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第一章 愛と家族
12. こころ Kokoro
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聖別の儀が始まった。森のなかにちいさな闘技場のようなものを作り、そこで性別を確定させたい2人を闘わせるのだった。
◇◆◇
勝ったものが獣神体になり全てを手に入れ、負けたものは人間体となり全てを――。
これはビッチングと呼ばれる現象で、獣神体が相手に心の底から負けたとき、肉体が人間体に変異することを利用したものだ。動物界でもオス同士の決闘で負けたものがメスになるというのはよくある話だ。
この聖別の儀はアイを稀代のアニムス・アニムスにする為に、両家合意のもと仕組まれたものである。
◇◆◇
それぞれの家族が離れた所から見守るなか、アイ・エレクトラーヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセと春日春日が向かい合う。
◇◆◇
「いやーこんな伝統衣装みたいなのまで着せられてさ~恥ずかしいったらありゃしないよね?みんな見てるしさ。ねっ、アイくん。」
「ふふっ、そうですね、はるひちゃん。」
「緊張してる?」
「いえ、パパとママに勇気をもらいましたし、はるひちゃんとならひどい結果にはならないってわかりますから。」
「……そうだねぇ……。アイくんはいつも……うれしいこといってくれるね!」
はるひの眼が友情以外の何かを宿していることに、アイは気が付かなかった。はるひではなく、両親のいる方へ体をむけていたからだ。……両親のことだけを、見ていたからだ。
「はじめようか……。アイくん。」
「はい!よろしくお願いいたします!」
暫くお互いが相手に直接的な暴力を振るのに躊躇して、遠くから表面的な感情を顕現させぶつけあっていた。お互いの発現させた心を褒め合いながら、あたかも真なる友であるように。だがそれはあくまで、真なる友であるかのように、でしかなかった。
それを見ていたエレクトラとしゅんじつが立ち上がる。
◇◆◇
「アイ!!うすっぺらい感情なんぞで相手の表面を撫でたぐれぇじゃあ、聖別の儀はできねぇ!自分の心を全部相手にさらけ出して、本当の感情で相手を深くぶっさすんだ!!」
「……はるひ、アイくん……すまない……。こんなことをする俺を……どうか、許さないでくれ……。
相手に自分の心をさらけ出すというのは本当に恐ろしくて容易くはできないだろう!だからエレクトラ様と俺が手助けをしよう!!」
エレクトラとしゅんじつが両手を重ねて前に突き出し、自分の子供になにかムスカリの花のような紫の感情を飛ばす。それがアイとはるひの頭に突き刺さり、2人は膝をついて座り込み、だらんと首を垂れる。
「は、はるひ!アイちゃん!大丈夫!?アナタ……何を――」
ひまりが取り乱して夫に真意を問おうとするが、エレクトラとオイディプスは落ち着き払っていた。
「ひまり……これは2人に必要なことなんだ……。」
ひまりは夫のちいさな声が悲痛な叫びを内包していることに気が付いた。エレクトラが叫ぶ。
「人間の本性が!ほんとうのこころが表れるのは!!へらへらと笑ってしあわせな“ライ麦畑”の中にいるときじゃあない!
孤月のように暗い絶望!海淵のように深い悲しみ!瞋怒雨のように激しい怒り!春怨のように焦がれる嫉妬!
なんにもとりつくろわないくそみてぇ感情こそが!ほんとうのこころだ!今お前たちの薄っぺらい仮面みてぇな好感情をはがした!さぁ、本心を、ほんとうのこころをぶつけ合うんだ!!」
二人はうずくまったままピクリとも動かない。だが、彼らの心は漣のように揺らぎ、次第に荒波のようにのたうち回っていた。
◇◆◇
――あぁ……苛々する。すべてにむかっ腹が立つ。髪を揺らす風も、肌を撫でる空気も、目の前にいるアイ・ミルヒシュトラーセも、この世の全てが私を苛々させるために生まれてきたみたいだ。この怒りを、憎しみを、この、やるせなさを、目の前の恵まれた金持ち貴族の息子にぶちまけてやる。
ふざけやがって。どいつもこいつも、むかつく、業腹だ。腹が立って仕様がない。息をするのも億劫だ。この世の全部が私をいらだたせる。お父さんやお母さんでさえも――。
「あぁああああぁあ、ふざけやがって、お前に食らわせてやる、私のくそみてぇな感情を!!恵まれたボンボンには一生分からないだろう!!私たちが!!私が日々どんなにくそみてぇな気持ちですごしてるかなんてさぁ!!」
先に動いたのははるひだった。叫びながら様々な感情の入り混じったどす黒い色をした塊をアイに無手勝流にぶつけながら、近づいていく。
アイは頭に、身体に硬い感情をぶつけられ血が出ても、それでも動こうとしない。アイの眼前に迫ったはるひは胸倉をつかみ、どす黒い感情を宿した左手で顔面を勢い任せに殴りつける。自分の体勢が崩れることもお構いなしに、ひたすら殴り続け、力任せに顎を殴り上げたときに、アイは後ろに倒れこんだ。そのまま馬乗りになり、背中から感情の刃を嘔吐しながら、叫ぶ。
「ふざけないでよ!何時も自分がこのせかいでいちばんかわいそうだって顔をして!!金持ちのくせに!誰もが羨む貴族の家に生まれたくせに!金も地位も持ってるやつが不幸なフリなんかしないでよ!!金持ちに不幸な奴なんかいるわけないでしょ!!
なんだって買えるくせに!なんだって人に命令できるくせに!自分の親が他人に媚びへつらってぺこぺこ頭を下げる姿なんて見たことに癖に!!卑屈な笑みを浮かべながら胡麻をする姿なんてさぁ!偉い奴の前でそいつの子供と比較して親に自分のことを悪く言われる気持ちなんて!味わったことないでしょう!?ミルヒシュトラーセ家のご子息様はさぁ!!
糞貴族共に頭を下げられて生きてきたやつに!地を這いつくばって、生まれてからずっと誰かに頭を下げて生きてきた貧乏人の気持ちなんて!この苦しみが!屈辱がわかるか!?
私の母親が、他の母親どもに馬鹿にされねぇように!必死で頭を下げて借りた一冊を!その話をしたときに、アンタは!何の苦労もしらねぇアンタは!本なんて高級品が生まれたときから家に腐るほどあるアンタが!笑って言ったよなぁ!つらつら得意げに色んな本を読んだことを自慢して!本の一冊さえ糞女に頭を下げないと貸してもらえない、私のお母さんに!へらへら嗤って言ったよなぁ!!あの時の、お母さんの気持ちが!お偉い貴族の家に生まれただけのガキに、自分が必死で得たたった一冊を!軽々と飛び越えられたお母さんの気持ちが!あの時の私の気持ちが!アンタには分からないでしょう!分かってたまるもんか!お偉い貴族のガキなんかに!平民の出だぁ教養もねぇ貧乏貴族の妻だとほかの馬鹿貴族のくそ妻たちにいつも馬鹿にされても!それでも家族のために必死に話を合わせようと!少しでもうちの助けになろうと!くそ女どもの集まりに出かけていく母親の背中を見たことはあるか!?ないだろうなぁ!?アンタの母親はこの国で一番偉いんだから!
料理だってそうだ、ふざけやがって!お母さんが毎日家族のために!貴族なのに使用人を雇うお金もないから!金持ちの糞共に馬鹿にされながら!毎日毎日必死で作ってくれる料理を!生きるための料理を!寝転がってりゃあ勝手に飯が出てくる家に生まれたアンタが!アンタが金持ちの道楽で気が向いたときにだけやるおままごとと一緒にしやがって!馬鹿にしやがって!なんで人の気持ちがわからない!?台所に立ような下人根性の卑しい貴族だって馬鹿にされてる人が!この国でいちばんの金持ちの子供に生まれただけのガキに、同じだって言われることが!どんなに誇りを傷つけるかわからない!?
金持ちに生まれたのがそんなに偉いのか!?貴族に生まれたのが!?お父さんが私とお母さんのために必死で金をかき集めるのが!金持ちの屑どもに馬鹿にされながら必死でのし上がろうとするのが!がめついだと!?商人根性のけち臭い強欲貴族だと!?よく言えたな!よく人を馬鹿にできたな!
金なんだよ!この世は!金がなきゃあなんにもできない!服も買えない、家にだって住めない!!金がなきゃあ人に馬鹿にだってされる!嘲笑われる!金なんだよ!ふざけないでよ!
自業自得だぁ!?金持ちの親の股から出てきただけで!必死に金を欲しがってる人間を!“貧しき人々”を!よく自業自得だって馬鹿にできるよなぁ!金持ちの親の股から出てきたことがそんなに偉いのか!?私たちが何をしたって言うんだよ!貧乏生まれたことがそんなに大きな罪か!?一生運がいいだけの莫迦どもに馬鹿にされるほどの罪か!?
