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第二章 藍と学校
111. 人間は便器にこびりついた糞だ Human beings are like turds caught in toilet bowls
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※9/13-9/15の連休は
《毎日2話》更新します!!
毎日9時と18時更新です。
ーーーーー
アデライーダはみた、エレクトラの瞳のなかに、エレクトラの心を……エレクトラの“こころ”を。そこには差別思想など一欠片もなかった。
「どう……いうこと……!?なんで、じゃあなんで貴女は……!?」
エレクトラが民衆をみるような瞳で、地面に這う蟻をみる。それは蝉の死体に群がっていた。
「……どいつもこいつも勘違いしてるが、おれは“差別主義者”じゃない、性別なんぞで相手を下に見るのは馬鹿らしいとさえ思っている。
だって性別は自分じゃあ選べねぇし、それぞれの性別に……男も女も、人間体も獣神体もそれぞれいいとこもありゃあ……悪いところもある。
ただ違うだけだ……そこに上下はねぇ……。」
「……!?……じゃあなんで貴女は……。」
「差別主義を民衆に広めたかって?差別発言を繰り返すかって……?
そうだなぁ……オマエには秘密を教えてやろう。実のところおれは差別主義者じゃない。
それを利用しているだけだ。おれは心底性差別なんざどうでもいい――」
蟻が馬鹿みたいに蝉の死体に群がっている。
「――その方が、“差別”あるほうが、ただ便利だからだ。
馬鹿な民草を治めるにはな――。」
――哀しいかなエレクトはその実、全く差別主義者ではなかった。
◇◆◇
エレクトラはむしろアイと近いような考えを持っていた。つまり、獣神体と人間体、男と女……それにより産まれる差異は、単なる違いであって、優劣ではないという考えだ。
エレクトラが、“差別思想”を地獄の文献のなかに見い出した時、彼女は決して
『これは正しい……!!
この思想が世界の真理だ!!』
とは思わなかった。そのとき彼女が考えたのは、
『これは使える……!
馬鹿馬鹿しい考えだが……阿呆な民衆すぐにこれを“不変の真理”だと勘違いするだろう……!!』
だった。
そうしてエレクトラは決して“差別主義者”にはならずに、周りを“差別思想”に染め上げることに成功したのだった。彼女が見ていたのは、ただその利便性だけだった。
◇◆◇
「……貴女は……自分が……信じてもいない教義をよくもまぁ……他人に……。」
「別にいいだろぉ?
公王派のチグ教会の奴らだってそうだ。
『誰もが神を信じるべきだ~』
なんて宣ってるくせに、いざ自分の命が危ないって場面になると、神を捨てて、自分の命優先する人間がどれだけいると思う?
聖書のイエス・キリストの弟子は?
ユダばかりが裏切り者の代名詞とされているが、自分の身に意見が迫ったときはあの一番弟子のペトロでさえ裏切ったんだ!
それどころか12人の使徒全員が奴を裏切ったんだぜ?
おれが首に心の刃を当ててやったら?どうなる?御高説を宣ってる聖職者のほとんどが
『神を捨てるから、“回心”するから命だけは助けてくれ。』
って泣きついてくると思うぜぇ?
お前も夫が差別されるってなったら直ぐに、おれへの“忠実さ”を捨てたわけだしな。人間そんなもんなんだよ。」
「それは……。」
◇◆◇
「……それでぇ?どうする?
おれぁお前を気に入ってる、つえぇからな。今この場で、今までの叛逆行為の全てを詫びるなら、また使ってやるが……どうする?おれぁここが広れぇからよ。
そうすりゃあお前の“こころ”は助けてやる。“散華”はさせないでやるよ。お前にも護るべき夫とガキどもがいるだろう……?」
“砂神”アデライーダは毅然としてかえす。
「それで何?貴女の差別政策に、貴女が地獄の穢れをこの文学界に持ち込む手助けをしろって?
多くの革命軍の仲間を見捨てて?お笑いね。
私は地球人野郎には手を貸さないわ。それが私の信念への忠実さ。
――それが私にとっての“ロイヤル”よ。」
エレクトラは意外にも少し残念そうに、言葉をかける。夫を護ろうと誓った者同士、同情するところがあったのかも知れない。
「ほんとうにそれでいいのか?
