🔴全話挿絵あり《堕胎告知》「オマエみたいなゴミ、産むんじゃなかった。」「テメェが勝手に産んだんだろ、ころすぞ。」🔵毎日更新18時‼️

ADPh.D.

文字の大きさ
94 / 189
第二章 藍と学校

90. 人間の条件 La Condition humaine

しおりを挟む
 「そうだね。働きかければ一定の反応はするが能動的には何もせず、ただ……生命維持に必要な活動をする人間になるか。

 ……一生ベットの上から起き上がれない――
 ――地獄パンドラでいうところの、
 ……“。」

 ◇◆◇

「つまり、心者ヘルツァー同士の戦いでは、基本的に相手を“鬱状態”に陥らせることがお互いの目的……。」

「そうだね……まぁ、
 ヘルツで直接人間をほんとうの意味で“殺す”……つまり“生命を停止させる”方法もあるんだが……。
 これは、1年生には……とくに……やさしいアイたんにはまだ早いから置いておこう。

 ……さて、“こころをうしなった人は人間と呼べるだろうか”?」

 ◇◆◇

 間髪かんぱつ入れずにアイが答える。

「呼べます。」

「ほう……その心は?」

「……すみません。論理的に話さないといけないのに、今のわたくしには演繹えんえき的な論理も帰納きのう的な論理もないのです。」

「いや……面白いよ。勿論もちろん感情論で議論を進めるのははダメだが……議論ではなく、ただの感想としてなら……他ならぬアイたんの感情論なら聞いてみたいな。」

 ◇◆◇

「……ありがとうございます。先生は以前おっしゃっていましたよね。諸外国しょがいこく……例えば“新生ロイヤル帝国”では戦争で鬱状態に陥った人間は人とはみなされずに屠殺とさつされると。」

「あぁ……彼らは“人間の条件”はこころだと考えているからね。税金で食えもしない家畜を育てる余裕がないというのが、彼らの言だよ。」

 もう夕日が研究室に射し込む時分になり、逆光でアイの顔は闇のなかに隠れ、ナウチチェルカの瞳には影が差す。

「……わたくしは想像したのです。鬱状態の人間を殺すときに、もしわたくしにその役目が、おはちが回ってきたら……きっと殺せないと。なにか生理的な嫌悪感があると。」

「なるほど……生理的なものか、確かに無視できない。論理的に正しいことでも、道徳的に間違っているということは往々おうおうにしてあるものだ。
 
 例えば……将来的に何のえきももたらさず、むしろ支出ばかりかさむ障害者などもそうだ。論理的に言うなら、人間なんぞはDNAの乗り物に過ぎないのだから、子孫を残す可能性の少ない障害児など生まれた時に殺してしまって次にいけばいい。
 
 ……現に“新生ロイヤル帝国”はそうしている。だが彼の国でもそれにあらがい、自らの子が障害を持っているということを国に隠して、何とか生きながらえさせようとする者も多いと聞く。
 
 まぁ……子を思えば、産まれたときに殺してやるのも1つの優しさかもしれないがね……。」

 ◇◆◇

「……確かに、虚弱な人間体アニマ強靭きょうじん獣神体アニムスとして生きるのを強いられるようなものですね……きっと、とてもくるしい人生なのでしょう。
 
 ……まぁ、くるしくない人生などあるのかはわたくしには分かりませんが。」

 アイが“突然障害者と健常者”の話から、“人間体アニマ獣神体アニムス”の話に論を敷衍ふえんしたのを少し疑問に思ったが、ナウチチェルカはそこまで論理の飛躍はしていないかと、その時は気に留めなかった。

「そうだろう……?
 ……子の人生を思うなら、人間体アニマに、障害者に……社会的弱者に生まれた時点で殺してあげるべきか?死の恐怖を感じない赤子の内にさ……。
 
 これもアイたんが先刻さっき言った。生理的嫌悪感に繋がってくると思うんだ。そこに生理的嫌悪を抱くということは、アイたんが彼らを人間とみなしている何よりの証左しょうさだ。」

 ◇◆◇

「わたくしも……人間の条件は“こころがあるかどうか”だと思います。だけどもうわべの条件を同じゅうしていても、新生ロイヤル帝国とわたくしの条件の本意は違っている。
 
 ……これは、もしかしたら、わたくしにとって“こころがある”というのは人間にとっての“十分条件”で、帝国にとっては“必要条件”なのかも知れません。」

 ナウチチェルカがベン図を描いて、アイ、帝国と書いた円を2つ板書する。そして円の重なった部分にこころと記した。

「……ふむ。興味深い。
 アイたんにとっては……
 “こころを待ってさえいれば人間”
 