私のお父さんとお母さんは立派な人だ!人間だ!必死で家族のために頑張ってる!汗水たらして金を!生活を求めてる!それをなんで汗をかいたこともない奴らに馬鹿にされなきゃあならない!?ほんとうの空腹なんて感じたことない連中に!
なんでそんな両親を少しでも恥じた自分を殺してやりたいほど憎いと思わなきゃならない!?こんな気持になったことがあるか!?親を恥ずかしいと思ったことが!?ねぇ!ミルヒシュトラーセ辺境伯様ぁ!
かげろうと三人で遊ぼうとした時もそうだ!『お金がないからやめとく』っていった私にアンタ!なんていったか覚えてるか!?覚えてないでしょう!?金持ちにとっちゃあどうでもいいことだもんねぇ!『お金はアイが出すから』って、『お金の心配はしなくていい』って!対等だと思ってた友達に!友達にそんなことを言われたら!どんなにみじめな気持ちになるか!どんなに自分の家を恥じることになるか!どれだけ残酷なことを言ったか!!分かんないんでしょう!?お金の本当の大事さもしらない、産まれたときからの金持ち様はさぁ!!いつもピカピカの服を着てるあんたら2人に!自分の服が繕いばかりだって何時見透かさせるか怯えてる気持ちなんて!
何でも持ってるくせに!その上私からお父さんとお母さんまで奪おうとするの!?わたしのお父さんとお母さんなのに!!私にはそれしかないのに!!どれだけ欲しがれば気が済むの!?」
◇◆◇
――はるひがアイを殴りつけ始めてから、空が曇り、アイのかなしみの雨が降っていた――
アイは唯黙って感情を込めた拳で殴られ続けた、これは金持ちに生まれてしまうという罪を犯した、自分が甘んじて受け入れるべき罰だと思ったからだ。
アイは常に罰を求めていた。生まれてしまったこと、産まれてしまったこと、人より恵まれた立場にいること、なのに両親に愛されない自分を不幸だと思ってしまうこと。両親に暴力を振るわれたぐらいで、自分よりもっと不幸な人がいるということを忘れてしまうこと。その全ての罪に、罰を求めていた。だからはるひの拳を、心を、言葉を受け入れていた。あの言葉を聞くまでは――。
◇◆◇
「何とか言ってよ!今も見下してるんでしょう!いつも自分がこの世でいちばん不幸みたいな面してさぁ!国では一番偉い貴族の家に生まれてきてさぁ!金持ちの両親の元に産まれてさぁ!やさしい兄姉だっているくせに!
私に兄弟がいなくて、春日家に息子がいないことでどれだけ跡継ぎのことでとやかく言われてるか分かる!?それに男の子にだって生まれたのに!私が何度春日家の娘が息子だったらなぁって言われたか分かる!?“第1の性別を重視する馬鹿ども”にさぁ!!私がどれほど男に生まれたかったか分かる!?自分の母親に、泣きながら『貴女を男の子に産んであげられなくてごめんねか』って、謝られる気持ちがぁ!!!『でも貴女が産まれてきてくれてよかった』って慰められる気持ちがぁ!!わかんないでしょうねぇ!!アンタみたいに全てに恵まれた環境に生まれた奴には!
愛されなくても高価なご飯を食べさせてくれて、綺麗な服をくれるんだからいいじゃない!!なんでもくれるんだから!!いいじゃない!お金があるんだから!お金さえあれば何でもできるんだから!名誉だって地位だって金で買えるんだから!!金がすべてなんだよ!!」
最後の言葉と心と共に、最後の拳をアイにぶつける。そして、背中からゆっくりと外界に出てきていた、祈り虫の祈るような腕の形をした、心の刃が7つアイに向かって振りかぶられる。
――金持ちの両親のもとに産まれたくせに?何でも手に入るくせに?
「たかが親に愛されないことぐらいなによ!!愛しかくれない親より、愛以外なんでもくれる親の方が恵まれてるに決まってるでしょうがぁ!!!」
――愛しかない親より、愛以外なんでもくれる親の方が恵まれてる?親に愛されないことぐらい?
――たかが親に愛されないことぐらい。
はるひの背中から触手のように伸びた憤怒、嫉妬、傲慢などの心が形作った鎌の7つの刃がアイの全身を貫こうと、振り下ろされる。
◇◆◇
《……ふざけんじゃねぇぞ。》
はるひの心の刃が轟音をたててなにかに吹き飛ばされ、粉々になるまで潰される。
「……え?」
その言葉は自分の刃が壊されたことに対する疑問ではなかった。目の前の人間から、はるひの知るアイから、この世でいちばんうつくしい人間からは、おおよそ想像できない声が聞こえたからだ。
地獄から響くような――この世の全ての人間を不倶戴天のものとして、憎むような、いや今まさに憎んでいる声。
「ふざけんじゃねぇっつったんだよ。聞こえなかったか?それとも産まれたときから愛を囁かれてきたような尊き耳をもつ人間様には、おれみてぇな親に愛されたこともねぇ塵屑の声は聞こえねぇってかぁ?」
「アイ……くん……なの……?そのしゃべり方、その声……まるで別人――」
その場にいる誰もがその怨嗟の声をあげているのがアイだとは信じられなかった。エレクトラでさえ。ただオイディプスだけが、今のアイが誰かに似ていることに気が付いた。
「あぁ?おれはアイ・ミルヒシュトラーセだ。てめぇが一番よく知ってんだろう?おれが恵まれしミルヒシュトラーセだからボコスカ殴ったんだからなぁ?痛かったぜぇ……ボケが。」
アイが汚らしいものを遠ざけるように手を払うと、馬乗りになっていたはるひの身体が後ろに吹き飛ぶ。
「きゃっ!」
そして跪きなんとか立ち上がろうとしたはるひの顔面に、アイの全力の感情を纏った蹴りが飛んでくる。
「ぐぎゃっ!」
「いってぇだろうなぁ?でもテメェにボコスカ殴られておれの顔面も血まみれだし、おあいこだよ……っなあぁ!!」
顔を蹴られて仰向け倒れたはるひの髪を掴み、こんどは燃えるどす黒い怒りの焔を纏った拳を顔面にお見舞いする。
「っっぐぁ!」
「さっさと立てよ糞ビッチが、立たねぇならこっちからいくぞ……?」
はるひはなんとか自分の感情で顔をガードしながら立ち上がる。そしてアイはがら空きの腹に、かかとで怒りを爆発させて加速させた蹴りをぶち込む。はるひの身体が吹き飛び、儀式の場に生えていた木に背中からぶつかる。
「あーあー、なにやってんだよ、オンナノコなんだから腹ぁしっかり守れよ。ガキが生めなくなんぞぉ……?」
アイは普段の慈愛に満ちた笑みとは程遠い、ニタニタとした嘲笑と共に歩み寄る。
◇◆◇
「さっきは随分と言ってくれたよなぁ?あぁ?糞女が。愛しかない親より、愛以外なんでもくれる親の方が恵まれてる?親に愛されないことぐらいぃ?だっけぇ?――たかが親に愛されないことぐらい。ぐらいっつたよなぁ?テメェは。あぁ!?ふざけんじゃねぇ、ふざけんじゃねぇぞ……。
産まれたときからやさしい両親に愛されてぇ?恵まれてるテメェみてぇな奴がおれに、このおれに、愛情に飢えて喘いでる人間によく言えたもんだよなぁ?親に愛されてる人間ってのはさぞ偉いんだろうなぁ?あぁ!?愛されてねぇ人間を虚仮にできるぐれぇよぉ……。ふざけんのもたいがいにしろよ。愛されてるくせに!!愛されてるくせによぉ……!!
不幸自慢かよ!?親に愛されてる分際でよぉ!!両親に愛されてるやつが!!不幸なふりなんてするんじゃねぇよ!!親に愛されてて不幸なやつなんているわけねぇだろうがぁ!!いつだって愛を伝えてもらえるくせに!いつだって抱きしめてもらえるくせによぉお!!
自分の父親に気絶するまで殴られたことなんてねぇくせに!!自分の母親に、『お前みたいなゴミ生むんじゃなかった』、なんて言われたこともねぇだろうが!!自分をぶん殴ったその手で、他の兄姉たちの頭を撫でる姿なんて見せつけられたことねぇだろう!どんな気分しってるかぁ!?最高にくそみてぇな気分だぜぇ!知らねぇだろう!春日家の愛娘様はさぁ!!