お前が獣神体なら、《命を賭してでも護る》と誓った夫の為に、自分の信念を捨ててでも、泥水をすすってでも……どんなに今の革命軍の仲間に罵声を浴びせられても……生き抜くべきじゃあないか?
生きてさえいりゃあ夫も子も護れる。獣神体にゃあプライドを捨ててでも誰かを護らなきゃあならねぇ時があるだろう?」
「そうかもね……でも、私の信念を裏切ったら、私の肉体は生き永らえても、私のこころが死ぬの。
……確かに、夫や子供たちにつらい思いをさせるのは心残りよ……でも、革命軍の仲間を裏切ることは絶対にできない。
……心者ならわかるでしょ?
『自分のこころが命じたことには――』」
「『――決して逆らえない。』……か。残念だぜ。アデライーダ、お前は良き戦友で、良き部下だった。」
「貴女もね……。
地獄の深淵にのまれてしまう前の貴女はほんとうにいい戦士で、妻で……私の……こころからの友だったわ。
……“エレクトラちゃん”……。」
◇◆◇
「……そうかよ。おれたちの仲だ。最期の言葉ぐらい聞いてやるよ。何か言い残すことは?」
「……私には叶わなかったけど、貴女には敵わなかったけど……地獄に触れたものはいつか必ず身を滅ぼすわ。
それほど地球人の業は深いの。
ここでそれを食い止められなかったのは、ほんとうに心残りだけど……。
……いつか必ず、“貴女を倒す者”が……現れる。
その者はきっと貴女が地獄のように染め上げたこの国を、地獄の常識を疑い、世界のすべてを疑い、疑い、疑い、疑い続け、“真理を求むる者”よ。
それは……私の子かもしれないし……もしかしたら貴女の子かもね……。
――でもいつか必ずその者は現れる。
せいぜい気をつけることね。この文学界に地球が栄える事は決してないのだから……。」
エレクトラは倒れ込んだアデライーダの胸に、心を纏った手を当てる。
「……そうかよ。……じゃあな、誇り高き“砂神アデライーダ”……今は亡き“我が友”よ……。」
エレクトラの手が熱を増す。
《……火焔の……葬送……。》
それはできるだけ相手に痛みを与えずに殺す為に、エレクトラが編み出した技だった。
……アデライーダのために言った、
かつての友のために作った“心を込めた言葉”だった。
それはやさしく……とても穏やかに、アデライーダの心を貫き、彼女を散華させた。
◇◆◇
エレクトラは散華させたアデライーダを横抱きにしたまま、確かな足取りで白い森から、エレクトラが作らせた、地獄の処刑場を真似た磔刑台のある街の広場へと歩き出した。
散華し、意識とこころを亡ったアデライーダを抱え街ゆく彼女をみて、その勝敗を悟った民衆は、絶望するものと、安心感を抱くものに別れた。
砂神アデライーダがこの国を変えてくれると期待していた人間体や、家族に人間体を持つ者たちは絶望し、人間体差別に精を出していた者たちは歓喜した。
そして磔刑場の上で立ち止まったエレクトラに、口々に騒ぎ立てる。
「殺せ!!」
「その裏切り者を!!」
「劣等種に与する者を!!」
「敗者には死を!!」
「私たちに“殺人”というものを見せて!」
「「「殺せ!殺せ!!殺せ!!!」」」
地獄の瘴気に当てられて、地獄の地球人のようになってしまったパンドラ公国の民が憎悪と悪意を持って喚き立てる。
押し黙っていたエレクトラが、悪意の喧騒を切り裂くような声で、言った。
《……黙れ。》
その声は決しての大きくはなかったが、民衆を黙らせる獣神体の圧があった。
「この女、“砂神アデライーダ”は勇敢に戦った……本物の戦士だ。
……おれは此奴を散華させたが……殺す気はねぇ。
ただ……叛逆者になんの罰もなしじゃあ示しがつかねぇ。
そこで、此奴の家族もろとも、人間体収容所送りだ。」
「な、なぜ敵に情けを――」
「――異論がある奴はぁ!?居るかぁ!?」
最高権力者であるエレクトラ辺境伯爵にそこまで言われては、民衆は押し黙るしか無かった。
◇◆◇
そうして、散華して、寝たきりで最低限の反応しか示さない“こころを亡った”人間となったアデライーダは彼女の夫に引き渡され、そのときまだ幼子だったザミールと共にロイヤル王国との国境付近の人間体収容所送りとなった。
……その収容所から、ザミール・カラマードの凄惨な生が始まった――。
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アデライーダはみた、エレクトラの瞳のなかに、エレクトラの心を……エレクトラの“こころ”を。そこには差別思想など一欠片もなかった。
「どう……いうこと……!?なんで、じゃあなんで貴女は……!?」
エレクトラが民衆をみるような瞳で、地面に這う蟻をみる。それは蝉の死体に群がっていた。
「……どいつもこいつも勘違いしてるが、おれは“差別主義者”じゃない、性別なんぞで相手を下に見るのは馬鹿らしいとさえ思っている。
だって性別は自分じゃあ選べねぇし、それぞれの性別に……男も女も、人間体も獣神体もそれぞれいいとこもありゃあ……悪いところもある。
ただ違うだけだ……そこに上下はねぇ……。」
「……!?……じゃあなんで貴女は……。」
「差別主義を民衆に広めたかって?差別発言を繰り返すかって……?
