🔴全話挿絵あり《堕胎告知》「オマエみたいなゴミ、産むんじゃなかった。」「テメェが勝手に産んだんだろ、ころすぞ。」🔵毎日更新18時‼️

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第二章 藍と学校

73. 甘やかされて育ったクズと殴られて育ったクズ a Spoiled Garbage and an abused Garbage

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 クレジェンテは愛情に包まれる。
 あの日カーテンの隙間から見た木洩こもに――

 ……静かな声が、でも確かな声聞こえた。
 
 春の陽だまりのような声――

 夜のような黒髪がクレジェンテの前で流れている。
 夜が視界の全てを抱擁ほうようしていた。
 夜に包まれているような気がした。

 だがひざを抱え丸くなる寂しい“ひとりの夜”ではなく、鼻歌でも口ずさんでしまいそうな“心地良い一人の夜”だった。 

 ◇◆◇

「――わたくしが、助けます。
 クレく……カタルシスさん。
 ごめんなさい、お嫌だとは思いますが、今はわたくしの、愛のなかにいてください。」

「……アイ…………?」

 顔見えない、だがしなだれた紫陽花に育花雨いくかうの降ったような声がした。

「わたくしを、また……そう呼んでくださるのですか……?こんな罪深きわたくしを。」

 アイちゃんが振り返って、教室のカーテンの隙間を流るる幼い光のように微笑ほほえんだ。

「安心してください。そこはわたくしの、愛のなかは“絶対安全領域”だと誓います。貴方以外のどんな者にもその場所は犯させません。」

 母のように笑う。
 あんしんなお母さんのお腹のなかにかえったような気がした。

「そのなかにいれば痛みも和らいでいくので、あんしんな気持ちでいてくださいね――
 
 ――よぉ、糞売女クソビッチ
 ……よくもおれのクラスメイトをいたぶってくれたなぁ?あぁ?
 テメェの目をくり抜いてぶっ潰してやるよ。塵滓ゴミカス野郎が……。」

 前を向いたアイの顔には、もういつくしみはなかった。  
 慈悲じひ愛慕あいぼもやさしさも。
 そこにはただ闇があった。
 黒き怒りの闇が瞳を染めあげて、漆黒に光っていた。

「アンタ……ウチにこんな事をしてただですむとでも思っとんか……!
 いきなり顔を蹴りつけるなんて、ミルヒシュトラーセ家は随分と高尚こうしょうで高貴な教育をしてはるんやねえ……?」

 ハナシュが顔を抑えて怒りに満ち満ちた声音で嫌味を言う。

「あぁ?人語じんごが話せたのかよ。ゲロ糞の臭いがプンプンしてるから、てっきり糞かと思ってたぜぇ。でもクセェからペラペラ喋んなかすが。
 ……おれがミルヒシュトラーセって分かってるってことは、もうどうなるか分かってるよなぁ?」

 アイは嫌味ではなく、直接的な罵倒ばとうを返す。母にいつもそうされて育ってきたからだ。

「あらあら、そないな可愛らしい顔をしてはるから、性格は悪いちゃうかと思ったら……性格も口もよくてうらやましいわぁ。やっぱり育ちがいいといいなぁ……。
 は言うことも素晴らしゅうてかなわんわぁ……。」

「あぁ?“人語は話せる”のに、“言葉はかいせねぇ”ってどういうことだよ?『クセェから喋んな』っつったよなぁ?おれぁよ。
 テメェのつらぁ見てればわかるぜぇ。随分ずいぶんと親に愛されてきたみてぇだなぁ……?
 だからそんなゲロカスみてぇになっちまったんだよなぁ?可哀想になぁ。誰にも愛されねぇテメェに、俺だけは“共感”してやるぜぇ?」

 人差し指と中指をクイクイと丸めて、わらいながら、共感という言葉であおる。

「……あらあら、恵まれた
 “アイ・・フォン・ミルヒシュトラーセ様”
 にウチの気持ちが分かるかなぁ……?
 あぁ!ごめんなさいねぇ、母親に捨てられて、今は
 “アイ・・フォン・ミルヒシュトラーセ様”
 にってしまはったんやったねぇ……?うっかりしとったわぁ、堪忍かんにんなぁ?
 それとも“売女ばいたマグダラのサクラの子”アイ・ミルヒシュトラーセとお呼びしたほうがお好みやろか?」

