職業寵妃の薬膳茶

なか

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 3年経っても立場や背景が微妙なのもあってか、情報は入ってくるのが遅いというか、あまり入ってこない。俺もそのへんは興味ないから、間者をもぐりこませるとか面倒なことはしていない。

 側付きの者に一度訪ねてみたが、言葉を濁されたので答えられないのだろう。「心穏やかにお過ごしください」とだけ返答されて、追及はよしておいた。

 過ごせてないから聞いてるつーの。
 仲良くなった侍女さんたちも、こういう時は口を噤む。教育がちゃんとされてるね。

 単に急な仕事が立て込んでっていうだけならそれでもいいが、来ない日が長すぎるし、今までの男の行動からは考えてそれはない。うぬぼれでも何でもなく、好色の前皇帝と違って、あいつはどうも枯れている。

 運命の人に撃的に出会ったという可能性がないわけじゃないが、なんだかなー。新しい女ができたとはちょっと考えにくい。

 新しい女って!
 俺は自分の思考に無表情で突っ込む。じゃあ、俺は「古い男」か?なんだそりゃ。

 まあ、所詮、寵姫とよばれても正式な側妃でもなく人質と同じ。俺一人しか後宮にいないといっても、それはそれ。

 前皇帝の急逝から、正妃の子ではない男の即位、正妃が産んだまだ幼い弟、前皇帝派と現皇帝派、旧派、狐や狸が跋扈する政治の舞台。征服した各国の思惑。
 だいぶ片付けてきてはいるようだが、まだまだあいつの王座は盤石ではない。急激に国をでかくしずぎたのだ、残念ながら。男のせいではないが。


 やっぱ、へまやってどっかで野垂れ死んでんのかなーと縁起でもないと怒られそうなことが浮かぶ。
 しかし、そろそろこっちに来てくれないと薬の効果も切れてくることだし、どっちにしてもヤバいんじゃないかな。

 俺が自ら出奔したとなると、いろいろ国交的にまずいかな。さらわれた感を醸し出すか、このどさくさに紛れるかなー、などと準備をしているうちに幾ばくか月日が経った。


 新月の夜。
 闇夜は人目を避けて動くのには都合がいい。しっかり昼寝もしたし、体調もばっちりだ。

 3年かけて育てた薬草園や農園を捨てていくのが残念だが、託す人もいないし。後宮でそんなもの好きな女性がいるとは思えないので、こればかりは仕方がない。世話を手伝ってくれてた庭師が片手間にでもやってくれると嬉しいが、あの薬草を扱えないだろうし。

 俺が育てるからこそあれは意味があるから、諦めて土に還すか。

 ティーテーブルの上に置いた、最後の夜、男に飲ませた薬膳茶の茶葉の瓶をそっと撫でる。瓶の中身はあれから減らず、ひんやりとしていた。もう忘れかけたあの男のぬくもりのようだ。

 いかん、感傷的になっている。
 気持ちに引っ張られると大体の謀は失敗する。

 一旦頭をふり、気を引き締めて、俺は目を閉じて俺の神に祈る。物心ついた時から繰り返した力をもつ言葉。

 いつもの祈りを捧げたら、心が落ち着いた。


「夜の散歩か」

目を開けるのと声がかかるのは同時だった。

 集中している時ほど神経が過敏になる俺が、気配を全く感じなかった。久々に背後から聞くその低音の声に体が動かない。

「まだ夜は冷えるぞ」

 そう言って足音と体温が近づき、背中から抱きしめられる。


 生きてた……。


「死んだのだと思ったのだろう。あっさり俺を捨てていくのか、薄情者め」

 俺の心を読んだかのような言葉に、思わず振り返る。
 そこには窶れてはいるが、変わりない男の姿があった。




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