そうだなぁ……オマエには秘密を教えてやろう。実のところおれは差別主義者じゃない。
それを利用しているだけだ。おれは心底性差別なんざどうでもいい――」
蟻が馬鹿みたいに蝉の死体に群がっている。
「――その方が、“差別”あるほうが、ただ便利だからだ。
馬鹿な民草を治めるにはな――。」
――哀しいかなエレクトはその実、全く差別主義者ではなかった。
◇◆◇
エレクトラはむしろアイと近いような考えを持っていた。つまり、獣神体と人間体、男と女……それにより産まれる差異は、単なる違いであって、優劣ではないという考えだ。
エレクトラが、“差別思想”を地獄の文献のなかに見い出した時、彼女は決して
『これは正しい……!!
この思想が世界の真理だ!!』
とは思わなかった。そのとき彼女が考えたのは、
『これは使える……!
馬鹿馬鹿しい考えだが……阿呆な民衆すぐにこれを“不変の真理”だと勘違いするだろう……!!』
だった。
そうしてエレクトラは決して“差別主義者”にはならずに、周りを“差別思想”に染め上げることに成功したのだった。彼女が見ていたのは、ただその利便性だけだった。
◇◆◇
「……貴女は……自分が……信じてもいない教義をよくもまぁ……他人に……。」
「別にいいだろぉ?
公王派のチグ教会の奴らだってそうだ。
『誰もが神を信じるべきだ~』
なんて宣ってるくせに、いざ自分の命が危ないって場面になると、神を捨てて、自分の命優先する人間がどれだけいると思う?
聖書のイエス・キリストの弟子は?
ユダばかりが裏切り者の代名詞とされているが、自分の身に意見が迫ったときはあの一番弟子のペトロでさえ裏切ったんだ!
それどころか12人の使徒全員が奴を裏切ったんだぜ?
おれが首に心の刃を当ててやったら?どうなる?御高説を宣ってる聖職者のほとんどが
『神を捨てるから、“回心”するから命だけは助けてくれ。』
って泣きついてくると思うぜぇ?
お前も夫が差別されるってなったら直ぐに、おれへの“忠実さ”を捨てたわけだしな。人間そんなもんなんだよ。」
「それは……。」
◇◆◇
「……それでぇ?どうする?
おれぁお前を気に入ってる、つえぇからな。今この場で、今までの叛逆行為の全てを詫びるなら、また使ってやるが……どうする?おれぁここが広れぇからよ。
そうすりゃあお前の“こころ”は助けてやる。“散華”はさせないでやるよ。お前にも護るべき夫とガキどもがいるだろう……?」
“砂神”アデライーダは毅然としてかえす。
「それで何?貴女の差別政策に、貴女が地獄の穢れをこの文学界に持ち込む手助けをしろって?
多くの革命軍の仲間を見捨てて?お笑いね。
私は地球人野郎には手を貸さないわ。それが私の信念への忠実さ。
――それが私にとっての“ロイヤル”よ。」
エレクトラは意外にも少し残念そうに、言葉をかける。夫を護ろうと誓った者同士、同情するところがあったのかも知れない。
「ほんとうにそれでいいのか?
お前が獣神体なら、《命を賭してでも護る》と誓った夫の為に、自分の信念を捨ててでも、泥水をすすってでも……どんなに今の革命軍の仲間に罵声を浴びせられても……生き抜くべきじゃあないか?