母親の愛のある手料理を毎日食べられるご身分の奴が!いつも使用人になにか仕込まれてねぇかってビクビク独りで飯を食う孤独が想像できるか!行く先々でミルヒシュトラーセ家の忌み子としてのけ者にされるから、友達の1人もできずに!本を読んで読み漁ってその作者と友達になるしかなかったおれの気持ちが!外で遊ぶてめぇら友達持ちの奴らの笑い声を聞きながら、独りで本の中に逃げ込まないと生きていけない孤独がぁ!何にも知らねぇだろうが!!おれのことをなんにも!!!それなのによく言えたなぁ!?あの時言ったよなぁ!『独りで本を読むより、友達と遊んだほうが楽しいよ』って、そうへらへら嗤いながら宣ったよなぁ!!このおれをつらまえてよぉ!!
テメェは母親が自分の為に飯を作ってくれるのを恥じて、手伝いもしてなかったよなぁ!あのときによぉ!おれの料理が金持ちの道楽だと!!どう頑張っても親に愛されねぇから!なんとか愛してもらおうと!!独りで必死に親のために料理を作る気持ちが!!それを喜び勇んで持っていったら、目の前でゴミと一緒に捨てられた時のおれの気持ちが!『汚らしいからオマエの触ったものなんかくえるわけねぇだろう』って!!そう言って殴られて!蹲って見た地面の色なんて!お前には決してわからない!!ゴミに混ざった、親が喜んでくれると思って作った料理の臭いを嗅いだことがあるかぁ!?ねえだろうが!!なのに莫迦にしやがる!
愛されてるやつはみんなそうだ!!ふざけやがって!必死に愛を求める人間の姿を滑稽だと馬鹿にしやがる!親に愛されてることがそんなに偉いのかよ!?愛されたくて必死に親に媚びる人間を莫迦にできるほど!テメェらはえらいのかよ!?テメェらは運が良かっただけだ!何もしなくても“無償の愛”をくれる親から産まれたのが!そんなに偉いのか!!頑張って頑張ってなりふり構わず頑張ってぇ……!!恥も外聞も捨てて頑張って!親の役に立って初めて!産まれて初めて!そこまでしてやっと初めて!!“条件付きの愛”しかもらえない人間を嗤えるほど、てめぇらはなにかしたのか!!?無条件に愛されてるくせに!それを必死に求める人間を!!
てめぇは言ったよなぁ!親に憎まれてる俺を『かわいそう』だって!!ふざけんな!おれは!かわいそうなんかじゃねぇ!!愛されてるぐらいで、愛されてない人間を憐れむんじゃね!!そんなに偉いのか!?友達に!そいつが親に愛されてることをありありと見せつけられた友達に!『親に愛されてなくてかわいそう』っていわれたら、どんなみじめな気持ちになるかわからねぇのか!分からねぇんだろうな愛されていらっしゃる方々は!おれらみてぇな“かなしき人々”の気持ちなんて!!
いつも『親がこんなにかまってきてうざい』なんて話をされるたびに!かまわれたこともねぇのに笑って『わかる』って話を合わせるたびに感じる虚しさなんか!!くれよ!そんなに親がうぜぇんなら!!俺にくれよ!!生まれたときから愛されてる人間はそれがどんなに恵まれたことか!想像したこともねぇんだろう!!なんで親をうざがってる奴らが愛されて、親を愛してるおれが憎まれねぇといけねぇんだよ!!?おかしいじゃないか!!
やさしい兄姉がいるくせにだと!?きょうだいがいないから愛情を独り占めできるんだろうが!!他のきょうだいと自分の扱いの差を見せつけられる苦しみなんて知らねぇくせに!!自分だけ誕生日に!クリスマスに!毎年プレゼントがもらえねぇ気持ちがわかるか!?他のきょうだいは2個も3個ももらってるのに!自分の誕生日に毎年『なんでアイツを産んだんだ』って、両親が喧嘩する声に耳をふさいだことなんかないくせに!毎日毎日毎日愛情の差を見せつけられて!やさしい兄姉を、ほんとうにやさしくしてくれる兄姉を少しでも恨んだ自分を殺してしまいたいと思う気持ちがわかるか!?
男に産まれたくせにだと!?女に産まれたことがどんなに幸福かもしらねぇで宣いやがる!つらいことが、ほんとうにつらいことがあって、相談したら、父親がおれのことは『強くなれ』と殴るのに、他の女きょうだいが泣きつくとやさしく抱きしめているのを見るたびに!おれがどんなに娘として産まれてきたかったか!!おれが女だったら父親も愛してくれたのに!!てめぇが『スカートを履きたくない』と愚痴をこぼすたびに、おれがどんなに願ったって一度も着ることの叶わないそれを!おれの前でよく言えたもんだなぁ!?あぁ!?テメェらが毎日のように風に揺らしながら着ているスカートを。外套を腰に巻いて、それが揺れるたびに『もしスカートを履けたのならこんな気持ちになれるのかな』って、自分を慰める気持ちが分かるか!?テメェらが着たくねぇと愚痴をこぼしながら毎日のように着ているの見て!おれだったらたった一日、いやたった一時間でもそれを着て街を歩けたらそれだけで幸せなのに!!こんなくそみてぇな気持ち知らねぇだろう!?
『でも貴女が産まれてきてくれてよかった』って母親に抱きしめられながら慰められるお前に!!『お前みたいなゴミ生むんじゃなかった』って憎しみのこもった眼で言われるおれの気持ちが分かるわけない!!
家に誰かが帰ってくる音がしたらそっちに駆け出していくお前が!誰かの音がしたら自分の部屋に逃げ込むおれの気持ちなんか!家族の生活音に脅える俺の気持ちなんか分からないだろう!?『家に帰りたい』って思えるようなてめぇが!家にいるのに『かえりたい』って思うようなおれの気持ちなんか分かるわけないんだ!!
愛なんだよ!!この世のすべては!!この世でいちばんうつくしいものは!!おれはそれさえあれば何にもいらないのに!いいじゃないか!優しくしてもらえるんだから!愛してもらえるんだから!!愛があればなんだってできるんだから!名誉や地位じゃ愛は買えないんだから!!愛がすべてなんだよ!!!
――あぁ、憎い……愛されてるやつが。愛されて当たり前だと思いあがっているやつらが――。あぁあああ!この!人間野郎がぁああ!!」
◇◆◇
アイはいつの間にかこの場の全ての場所に心を配っていた。こころをもつものとしての力のなせる業だろう。そのアイのこの世の全てを憎んでいるような、それでもこの世のすべてをかなしんでいるような感情に晒されて、ひまりは涙を流していたし、しゅんじつも胸に深く何かが突き刺さるのを感じていた。
けれども、豹変したアイに妙な既視感を覚えてすぐに、自身の感情で自分の周りを覆っていたオイディプスと、アイへの憎しみを身体に纏い防御しているエレクトラには、アイの感情は届かなかった。
エレクトラの纏ったアイへの憎しみが、アイの感情がエレクトラに触れる前にそのすべてを歪めていたのだ。こうして、拒絶され歪められ、アイがほんとうにことばを、こころを伝えたかった人たちには、伝わらなかったのである。
だが、そのときオイディプスは気が付いた。ずっと感じていた既視感に。自分の息子が誰かを傷つけようとするのをみるのははじめてだったから、今まで気が付かなかった。
――人を傷つけようとするときのアイは、口調から行動まで――アイと接するときのエレクトラに、哀しいほどそっくりだった。
◇◆◇
影の位置がおかしい――とはるひは気がついた。
さっき迄アイの後から太陽の光が差し、アイの影を前に、はるひの影を後に伸ばしていたのに。今では向かい合うお互いの後に影が差している。まるで、2人の間に遥かなる光源があるかのように。
ハッとしてはるひは上を見上げる。両手をあげたアイと座り込んでいるはるひの頭上に、アイのごちゃ混ぜになった感情が、黒い太陽として顕現していた。アイがゆっくりと両の手を下ろしていく。
「オマエに愛を与えてやろう……。」
いつかエレクトラがアイにそうしたように、アイもはるひに黒い太陽を降らせる。それに包まれたはるひはあまりのアイの絶望の濁流に獣のような悲鳴を上げていた。アイはただ黙ってそれをみていた。
悲鳴が止んだ時、其処には満身創痍になったはるひが斃れていた。アイはゆっくりとそれに近づき、暗い夜の色をした感情のちいさな短刀を手に握りしめ、その刃を、なんとか身体を起こした敵に向けた。
短刀の柄にはルビーのような怒りが付いていた。アイの目までもが、普段のサファイア色ではなくその瞳を流れる心によってどす黒く濁っていた。
――そして、自分があのとき母にぶつけられてもっとも苦しかった感情を敵の頸もとにあて、自分が母に言われてもっとも傷ついた科白を言った。
「オマエみたいなゴミ、生むんじゃなかった。」
そして憎悪の刃を振りかぶった――。
◇◆◇
――そのとき、見えた。見えてしまった。はるひの瞳に映る、母親そっくりの自分の姿が。自分は決してああやって人を傷つけることはしないと、心に誓っていたのに。今の自分はまるで母親みたいな言葉で、母親みたいな行動をしている。
「!……!!……あ……あぁあああぁ……。」
頭を抱えて一歩二歩と後ずさる、母親の幻影から離れるように。しかし、それは決して自分を逃がしてはくれない。
――なんで?おれは……わたくしは決して、おかあさまにされて育ったことを決して、人にはしないと誓っていたのに。それをするような人間にはならないと思っていたのに。気が付けば同じことをして、大切な人を傷つけている……。わたくしは一生逃れられないのか?