 で、帝国にとっては、
 “こころを持っていて尚且なおかつ、公共の利益になるものが人間” 
 ……ということか。」

 今度はアイが帝国の円のなかに公益と書いた。

 ◇◆◇
 
 ……そして自分の円の中に何かを書き出そうとしたが……途中で落胆したように腕を下げた。物寂しそうに……。

「……?
 アイたんの考えるの人間の条件は他にはないのかい?」

 アイは人間と題したベン図の円を描き、その中に“みんな”と記して、その外に……“アイ・ミルヒシュトラーセ”と書いた。

「……アイたんは皆と違って人間じゃないのかい?」

「たまにそういう考えに襲われることがあります……いえ、違いますね……頭の何処どこかで常にそう感じています。
 
 ――
 
 人間じゃないから、母親に親性しんせいを剥奪され、人間じゃないから人間にうまく溶け込めない。
 ……人間のふりをしていてもどこか違和感があって、それをいつ暴き立てられるか……いつもビクビクと怯えている。
 
 チェルせんせーは……地獄パンドラ文学の『人間そっくり』を読んだことはありますか?
 日系地獄パンドラ人の安部公房が書いた小説です。
 そこには、“人間そっくりな火星人”……しくは“自分を火星人だと思い込んでいる人間”が出てきます。先生どっちが正しいと思いますか……?
 
 ――ふふっ……だったらわたくしは自分を“火星人”とでも言いましょうか……。」

「……アイたんは人間だよ……。少なくともボクからはそう観測できる……。こうやって触れて確かめることだってできる……。」

 ナウチチェルカはかがみ込んでアイと視線を合わせ、頬を撫でて体温を分ける。

「……せんせい……実は誰にもヒミツにしていることを話してもいいですか……?」

 逆光にたたずむアイの瞳は……あなが空いたようにみえるほど暗い。

「なんだい……?せんせーはどんなことでも受け入れるよ。」

《……実はわたくし、人間が大嫌いなんです。》

ナウチチェルカの夕焼け色の瞳に……アイの瞳の宵闇が迫る。

「……何故だい?」

「わたくしは彼らと違って“火星人”ですし……。
 何よりは……“人間的”すぎる……。自らの子をしいたげ、友達を裏切り、クラスメイトをいじめ……他人をねたみ引きずり落とす。
 
 パンドラ公国の人間はあまりにも……人間的な……地獄パンドラ人の影響を受けすぎているように思うんです。
 
 “地獄パンドラ人は……には、塵屑ゴミクズしかいない”
 
 とはよく言われることです。この文学界リテラチュアでは常識です。
 
 それは日系地獄パンドラ人でも英国系地獄パンドラ人でも関係ありません。彼らの記した書物を繙けば繙くほど、わたくしにもその世論が理解できました。」

 ナウチチェルカがうなずく。

「まぁ……だからこそ“人間的”なんて言葉が文学界リテラチュアでは“最大限の侮蔑”になるわけだしね……。」

 ◇◆◇
 
「……あるうわさを知ってるかい?
 地獄パンドラとパンドラ公国にまつわる……もっといえば、ミルヒシュトラーセ家とエレクトラ様に関わる噂をさ……。」

 “エレクトラ”という言葉にアイが反応する。

「……どういった噂ですか?」

「我々が地獄パンドラと……地獄じごくと呼んでいる場所をパンドラ人たちはなんて呼んでいるか知っているかい?」

「――“地球ちきゅう”……ですよね……?
 
 彼らは、地獄は地球とは別の場所にあるとをしてます。
 
 ――地獄の民であるにも関わらずに……。
 
 哀れにも……その生に其処そこが地獄であるからに他ならないことを認められずに……それこそが“彼らの罪”なのかも知れませんが……。」

「そう。そして……ここは“地獄パンドラ公国”……地獄からの物資の流入で栄えた国だ。しかし、物資と共に入ってきたものがある。」

「……“思想”、ですか……?

 地獄パンドラ人の記した本によって、地獄パンドラの神に回心かいしんした者や、地球産の主義に転向した者たちもいます。
 
 公王派はネーデルラント系地獄パンドラ人のデジデリウス・エラスムスが記した、“チグ神”を礼賛するようになり、
 ……辺境伯派はイングランド系地獄パンドラ人であるトマス・モアが描いた“ユートピア”を信奉するようになりました。
 
 わたくしの思想も地獄パンドラ文学と哲学に形作られたといっても過言ではありません。」

 アイは自分頭を左手で指差して答える。

「確かに思想もそうだけど……それだけじゃあないんだよ。
 ……もっとずっと最悪なものさ……。」

 ◇◆◇

「では……何が……?」

「地球からこの平和だった文学界リテラチュアにもたらされたのは……地獄パンドラ人の持つ……――」

 ……ナウチチェルカはアイの胸に右手の指を置いて、この世界の真理を伝えた――

「――“悪意”……だよ。」  
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...