「親のことなんか知らねぇよ、産みの母親はおれを売り、育ての母親はおれを捨てた。いや、もう母親じゃあなくなったが。……父親は……おれを殴って育ててきた。
 ――そんな塵滓ゴミカスがおれだ。」

 ハナシュがここぞとばかりにまくしたてる。

「あらあらあらっ!急にそないな話ししてもうて!どうしたん?よしよしと慰めたろかぁ?同情でもされたいのぉ?
 惨めな人間の自分語りが一番心地良いわぁ……!惨めな阿呆はなぁ、どいつもこいつも
 『自分は被害者です~』
 って顔で親の悪口を言うからおもろいんや。
 アンタはん達みたいな、やぁ言うのも分からずになぁ!!
 ……ふふふっ。
 まさか他の子たちみたいに可愛らしゅうてが生まれると思ったら、アンタらみたいなぁが生まれるとはなぁ?ほんまに親の気持ちを思うと可哀想で涙ちょちょぎれるわぁ。」

「……ああ、そうだな。」

 アイの語気が弱まる。しかしそれはハナシュの言葉に何かを感じたからではなかった。そんなの産まれたとしから母親に何千回と言われてきた。他のことに“心を配って”いたのだ。

「あははっ!何も言えなくなっちゃってぇ!アンタはんみたいなヤツらの阿呆あほなとこはなぁ?
 
 『親がー、親がー』
 ってってるとこやねん。
 5
 
 
 みっともないで~
 『親に虐待されてたからー』
 『親にお金をかけてもらえなかったからー』
 って言ってんの。もうすぐ成人の5歳がうてるだけでもう気色悪ぅてかなわんわぁ。
 やめときや?。」

 アイが落ち着き払って応える。

「――人はな、暴言を吐くときは、を言うらしいぜぇ?
 こころが勝手になぁ。自分には効くんだったら相手も傷つくだろうってなぁ?」

「あらあらあらっ!そんなことしか言えなくなっちゃって!
 ごめんやけどウチは愛されて育っててもらったからなぁ?なんでもお願い聞いてくれたわぁ。欲しいものはなんでも買ってくれたしなぁ?したいって言ったことはさせてくれたし。」

 アイは得心とくしんが言ったようにポンとてのひらの上に握った手を落とす。

「……あぁ。それでか、オマエがそんな感じになっちまったのは。
 つーか、“もうすぐ成人の5歳”っておれのことを馬鹿にしたが、テメェこそ今までの人生で人をわらいすぎて、“わらいジワ”が隠せてねぇぜ?そのクソ厚化粧あつげしょうでもなぁ?」

 アイの言葉はハナシュの逆鱗げきりんに触れた。口撃こうげきはどうやらアイの勝ちのようだ。
 
「黙れ誰れ黙れ……!!アンタら、此奴こいつを殺せ!!今すぐに!!!」

 部下達が当惑とうわくしたようにかえす。

「でも……命令はこのアイ・ミルヒシュトラーセの――」

「――そうです!“この鹵獲ろかく”が俺たちの任務では!?」

「黙れ!!今すぐ殺せ!じゃなきゃあアンタらも爆弾にして殺してやるからなぁ……!はよう殺せ!!」

「「「はっはい!」」」

 だが3人は一步踏み出した瞬間に倒れた――
  ――光のヘルツによって――!!

「……ジョンウぅ……この裏切り者がぁ……!」

「ハァハァ……先に俺たちを裏切ったのはアンタたちでしょう?
 俺を後ろから刺していたぶったのは許せても、コイツラが……!!ゲホっ……!!」

「この……死にぞこないがぁ!!」

 ◇◆◇

「――余所見よそみしてていいのか?」

 アイが嗤いながら言う。

「何やアンタまだウチに勝てるとでも思っとんか……?戦闘経験も上、ヘルツと技術も上……それに“こころが籠もったことば”まで使える。それに比べてアンタは?こころをもつものプシュケーであるだけで、只の士官学生がウチに勝てるとでも?」

「――確かに俺はヘルツの量以外の全てでテメェに劣ってる100回闘ったら100回負けんだろうなぁ……。
 
 じゃあ何で戦うと思う?
 絶対に負けるのに。
 なんで生きてると思う?
 絶対に負けるのに。
 
 ……何でおれがテメェみてぇなゲロクセェ“対話”する価値もねぇ糞売女クソビッチとベラベラ喋ってたと思う?」

 そこでアイは間を置いて言った。

「絶対に敵わねぇヤツに勝つ準備をしてたからだよ。
 テメェはもう既に負けている。」

「何故ならおれは――」
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