親に傷つけられて育った人間は、自分の大切な人に同じことをするようになるのか?それしか人との接し方をしらないから?わたくしは、わたくしは、なんてことを、こんなこころで、こんなことばで、はるひちゃんを傷つけて、それで。
気分が良かったんだ。どうしようもなく。高揚してしまった。ひたすらに気分が良かった、他人を傷つけるのは。他人に自分のこころをぶちまけるのは……。今まで人につけられた疵が癒えていくようだった。今までわたくしを傷つけてきた人間たちも……おかあさまもこんなきもちだったんだろうか?こんなにしあわせだったんだろうか?わたくしは人を傷つけてしあわせを感じるような人間だったのか……?
ちがう、ちがう、わたくしは。わたくしは……。わたくしはおかあさまの子だけれども、決しておかあさまのようにはならない……そう決めていたのに。
◇◆◇
「はるひっ!」
アイの思考が中断される。子を愛する母親の声によって。どうやら娘の身を案じたひまりが、居ても立っても居られず、儀式の場に入ってきてしまったらしい。しゅんじつも遅れて追いついてくる。
「お……ゲホゲホっ……お゙があ゙さん゙……。」
「はるひっ!大丈夫!?」
母に抱きかかえられる娘。
「おいっ!ひまりっ!すぐ離れるぞ、儀式の邪魔になる!この儀式のためにどれだけ手を回したと思ってるんだ!」
夫が妻を引き戻そうとするが、母は一向に動かない。
「アナタ……よく見て、春日家の家長としてじゃなく、父親として、いまのはるひを……。」
ぼろぼろになって抱きかかえられている娘を見る。父親としてのしゅんじつの眼には、それが映った。
――…………あぁ……。今まで家族のためと言って、妻と娘にはつらい思いをさせてきた……。1つの夢がご破算になるぐらいなんだ。そんなことより――
「……。はるひが、この世でいちばんたいせつだ。そうだよな、そうだ。ありがとうひまり、俺に気づかせてくれて……。俺はお前たちを幸せにしたかったお前たちの将来を幸せなものに……でも今のお前たちを蔑ろにしたんじゃあ違うよなぁ……。」
父もそっと娘を抱きしめる。親の愛情ではるひが包まれて、少しずつ、たが着実に傷が治っていく。はるひはさっき迄とはうってかわって、しあわせな表情をしている。あんしんな後部座席で全てを親に任せて、船を漕いでいる子どものような顔だ。
◇◆◇
アイはただ1人――周りに誰も居らず――ただ独りでその光景をみていた。気がつけば膝をついていた。憎悪の短刀もその切っ先から雲散し空に還りつつあった。
その光景を見ていると、そのこの世でいちばんうつくしい光景を目の当たりにすると、アイの中の憎悪が天国へとほどけていくのだった。
そのまま身体の力が抜けていき、地面にぺたんと座り込んでしまう。その光景をみる以外にどんな力も使いたくなかったのだ。
空を覆い尽くし地面を濡らしていたアイのかなしみも止んで、雲間から差した光が、うつくしい家族の愛を照らし出していた。そしてアイは、いまだ自ら生み出した雲の影にいるアイは、ただ死を待つ断頭台の前の死刑囚のように、跪くしかできなかった。
それは彼には一生手に入らないものだったからだ。
◇◆◇
「アイ!!!何をしてやがる!トドメを刺せ!!」
泥濘を切り裂く、自分の母親の声。自分のそばではなく、遥か後方から。目の前の光景から目をそらさず、その声を聞いていた。
「おれの役に立つんだろうが!!役に立って愛されるんだろうが!!速くトドメを刺して、獣神体になるんだろう!!おれに愛してほしいのだろうが!!おれにオマエを産んでよかったと!!一度ぐらい思わせてみろ!!!」
その言葉を聞いたアイは、目線をうつくしい愛からそらして、太陽の光を、アイの悲しみの雲によって遮れ、アイの哀しみの泪が染み込み、暗い闇の色になった地面を眺めていた。
そして、徐に、陽だまりの中にいる家族に向けて、傷だらけの身体で……ふらふらと右手を伸ばした。
「あ……アイちゃん……!」
ひまりが、アイを恐ろしいものをみる目で睨めつけ、そして自分の子を庇うようにさらにぎゅっと抱きかかえる。それをみたアイの身体がびくっと跳ねる。そして陽だまりに伸ばしていた手をしずかに、暗闇の地面の上に、投げ出した。
しゅんじつにはさっき伸ばしていた手が助け求めているように見えた。だから、ひまりとは逆にアイに優しい眼差しを向け、ゆっくりと歩み寄る。自分の上に人の影がさしたのに気づいたアイは、断頭台の上に置いていた頭を上げて、上目遣いでその人物を見やる。その瞳はこの世の全てを見てしまったような諦めと、この世の何ものをも見たくないという絶望に縁どられていた。
「ぁあ……あ、がすっがすが……じゅんじづざま……ぁ。」
はるひに殴られすぎて、喉が潰れているらしい。ということは、先ほどまで聞こえていたアイの心の叫びは、この場を支配していたアイの心から発せられていたらしい。
しゅんじつは全てのかなしみが凍りついたような瞳をした、しかしそれ以外の全てがかつて焦がれたサクラの面影を宿すその子を、みていた。そして、ふと、辺りに桜の花が散っていることに気がついた。
◇◆◇
アイと家族とのすぐそばに、いつのまにか、おおきな桜の樹が立っていた。その樹木から絶えず桜の花弁が降っているのだった。それは地面を覆い尽くしていた。しあわせな家族のいる陽だまりにも、独りのアイがいる暗闇の地面にも、等しく降り注ぐのであった。もう地面のすべてが桜色になってしまった。すべてを染め上げる桜色のなかで、ただ愛し合う家族と、独りのアイだけが、其処には在った。
アイはそれを認めると、それを口に出すと、自分が死ぬしかないということは分かっていた。自分が生きていくには、母の、父の役に立ちつづけて、絶えず延命をするしかないのだと、これまでの生涯で、痛いほど知っていた。
知っていたのだ。自分のような家族の癌が、生きていていい唯一の免罪符が、使える息子で居ることだけだったのだ。しあわせな家族の元に不純物として“産まれてしまった罪の唯一の償い方”を、“たった1つのアイの希望”を、1つしかない“生きていてもいい言い訳”を、アイは手放そうとしていた。あんなにそれにしがみついていたのに、執着していたのに、それはするりとアイのちいさなてのひらからこぼれおちてしまった。
◇◆◇
――あぁ、それがなんだと言うんだ。自分が親に愛されたいからって、生きていたいからって……死ぬのがこわいからって、このしあわせな家族までも壊そうとするのか?わたくしは。産まれたときに自分の家族のしあわせもこわしたのに、また繰り返すのか?
