🔴全話挿絵あり《堕胎告知》「オマエみたいなゴミ、産むんじゃなかった。」「テメェが勝手に産んだんだろ、ころすぞ。」🔵毎日更新18時‼️

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第二章 藍と学校

133. 何もかも真逆だが、愛してるぜぇ。 Different, but I Love You.

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「アイの……お前自分が絶望の深淵しんえんに居たとき……何を思った?
 ……それで俺と同じ答えだったら……やっぱり反政府組織レジスタンスに来てくれねぇか?」

 アイは背中をザミールに預け、彼女と同じ方向をみながら、しかし暗いサファイアの瞳で答える。

「……いいぜ。けど……たぶん違うことを想ったと思うよ……。
 おれはお前ほどからな。」

 ザミールは自分より、ずっと幼く……ずっとずっとちいさなアイの体躯たいくを抱きしめる。

「……じゃあ『せーの』だ。
 俺はあの虐殺をした夜、お母様が俺を助けてくれたんじゃなかったとさとったとき――」

「おれはおかあさまに堕胎告知だたいこくちくだされたとき――」

 二人の声が土の匂いを放つ草花くさばなを揺らした。

「――『もうこの世の誰にも、俺と同じ気持ちは味わわせたくない』と思った。」

「――『この世の全員を、おれと同じ地獄ちきゅうに引きずり落としてやる』と思った。」

 ◇◆◇

 静寂しじまがあった。

 その場の誰も口をきかなかった。

 アイとザミールは奇妙な友情を感じていた。

「……。」
「……。」
 
 例えるならば、れは天と地の友情、希望と絶望の友情、はな爛漫らんまん花曇はなぐもりの友情、快晴かいせい豪雨ごううの友情、人間と人間もどきの友情……。

 ……首と絞首台こうしゅだいとの間にある友情。

 ――まるで天国と地獄の結婚のようだった。

「……。」

 エゴペーはむしろアイの先刻さっきの絶望の慟哭どうこくを聴いて、

 アイはこれまでいくら、母に憎まれ、父に殴られ……他人に馬鹿にされ、別邸べっていに閉じ込められていても……“ニンゲンの悪意”を向けられても、それを相手に反抗してぶちまけたことはなかった。

 唯一春日はるひには聖別の儀セパレーションの時にそれをしたが、エゴペーはその事実を知らなかった。きょうだいたちは、アイのほんとうの性別さえ知らないのだ。

 ……だから、弟がということに安堵あんどしていた。
 人を憎めない人間は、何をされても自分を責めてしまうからだ。他責たせきができない人は自責じせきの念に押しつぶさせるだけだ。
 
 『親に愛されないのは、自分が親にとって“悪い子”だから。』
 『他人に嫌がらせをされるのは、自分が彼らにとって“居るだけで迷惑な存在”だから。』

 そうやって全ての原因を自分のなかに求め、見いだし……それを真実だと思い込んでしまう。

 だけどアイは
 『この世の全員おれと同じ地獄ちきゅうに引きずり落としてやる』
 と言った。……そう

 今までこの世の者とは思えないその外見の美しさとあいまって、エゴペーはアイからを感じ取れないことがあった。

 侮辱されても、何をされても、全てを自分のせいにして、逆に自らを危険にさらしてまで他人を護ろうとするその姿勢に、生理的な恐怖すら覚えていたのだ。

 ――そんなのはヒーローではなく、サイコパスだ。
 
 ……しくは救世主メシアか……それと救世主症候群メサイア・コンプレックスか……。

 そんなのはエゴペーの考える人間じゃなかった。天使だ。端的たんてきに言うと、気持ちが悪い。いやなことをされても、何をされてもヘラヘラ笑って謝って自分のせいにするなんて……そんなの

 そんな者はただのおとぎ話の住民か、といったところだろう。
 ……それも、“やさしい人”という哀しき仮面キャラクターをつけられた……特上の舞台装置だ。

 エゴペーの思う人間とは楽しいことがあれば笑い、嫌なことをされたら性格を持ち合わせた人のことだった。

 ……だから、エゴペーはアイの怨嗟えんさ号哭ごうこくを聴いて安心した。

 『あぁ……アイちゃんは、私の弟は……天使でもなんでもなく、人間だったんだ……。』と。

 ◇◆◇

 ザミールは不思議な気分だった。今は女性体である自分の身体に、すっぽり収まるほどのちいさな子どもから、あれほどの憎悪の発現はつげんを聴いたというのに。

 ――不思議と、不思議ではなかった。

 ザミールも同じ気持ちを抱いたことがないと言えば嘘になるからだ。自分には最後の絶対安全領域……心理学的に言えば“安全基地あんぜんきち”があった。

 それは多くの子にとっては母親……ザミールにとってはアデライーダおかあさまだ。だけどアイにはそれすらない。むしろ本来安全基地であるはずの母がアイをおびやかしている。

