あら、面白い喜劇ですわね

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誓い ※シャーロット視点

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隣国の建国を祝うパーティには、国内外から多くの要人が訪れていた。
華やかで煌びやかな装飾が施された会場は、この国の程度を知るには十分だ。
立食用にと配置されたテーブルには色とりどりの食事が置かれている。
しかし私はそれらを口にすることもなく会場に響く滑らかな演奏に耳を傾けていた。

「シャーロット様、こちらを。」

「ありがとうフィンリー。」

隣に立つフィンリーから手渡されたシャンパンを手に取り、ゆっくりと喉を潤す。

悪くは無いけれど、やはりかの国の方がおいしいわ。

そろそろ飽きてきたこのパーティに頭を悩ませていると、フィンリーから退席を促された。

「シャーロット様。あまり無理はなさらぬよう。挨拶を済ませましたし、退席なさいますか?」

「いいえ、流石に早すぎるわ。もう少…。」

「アリア!私は貴様との婚約を破棄する!」

私の言葉を遮ったその言葉は、その場にいたものの注目を集めた。
何事かと視線を向ければ、この国の第一王子が婚約者に婚約破棄の宣言をしているようだ。
あらあら、まるで喜劇ね。
そう思っていれば、どうやら私のその思いは口から漏れてしまっていたらしい。
人々の注目を集めてしまった私は、嫌でもその喜劇に参加しなければならなくなってしまった。



最近ではパーティの余興として楽団のハイテンポな演奏や歌唱が盛り込まれている中、この国のパーティは昔からの形式張ったもので新鮮味はない。
その中で彼等の余興はまぁ気分転換にはなったが、はっきり言って喜劇は喜劇でも駄作と評される方の喜劇だった。
各国の要人が集まるこのパーティに身元の知れない少女を参加させる王子も、のこのことやって来てしまう少女も愚かと言わざるを得ない。
あの場で危険因子としてその2人を斬り捨てたとしても、罪にはならなかっただろう。
 






今私は自国へと帰って来ており、私室にて来客の知らせを待っている最中だ。

「シャーロット様。アリア様がお見えになりました。」

「こちらへお通しして。」

侍女が恭しくお辞儀をすると、開いた扉からアリア嬢が姿を現した。

「本日はお招き下さり有難う御座います。」

優雅なカーテシーをする彼女みて、やはり私の目は間違っていなかったと確信する。
立ち振る舞いや表情からは彼女の生真面目な性格が滲み出ていた。

「ここまで苦労も多かったでしょう。来てくれた事に礼を言うわ。」

私が用意された言葉に感情を乗せて口にすると、彼女は滅相もないと軽く頭を下げた。
彼女を向かいの席に着かせ、傍に待機していた侍女はテキパキとティーセットを用意して下がって行った。
今この場にいるのは私と彼女だけ。
扉の外にはもしもの時のために侍女やフィンリーが待機しているけれど、彼女ならば問題ないだろう。

寛容で純粋で聡明で、誰からも愛される完璧なシャーロット王女。
世間ではそう謳われる私だけれど、実際は誰よりも打算と計算の中で生きている。
次期国王である兄がいた私には、生まれた時から自分の人生は決まっていた。
兄が即位すれば、私にはそこそこの爵位を持つ婚約者が宛てがわれて他所へ嫁ぐことになる。
なればこそ、私は自分に政治的価値を生ませないと共に兄にとっての危険因子を排除しなければならない。そして兄の国王としての地位と名声を確実のものとする駒となる。
私は幼い頃から自分の人生を兄の為に費やしてきた。
幼いながらに、兄に私の人生を捧げると誓ったのだ。
そのため世間からは誰にでも手を差し伸べる純真な王女と思われるように生きてきた。
私たち王族は一挙手一投足までもが問題になり得る。
だから兄やその関係者が巻き込まれずに、自身の権力のみで対処出来る程度の願いしか口にしない。
今回の件もそう。

アリア嬢の実父であるアークライト公爵は権力欲の強い男だ。さらに裏では闇社会との繋がりもあると聞く。
自身の娘が王妃になった際に我が国に何を仕掛けてくるのは明らかだろう。
だからこそ、その面倒事の芽は早い内に摘んでおかねばなるまい。
 こちらの国へ来るに辺り、アリア嬢には実家のアークライト公爵家との縁を切って貰った。
育ててもらった情を感じているかとも思ったが、様子を見るにそんな感情は抱いていないらしい。
それにかの男が言っていたアリア嬢が行っていたという悪事の話も虚偽だと判明している。
あのような各国の要人が集う場で虚偽の告発をするとは…ますます救いようがない。

アリア嬢とはそれから暫く簡単な会話をして彼女を見定めることにした。
当たり障りがなく、本質を付かない。回りくどい言葉を使おうとも彼女は常に模範解答のような言葉を返してきた。
時には本質をつく彼女の地頭の良さは明らかだった。

おまけに口も固そうな彼女に、私は改めて素直にお願いを言うことにした。
今の私は兄の温情で王宮にいられるだけ。
そのためフィンリーと結婚してしまえば王宮にはいられなくなる。
となると兄の手助けをすることが出来ない。
だから王宮の事情を知るためにも、アリア嬢には国王専属の侍女として働き、私に報告をして欲しいということを。
彼女は私のお願いを全て聞き終えると、入ってきた時と変わらない優雅なカーテシーで了承の意を口にした。
いや、この国に来た時点で彼女に拒否権などなかっただろう。
しかしそれとは別に、私は彼女がどんなお願いをも断らないと確信していた。

だって彼女が私を見つめる瞳が、その表情が全てを物語っていたから。









アリア嬢が帰ってから、私はフィンリーと共に私室でティータイムを取っていた。
向かいに座るフィンリーは先程のアリア嬢と同じ…いや、それよりも激しい恋着の情を宿らせた瞳で私のことを見ている。
確かな情欲を抱いていながら、私の為に自制をするフィンリーのその瞳が好きだった。
出会った頃は傷だらけの猫のようだったからつい気になってしまったけれど。
あの時の選択は間違いじゃない。

フィンリーは私のことを愛してくれている。
私も彼を愛してる。
けれど私の人生はもう兄に捧げると誓ってしまった。
今更その誓いを取り下げる気もない。
けれど、私は兄の次にこの人生を彼に捧げると誓おう。
私が持つ如何なる力をも使って、彼の幸せを守ると。
それが、私の幸せだから。
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