ただ、あいされたかった、だきしめてほしかった。おまえをあいしているぞって。そう、いってほしかった。てをあげたらだっこしてほしかった。みんなみたいに。プレゼントなんてほんとうはいらなかった。うまれてきてくれてよかったって、そのことばだけが、そのこころだけがほしかった。どうしようもなくほしかったんだよぉ……。わたくしにはもったいないものだってわかってたのに、ほしかった……。ほかのこみたいに、おかあさんがなぐさめてくれるからって、あんしんなきもちで、わんわんないてみたかった。こころのそこからないてみたかった。
でも、まちがってた。ともだちのしあわせなかぞくをうらやんでまで、こわしてまで、てにいれたいものじゃなかった。わたくしのように産まれたときからよごれたにんげんが。いきてるだけでひとにめいわくをかけるようなにんげんが。手をのばしたのが、まちがいだった。もとめたのが、まちがいだった。のぞんだのが、まちがいだった。あいしてほしいと、のぞんだのが。うまれてきたのが――。
◇◆◇
亡骸のようにまんじりともしないアイに、痺れを切らした“おかあさま”と、異変に気がついた“まま”が声を掛ける。
「糞がっ!何をしてやがる!さっさと殺せっ!プシュケー!!」
「アイちゃん……だいじょうぶ?」
そのことばがしっかりとこころに染み込むまで待って、アイが口を開く。
――“桜の森の満開の下”で。
「うまれてきて、ごめんなさい。……わたくしの、負けです。」
◇◆◇
勝ったものが獣神体になり全てを手に入れ、負けたものは人間体となり全てを――。
これはビッチングと呼ばれる現象で、獣神体が相手に心の底から負けたとき、肉体が人間体に変異することを利用したものだ。動物界でもオス同士の決闘で負けたものがメスになるというのはよくある話だ。
この聖別の儀はアイを稀代のアニムス・アニムスにする為に、両家合意のもと仕組まれたものである。
◇◆◇
それぞれの家族が離れた所から見守るなか、アイ・エレクトラーヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセと春日春日が向かい合う。
◇◆◇
「いやーこんな伝統衣装みたいなのまで着せられてさ~恥ずかしいったらありゃしないよね?みんな見てるしさ。ねっ、アイくん。」
「ふふっ、そうですね、はるひちゃん。」
「緊張してる?」
「いえ、パパとママに勇気をもらいましたし、はるひちゃんとならひどい結果にはならないってわかりますから。」
「……そうだねぇ……。アイくんはいつも……うれしいこといってくれるね!」
はるひの眼が友情以外の何かを宿していることに、アイは気が付かなかった。はるひではなく、両親のいる方へ体をむけていたからだ。……両親のことだけを、見ていたからだ。
「はじめようか……。アイくん。」
「はい!よろしくお願いいたします!」
暫くお互いが相手に直接的な暴力を振るのに躊躇して、遠くから表面的な感情を顕現させぶつけあっていた。お互いの発現させた心を褒め合いながら、あたかも真なる友であるように。だがそれはあくまで、真なる友であるかのように、でしかなかった。
それを見ていたエレクトラとしゅんじつが立ち上がる。
◇◆◇
「アイ!!うすっぺらい感情なんぞで相手の表面を撫でたぐれぇじゃあ、聖別の儀はできねぇ!自分の心を全部相手にさらけ出して、本当の感情で相手を深くぶっさすんだ!!」
「……はるひ、アイくん……すまない……。こんなことをする俺を……どうか、許さないでくれ……。
相手に自分の心をさらけ出すというのは本当に恐ろしくて容易くはできないだろう!だからエレクトラ様と俺が手助けをしよう!!」
エレクトラとしゅんじつが両手を重ねて前に突き出し、自分の子供になにかムスカリの花のような紫の感情を飛ばす。それがアイとはるひの頭に突き刺さり、2人は膝をついて座り込み、だらんと首を垂れる。
「は、はるひ!アイちゃん!大丈夫!?アナタ……何を――」
ひまりが取り乱して夫に真意を問おうとするが、エレクトラとオイディプスは落ち着き払っていた。
「ひまり……これは2人に必要なことなんだ……。」
ひまりは夫のちいさな声が悲痛な叫びを内包していることに気が付いた。エレクトラが叫ぶ。
「人間の本性が!ほんとうのこころが表れるのは!!へらへらと笑ってしあわせな“ライ麦畑”の中にいるときじゃあない!
孤月のように暗い絶望!海淵のように深い悲しみ!瞋怒雨のように激しい怒り!春怨のように焦がれる嫉妬!
なんにもとりつくろわないくそみてぇ感情こそが!ほんとうのこころだ!今お前たちの薄っぺらい仮面みてぇな好感情をはがした!さぁ、本心を、ほんとうのこころをぶつけ合うんだ!!」
二人はうずくまったままピクリとも動かない。だが、彼らの心は漣のように揺らぎ、次第に荒波のようにのたうち回っていた。
◇◆◇
――あぁ……苛々する。すべてにむかっ腹が立つ。髪を揺らす風も、肌を撫でる空気も、目の前にいるアイ・ミルヒシュトラーセも、この世の全てが私を苛々させるために生まれてきたみたいだ。この怒りを、憎しみを、この、やるせなさを、目の前の恵まれた金持ち貴族の息子にぶちまけてやる。
ふざけやがって。どいつもこいつも、むかつく、業腹だ。腹が立って仕様がない。息をするのも億劫だ。この世の全部が私をいらだたせる。お父さんやお母さんでさえも――。
「あぁああああぁあ、ふざけやがって、お前に食らわせてやる、私のくそみてぇな感情を!!恵まれたボンボンには一生分からないだろう!!私たちが!!私が日々どんなにくそみてぇな気持ちですごしてるかなんてさぁ!!」
先に動いたのははるひだった。叫びながら様々な感情の入り混じったどす黒い色をした塊をアイに無手勝流にぶつけながら、近づいていく。
アイは頭に、身体に硬い感情をぶつけられ血が出ても、それでも動こうとしない。アイの眼前に迫ったはるひは胸倉をつかみ、どす黒い感情を宿した左手で顔面を勢い任せに殴りつける。自分の体勢が崩れることもお構いなしに、ひたすら殴り続け、力任せに顎を殴り上げたときに、アイは後ろに倒れこんだ。そのまま馬乗りになり、背中から感情の刃を嘔吐しながら、叫ぶ。
「ふざけないでよ!何時も自分がこのせかいでいちばんかわいそうだって顔をして!!金持ちのくせに!誰もが羨む貴族の家に生まれたくせに!金も地位も持ってるやつが不幸なフリなんかしないでよ!!金持ちに不幸な奴なんかいるわけないでしょ!!
なんだって買えるくせに!なんだって人に命令できるくせに!自分の親が他人に媚びへつらってぺこぺこ頭を下げる姿なんて見たことに癖に!!卑屈な笑みを浮かべながら胡麻をする姿なんてさぁ!偉い奴の前でそいつの子供と比較して親に自分のことを悪く言われる気持ちなんて!味わったことないでしょう!?ミルヒシュトラーセ家のご子息様はさぁ!!
糞貴族共に頭を下げられて生きてきたやつに!地を這いつくばって、生まれてからずっと誰かに頭を下げて生きてきた貧乏人の気持ちなんて!この苦しみが!屈辱がわかるか!?
私の母親が、他の母親どもに馬鹿にされねぇように!必死で頭を下げて借りた一冊を!その話をしたときに、アンタは!何の苦労もしらねぇアンタは!本なんて高級品が生まれたときから家に腐るほどあるアンタが!笑って言ったよなぁ!つらつら得意げに色んな本を読んだことを自慢して!本の一冊さえ糞女に頭を下げないと貸してもらえない、私のお母さんに!へらへら嗤って言ったよなぁ!!あの時の、お母さんの気持ちが!お偉い貴族の家に生まれただけのガキに、自分が必死で得たたった一冊を!軽々と飛び越えられたお母さんの気持ちが!あの時の私の気持ちが!アンタには分からないでしょう!分かってたまるもんか!お偉い貴族のガキなんかに!平民の出だぁ教養もねぇ貧乏貴族の妻だとほかの馬鹿貴族のくそ妻たちにいつも馬鹿にされても!それでも家族のために必死に話を合わせようと!少しでもうちの助けになろうと!くそ女どもの集まりに出かけていく母親の背中を見たことはあるか!?ないだろうなぁ!?アンタの母親はこの国で一番偉いんだから!
料理だってそうだ、ふざけやがって!お母さんが毎日家族のために!貴族なのに使用人を雇うお金もないから!金持ちの糞共に馬鹿にされながら!毎日毎日必死で作ってくれる料理を!生きるための料理を!寝転がってりゃあ勝手に飯が出てくる家に生まれたアンタが!アンタが金持ちの道楽で気が向いたときにだけやるおままごとと一緒にしやがって!馬鹿にしやがって!なんで人の気持ちがわからない!?台所に立ような下人根性の卑しい貴族だって馬鹿にされてる人が!この国でいちばんの金持ちの子供に生まれただけのガキに、同じだって言われることが!どんなに誇りを傷つけるかわからない!?
金持ちに生まれたのがそんなに偉いのか!?貴族に生まれたのが!?お父さんが私とお母さんのために必死で金をかき集めるのが!金持ちの屑どもに馬鹿にされながら必死でのし上がろうとするのが!がめついだと!?商人根性のけち臭い強欲貴族だと!?よく言えたな!よく人を馬鹿にできたな!
金なんだよ!この世は!金がなきゃあなんにもできない!服も買えない、家にだって住めない!!金がなきゃあ人に馬鹿にだってされる!嘲笑われる!金なんだよ!ふざけないでよ!
自業自得だぁ!?金持ちの親の股から出てきただけで!必死に金を欲しがってる人間を!“貧しき人々”を!よく自業自得だって馬鹿にできるよなぁ!金持ちの親の股から出てきたことがそんなに偉いのか!?私たちが何をしたって言うんだよ!貧乏生まれたことがそんなに大きな罪か!?一生運がいいだけの莫迦どもに馬鹿にされるほどの罪か!?