ザミールがわざとお道化どけてアイの頭にあごを乗せてグリグリと押し付けて、ぎゅうっと強く……だけどもやさしく抱きしめる。

「ククッ……ほんとに気が合わねぇな、俺たちは。」

 アイが不安そうな声ですがる。
 人混ひとごみで親と繋いでいた手を離してしまった子どものような声だ。

「……軽蔑けいべつ……しないんですか?
 貴女とわたくしは同じく地獄ちきゅうを味わった者同士……なのに貴女は人のことを考えて、わたくしは人を呪った。
 わらってもいいですよ……?」

 しかしその声色が痛いほど『どうか、自分をわらわないで』と伝えていた。

わらわねぇよ。
 お前は悪い人間じゃねぇ。
 
 俺だって人を呪って九穴きゅうけつ糞袋くそぶくろどもを大量虐殺した。……。
 ……慈悲じひもなくなぶり殺しにしたんだ……。
 
 なぁアイ……お前のこころの年輪ねんりんの一番奥深くに母への愛のろいがあることは分かった。
 
 大きくなってからそれをどれだけ抜こうとしても抜けないのも分かる。……抜いたとしてもこころのあなは残るだろうしな……。

 だけど母親に、他人にいくら罵詈雑言ばりぞうごんを並べ立てられようと、
 『この人さえ自分を理解わかってくれればいい。』
 『この人だけはどんな自分でも愛してくれる』
 って確信できる相手を作ることはできると思うんだ。

 それは獣神体アニムス人間体アニマつがいかもしれねぇし、人生のパートナーかもしれねぇ……。
 それに――」

 アイの曇天どんてんの瞳に雲間くもまから光が一条いちじょうす。

「――それに、わたくしたちのような、思想を違う者同士、違う哲学を抱く者、同じものを信じない者……。違うことを疑う者。

 ――わたくしたちのようなともかも知れない……?」

 ザミールの顎が頭に乗っているので、不純物くうきを介した振動しんどうではなく、頭からの振動で直接アイの身体に……こころに聞こえる。

「――あぁ……俺たちのような親友てき同士かもしれねぇ。」

「それは……いいですね。 
 嗚呼あぁ……なんてすてきな楽天家ポリアンナ
 
 ……現実を見ない楽天主義は好きではありませんが、地獄ちきゅうを見た楽天家ポリアンナは大好きですよ……!」

 アイが恍惚こうこつと笑い、ザミールはニカッと笑う。

「それにアイ、お前は“言葉”を愛しているようだが、俺は“行動”を愛してる。ある人が言った言葉より、その人の行動がその人間を定義すると思ってる。」

「そういう意味では貴女はプラトンではなく、ソクラテス的な考えですね。」

「あぁ。……だから分かる。こころをぶつけ合った時に見た。あの刹那せつなで永遠の光に照らし出されたお前のこれまでの人生は……いたずらに他人を傷つけるものじゃあなかった。

 お前は家族の役に立とうとし、きょうだいのために命をかけ、友のために死ぬ覚悟で俺に立ち向かった。」

「――でも……!」

「――黙れ。うるっせぇんだよ。」

 ことばの強さに比べて、そのこころは優しかった。

「――お前はお前が思うほど悪くねぇ……!
 
 お前は……
 『この世の全員おれと同じ地獄ちきゅうに引きずり落としてやる』
 って、口では悪い事をしたってばっか言ってる、そこら辺のイキった不良のガキと一緒だよ。クソガキ特有の悪いことができるアピールさ。」

 アイが頬を膨らませて、でも本当に嬉しそうに伝える。

「もうっ!……あいも変わらず貴女は口が減りませんね。
 
 でも……そうですか、わたくしは不良ぶってるクソガキ……なんだかこころがフワッと軽くなった気がします。これが気がするだけじゃく……ほんとうにそうなっていることを今は願います。」

「俺をみてみろよ?大量虐殺しといて
 『もうこの世の誰にも今気持ちは味わわせたくない』
 だぜ?口だけ野郎だろ?」

「ザミール……貴女は誠実な犠牲者リウー・タルーです。貴女の部下にとっても、もちろんわたくしにとっても。

 だから……よ。」

 その言葉を受けてザミールの瞳が少しうるむ。

 人は相手を罵倒ばとうするときは無意識に“自分が一番言われたくないこと”を言うし、人を慰める時は“自分がつらいときに言ってほしかった言葉”を言う。

 ザミールもきっとそうだったのだろう。

 ――彼女はずっとゆるしを求めていた。……ただ独りで。

「……うるせぇ。アイのクセにナマイキだ!」

 ザミールが照れ隠しにアイの髪をぐしゃぐしゃと撫でつける。

「……おい……また、ぶっ飛ばしますよ?」

「くくっ……やってみろよ。
 ……先刻さっき負けたのはどっちだったかな?くくくっ!」

 ◇◆◇

「まぁ……とにかく俺は此処こここらトンズラこかせてもらうぜ……ありがとうな、エゴペー・ミルヒシュトラーセ……そして、俺の好敵手しんゆうよ……!!」
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