生きてさえいりゃあ夫も子も護れる。獣神体にゃあプライドを捨ててでも誰かを護らなきゃあならねぇ時があるだろう?」
「そうかもね……でも、私の信念を裏切ったら、私の肉体は生き永らえても、私のこころが死ぬの。
……確かに、夫や子供たちにつらい思いをさせるのは心残りよ……でも、革命軍の仲間を裏切ることは絶対にできない。
……心者ならわかるでしょ?
『自分のこころが命じたことには――』」
「『――決して逆らえない。』……か。残念だぜ。アデライーダ、お前は良き戦友で、良き部下だった。」
「貴女もね……。
地獄の深淵にのまれてしまう前の貴女はほんとうにいい戦士で、妻で……私の……こころからの友だったわ。
……“エレクトラちゃん”……。」
◇◆◇
「……そうかよ。おれたちの仲だ。最期の言葉ぐらい聞いてやるよ。何か言い残すことは?」
「……私には叶わなかったけど、貴女には敵わなかったけど……地獄に触れたものはいつか必ず身を滅ぼすわ。
それほど地球人の業は深いの。
ここでそれを食い止められなかったのは、ほんとうに心残りだけど……。
……いつか必ず、“貴女を倒す者”が……現れる。
その者はきっと貴女が地獄のように染め上げたこの国を、地獄の常識を疑い、世界のすべてを疑い、疑い、疑い、疑い続け、“真理を求むる者”よ。
それは……私の子かもしれないし……もしかしたら貴女の子かもね……。
――でもいつか必ずその者は現れる。
せいぜい気をつけることね。この文学界に地球が栄える事は決してないのだから……。」
エレクトラは倒れ込んだアデライーダの胸に、心を纏った手を当てる。
「……そうかよ。……じゃあな、誇り高き“砂神アデライーダ”……今は亡き“我が友”よ……。」
エレクトラの手が熱を増す。
《……火焔の……葬送……。》
それはできるだけ相手に痛みを与えずに殺す為に、エレクトラが編み出した技だった。
……アデライーダのために言った、
かつての友のために作った“心を込めた言葉”だった。
それはやさしく……とても穏やかに、アデライーダの心を貫き、彼女を散華させた。
◇◆◇
エレクトラは散華させたアデライーダを横抱きにしたまま、確かな足取りで白い森から、エレクトラが作らせた、地獄の処刑場を真似た磔刑台のある街の広場へと歩き出した。
散華し、意識とこころを亡ったアデライーダを抱え街ゆく彼女をみて、その勝敗を悟った民衆は、絶望するものと、安心感を抱くものに別れた。
砂神アデライーダがこの国を変えてくれると期待していた人間体や、家族に人間体を持つ者たちは絶望し、人間体差別に精を出していた者たちは歓喜した。
そして磔刑場の上で立ち止まったエレクトラに、口々に騒ぎ立てる。
「殺せ!!」
「その裏切り者を!!」
「劣等種に与する者を!!」
「敗者には死を!!」
「私たちに“殺人”というものを見せて!」
「「「殺せ!殺せ!!殺せ!!!」」」
地獄の瘴気に当てられて、地獄の地球人のようになってしまったパンドラ公国の民が憎悪と悪意を持って喚き立てる。
押し黙っていたエレクトラが、悪意の喧騒を切り裂くような声で、言った。
《……黙れ。》
その声は決しての大きくはなかったが、民衆を黙らせる獣神体の圧があった。
「この女、“砂神アデライーダ”は勇敢に戦った……本物の戦士だ。
……おれは此奴を散華させたが……殺す気はねぇ。
ただ……叛逆者になんの罰もなしじゃあ示しがつかねぇ。
そこで、此奴の家族もろとも、人間体収容所送りだ。」
「な、なぜ敵に情けを――」
「――異論がある奴はぁ!?居るかぁ!?」
最高権力者であるエレクトラ辺境伯爵にそこまで言われては、民衆は押し黙るしか無かった。
◇◆◇
そうして、散華して、寝たきりで最低限の反応しか示さない“こころを亡った”人間となったアデライーダは彼女の夫に引き渡され、そのときまだ幼子だったザミールと共にロイヤル王国との国境付近の人間体収容所送りとなった。
……その収容所から、ザミール・カラマードの凄惨な生が始まった――。
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