私のお父さんとお母さんは立派な人だ!人間だ!必死で家族のために頑張ってる!汗水たらして金を!生活を求めてる!それをなんで汗をかいたこともない奴らに馬鹿にされなきゃあならない!?ほんとうの空腹なんて感じたことない連中に!
なんでそんな両親を少しでも恥じた自分を殺してやりたいほど憎いと思わなきゃならない!?こんな気持になったことがあるか!?親を恥ずかしいと思ったことが!?ねぇ!ミルヒシュトラーセ辺境伯様ぁ!
かげろうと三人で遊ぼうとした時もそうだ!『お金がないからやめとく』っていった私にアンタ!なんていったか覚えてるか!?覚えてないでしょう!?金持ちにとっちゃあどうでもいいことだもんねぇ!『お金はアイが出すから』って、『お金の心配はしなくていい』って!対等だと思ってた友達に!友達にそんなことを言われたら!どんなにみじめな気持ちになるか!どんなに自分の家を恥じることになるか!どれだけ残酷なことを言ったか!!分かんないんでしょう!?お金の本当の大事さもしらない、産まれたときからの金持ち様はさぁ!!いつもピカピカの服を着てるあんたら2人に!自分の服が繕いばかりだって何時見透かさせるか怯えてる気持ちなんて!
何でも持ってるくせに!その上私からお父さんとお母さんまで奪おうとするの!?わたしのお父さんとお母さんなのに!!私にはそれしかないのに!!どれだけ欲しがれば気が済むの!?」
◇◆◇
――はるひがアイを殴りつけ始めてから、空が曇り、アイのかなしみの雨が降っていた――
アイは唯黙って感情を込めた拳で殴られ続けた、これは金持ちに生まれてしまうという罪を犯した、自分が甘んじて受け入れるべき罰だと思ったからだ。
アイは常に罰を求めていた。生まれてしまったこと、産まれてしまったこと、人より恵まれた立場にいること、なのに両親に愛されない自分を不幸だと思ってしまうこと。両親に暴力を振るわれたぐらいで、自分よりもっと不幸な人がいるということを忘れてしまうこと。その全ての罪に、罰を求めていた。だからはるひの拳を、心を、言葉を受け入れていた。あの言葉を聞くまでは――。
◇◆◇
「何とか言ってよ!今も見下してるんでしょう!いつも自分がこの世でいちばん不幸みたいな面してさぁ!国では一番偉い貴族の家に生まれてきてさぁ!金持ちの両親の元に産まれてさぁ!やさしい兄姉だっているくせに!
私に兄弟がいなくて、春日家に息子がいないことでどれだけ跡継ぎのことでとやかく言われてるか分かる!?それに男の子にだって生まれたのに!私が何度春日家の娘が息子だったらなぁって言われたか分かる!?“第1の性別を重視する馬鹿ども”にさぁ!!私がどれほど男に生まれたかったか分かる!?自分の母親に、泣きながら『貴女を男の子に産んであげられなくてごめんねか』って、謝られる気持ちがぁ!!!『でも貴女が産まれてきてくれてよかった』って慰められる気持ちがぁ!!わかんないでしょうねぇ!!アンタみたいに全てに恵まれた環境に生まれた奴には!
愛されなくても高価なご飯を食べさせてくれて、綺麗な服をくれるんだからいいじゃない!!なんでもくれるんだから!!いいじゃない!お金があるんだから!お金さえあれば何でもできるんだから!名誉だって地位だって金で買えるんだから!!金がすべてなんだよ!!」
最後の言葉と心と共に、最後の拳をアイにぶつける。そして、背中からゆっくりと外界に出てきていた、祈り虫の祈るような腕の形をした、心の刃が7つアイに向かって振りかぶられる。
――金持ちの両親のもとに産まれたくせに?何でも手に入るくせに?
「たかが親に愛されないことぐらいなによ!!愛しかくれない親より、愛以外なんでもくれる親の方が恵まれてるに決まってるでしょうがぁ!!!」
――愛しかない親より、愛以外なんでもくれる親の方が恵まれてる?親に愛されないことぐらい?
――たかが親に愛されないことぐらい。
はるひの背中から触手のように伸びた憤怒、嫉妬、傲慢などの心が形作った鎌の7つの刃がアイの全身を貫こうと、振り下ろされる。
◇◆◇
《……ふざけんじゃねぇぞ。》
はるひの心の刃が轟音をたててなにかに吹き飛ばされ、粉々になるまで潰される。
「……え?」
その言葉は自分の刃が壊されたことに対する疑問ではなかった。目の前の人間から、はるひの知るアイから、この世でいちばんうつくしい人間からは、おおよそ想像できない声が聞こえたからだ。
地獄から響くような――この世の全ての人間を不倶戴天のものとして、憎むような、いや今まさに憎んでいる声。
「ふざけんじゃねぇっつったんだよ。聞こえなかったか?それとも産まれたときから愛を囁かれてきたような尊き耳をもつ人間様には、おれみてぇな親に愛されたこともねぇ塵屑の声は聞こえねぇってかぁ?」
「アイ……くん……なの……?そのしゃべり方、その声……まるで別人――」
その場にいる誰もがその怨嗟の声をあげているのがアイだとは信じられなかった。エレクトラでさえ。ただオイディプスだけが、今のアイが誰かに似ていることに気が付いた。
「あぁ?おれはアイ・ミルヒシュトラーセだ。てめぇが一番よく知ってんだろう?おれが恵まれしミルヒシュトラーセだからボコスカ殴ったんだからなぁ?痛かったぜぇ……ボケが。」
アイが汚らしいものを遠ざけるように手を払うと、馬乗りになっていたはるひの身体が後ろに吹き飛ぶ。
「きゃっ!」
そして跪きなんとか立ち上がろうとしたはるひの顔面に、アイの全力の感情を纏った蹴りが飛んでくる。
「ぐぎゃっ!」
「いってぇだろうなぁ?でもテメェにボコスカ殴られておれの顔面も血まみれだし、おあいこだよ……っなあぁ!!」
顔を蹴られて仰向け倒れたはるひの髪を掴み、こんどは燃えるどす黒い怒りの焔を纏った拳を顔面にお見舞いする。
「っっぐぁ!」
「さっさと立てよ糞ビッチが、立たねぇならこっちからいくぞ……?」
はるひはなんとか自分の感情で顔をガードしながら立ち上がる。そしてアイはがら空きの腹に、かかとで怒りを爆発させて加速させた蹴りをぶち込む。はるひの身体が吹き飛び、儀式の場に生えていた木に背中からぶつかる。
「あーあー、なにやってんだよ、オンナノコなんだから腹ぁしっかり守れよ。ガキが生めなくなんぞぉ……?」
アイは普段の慈愛に満ちた笑みとは程遠い、ニタニタとした嘲笑と共に歩み寄る。
◇◆◇
「さっきは随分と言ってくれたよなぁ?あぁ?糞女が。愛しかない親より、愛以外なんでもくれる親の方が恵まれてる?親に愛されないことぐらいぃ?だっけぇ?――たかが親に愛されないことぐらい。ぐらいっつたよなぁ?テメェは。あぁ!?ふざけんじゃねぇ、ふざけんじゃねぇぞ……。
産まれたときからやさしい両親に愛されてぇ?恵まれてるテメェみてぇな奴がおれに、このおれに、愛情に飢えて喘いでる人間によく言えたもんだよなぁ?親に愛されてる人間ってのはさぞ偉いんだろうなぁ?あぁ!?愛されてねぇ人間を虚仮にできるぐれぇよぉ……。ふざけんのもたいがいにしろよ。愛されてるくせに!!愛されてるくせによぉ……!!
不幸自慢かよ!?親に愛されてる分際でよぉ!!両親に愛されてるやつが!!不幸なふりなんてするんじゃねぇよ!!親に愛されてて不幸なやつなんているわけねぇだろうがぁ!!いつだって愛を伝えてもらえるくせに!いつだって抱きしめてもらえるくせによぉお!!
自分の父親に気絶するまで殴られたことなんてねぇくせに!!自分の母親に、『お前みたいなゴミ生むんじゃなかった』、なんて言われたこともねぇだろうが!!自分をぶん殴ったその手で、他の兄姉たちの頭を撫でる姿なんて見せつけられたことねぇだろう!どんな気分しってるかぁ!?最高にくそみてぇな気分だぜぇ!知らねぇだろう!春日家の愛娘様はさぁ!!
