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第三章 iと姉

183. カラコーゾフの兄妹 Братья Каракозов

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 扉を押し開けると、玉座の上に、一人の人影が座っていた。公王ではない。見知らぬ男。いや、女か。顔が、影に隠れている。周囲に、暴走した心《ヘルツ》の残骸が散らばる。血と肉片が、床を覆う。
 
「ようこそ、アイ様。」

 その声は、冷たく響いた。

 「お待ちしておりましたよ。」
 
 アイの瞳が、鋭くなった。かげろうが、前に出る。カラコーゾフがまたいつの間にか姿を消していた。この出会いが、すべてを変える予感がした。

 ――地獄の王宮で、三人の運命が、交錯しようとしていた。

 ◇◆◇

  王座の間は、崩壊の余韻に沈んでいた。石の床は深い亀裂を走らせ、壁面には黒々とした焦げ跡が無数に刻まれ、天井のりょうは折れて危うげに垂れ下がっている。かつての荘厳さは失われ、ただ荒涼とした静寂しじまだけが残る。その中央、玉座に腰を据えていたのは、つい先刻逃げ去ったはずの赤髪の竜人女だった。女の名はアヴドーチヤ・カラコーゾフ。
 
 深紅の髪が、残る火の光を受けて炎のように揺らめく。鱗の輝きを帯びた肌は戦いの熱をまだ宿し、黄金の瞳は冷たく二人を射抜いていた。彼女はゆっくりと立ち上がり、唇の端を吊り上げた。

 「気になってるだろうから教えてあげるけど、この騒動の元凶は、私だよ。」
 
 その言葉は、凍てついた空気を切り裂いた。アイの瞳に怒りの炎が灯る。彼は一歩踏み出し、声を震わせた。
 
「キサマが……! なぜこんな破壊を、ただの遊びのように!」
 
 かげろうもかたわらで拳を握りしめ、額に汗を伝わせながら低く唸った。
 
「答えろ。目的はなんだ。」

「「――顕現けんげんせよ!!」」
 
 問い詰めようとするその刹那、二人は同時にヘルツ顕現けんげんさせた。
 
 かげろうの周囲に赤蓮せきれんの炎が渦を巻き、熱波が石の床を赤く染め、溶かし始める。炎の舌が天井まで舐め上がり、空気を灼熱に変えた。彼の怒りが、炎のヘルツの形を取ってあらわれる。
 
 アイは水のヘルツを呼び起こした。蒼い水流が彼女を中心に渦を成し、霧となって広がる。水の膜が肌を覆い、鋭い水刃が無数に浮かび上がる。二人は息を合わせ、戦闘態勢を整えた。
 
 だが、竜人女性はただあざけるように笑った。彼女の背後で、巨大な炎のヘルツが爆誕する。真紅の火柱が天をき、轟音とともに大気を焼き払う。その炎はかげろうの赤蓮を遥かに凌駕し、熱量だけで空間を歪ませた。
 
「悪いね、そっちは私が足止めするよ。」
 
 炎が襲いかかる。かげろうは咆哮を上げ、両腕を交差させて炎の壁を展開した。赤蓮の炎が層を成し、迎え撃つ。だが、アヴドーチヤの真紅はそれを嘲笑うように押し返す。
 
 ――二つのほむらが激突した。
 
 衝撃波が広間を揺らし、石の破片が飛び散る。熱風が肌を焼き、息を奪う。かげろうは歯を食いしばり、全身の力を込めて炎を押し返そうとするが、真紅の奔流は容赦ない。
 
 炎壁が軋み、ひび割れ、溶けていく。
 
 ……一瞬の隙。
 
 アヴドーチヤの炎が蛇のように変形し、かげろうの足元をいだ。彼は咄嗟とっさに跳躍するが、遅れる。炎の尾がすねを捉え、肉を焦がす。激痛に顔を歪めながらも、着地と同時に反撃の火球を放つ。火球は真紅の壁に弾かれ、爆散した。
 
