医務院には家族でも多分勝手には入れない。頭を深く下げてレイノルドに頼み込む。
「シェリルノーラ様、頭を上げて下さい」
そっと肩に手が置かれるまで、お願いしますと繰り返し、頭を下げ続けた。
裏門から医務院に案内されると、奥の方が表玄関になるのだろう、遠くに喧騒が聞こえている。それと打って変わって、こちらの白い廊下は静まり返っていた。独特の雰囲気に喉が絞まる。
「こちらです。個室にいます」
声を潜めたレイノルドに案内されて1つの扉の前に立つ。
大部屋ではなく、1人隔離されなければならないほど、怪我の具合が悪いのだろうか。
レイノルドによってドアが音を立てずに開かれる。あまり広くない部屋の正面に明るい窓が見え、その手前に簡素なベッドがあった。
そのベッドの上に、一か月前笑顔で出かけていった旦那様が横たわっている姿が目に飛び込んでくる。
薄い青色の病衣。前合わせの間から白い包帯が見えた。頭側を少し高くして、目を閉じている。
風が一陣吹き、窓にかかっているカーテンを揺らした。
足から力が抜ける。
機密事項じゃないの?と尋ねるものの、シェリル様には教えていいと事前に許可をもらってますと、笑顔で言い切られれば返す言葉がなかった。
今日は時間がないらしく、いつもみたいにお茶も飲まずに、それだけ告げてすぐに去っていってしまった。
ラスティンが帰った後、落ち着かなくて運動がてら庭に出た。しばらく疲れるまで小走りで駆ける。
休憩に立つ前に最後一緒に過ごした東屋で腰掛けてひとりぼんやり過ごした。あの時より木々の葉が色づいて、散り始めている。そろそろ風も冷たくなり季節が変わろうとしていた。
さっきまで一緒にいてくれたミーは寒くなったのか、どこかに行ってしまった。体調は悪くないがなんとなく動悸もする。自分の薄い胸を押さえてみた。
ここの所、早く会いたいような、どんな顔をしてあったらいいのかわからないような、複雑な気持ちを持て余している。
遠くからみる強い旦那様にずっと憧れていた。自分の気持ちなのに、よく分からなくなってしまった。ただ今は、とにかく無事なお顔を見せてほしい。
昨日来てもらったタリー先生にも動悸がすることを相談してみたが、診察の結果全く問題ないと言われた。
しばらくお話をして、帰り際に早く将軍が帰ってくるといいですなと言われ、優しく微笑まれただけだった。
静かな昼下がり、慌ただしい馬の蹄の音が屋敷に響いた。部屋で休んでいた私の耳にも聞こえてくる。
嫌な感じがして玄関ホールに急いで降りると、そこには軍服姿のレイノルドが立っていた。彼は旦那様と一緒に隣国へ赴いていたはずだ。執事のダリルが対応している。
その表情を見て、身体が強張った。ただの帰国の知らせではない。
「何が、あったのですか」
「シェリルノーラ様……」
国境付近で襲撃にあったと。その際にひどい怪我を負い、一度軍の駐屯地に運ばれ、先程、王都の軍の医務院に運ばれたとのことだった。宰相殿は無事だと。
レイノルドに簡潔に告げられた内容を一瞬理解できなかった。指先から冷えていくのが分かる。
「それで、怪我人はどれ程なのですか?旦那様は?」
「怪我人は数名いますが重症ではありません。しかし、将軍は陛下の名代として赴いていた宰相を護る際に、馬が暴れ……」
「…そんな……」
「殺しても死なないような男ですから、……」
言い淀むレイノルドが視線を逸らす。無事に帰ってくると約束したのに。
「私を医務院に連れてってください」
言葉が口から独りでに出ていた。しかし、厳しい顔で首を横に振られる。
「シェリルノーラ様はここで待ってあげてください」
「お願いします。無茶をお願いしているのは分かっています。でも!でも……。お願いです。旦那様に会わせて下さい!」
軍の医務院には家族でも多分勝手には入れない。頭を深く下げてレイノルドに頼み込む。
「シェリルノーラ様、頭を上げて下さい」
そっと肩に手が置かれるまで、お願いしますと繰り返し、頭を下げ続けた。
裏門から医務院に案内されると、奥の方が表玄関になるのだろう、遠くに喧騒が聞こえている。それと打って変わって、こちらの白い廊下は静まり返っていた。独特の雰囲気に喉が絞まる。
「こちらです。個室にいます」
声を潜めたレイノルドに案内されて1つの扉の前に立つ。
大部屋ではなく、1人隔離されなければならないほど、怪我の具合が悪いのだろうか。
レイノルドによってドアが音を立てずに開かれる。あまり広くない部屋の正面に明るい窓が見え、その手前に簡素なベッドがあった。
そのベッドの上に、一か月前笑顔で出かけていった旦那様が横たわっている姿が目に飛び込んでくる。
薄い青色の病衣。前合わせの間から白い包帯が見えた。頭側を少し高くして、目を閉じている。
風が一陣吹き、窓にかかっているカーテンを揺らした。
足から力が抜ける。
851
あなたにおすすめの小説
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた
風
BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。
「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」
俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
契約結婚だけど大好きです!
泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。
そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。
片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。
しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。
イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。
......
「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」
彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。
「すみません。僕はこれから用事があるので」
本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。
この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。
※小説家になろうにも掲載しております
※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる