使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん

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第21話 アメリス、考える

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「何ふぬけたことを言っているんだ!」

 兵士たちの言葉にアルドは激怒する。彼らはその声で体を震わせた。

 だが彼らにも何か譲れないものがあるようで、唇を噛み締めて叱咤に耐えている。上官であるアルドに逆らうほどだ、何か事情があるに違いない。

「待ってアルド、彼らの話を聞きましょう。話さないことには始まらないわ」

 私は今にも彼らに殴りかかりそうな勢いのアルドをなだめて、両者の間に入る。

「別にあなたたちを批判したりしないわ。無理についてきてとも言わない。これだって私のわがままに付き合ってもらってるだけだもの。でも理由だけ教えてくれない?」

 私は彼らに優しく、威圧的にならないように言葉を選んで問いかける。すると頭を下げていた兵士が顔を上げた。その顔は今にも泣き出しそうな表情であった。彼はデートスだ、兵団に入ったのはつい最近で年も私よりいくつか下である。

「アメリス様、俺たちのあなたへの忠誠は本物です。あなたを裏切ったりすることはありえません。俺たちの命ならあなたのためにいかような状況でも捧げましょう。ですが、マハス公国内に残してきた家族のことがどうしても気がかりなのです。俺たち兵士が皆一斉にいなくなれば、テレース様たちに何かあると怪しまれて、家族たちに被害が及ぶのではないかと思うと、二つ返事でついていくことはできないのです」

 デートスは途中から涙を垂らしながら語った。私に忠義を尽くしたいが、自分たちの家族にもしものことがあるのではないかという不安の間で板挟みになっていたのである。全て言い切った後に、申し訳ありませんと呟く彼を見て、私はまた重要なことを見落としていたのかと自分が自分で嫌になる。

「甘えたことを抜かすんじゃない! アメリス様はお前らの何倍もの苦しみを抱えていらっしゃるんだぞ!」

 そんな彼らに対して、アルドは再び叱咤する。彼が部下に厳しいのは相変わらずのようだ。静かな森に彼の怒号が響き渡る。後ろに並んでいるタート村の村民たちも心配そうな顔つきでことの成り行きを見守っていた。

「落ち着きなさいアルド。私のことを思ってくれるのは嬉しいけど、彼らの言うことももっともよ。とりあえず冷静になって話し合いましょう」

 私は後ろに控える列のみんなに少し待ってもらいたいと伝え、待機してもらうことにした。ここまではスムーズにことが運んでいたので、のんびりしている暇はないが、多少は時間に余裕がある。私とアルド、そして彼ら兵士は道の脇によってどうするかの話し合いを始めた。

「先に私に謝らせて。本当にごめんなさい、確かにあなたたちのそれぞれの事情があるのよね」

 口火を切ったのは私だった。彼らに対して深々と頭を下げる。頭をお上げくださいと慌てふためく声が聞こえた。
その声を聞きながら私は考える。どうしたら円満に収めることができるか、と。彼らの態度を見る限り、アルドのように私に何がなんでもついていきたい人たちと、私についていきたいが懸念がある人たちで実は別れているようだ。
 次第に頭を上げるように促す声が大きくなってきたので、顔を上げた。アルドも彼らも私のことを凝視していた。

「結局全員が納得するにはどうすればいいのかしら」

 私は彼らの顔を見て、呟く。

「ふん、兵士になったのならばたとえ家族がどうなろうとも君主を優先するのが当然であろう、それくらいの覚悟がないと務まらん」

 アルドは強情な態度をとっている。彼は幼い頃から兵士になるために育てられたせいか、たまに見せる騎士の側面でかたくなになることがあった。

「でも、俺にとってはどちらも大切なんです。選べないです。孤児だった隊長にはわからないかもしれないけど……」「なんだと?」

 デートスがそういうと、アルドが怒りの視線を向ける。一触即発だ。まずい、このままでは一向に問題は解決しない。一体どちらの主張を選べばいいのか私にはわからなかった。

 その時、ふと思いつく。だったらどちらの志向も叶うようにすればいいじゃない。

「わかったわ、ならこうしましょう。デートスたち、あなたたちはここに残りなさい」

 私がそう言うとデートスたちは嬉しそうな顔をしたが、一方のアルドはさらに顔の皺を深め、

「アメリス様、こいつらの意見など……」 

と言った。

「大丈夫、私に策があるから」

 アルドを怒りをなだめて、私は考えていることの説明を開始した。

 つまり、今回の問題点は兵士が一斉にいなくなることでお母様たちが疑いをかけ、兵士の家族に危害(たとえばいなくなった兵士の代わりに家族を無理やり徴兵することや、最悪の場合罪を与えることが考えられる)が及ぶ可能性が生まれたことである。だったら兵士をある程度残していけばいい。そして残された兵士がいなくなった兵士のことを何かしらの理由ででっち上げればいいのだ。

 しかしこれではアルドの面目が潰れてしまう。そこでデートスたちはいざという時に私に協力できるように国内で待機するという大義名分を与えた。これなら戦術的であり、彼の面目も保たれるだろう。

「……ていう案なのだけど、どうかしら?」

 私は彼らとアルドに語る。すると両者とも納得してくれた。上手い落とし所が見つかってホッとする。

「でもどうやっていなくなった人たちのことを処理すればいいのでしょう」

 デートスがアルドに尋ねた。

「そうだな、死体は残らないから戦死という理由ではバレてしまうし、ナゲル連邦の捕虜になったということにしておけ。工作や文書偽装は頼んだぞ。あとタート村のことは知らぬ存ぜぬで貫き通せ」

 それならいなくなっても合理的な説明がつき、下手に怪しまれることもない。

「わかりました」

 デートスは芯の通った声で返事する。先ほどまで涙を流していた青年であるとは思えなかった。

 方針は決まり、タート村の人の護衛についていた兵士は、デートスと同じ思いを抱いていたものはマハス公国に残り、アルド側である人は私と共に来ることになった。これでもう問題はない。私たちは再びマスタール州へと向かい始めた。

 しばらく進むと道の先に建物の影が見えた。ここまできたということは絶対にマハス公国からは出たということなのだろう。

 後ろを振り返っても、マハス公国の影はなかった。あまりいい思い出のある故郷ではないか、なぜかいざ離れるとなると、どこか心にすきま風が吹くような気分になった。
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