 その隙に、アヴドーチヤはアイの前に躍り出ていた。
 
 ――距離はゼロ
 
 アイは水のヘルツを全力で展開する。蒼い水流が盾となり、無数の水刃が矢となって射出される。水の渦が彼を中心に回転し、防御と攻撃を同時に担う。
 
 だが、アヴドーチヤの拳がそれを貫いた。
 炎を纏った拳が、水の盾を蒸発させながら迫る。拳圧だけで水流が乱れ、霧が爆ぜる。アイは横薙ぎの水刃を放ち、距離を取ろうとするが、アヴドーチヤは身を翻し、肘打ちを叩き込む。
 
 直撃。
 
 アイの腹に、灼熱の衝撃が走る。内臓がねじれ、息が止まる。彼女は後退しながら、水のむちを振り回して反撃する。鞭は鋭く空気を切り、アヴドーチヤの肩を狙う。
 だが、竜人はそれを片手で掴んだ。
 炎が鞭を焼き払い、水蒸気が爆発的に広がる。視界が白く染まる中、アヴドーチヤの蹴りが飛ぶ。
 
 アイは両腕でガードするが、衝撃が骨を軋ませる。身体が浮き、壁に激突した。背中が石を砕き、血の味が口に広がる。
 防戦一方。
 水のヘルツが悲鳴を上げる。蒼い光が薄れ、水流が乱れる。アイの身体は傷だらけになり、肩から血がしたたり、足元がふらつく。
 
 アヴドーチヤの攻撃は容赦ない。
 連撃が降り注ぐ。炎の拳が空気を焼き、炎の爪が肌を裂き、炎の蹴りが骨を砕く勢いで迫る。アイは必死に水を凝縮し、盾を張り直すが、次の一撃でまた粉砕される。
 息が上がる。視界が揺れる。
 このままでは、殺される
 。
 ――たまらず、アイは最後の切り札を切った。
 
 骨のヘルツ顕現けんげんする――!
 
 白い骨が彼女の周囲に無数に浮かび上がり、鋭い棘となって空間を埋め尽くす。骨の槍が地面から突き出し、骨の盾が身体を覆う。骨の刃が回転し、すべてを切り裂く準備を整える。
 
 その瞬間、アヴドーチヤの動きが止まった。
 漆黒の瞳が、満足げに細められる。
 骨のヘルツが空気を切り裂き、無数の槍が一斉に襲いかかる。アヴドーチヤは軽やかに身をひるがえし、すべてを避けながら、ゆっくりと名乗りを上げた。
 
「クククッ!!
 私の名はアヴドーチヤ・!ドミトリー・カラコーゾフの“妹”だ!!」
 
 声は高らかに、広間に響き渡る。
 骨の刃が彼女を追う。骨の棘が床を這い、骨の槍が天井から降り注ぐ。だが、アヴドーチヤは炎を纏ったまま優雅に舞い、すべてをかわす。
 彼女は笑っていた。
 
「ふふ、素晴らしい。骨のヘルツが使えることもよ。」
 
 炎が収まる。
 骨の攻撃が空を切り、アヴドーチヤは赤い髪を翻した。
 
「私はここでおさらばするよ。また会おう、“遺骨オステオンの継承者”。」
 
 そう言い残して、彼女は闇の中へと消えていった。
 
 残されたのは、荒れ果てた広間と、傷ついた二人だけだった。かげろうは壁に寄りかかり、息を荒げながら立ち上がる。アイは膝をつき、骨のヘルツをゆっくりと収めていく。白い骨が霧のように散り、彼女の身体に傷だけが残る。
 
 静寂が戻る。
 だが、二人の胸には、怒りと疑問と、そして得体の知れない不安が残った。
 アヴドーチヤ・カラコーゾフ。
 その名が、脳裏に焼き付く。
 彼女は何を求めていたのか。
 骨のヘルツを、なぜ確認したかったのか。

 広間の外では、崩壊の音がまだ続いていた。
 だが、二人はただ、互いの傷を確かめ合い、立ち尽くすしかなかった。
 戦いは終わった。
 しかし、何かが始まったばかりだという予感が、二人を包んでいた。
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