母親の愛のある手料理を毎日食べられるご身分の奴が!いつも使用人になにか仕込まれてねぇかってビクビク独りで飯を食う孤独が想像できるか!行く先々でミルヒシュトラーセ家の忌み子としてのけ者にされるから、友達の1人もできずに!本を読んで読み漁ってその作者と友達になるしかなかったおれの気持ちが!外で遊ぶてめぇら友達持ちの奴らの笑い声を聞きながら、独りで本の中に逃げ込まないと生きていけない孤独がぁ!何にも知らねぇだろうが!!おれのことをなんにも!!!それなのによく言えたなぁ!?あの時言ったよなぁ!『独りで本を読むより、友達と遊んだほうが楽しいよ』って、そうへらへら嗤いながら宣ったよなぁ!!このおれをつらまえてよぉ!!
テメェは母親が自分の為に飯を作ってくれるのを恥じて、手伝いもしてなかったよなぁ!あのときによぉ!おれの料理が金持ちの道楽だと!!どう頑張っても親に愛されねぇから!なんとか愛してもらおうと!!独りで必死に親のために料理を作る気持ちが!!それを喜び勇んで持っていったら、目の前でゴミと一緒に捨てられた時のおれの気持ちが!『汚らしいからオマエの触ったものなんかくえるわけねぇだろう』って!!そう言って殴られて!蹲って見た地面の色なんて!お前には決してわからない!!ゴミに混ざった、親が喜んでくれると思って作った料理の臭いを嗅いだことがあるかぁ!?ねえだろうが!!なのに莫迦にしやがる!
愛されてるやつはみんなそうだ!!ふざけやがって!必死に愛を求める人間の姿を滑稽だと馬鹿にしやがる!親に愛されてることがそんなに偉いのかよ!?愛されたくて必死に親に媚びる人間を莫迦にできるほど!テメェらはえらいのかよ!?テメェらは運が良かっただけだ!何もしなくても“無償の愛”をくれる親から産まれたのが!そんなに偉いのか!!頑張って頑張ってなりふり構わず頑張ってぇ……!!恥も外聞も捨てて頑張って!親の役に立って初めて!産まれて初めて!そこまでしてやっと初めて!!“条件付きの愛”しかもらえない人間を嗤えるほど、てめぇらはなにかしたのか!!?無条件に愛されてるくせに!それを必死に求める人間を!!
てめぇは言ったよなぁ!親に憎まれてる俺を『かわいそう』だって!!ふざけんな!おれは!かわいそうなんかじゃねぇ!!愛されてるぐらいで、愛されてない人間を憐れむんじゃね!!そんなに偉いのか!?友達に!そいつが親に愛されてることをありありと見せつけられた友達に!『親に愛されてなくてかわいそう』っていわれたら、どんなみじめな気持ちになるかわからねぇのか!分からねぇんだろうな愛されていらっしゃる方々は!おれらみてぇな“かなしき人々”の気持ちなんて!!
いつも『親がこんなにかまってきてうざい』なんて話をされるたびに!かまわれたこともねぇのに笑って『わかる』って話を合わせるたびに感じる虚しさなんか!!くれよ!そんなに親がうぜぇんなら!!俺にくれよ!!生まれたときから愛されてる人間はそれがどんなに恵まれたことか!想像したこともねぇんだろう!!なんで親をうざがってる奴らが愛されて、親を愛してるおれが憎まれねぇといけねぇんだよ!!?おかしいじゃないか!!
やさしい兄姉がいるくせにだと!?きょうだいがいないから愛情を独り占めできるんだろうが!!他のきょうだいと自分の扱いの差を見せつけられる苦しみなんて知らねぇくせに!!自分だけ誕生日に!クリスマスに!毎年プレゼントがもらえねぇ気持ちがわかるか!?他のきょうだいは2個も3個ももらってるのに!自分の誕生日に毎年『なんでアイツを産んだんだ』って、両親が喧嘩する声に耳をふさいだことなんかないくせに!毎日毎日毎日愛情の差を見せつけられて!やさしい兄姉を、ほんとうにやさしくしてくれる兄姉を少しでも恨んだ自分を殺してしまいたいと思う気持ちがわかるか!?
男に産まれたくせにだと!?女に産まれたことがどんなに幸福かもしらねぇで宣いやがる!つらいことが、ほんとうにつらいことがあって、相談したら、父親がおれのことは『強くなれ』と殴るのに、他の女きょうだいが泣きつくとやさしく抱きしめているのを見るたびに!おれがどんなに娘として産まれてきたかったか!!おれが女だったら父親も愛してくれたのに!!てめぇが『スカートを履きたくない』と愚痴をこぼすたびに、おれがどんなに願ったって一度も着ることの叶わないそれを!おれの前でよく言えたもんだなぁ!?あぁ!?テメェらが毎日のように風に揺らしながら着ているスカートを。外套を腰に巻いて、それが揺れるたびに『もしスカートを履けたのならこんな気持ちになれるのかな』って、自分を慰める気持ちが分かるか!?テメェらが着たくねぇと愚痴をこぼしながら毎日のように着ているの見て!おれだったらたった一日、いやたった一時間でもそれを着て街を歩けたらそれだけで幸せなのに!!こんなくそみてぇな気持ち知らねぇだろう!?
『でも貴女が産まれてきてくれてよかった』って母親に抱きしめられながら慰められるお前に!!『お前みたいなゴミ生むんじゃなかった』って憎しみのこもった眼で言われるおれの気持ちが分かるわけない!!
家に誰かが帰ってくる音がしたらそっちに駆け出していくお前が!誰かの音がしたら自分の部屋に逃げ込むおれの気持ちなんか!家族の生活音に脅える俺の気持ちなんか分からないだろう!?『家に帰りたい』って思えるようなてめぇが!家にいるのに『かえりたい』って思うようなおれの気持ちなんか分かるわけないんだ!!
愛なんだよ!!この世のすべては!!この世でいちばんうつくしいものは!!おれはそれさえあれば何にもいらないのに!いいじゃないか!優しくしてもらえるんだから!愛してもらえるんだから!!愛があればなんだってできるんだから!名誉や地位じゃ愛は買えないんだから!!愛がすべてなんだよ!!!
――あぁ、憎い……愛されてるやつが。愛されて当たり前だと思いあがっているやつらが――。あぁあああ!この!人間野郎がぁああ!!」
◇◆◇
アイはいつの間にかこの場の全ての場所に心を配っていた。こころをもつものとしての力のなせる業だろう。そのアイのこの世の全てを憎んでいるような、それでもこの世のすべてをかなしんでいるような感情に晒されて、ひまりは涙を流していたし、しゅんじつも胸に深く何かが突き刺さるのを感じていた。
けれども、豹変したアイに妙な既視感を覚えてすぐに、自身の感情で自分の周りを覆っていたオイディプスと、アイへの憎しみを身体に纏い防御しているエレクトラには、アイの感情は届かなかった。
エレクトラの纏ったアイへの憎しみが、アイの感情がエレクトラに触れる前にそのすべてを歪めていたのだ。こうして、拒絶され歪められ、アイがほんとうにことばを、こころを伝えたかった人たちには、伝わらなかったのである。
だが、そのときオイディプスは気が付いた。ずっと感じていた既視感に。自分の息子が誰かを傷つけようとするのをみるのははじめてだったから、今まで気が付かなかった。
――人を傷つけようとするときのアイは、口調から行動まで――アイと接するときのエレクトラに、哀しいほどそっくりだった。
◇◆◇
影の位置がおかしい――とはるひは気がついた。
さっき迄アイの後から太陽の光が差し、アイの影を前に、はるひの影を後に伸ばしていたのに。今では向かい合うお互いの後に影が差している。まるで、2人の間に遥かなる光源があるかのように。
ハッとしてはるひは上を見上げる。両手をあげたアイと座り込んでいるはるひの頭上に、アイのごちゃ混ぜになった感情が、黒い太陽として顕現していた。アイがゆっくりと両の手を下ろしていく。
「オマエに愛を与えてやろう……。」
いつかエレクトラがアイにそうしたように、アイもはるひに黒い太陽を降らせる。それに包まれたはるひはあまりのアイの絶望の濁流に獣のような悲鳴を上げていた。アイはただ黙ってそれをみていた。
悲鳴が止んだ時、其処には満身創痍になったはるひが斃れていた。アイはゆっくりとそれに近づき、暗い夜の色をした感情のちいさな短刀を手に握りしめ、その刃を、なんとか身体を起こした敵に向けた。
短刀の柄にはルビーのような怒りが付いていた。アイの目までもが、普段のサファイア色ではなくその瞳を流れる心によってどす黒く濁っていた。
――そして、自分があのとき母にぶつけられてもっとも苦しかった感情を敵の頸もとにあて、自分が母に言われてもっとも傷ついた科白を言った。
「オマエみたいなゴミ、生むんじゃなかった。」
そして憎悪の刃を振りかぶった――。
◇◆◇
――そのとき、見えた。見えてしまった。はるひの瞳に映る、母親そっくりの自分の姿が。自分は決してああやって人を傷つけることはしないと、心に誓っていたのに。今の自分はまるで母親みたいな言葉で、母親みたいな行動をしている。
「!……!!……あ……あぁあああぁ……。」
頭を抱えて一歩二歩と後ずさる、母親の幻影から離れるように。しかし、それは決して自分を逃がしてはくれない。
――なんで?おれは……わたくしは決して、おかあさまにされて育ったことを決して、人にはしないと誓っていたのに。それをするような人間にはならないと思っていたのに。気が付けば同じことをして、大切な人を傷つけている……。わたくしは一生逃れられないのか?
親に傷つけられて育った人間は、自分の大切な人に同じことをするようになるのか?それしか人との接し方をしらないから?わたくしは、わたくしは、なんてことを、こんなこころで、こんなことばで、はるひちゃんを傷つけて、それで。
気分が良かったんだ。どうしようもなく。高揚してしまった。ひたすらに気分が良かった、他人を傷つけるのは。他人に自分のこころをぶちまけるのは……。今まで人につけられた疵が癒えていくようだった。今までわたくしを傷つけてきた人間たちも……おかあさまもこんなきもちだったんだろうか?こんなにしあわせだったんだろうか?わたくしは人を傷つけてしあわせを感じるような人間だったのか……?
ちがう、ちがう、わたくしは。わたくしは……。わたくしはおかあさまの子だけれども、決しておかあさまのようにはならない……そう決めていたのに。
◇◆◇
「はるひっ!」
アイの思考が中断される。子を愛する母親の声によって。どうやら娘の身を案じたひまりが、居ても立っても居られず、儀式の場に入ってきてしまったらしい。しゅんじつも遅れて追いついてくる。
「お……ゲホゲホっ……お゙があ゙さん゙……。」
「はるひっ!大丈夫!?」
母に抱きかかえられる娘。
「おいっ!ひまりっ!すぐ離れるぞ、儀式の邪魔になる!この儀式のためにどれだけ手を回したと思ってるんだ!」
夫が妻を引き戻そうとするが、母は一向に動かない。
「アナタ……よく見て、春日家の家長としてじゃなく、父親として、いまのはるひを……。」
ぼろぼろになって抱きかかえられている娘を見る。父親としてのしゅんじつの眼には、それが映った。
――…………あぁ……。今まで家族のためと言って、妻と娘にはつらい思いをさせてきた……。1つの夢がご破算になるぐらいなんだ。そんなことより――
「……。はるひが、この世でいちばんたいせつだ。そうだよな、そうだ。ありがとうひまり、俺に気づかせてくれて……。俺はお前たちを幸せにしたかったお前たちの将来を幸せなものに……でも今のお前たちを蔑ろにしたんじゃあ違うよなぁ……。」
父もそっと娘を抱きしめる。親の愛情ではるひが包まれて、少しずつ、たが着実に傷が治っていく。はるひはさっき迄とはうってかわって、しあわせな表情をしている。あんしんな後部座席で全てを親に任せて、船を漕いでいる子どものような顔だ。
◇◆◇
アイはただ1人――周りに誰も居らず――ただ独りでその光景をみていた。気がつけば膝をついていた。憎悪の短刀もその切っ先から雲散し空に還りつつあった。
その光景を見ていると、そのこの世でいちばんうつくしい光景を目の当たりにすると、アイの中の憎悪が天国へとほどけていくのだった。
そのまま身体の力が抜けていき、地面にぺたんと座り込んでしまう。その光景をみる以外にどんな力も使いたくなかったのだ。
空を覆い尽くし地面を濡らしていたアイのかなしみも止んで、雲間から差した光が、うつくしい家族の愛を照らし出していた。そしてアイは、いまだ自ら生み出した雲の影にいるアイは、ただ死を待つ断頭台の前の死刑囚のように、跪くしかできなかった。
それは彼には一生手に入らないものだったからだ。
◇◆◇
「アイ!!!何をしてやがる!トドメを刺せ!!」
泥濘を切り裂く、自分の母親の声。自分のそばではなく、遥か後方から。目の前の光景から目をそらさず、その声を聞いていた。
「おれの役に立つんだろうが!!役に立って愛されるんだろうが!!速くトドメを刺して、獣神体になるんだろう!!おれに愛してほしいのだろうが!!おれにオマエを産んでよかったと!!一度ぐらい思わせてみろ!!!」
その言葉を聞いたアイは、目線をうつくしい愛からそらして、太陽の光を、アイの悲しみの雲によって遮れ、アイの哀しみの泪が染み込み、暗い闇の色になった地面を眺めていた。
そして、徐に、陽だまりの中にいる家族に向けて、傷だらけの身体で……ふらふらと右手を伸ばした。
「あ……アイちゃん……!」
ひまりが、アイを恐ろしいものをみる目で睨めつけ、そして自分の子を庇うようにさらにぎゅっと抱きかかえる。それをみたアイの身体がびくっと跳ねる。そして陽だまりに伸ばしていた手をしずかに、暗闇の地面の上に、投げ出した。
しゅんじつにはさっき伸ばしていた手が助け求めているように見えた。だから、ひまりとは逆にアイに優しい眼差しを向け、ゆっくりと歩み寄る。自分の上に人の影がさしたのに気づいたアイは、断頭台の上に置いていた頭を上げて、上目遣いでその人物を見やる。その瞳はこの世の全てを見てしまったような諦めと、この世の何ものをも見たくないという絶望に縁どられていた。
「ぁあ……あ、がすっがすが……じゅんじづざま……ぁ。」
はるひに殴られすぎて、喉が潰れているらしい。ということは、先ほどまで聞こえていたアイの心の叫びは、この場を支配していたアイの心から発せられていたらしい。
しゅんじつは全てのかなしみが凍りついたような瞳をした、しかしそれ以外の全てがかつて焦がれたサクラの面影を宿すその子を、みていた。そして、ふと、辺りに桜の花が散っていることに気がついた。
◇◆◇
アイと家族とのすぐそばに、いつのまにか、おおきな桜の樹が立っていた。その樹木から絶えず桜の花弁が降っているのだった。それは地面を覆い尽くしていた。しあわせな家族のいる陽だまりにも、独りのアイがいる暗闇の地面にも、等しく降り注ぐのであった。もう地面のすべてが桜色になってしまった。すべてを染め上げる桜色のなかで、ただ愛し合う家族と、独りのアイだけが、其処には在った。
アイはそれを認めると、それを口に出すと、自分が死ぬしかないということは分かっていた。自分が生きていくには、母の、父の役に立ちつづけて、絶えず延命をするしかないのだと、これまでの生涯で、痛いほど知っていた。
知っていたのだ。自分のような家族の癌が、生きていていい唯一の免罪符が、使える息子で居ることだけだったのだ。しあわせな家族の元に不純物として“産まれてしまった罪の唯一の償い方”を、“たった1つのアイの希望”を、1つしかない“生きていてもいい言い訳”を、アイは手放そうとしていた。あんなにそれにしがみついていたのに、執着していたのに、それはするりとアイのちいさなてのひらからこぼれおちてしまった。
◇◆◇
――あぁ、それがなんだと言うんだ。自分が親に愛されたいからって、生きていたいからって……死ぬのがこわいからって、このしあわせな家族までも壊そうとするのか?わたくしは。産まれたときに自分の家族のしあわせもこわしたのに、また繰り返すのか?
ただ、あいされたかった、だきしめてほしかった。おまえをあいしているぞって。そう、いってほしかった。てをあげたらだっこしてほしかった。みんなみたいに。プレゼントなんてほんとうはいらなかった。うまれてきてくれてよかったって、そのことばだけが、そのこころだけがほしかった。どうしようもなくほしかったんだよぉ……。わたくしにはもったいないものだってわかってたのに、ほしかった……。ほかのこみたいに、おかあさんがなぐさめてくれるからって、あんしんなきもちで、わんわんないてみたかった。こころのそこからないてみたかった。
でも、まちがってた。ともだちのしあわせなかぞくをうらやんでまで、こわしてまで、てにいれたいものじゃなかった。わたくしのように産まれたときからよごれたにんげんが。いきてるだけでひとにめいわくをかけるようなにんげんが。手をのばしたのが、まちがいだった。もとめたのが、まちがいだった。のぞんだのが、まちがいだった。あいしてほしいと、のぞんだのが。うまれてきたのが――。
◇◆◇
亡骸のようにまんじりともしないアイに、痺れを切らした“おかあさま”と、異変に気がついた“まま”が声を掛ける。
「糞がっ!何をしてやがる!さっさと殺せっ!プシュケー!!」
「アイちゃん……だいじょうぶ?」
そのことばがしっかりとこころに染み込むまで待って、アイが口を開く。
――“桜の森の満開の下”で。
「うまれてきて、ごめんなさい。……わたくしの、負けです。」
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